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マニラの空港では、風に揺れるココナッツの木々がお出迎え。雨の方はそうでもないが、風は強い。日本を出発した時点で小雨が降っていたが、そこから台風目指してフィリピンに向かって飛んでいたのだから、これくらいの洗礼は当たり前か。灰色の雲の下、明日はきちんと飛行機が飛ぶのか不安になる。旅の初っぱなから。
しかし、台風に向かって飛んでるわりには、あまり揺れなかったな、フィリピン航空。よほど優秀なスタッフを揃えているのだろうか。そのへんは称賛に値すると思ったが、エアバスの機体は狭くないか。おまけにエアコン効きすぎで、かなり寒かった。たった3時間のフライトだったが、かなり疲れた気分。
こういう気分のときに、その隙を突くように、旅行者が必ず浴びる、もうひとつの洗礼がある。
タクシー運賃詐欺である。
今回は久しぶりの海外一人旅。で、以前から気を付けていたことに「できるだけタクシーには乗らない」というのがある。
タクシーは高い。できるだけバスや地下鉄などの交通機関を使った方が合理的である。タクシーを使うのは、ある程度その地に滞在して物の値段もわかってきたくらいの頃に、メーター付きのもの、あるいはあらかじめいくらかかりそうかを質問しておいて利用することにしている。
ところが今回は久しぶりということと、疲れのせいもあったのだろう。旅行本『地球の歩き方』に「クーポンタクシーは快適で安全」と書いてあったのを真に受けてしまって、そのまま乗り込んでしまったのだ。彼らのが案内するままに。
このクーポンタクシー、まずは笑顔で白いシャツの清潔感のある従業員らしき人間が、目ざとく空港から出てきたばかりの観光客を見つけて、カウンターへと連れていく。周囲にも似たような格好の人間がたくさんいて、みんなトランシーバーを持っている。きっと新しく顧客を捕まえたとか、配車の手配の会話に忙しいのだろう。
で、カウンターで行き先別・利用人数別の料金表を見せられる。目指すホテルのあるマカティ地区までは、3,250ペソ、日本円にして8,200円くらい、もちろん前金での支払いを要求される。
ここで一瞬モヤモヤしたものがわいてくるが、そのまま流れに任せてタクシーまで案内される。待っていたのは、一人用には大きすぎるワンボックスのバン。確かに広くてエアコンも効いているので快適だが、モヤモヤが消えない。
高すぎないか?このタクシー。
確かに一見良くできたシステムで、きちんとした会社が供給しているサービスのように見えるが、どうもおかしい気がする。
ホテルまでの1時間の交通渋滞のなか、愛想よくしゃべる運転手さんに思いきって質問してみる。「これって、普通のタクシーならどれくらいの値段なの?」
一瞬運転手さんの会話のテンポが止まったように思えたが、「2,000ペソくらいかなあ」と答えが返ってきた。
さらに次の日、ホテルが手配してくれたタクシーで空港まで向かったのだが、そのエクストラチャージは770ペソだった。
やっぱり、おかしい。これはボロい商売だ!ほとんど組織的犯罪に近いものがあるぞ。
なぜ、このようなボロい商売がまかり通るのか。
答えは世界共通で、この地域に強力な地盤とカネを持つ人間が営業権を独占し、他の業者を締め出し、さらに警察や交通など管轄する公務員当局に太いパイプを持っているからである。
で、公務員当局も"見逃し料"として、幾ばくかのカネを懐に入れているというわけ。
典型的な癒着の構造、ですな、これは。
快適な車内から外の風景を見つめながら、口のなかが苦くなってくる。
カネとコネと公務員が幅を効かすのは、発展途上国の特徴である。そして、先進国から来た旅行者は、快適な空間に閉じ込められて、観光の楽しみを享受するというわけか。こうして洗礼を受けながら。
ホテルに着いた頃には、時々雨も強くなってきた。
これでは今夜は市内散策など無理だな。それでも雨と風の止んだ隙間を縫うように、ホテル周辺だけでも歩いてみる。
ここマカティ地区は発展著しい場所で、治安もいいらしい。確かにホテルやオフィスやショッピングセンターと思えるビルディングが林立し、さらに建設中の建物も多い。
時はまさにラッシュアワー。ただでさえ狭い道路に、人もクルマも溢れる。フィリピン独特のジプニー(ジープを改造して乗り合いバスにしたもの)やトライシクル(サイドカータクシー)が、新しいクルマに負けじと列をなす。
そして、工事現場のそばには、商品を地べたに敷いて物売りをする人、物乞いをする子供たちがいる。台風の不穏な色に染まった空の下、時の流れに乗った者、乗り損ねた者が描く対比がある。
金持ち先進国から来た旅行者はホテルに戻り、レストランでひとりでディナー。
アドボというフィリピン料理。お肉を骨がボロボロになるまで煮込み、野菜と一緒にしたものを食べる。美味いね。
そこに東南アジア独特のパサパサしたライス、そしてフィリピンが誇る大企業サンミゲルのビールを飲んで、満足の夜。
果たして明日の天気は大丈夫だろうか。
「会社は儲かっているけど、ボクには10%しか貰えないんだよ」とぼやいていたタクシーの運転手さんが、「明日は晴れるよ、大丈夫」と言っていたから、それに賭けてみることにした。
明日は本来の目的地、レガスピに向かいます。人口1,000万人の巨大都市マニラから、ルソン島南部の田舎に住む、まだ見ぬ友だちに会うために。
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