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2016年10月11日 小説に、見落としが見つかったので、追記します。



第十八話 「空中のイシナシ」


「会長、今日は・・・2つ、でいいですね。」
イシナシ君は紅茶に角砂糖を2つだけ入れた。
会長はニッと微笑んで、うなずいた。
イシナシ君は心を読んだのだ。
「イシナシ。ミミオ・ハナオの兄弟はどうなってんの?今、あいつらの心も読める?」
イシナシ君は目を閉じて遠くに意識を移した。
「・・・ミミオ・・・ミミオの意識は今・・・
あれ?おかしいな・・・ピコルの、ピコルの中にいます。」
「やっぱりね。」
会長はため息をついて紅茶を一口飲んだ。

会長は知っている。ピコル君とイシナシ君が同類であることを。
同じ種類の力を持つ、悲しき玩具であることを。

イシナシ君はなにが「やっぱりね。」なのかさっぱりだったが、
やっぱり、会長は凄いと思った。
この人の考えていることは計り知れない。
イシナシ君は知っている。
会長のこの妖怪のような容姿が生まれた時からのものではないことを。
会長の部屋である日、美しい女性の写真を見つけた。
それは会長の姿とは似ても似つかぬ美しさだったが、イシナシ君は直感したのだ。
「これは会長だ。」
会長はわざと、自分の顔を醜くしたのだ。
それがなぜなのかという理由は、なんとなく想像がつく。
一度、イシナシ君は会長に言われたことがある。

「イシナシ。人間に最も必要なものが何だかわかる?それはね。欠陥よ。」


その言葉を賜った時、イシナシ君の中で何かがはじけた。
救われるっていうのはこういう事なのかもしれない。
それからイシナシ君は会長とのプレイが楽しくてしょうがなかった。
イシナシ君は知っている。この気持ちが愛に限りなく近いことを。
ポケットの中の、会長の美しかった頃の写真の裏に、イシナシ君は詩を書いた。

あなたのことを考えると
スプーンが曲がるんだ
あなたのことを考えると
スプーンがぐにゃって曲がるんだ
これって超能力?
それとも恋?





第十九話 「異端児の人体(回文)」


ミミオはピコル君の体の中を、心の中を、依然として彷徨っていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「いや、でもマジで本気出したら、グーにだって負ける気、しませんよ。」
チョキは言った。かなり酔っているようだった。
向こうの方が1年半くらい先輩ですけど、偉そうにされるのは正直ムカつきますよ、
と言ってテーブルの足を蹴った。
彼の気持ちはわかる。私から見ても最近のグーの態度には
やや増長したところがあると思うからだ。
仕事の現場にもシャリで乗りつけてきて、
まるで自分がスシネタにでもなったかのようなチャラチャラした振る舞い。
売れっ子のパーの前ではヘコヘコしてるくせに、
グーやその後輩の前では長々と説教をかます。

「いいか?てめぇら。この世にはな、二種類のジュースしかねえんだよ。
『あったか〜い』か『つめた〜い』かだ。」

そんな台詞は、キャリア30年超の大師匠じゃないと言えない言葉だ。
若手へのイジメは昔から酷かったが、最近はさらに酷くなっていると聞く。
ワンタンの中に入れられた。ウェットティッシュを勝手に乾かされた。
陰毛をむしり取られたあげく、褒めちぎられた。
など、枚挙を挙げればいとまがない。他人には厳しいくせに自分には優しい。
そして地球にも優しい。それがグーの正体だ。
確かに、グーはなかなか仕事がデキる男ではある。
だけど、あるがままの心で生きられぬ弱さを誰かのせいにして過ごしてる。
それでは仕事ができても他からの人望に厚くはなれない。
「まあ、そのうちヤツも痛い目に会うさ。チョキ、女紹介してやっから元気出せよ。」

私が言うと、チョキはコロッと機嫌を直して、どんな女っすか?と聞いてきた。
「んー、まあ、普通にカワイイ子かな。でも性格はどうかな。
俺もよくわかんねえけど、スロバキアでは英雄って呼ばれてる。」
「マジっすか!?俺、そういう子にウケ、いいんすよ。写メとかあります?」
あるよ、と言ってチョキに見せた。
「これ。ちょっと写り悪いけど、実物はもっとカワイイよ。」
「あー・・・。いい・・・じゃないですか。でもなんで頭にウ冠、乗せてるんすか?」
「なんか漢字系の企業の面接だったんだって。彼氏は2年くらいいないみたいよ。どう?」
「いや、マジでいいっすよ。なんかこの子といろんなとこ行ってみたいなー。
厄払いとか。あーなんかテンション上がってきたっ。」
そう言ってチョキが自分の手首を切ろうとしているのを見て、微笑ましくなった。
「この子、インドア派だけど、意外とお前みたいなトランクス派とも相性いいと思うよ。」
チョキは、へへへ、と笑ってビールを飲み干した。
まあ、チョキは酒に弱いので、正確には飲み干したというよりも、
飲んだ後で干しただけだったが。
「なんか、今日はありがとうございました。
俺の変な愚痴、聞いてもらった上に、女の子紹介してくれるとか言ってくれて。
なんつーか・・・ホント、集団で辱めた後に皮を剥いで塩漬けにしたいくらいっす。」
「バーカ。俺はただ先輩としてお前のこと評価してるから、
力になりたいって思っただけだよ。なんかあったらいつでも電話して来い。
すぐかけつけてお前の前歯折ってやるから。そんでその後チーズでフォンデュしてやる。両親の目の前でな。」
「あはは、冗談キツイっすよ先輩。マジで、あんたが生きてること自体、
法律で禁止されてるんすよ。」
「なんてな。だからお前は自分の力信じてがんばれって。
てめえがゴキブリ野郎だってことは科学的に証明されてんだから。」
そんなことを言いながら、二人で首を絞めあって笑った。
こんな時間が、結構楽しかったりする。家に帰って思い出すと虫唾が走るくらいだ。
そして二人は別れ間際に互いの人生観を徹底的に否定し、国交の断絶をした。
マスコミを通じて以後はエビ及び綿製品の輸出入をストップしたことを伝え、
それが事実上の宣戦布告となり即時開戦となった。
両国の軍隊はインド洋沖で衝突。チョキが化学兵器を用いていることが発覚し、
国際的にそれが取りざたされ国連軍が大爆笑するという事態に陥る。そして・・・
「チョキに告ぐ。貴殿とこのような関係になってしまったこと極めて遺憾である。
しかし我が国はこれからも総力をあげて睡眠をとりたいと思うので、
決して部屋を覗かないで欲しい。」
この通達を最後に、私は鶴となって空へと羽ばたいた。
そしてこの戦争は幕を閉じ、私は一人で亀と寿命を競い合い死亡した。

ああ・・・俺の人生もこれで、終わりか。あっけねえもんなんだな。
ごめんな。チョキ。俺、素直になれなくて。
もっと早く言うべきだったんだ。
そうさ。
お前はチョキなんかじゃなかったんだ。
お前は、ピースだった。
最高にピースだったよ。

大山田・ビッグ・孝弘。享年35歳。
電気シェーバーが発明されるのは、この4年後の話である。

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