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搭乗2時間以上前だというのに、チェックインカウンターには、長い列ができていた。 そのなかに、やはりいた。
まずは、フィリピン人女性の団体。人がかたまっているのに、男性はひとりもいない。
次に目立つのは、日本人男性とフィリピン人女性のカップル。数がそんなに多いわけじゃない。ただ、日本人男性は60代くらいで、フィリピン人女性は30前後だろうか。そのアンバランスな年の差故に、長い列でも目立つのだ。
そして、これは私の前にいるだけの少数派だが、ゴルフバッグをカートに乗せて、帽子からシューズまで早々とゴルフルックで決めてる人。よほどやる気満々なのか、気が急いているのか。その前の乗客がチェックインに手間取っていると、「早くしろよ!」と大人気ない声で叫ぶ。ここまで来たら、席が取れないということはないと思うのだが。
この日は朝から雨。台風が近づいているという。よりによって、この乗客たちの目的地フィリピンから日本へと。嵐のなかへと飛んで行くことになるのか。
フィリピン人女性たちも、不自然な組み合わせのカップルも、何故かひとりで海外のゴルフ場へ行かなければならない男性も。そして、会ったこともない友だちに会いに行くという、不思議な理由で列に並んでいる私も。
3ヶ月前にフェイスブックで知り合ったフィリピン女性から、「フィリピンに遊びにおいでよ」と誘われたときは、単なる社交辞令の挨拶だろうと思っていたのだけど、あまりに何回もチャットで繰り返すものだから、だんだん不安になってきたのは確かであった。
実際に会ったことのない人、しかも海外の女性から誘われたとなると、警戒心が先に立つようになる。いや、これは実際に会ったことがあったとしても、いきなり旅行に誘われるというシチュエーションはあり得ない。だから最初は適当にやり過ごして、うやむやにして断ろうと思ったのだが、相手はチャットではもちろん、フェイスブック・メッセンジャーの無料通話機能で直接電話をかけてきたりして、その誘いは熱を帯びる一方となった。
そうなると、こちらとしても、心が動き始める。
まずは、相手のプロフィールを改めて確認。ちゃんと自らの写真で顔出ししているか、居住地や学歴などはきちんと記載してあるか、ページは更新してあるか、などなど。もちろん、これらのデータがデタラメの可能性もある。
それに、ただでさえ”日本人男性とフィリピン人女性の関係”はスキャンダラスに語られることも多い。日本人男性がフィリピン現地で女性と愛人関係になり、あるいは日本で偽装結婚をして、そのまま不法入国や不法滞在の手引きをしてしまうケースも耳にする。先に述べたチェックインカウンターの風景がそうだとは限らないが、他の渡航先と比較して、曰く付きの乗客の雰囲気が漂うのも事実である。だからこの誘いも、その手の仕組まれた罠みたいなものじゃないのか。そういう疑念は消えなかった。
しかし、相手のプロフィールを眺め、直接電話で会話をしているうちに、ある種の乗り、のようなものができてきたのに気が付いた。
それは、相手の身元がわかってきた安心感もあるけど、それ以上に、自分は今から旅行に行きたいんだという意志が、はっきり目覚めてきたのである。少しくらいなら危険に直面してもいいという好奇心の芽生え、こんなきっかけで旅行するなんて滅多にないぞというチャンスに対する意欲の方が強くなってきたのが、はっきりわかった。こうなると、あとは心の動きに体を任せて、旅行の日程を決めて、それを相手に伝えるだけであった。
それで、旅行の準備も9割方終わったと言ってもいいだろう。
最近は、航空券やホテルの手配はすべてパソコン上でできる。スマートフォンにその手のアプリをダウンロードして、パネルをタッチするだけでもいい。しかも、ホテルあたりは驚くほどディスカウントされているので、思わぬ安値で高級ホテルが予約できた。便利で手軽な世の中になったものである。
逆にいえば、いつでもどこでも行けるわけだから、いかに気持ちの持ちようが重要か、それが自分にとって唯一にして最大のハードルになっているかということの証でもあるのだが。 もちろん、先立つものがないといけないのは、当然の話なのだが。
色々な目的でフィリピンに向かう人が列をなしている。そのなかで、私が一番の変わり者かもしれない。会ったことのない人の誘いに心も体も動かされて、こうして並んでいるのだから。
新しい出会いを求めて、といえば聞こえはいいが、見知らぬ土地をさまようだけの結果に終わるかもしれない。いずれにせよ、体験したことのない旅が待っていることは確かである。
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