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法医学者の悩み事
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千葉・睡眠薬事件
事故死職員も「めまい」 同僚と同じ症状
毎日新聞2017年7月13日

 千葉県印西市の老人ホームの睡眠導入剤混入事件に絡み、2月に起きた交通事故で死亡したホーム職員の女性(当時60歳)が、睡眠導入剤入りのお茶を飲んだ恐れがある同僚らと同じような症状を訴えていたことが捜査関係者への取材で分かった。県警は、別の同僚女性らに睡眠導入剤入りのお茶を飲ませ交通事故を起こさせたとして准看護師の波田野愛子容疑者(71)を殺人未遂容疑で再逮捕しており、死亡した女性の事故との関連を慎重に調べている。 
 
 捜査関係者やホーム関係者によると、事故は2月5日夕、ホームから1キロ弱離れた印西市内の県道で発生した。女性は「めまいがする」などと訴え早退し、帰宅のため軽乗用車を運転中に対向車と正面衝突。搬送先の病院で死亡した。現場は片側1車線で見通しの良いほぼ直線だった。女性の血液の分析や司法解剖は行われなかった。
 女性の遺族は12日夜、毎日新聞の取材に「(女性は)普段、不調を感じている様子はなかった。容疑者との間にトラブルはなかったと思う」と話した。
 老人ホームでは今年、職員5人がめまいや急激な眠気などを訴えるようになった。5月15日には女性職員(69)と夫(71)がお茶を飲み、車で帰宅途中に事故を起こして負傷。夫婦の血液から睡眠導入剤の成分が検出されたため、別の女性職員への傷害容疑で逮捕していた波田野容疑者が殺人未遂容疑で再逮捕された。【斎藤文太郎、秋丸生帆】

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この事件、2名が同じ手口で死んだり負傷させられている可能性があるようだ。現段階では1件目は冤罪である可能性すらあるので、慎重に捜査も報道もされるべきだが、1件目の死亡事例は解剖されていないということこそが大問題だ。解剖されていれば、殺人の見逃しも、冤罪も起きないのだから。

ほかの国であれば、1件目のような自損事故事例でも解剖されることが多いし、そこでもし、薬物使用が発覚していれば2件目は発生しなかったかもしれないが、日本は解剖されないケースが多いので、それで味をしめてしまった可能性もある。というか、そもそも、ほかの国のように、自損事故のような交通事故死でも解剖されることが国民の常識になるくらい当たり前なことだったら、1件目も起きていないだろう。

ここ10年の間の死因究明に関する議論のなかで、死因身元調査法が作られ、新しい解剖ができるようになった。ただ、この解剖は、刑事部ばかりに予算化され、交通がらみの解剖を担当する交通課には予算化されていない。そもそも、一見、交通事故であっても殺人の可能性があるからこそ、ほかの国では解剖するわけで、日本はなぜか、交通事故だと殺人事件でないという特殊な先入観のもと捜査を開始する。だからこそ、そのような事例は刑事部ではなく、交通課が担当することとなり、結果的に新しい解剖が実施できない。

こんな国だと、今回の事件のように薬を用いて交通事故を起こさせるとざるのように殺人事件が見逃されるので、大変危険だ。

こんな事態に陥ってしまった理由の一つは、警察庁の不作為もあると思われる。各自治体の警察だけの問題とするのではなく、もっと根本的な問題を、国レベルで議論するべきだろう。

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規制緩和と規制強化

パチンコ出玉規制強化へ=客のもうけ5万円以下に―ギャンブル依存症対策・警察庁
7/10(月) 時事通信

警察庁は、パチンコの標準的な遊技時間(4時間)に客が得られるもうけの上限について、現行の十数万円から5万円を下回るよう出玉規制を強化する方針を固めた。
  スロットなどについても同水準に規制を強化する。もうけの上限を引き下げることで、負けた分を一度に取り戻そうとのめり込むリスクを減らすのが狙い。11日に風営法施行規則などの一部改正案を公表し、一般から意見を募る。
  カジノ解禁を柱とする統合型リゾート(IR)推進法が昨年12月に成立したのを受け、政府のギャンブル依存症対策の一環として実施する。
  警察庁によると、パチンコ依存問題の相談機関「リカバリーサポート・ネットワーク」に相談した人の約7割が、1カ月当たり5万円以上の損失を出していた。
  改正案では、遊技時間4時間でパチンコ玉の獲得総数が発射総数の1.5倍に満たないものとする新基準を設けた。現行の3分の2程度に規制を強化し、大当たりの出玉の上限も現行の2400個(9600円相当)から1500個(6000円相当)に引き下げる。
  パチンコ店の店長など管理者については、依存問題に関する従業員への指導・教育や客への情報提供などを、施行規則で定める業務に追加するなど規則の一部改正も行う。 

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医師の死亡診断、遠隔で可能に スマホで看護師から報告
野中良祐
2017年6月30日朝日新聞
 
医師による対面が原則の死亡診断について、厚生労働省は今年度内に規制を緩める。医師がすぐに駆けつけることができない場合に、スマートフォンなどを通じて患者の状況を把握することなどを条件に死亡診断書をだせるようにする。高齢化に伴い死亡者が増える多死時代を迎えるなか、自宅や介護施設、離島などでのみとりがしやすくなる。
 医師法は、死亡診断書の交付に医師の診察を義務づける。埋葬や火葬にも死亡診断書が要る。現状では、医師の診察を受けられない患者は、亡くなる直前に救急搬送されたり、死亡後に「異状死」として届け出て遺族らが警察に事情を聴かれたりすることがある。
 こうした現状を改善する運用の流れは、自宅療養する患者宅などを看護師が訪問し、心停止や呼吸の停止、瞳孔の開きを間隔をおいて2回確認。外傷の有無なども観察し、スマートフォンやタブレット端末で遺体の写真などとともに医師に送る。医師は「死亡」と確認すれば、看護師に死亡診断書の代筆を指示し、医師はテレビ電話などを通じて遺族に口頭で説明する。
 代筆を指示できるのは、患者が死亡する2週間以内に診療していた医師。当直業務中などですぐに対応できないなど、到着までに12時間以上かかる場合を想定する。ほかに生前にICT(情報通信技術)を活用した死亡診断に患者と家族が同意している▽死期が予測されている▽診察した病気以外での死亡の場合は警察に届ける――などを条件とする。

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世の中には、撤廃すべき規制もあれば、強化すべき規制もあると思う。
パチンコでもらえる賞金の規制って、私のようにパチンコに全く興味のない人間からすれば、特に規制なしでもよさそうだが、嵌ってしまって人生を台無しにする人間(これも本人の自由と思うのだが)が多くなって何らかの犯罪でも多くなるのなら、規制もやむなしなのだろうか。

一方で、人はみな死ぬのが当たりまえ。誰でも死ぬ中で、人の死に関する「規制緩和」として、病院で死ねかなった人について、看取りを看護師が行う話が出ている。しかし、普通に病院で病死できなかった人について、医師による検案あるいは診察を行い、警察が介入することは、犯罪で死亡した可能性があるか否かを検討するためには最後の砦である。犯罪を見逃せば同種の事件が続発するので国民の安全にとっては大問題な話である。それを看護師に代行させるというのは、よく検討しなければ、犯罪見逃しを助長する可能性もある。「規制緩和」の美名の下に、本来必要な規制をなくすとすれば大問題だろう。

看護師による死後診察の代行は、加計学園問題や、パチンコ問題以上に、国民の安全にかかわる重大な問題と思うが、この問題について、政府は何も考えすに進めてしまいそうで、大変心配だ。

結局のところ、金儲けをしたい方々のためだけに規制緩和と呼ばれる、政府の施策があるだけで、実は国民のことなど何も考えてないということだろうか。

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昔の事件ゆえに

<大崎事件>再審開始を決定 鹿児島地裁・第3次請求審
6/28毎日新聞

 鹿児島県大崎町で1979年に男性(当時42歳)の遺体が見つかった「大崎事件」で、鹿児島地裁(冨田敦史裁判長)は28日、殺人罪などで懲役10年が確定し服役した原口アヤ子さん(90)の請求を認め、再審を開始する決定をした。原口さんは捜査段階から一貫して無罪を訴え、今回が3回目の再審請求だった。鹿児島地検は福岡高裁に即時抗告するかどうか検討する。
  事件は物証に乏しく、原口さんは一緒に逮捕された元夫ら親族3人(いずれも故人)が「原口さんに殺害を持ちかけられた」とした自白や、親族から犯行を打ち明けられたとする義妹の供述などを根拠に有罪とされた。最高裁まで争ったが、81年に懲役10年の判決が確定。第1次再審請求では鹿児島地裁が2002年3月、親族の自白の信用性に疑問があるなどとして再審開始を決定したが、福岡高裁宮崎支部が取り消した。
  第3次再審請求審の主な争点は、親族3人の自白を裏付けるとされた義妹の供述の信用性だった。第2次再審請求を棄却した福岡高裁宮崎支部決定(14年7月)が「親族の自白自体の信用性は高くないが、義妹の供述と整合すれば信用できる」としたため、弁護側は義妹の供述について「不自然な変遷があり、体験や記憶に基づかない可能性が高い」とする心理鑑定書を新証拠として提出。「義妹の供述の証明力は著しく減殺された」と主張した。
  さらに、被害男性の遺体の解剖写真を分析し、確定判決が「首を絞められたことによる窒息死」とした被害男性の死因を否定する新たな法医学鑑定書を提出。「窒息死の所見である死斑などが認められない」とし、自転車事故による出血性ショック死の可能性を示唆した。その上で「殺害行為に関する親族の自白と矛盾している」と指摘した。
  また、第3次再審請求審で検察側が新たに開示したネガフィルムを基にした現場写真などを新証拠として提出。「近隣住民の供述と現場の再現写真に矛盾がある」などと主張した。
  その上で「親族3人の自白も義妹の供述も遺体の客観的状況と符合せず信用できない。確定判決には合理的な疑いが生じていることは明らかだ」としていた。
  一方、弁護団によると、検察側は法医学鑑定書について「写真鑑定の信用性は低い」と主張。心理鑑定書については「親族の証言はこれまでに検討済み」などと反論し、請求棄却を求めていた。【田中韻】

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自白中心の捜査は今でも行われている面があるが、昔はさらに酷かったと思われる。ましてや21世紀に入った段階でも鹿児島では志布志事件があったくらいだし、冤罪もありうる話だろうなと思う面がある。

首絞めの診断は時として大変難しい。タオルで首を絞めても、遺体外表や解剖所見で何も所見が残らない場合は確かに存在する。しかし、そのような場合に、解剖所見で首絞めなど断定できるはずがない。また、大崎事件の場合、頸椎前面に出血があったことをもって、首絞めと判定したという話があるが、それだけで首絞めと断定することは困難だ。

頸椎前面に出血があるということは、頸椎に損傷があったということなのだろう。死体が発見される数日前に、酔っぱらって用水路の中で自転車と倒れているところ見つかり、自宅まで連れてこられたということだが、自転車、酔っ払い、用水路転落というキーワードで思い浮かぶのは、むしろ、用水路転落による頸椎損傷である。

頸椎損傷が発生すれば、その場で麻痺が生じて立ち上がれない場合もあれば、受傷直後は行動能力があり、しばらくして急に頚髄圧迫の症状が現れて死亡する場合もある。後者のような場合は、折れた頸椎の周りにそれなりに多くの出血が生じているだろう。

首絞めで頸椎が折れる場合もあるが、その場合、首が折れつつ短時間で首絞めによる窒息で死に至るので、頸椎周囲の出血はさほど多くならないことが多い。

その意味で、解剖所見での頸椎周囲の出血がどの程度であったのか興味があるところではある。

また、頸椎の骨折がどの程度のものだったのかも関心があるところだ。椎間板軟骨の一部が裂けただけなのか、軟骨が完全に裂けたのか、頸椎の骨の部分まで折れているのか。まだまだ若いといえる40代の男性の頸椎を折るにはそれなりに強力な力が必要である。首を吊っても頸椎が折れないことが多いのに、女性による首絞めで果たして折れるのだろうか。一方で、自転車搭乗中に顔から転落する場合、頸椎の過伸展の程度が強いことから、若い方でも首が折れてしまうことは何例も経験されている。頸椎の折れ具合についてはしっかり検証されるべきだろう。もちろん、解剖で頸椎の検索をしていればの話ではあるが。


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震災関連死、死因非公表が半数超 「申請増を警戒したのでは」との見方も 熊本地震
西日本新聞社2017/6/21

 熊本地震で震災関連死を認定した20市町村のうち、11の自治体が死因を明らかにせず、対策を模索する医療関係者の障壁になっている。非公表の自治体は「遺族の意向」として個人情報に配慮するが、弔慰金には公金が充てられることもあり、識者は「公共性が高い情報だけに、市民と共有すべきだ」と指摘する。
  関連死は20日現在、熊本、大分両県で計181人。熊本県は熊本市66人、益城町20人、阿蘇市18人などで、大分県では由布市が3人を認定している。大半が年代や性別、死亡時期は明らかにしているが、死因は過半数が非公表だ。
  理由は「遺族に公表できるか判断してもらった」(阿蘇市)「遺族に配慮し、自治体で判断した」(益城町)などが多い。ある担当者は「小さな自治体では個人の特定が容易で、お金をもらったと批判されるのを心配した」と説明する。「死因を公表することで『それならうちも同じ病気』と申請が増えるのを警戒したのでは」(関連死に詳しい専門家)との見方もある。
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「報道することで新たな犠牲を減らすことにつながる」
 被災地で口腔(こうくう)ケアに取り組む福岡県歯科医師会の太田秀人さんは、口内の細菌との関連が指摘される肺炎の件数に関心を寄せる。「専門家が口腔ケアをした市町村で肺炎の死者が少なければ、避難所で口腔ケアを重視した対策が取れる。関連死は対応次第で救える命だ」と検証の意義を語る。
  過去の震災で関連死を分析した徳島大の西村明儒教授(法医学)は、阪神大震災ではストレスの影響、新潟県中越地震ではエコノミークラス症候群が問題となり、対策につながったと指摘。「遺族が申請しない例もあってエビデンス(科学的根拠)に限界はあるが、災害ごとに検証し、報道することで市民に理解が広がり、新たな犠牲を減らすことにつながる」と話した。
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【ワードBOX】震災関連死
 避難生活での肉体・精神的疲労による体調悪化など、間接的な原因で死亡すること。遺族が申請し、市町村が医師らでつくる審査会に諮るなどして認定する。災害弔慰金支給法により、遺族に最大500万円が支給される。認定基準が曖昧で、各地で自治体を相手に訴訟も起きている。
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震災関連死はほとんど解剖されていない。それゆえ、死因もどこまで正しいのか不明である。さらに死因さえ公表しないのに、そんなのに税金を払う日本国民っていったいなんなんだろうか。

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感染症か...幼稚園児2人死亡、発熱・嘔吐など症状
読売新聞2017.06.15

 川崎市は14日、同市川崎区の私立大師幼稚園に通う4歳の園児2人が今月6日と12日に相次いで死亡したと発表した。同じクラスの女児と男児で、発熱や嘔吐(おうと)などを発症した後で死亡しており、市は感染症の可能性も否定できないとして、2人の血液検査などを行って詳しく調べている。他の園児や家族らに重い症状が出ているケースは確認されていないという。
 発表によると、女児は4日に自宅で胸の痛みや嘔吐などの症状が出て、病院で急性胃腸炎と診断されたが、その後も発熱が続き、6日未明に容体が急変し死亡した。男児は12日朝に発熱など風邪のような症状が表れ、昼前にけいれんを起こすなどして救急搬送され、病院で死亡が確認された。
 神奈川県警が2人を解剖して死因を調べたが、体に外傷などはなく、死因は特定できなかった。県警から情報提供を受けた市は、国立感染症研究所の協力を得て血液検査などを行う一方、同園の保護者に対し、園児が体調不良を訴えた場合は医療機関を受診するよう呼びかけている。
 同園は宗教法人の平間寺(川崎大師)が運営。園児は約200人。13〜18日を自主休園とした。

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この件、2例とも司法解剖がされているようだ。
感染症の疑いばかりに目が向いているが、薬毒物をどこかで摂取した可能性もあるので、感染症の検査や薬物検査、組織検査など様々な検査が必要になるだろう。
司法解剖は犯罪の有無を確認するための解剖であり、その意味で、死因が確定できるまで各種検査を実施する必要がある。一時警察庁は、解剖だけちゃらっとやって、解剖だけで犯罪性がなく病死だとわかれば、それ以上の検査は不要で病名の確定までは不要だなどと言っていたが、しっかり検査してほしいところだ。医学的に死因がしっかり特定され、病名が確定するまでは犯罪性の有無なども本来わからないはずなのだから。中途半端にされては近隣住民の不安は解消されることはないだろう。

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結局のところ

本ブログで取り上げた解剖経費に関わる問題に関して、結局、20万円程度の包括価格では折り合いがつかず、現状を維持した形で継続することとなったようだ。
法医学会の良識が示されたように思うが、今後しっかり議論しておくべき問題だろうと思われる。

あまりに低価格なところは、行うべき検査ができていないか、検査をしたとしても請求していないなどそれなりに原因があるはずなので、前者の場合は特に、他の大学などと連携しながら、必要な検査がしっかりできるようにすべきであるし、それによってまずは底上げがされるべきであろう。

某県では、1年の間に、警察庁に請求した経費が1/3程度に激減しているという話も聞いた。これは、おそらく鑑定人のキャパを超えて解剖した結果(解剖数が1.5倍になるなど)、鑑定書提出数が半減し、見かけ上、平均の解剖費用が安くなっただけらしい。そんな解剖経費を全国平均でならした価格を法医学会に飲ませようとした警察庁のやり口には大いに問題があるように思う。

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前回に続いて経費の考察をしてみる。

解剖謝金10万円/1体は執刀医の個人所得になり、大学へ納付される経費が
解剖基本料6万円/1体
組織検査代上限8万円/1体

という価格で、どのような事態が起きるかシミュレーションしてみる。

設定は、医師は教授1名、その他の教員2名、検査技師1名といった法医学教室。この規模の教室が発展できるかどうかをシミュレートすることは、法医学や死因究明のシステムが発展できるか判断するのに適当といえるだろう。

もし、まともに鑑定をし、法医学の本分として社会に貢献しようとするのなら、解剖した事例については全例鑑定書や報告書を記載すべきことは当然であろう。

ほかの国のように、解剖の補助をする検査技師が解剖台1台につき1人以上おり、さらに写真係もいて、ボイスレコーダーに録音した解剖所見を書き起こしてくれる秘書さんもいるのであれば、医師一人で年間200体くらいが上限だろう。ただし、研究が一切できなくなることを覚悟しなければならない。とはいえ、今の日本式の方法では、効率化がされていないので、解剖を年間100体以上行うと、鑑定書作成を簡略化したり、省いたりしないといけないので、実際は全例で鑑定書をかけるのは年間100体が限度ともいえるが、今回はあえて収入を増やすために大目に設定してみる。

想定した教室では、検査技師1名を解剖補助とし、教員2名で組織検査やアルコール検査を実施するなどし、また写真はこれまでどおり、警察任せとするのでああれば、あとは、書き起こしをしてくれる秘書さんが2名いれば、200体の解剖や検査が実施できるかもしれない。

しかし、それでは、教員は全員、大学の本務たる研究や教育が全くできなくなる。この前提はおかしいのでやめよう。

研究のアクティビティーを最低限維持するためにも、医師以外の教員2名には教育研究に専念してもらう必要がある。それを前提に考える。

年200例の解剖補助は既にいる検査技師1名にやってもらうこととする。組織検査、アルコール検査、生化学検査、精液検査など各種検査を実施してもらうためには、臨床検査技師がさらに2名必要になるだろう。さらにはボイスレコーダーからの書き起こしや鑑定書の作成には秘書2名も必要だ。

検査技師や秘書に給与を手取りで月25万払う場合、ボーナスと諸費用で年間1名の雇用に500万円必要になる。4名を新たに雇用するとなれば年2000万かかる計算だ。解剖基本料6万×200体だけでは大赤字だが、組織検査を全例で実施すれば、MAXで2800万の収入になる。とはいえ、高度に腐敗した死体や白骨では組織検査をできないので、幾分減る可能性がある。人件費2000万円を除いた残金は800万円未満だ。

他に必要な経費を計算してみる。

解剖一体当たり、様々な消耗品が必要だ。
ディスポの手袋、ガウン、マスク、替刃などで解剖1体最低でも2000円ほどかかるだろう。
簡易薬物検査のキットが2500円程度、生化学検査のキットが1000円ほど。
ホルマリンなどの廃液や医療廃棄物の処理代は1体7000円程度
合計12500円が1体分の消耗品等だ。年間200体なら250万円かかる。

次に設備の維持費を考えてみる。
エタノール検査のためのガスクロの購入が600万円程度、血液生化学検査や一酸化炭素測定のための機械をそろえれば400万円程度かかるが、無理に使って10年もたせても、年間100万程度を積み立てておかねばならない。
冷蔵庫・冷凍庫は年間200体も解剖したら、1年分の血液や尿でいっぱいになる。それを5年保管したら、冷蔵庫の寿命がくる。ディープフリーザ-と冷蔵庫をセットで交換すれば、5年で200万かかる。つまり年40万円が冷蔵庫・冷凍庫購入のための積み立てに必要だ。
電気・ガス・水道代は馬鹿にならない。普通の家でも月2万円だ。この4倍だとしても、年間100万くらいはかかる。
以上で、年240万円。

消耗品代と設備維持費を合わせて、年間合計490万円だ。
残金は310万円未満となる計算だ。

一方、大学は、外部から入ってくる収入に対して間接経費と称して10%から30%天引きしたうえで、法医学教室に入れるので、そもそも、最初から最低でも2800万円×10%の280万円は存在していない。

結局法医学教室に残る費用はMAX30万円だ。

年間200体のうち、白骨や腐敗死体が20体もあれば、その分の組織検査代160万円分が減収なので、130万の赤字になる。

その他に鑑定書作成などのためのパソコンの購入、写真の保管のためのキャビネット購入、臓器の保管のためのバケツ購入、組織検査やプランクトン検査のための消耗品や試薬購入などをすれば間違いなく大幅な赤字になる。

赤字にならないためには、秘書や検査技師を減らして費用を浮かせるなどの方策をとらざるを得ないが、これでは鑑定書を全例で出せなくなったり、必要なプランクトン検査や精液検査、生化学検査などの検査ができなくなったりするので、死因究明の質の低下につながり、死因究明の推進の観点からは本末転倒な結果になるだろう。薬物検査や死後CT実施のための高額な機材や人材などを揃えることなどは夢のまた夢。薬物検査は科捜研に頼るという不健全な状況とならざるをえない。

これで教室員はハッピーになれるのだろうか。教授以外の教員2名はなんとか教育・研究ができるので、よいとしても、教授は2000万円もの謝金の代償として、解剖以外には何もできなくなっている。大学としては、教育研究のために雇用したはずの人手が一人取られたことになり大きな損害といえる。

解剖が200体を超えて増えるとなれば、さらに問題がおきる。解剖を増やすには、既存の検査技師1名による解剖補助ではもはや無理だ。さらに解剖補助を行う技師や医師が必要となるが、それらを雇用する費用はないのだ。これは、若手医師が大学院に所属し、その後卒業しても、特任教員もおけないので、就職できないことも意味する。

つまり、前提とした価格では、教授の研究教育活動を全面的に犠牲にしているにも関わらず、解剖数の現状維持がぎりぎりできるかできないのレベルであり、解剖数が増えることには全く対応できず、若手医師の雇用もできないということになる。また、まじめにやると赤字になる可能性が高く、結果的には鑑定書を作成しないとか、検査を十分に行わなくなっていく可能性も高いということになる。

これでは死因究明のためのシステムが発展できるなどとは到底言えない。

そもそも、本来は大学の研究・教育のために配置された既存の人員と設備を、警察からの受託業務に流用するという前提に問題がある。既存の人員や設備を用いることは前提とせずに、解剖100体なり、200体なりごとにどれだけの医師、検査技師、設備維持費、消耗品が必要になるかといった計算をするのであれば、解剖数が年1000、2000に増えても、それなりに人や設備を増やすことができる。既存の人員と設備を使うことを前提としてしまっては、解剖数が倍になるなど、今ある枠を超える事態に対応することができないのは当然のことだ。

費用を算定するにあたっては、本来はまず第一に、法医学や死因究明のシステムを発展させるとはどういうことなのか?を考えなければならない。

将来的に解剖率は上げるのか?
写真や解剖後の縫合、掃除は警察官にやらせ続けるのか?(ほかの国では感染リスクの防止のために警察官にそんなことをさせてないが)
行うべき検査項目は何か?また薬物検査等の機材や人材をどうするのか?
全例で鑑定書を書くのか?どの程度の鑑定書か?

これを決めずして、解剖や諸検査の価格を決めることはできないし、それを怠って交渉すれば、警察庁の提示した価格について適正か否かを判断できず、結果的に先方にやりこめられてしまうことになる。とにもかくにも、根源的なところをまず考えてから、費用を設定しなければならないということだろう。

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法医学会と警察庁は、司法解剖や死因身元調査法による解剖の価格について協議を行っている。これまでは、組織検査代はスライド1枚5000円、機器分析を用いた薬物検査は1事例8万円などと、単価で計算されるしくみであり、その結果、さまざまな検査を実施する機関では1体あたり45万円程度となり、検査機材を保有せず、解剖しか実施できないような機関では8万円程度となるなど、大きな格差が生じてしまった。そこで、包括価格にしようという話が持ち上がっていたのだが、最近警察庁から以下のとおりの金額が示されたとのことである。

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司法解剖(包括方式)
(1) 諸謝金・・・ 解剖謝金 5万円 + 鑑定謝金5万円

(2) 検査料等 ○ 上限を25万円と設定 * 諸謝金と併せて上限35万円

○ 基本検査料6万円
血液等生化学、ウイルス、細菌、アルコール、一酸化炭素、プランクトン、精液、 簡易薬物(キット)等の各種検査、 施設使用料、感染防止用消耗品費を含む

○ 組織学的検査
40試料以上の場合〜8万円
30試料以上 40試料未満の場合〜6万円
20試料以上 30試料未満の場合〜4万円
10試料以上 20試料未満の場合〜2万円
実施しない又は10試料未満の場合〜0円

○ 薬毒物定性(分析機器)検査及び定量検査
薬毒物定性(分析機器)8万円
薬毒物定量検査3万円

調査法解剖
(1) 人件費 ○ 人件費相当額 〜 定額3万円(結果報告書作成料込み)
(2) 検査料等 ・・・司法解剖と同様上限25万円。ただし、薬物検査を行わない(行わせない?)場合の上限は14万円。

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果たしてこれは適正な価格といえるのだろうか。また、手続きも妥当なのだろうか。考えてみたい

まずは費用面を考察してみたい。
参考になるものとして、病理学会のHPに提示されている剖検費用がある。

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1.人件費
  医師 \48,163.7 
  技師 \18,711.1 
2.遺体収集費(遺族への謝金) \10,000.0 
3.葬祭費(慰霊祭経費) \5,000.0 
4.剖検室使用費および剖検時関連諸経費  \26,318.0 
5.組織標本作製費 \26,472.0 
6.病理解剖特別検査費 \14,076.2 
 小計A \148,741.0
7.剖検診断費  
 (保険加算相当点数を参考とした場合)  
  3臓器         880点x3 \26,400.0 
  細胞診(その他)   190点x1 \1,900.0 
  組織診断料      255点x1 \2,550.0 
  検体検査管理加   300点x1 \3,000.0 
  免疫抗体法加算  300点x1 \3,000.0 
  電子顕微鏡加算 1200点x1 \12,000.0 
  組織培養陽性1臓器  \3,010.0 
  動脈血培養陽性  \3,896.0 
  診療情報提供料 520点x1 \5,200.0 
  小計B \60,956.0
8.諸費   
  報告書作成費  \10,000.0 
  光熱水道費  \6,000.0 
  標本管理費  \5,000.0 
  危険手当(医師,技師)  \15,000.0 
  剖検室清掃・遺体清拭料  \5,000.0 
  小計C \41,000.0
  総計 \250,697.0
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病理学会は、解剖および組織検査と報告書作成に必要な費用を約25万円としている。

病理学会の試算では医師の人件費は5万円弱、検査技師等の人件費は2万円弱である。
法医解剖の場合、解剖中に書記がついたり、組織検査以外に様々な検査を行うため、医師以外にもう一名の人件費が加算されるべきであろう。つまり、病理学会の試算を参考にすれば、法医解剖(司法解剖および調査法解剖)に必要な人件費は病理解剖より2万円ほど多い8-9万円ということになる。

遺体収集費と葬祭費は法医解剖では不要であろう。ある意味、もう一名必要な人件費とほぼ相殺される形になるだろう。

剖検診断費については、病理学会では生体診察に対して支払われる保険点数を参考に計上せざるをえなかったのだろうが、実際にはすべて実施すわけでもない費用が計上されつつも、約6万円とのことである。法医解剖ではさすがに電子顕微鏡を使わないものの、病理解剖では頭部、頸部や四肢、背部の解剖が通常実施されないのに対して、法医解剖ではこれら部位が解剖されるべき事例は多く、また、検査される臓器数は3臓器では済まないなどからすれば、病理学会の算定する約6万円という金額は、最低限法医解剖でも必要な金額とされるべきであろう。

以上、病理学会の試算を参考とした場合、法医解剖でも、組織検査と解剖だけで25万円という金額が最低限な価格であるということになるだろう。

法医解剖ではその他に薬物検査、生化学検査、プランクトン検査、精液検査等が実施されるので、当然その部分も加算すべきである。薬物検査は警察庁提示の8万円でよいとしても、そのほかの検査にいくらかかるかという点は別に考える必要がある。生化学検査や簡易薬物検査のキット代だけでも1検査当たり数千円かかるし、プランク検査に至っては丸一日技術職員が検査を行うので、それなりに人件費が必要だ。解剖従事者の安全を守るためには、HIVやC型肝炎などのウィルス検査も全例で必須とすべきである。以上を考慮すれば、薬物検査以外の検査にも数万円程度は必要ということになるだろう。

従って病理学会の試算を参考にしたとしても、解剖と組織検査だけで25万円、諸検査のためには、薬物検査8万+その他の検査で数万円という金額が、少なくとも調査法解剖において大学法人に収められるべき金額ということになる。

さて、ここで改めて警察庁提示の金額を見てみる。
調査法解剖において、解剖、組織検査および薬物検査以外に必要な諸検査を実施した場合、大学に支払われるのは17万円である。病理解剖(薬物検査なしで25万円)では通常実施しない部位を含めて解剖したり、組織検査や薬物検査以外にも様々な検査が必要とされるべき調査法解剖にもかかわらず、病理解剖より8万円も安いのだ。果たしてこれが適正といえるのだろうか?

そもそも調査法解剖の人件費が3万円とはどういうことか?法医解剖には医師1名、解剖補助1名、書記1名が入り、もろもろの検査の人件費も必要だが、それで3万はあまりに安すぎる。病理学会試算の人件費約7万円から比べて半額以下というのもおかしな話だ。なめられているとしか思えない。人件費だけでも、病理解剖をベースにしても4万円程度の加算が必要だし、法医解剖で病理解剖とは異なり頭部、頸部、背部、四肢などが解剖され、書記も入ることを考慮すれば6万円程度は加算される必要がある。

また薬物検査以外の検査代(生化学検査、簡易薬物検査、DNA検査、アルコール検査、プランクトン検査、精液検査等)はなぜか一つに丸められているにも関わらず、薬物検査の8万円だけが特に頭出しされているのはどういうことなのだろうか?もしや、DNA検査がそうであったように、「今後薬物検査は科捜研で実施するから、法医学教室には委託しない」と警察庁が各県警に指示をだせば、たちどころに法医学教室における薬物検査は消滅するが、それが予定されているのではないか。もし仮にそうなってしまったら、調査法解剖はどんなに一所懸命に様々な検査をしても、1体あたり17万円にしかならない。この金額は現在の調査法解剖の価格(現在は組織検査は大学に依頼しないと警察庁から指示されている)にほぼ一致することを考えると、ますます怪しい匂いが漂う。将来的に取り返しのつかない事態を回避するためには、薬物検査を実施する機関に限っては予め基本検査料として、薬物検査分の10万程度を加算しておくほうがいいのではないだろうか。

続いて手続き面を考察してみる。

そもそも、解剖や諸検査は、解剖執刀医一人でできるものではない。大学法人の人と設備を使ってようやく実施可能である。だからこそ、大学法人と警察が契約を交わして実施しているし、本来解剖および各種検査費用は、法医学会と警察の話し合いではなく、各大学法人と警察の話し合いによって決められるべきである。それ故、病理学会は、あえて参考価格として提示しているのみであって、それは特に強制力を持つものではない。

法医解剖についても、本来法医学会がなすべきことは、病理学会が行ったと同様に、個々の大学法人が契約する際の参考価格を提示するにとどまるべきである。もし法医学会が警察庁と価格を交渉しようとするのなら、法医学会としては、警察庁と交渉する以前の問題として、必要な費用について、病理学会のようにまずは明細を作って、各大学法人に提示し、納得してもらってから交渉を行う必要がある。しかし、現在そのような手続きが取られているのだろうか?

ましてや、法医学会と警察庁で決めた金額は、その後警察庁内と文科省内に通達され、その金額で契約しないと「安く契約してくれる他の大学に持っていくので、結構です」などと嫌がらせをされて、結局ほぼ強制的に契約されることとなる。事前に何も知らされないまま、突如これまでと比べて激安な料金で半強制的に契約させられる大学も出てくることになる。

そもそも警察庁が提示してきた既存の予算枠から計算しただけの金額が妥当としてしまうと、大いに問題がある。

本来は、解剖や各種検査にこれだけの金額が必要であるという明細を作って交渉すべきであるし、それを怠ると結果的にだまされてしまう可能性もある。今提示されている金額に、ろくな明細も示されていないのは非常に危険である。明細なしのどんぶり勘定では、この検査をやったら損をする、この検査もやったら損をするという話になりかねない。病理解剖に比べても、低い金額設定ということから推察すると、頭部、または胸部だけの解剖だけやって、組織検査も、生化学検査もプランクトン検査もやらないですませば最も収益率が高いように思える。ましてや組織検査代は1切片あたり2000円以下の設定だが、外注すれば薄切1枚2000〜2500円なので、組織検査代でさえ、場合によっては赤字採算である。このままでは、いずれほとんどの大学の法医学教室において、解剖は全身解剖でなく部分解剖、検査は何もしないというような状態(警察庁が望む姿のようだが)に陥り、結果的に法医学全体を衰退させる方向に作用しそうにも思える。

一方、司法解剖で個人が謝金を得ることについて法人の許可を得るか否かも考えなくてはならない手続きの一つだ。

先に述べた通り、本来法医学会は大学法人の委任を受けたうえで、警察庁と交渉すべき立場だろうと思われる。そのような委任の手続きを取っていないとしたらそれも問題である。法人から見れば、法医学会は司法解剖によって謝金を得ている方々の利権団体という捉え方をされかねないからである。

司法解剖における警察庁提示額では、執刀医のみが1体当たり10万円もらう算定となっている。現在の平均7万から見ても個人が得るには十分な報酬といえるだろう。一方で、大学法人に入る金額が病理解剖より低い金額というのは法人に対してどのように説明がつくだろうか。これはある意味背任になりかねないのではないだろうか。

そもそも、法人から見て謝金制度というのは許容されるべきなのだろうか?法医学者が正当な報酬を受けるべきという話は理解できるが、その方法については十分考えなければならない。例えば、国立大学法人の附属病院の外科教授が、病院で手術をした際に、外部から別途報酬を受けているだろうか。昔であれば、国立大学の教授が手術すると、封筒が立つほど患者さんからお礼をもらったなどの噂話も聞くが、今のご時世で許されるはずがない。事実、法医解剖で個人謝金を得ることを容認しない大学も少数ながら存在している。むしろ、調査法解剖で想定されているように、大学法人に一度入れた費用のなかから、大学からインセンティブとして受け取るなどの手続きが将来的には本来推奨されるべきなのではないか。

もし仮に、このまま法医学会が個人に入る謝金については十分に確保したまま、大学法人に入るべき経費については無関心のまま明細も示さず、しかも法人の意向を聞かず、病理解剖の試算から比較してもかなり低いような金額で警察庁と同意してしまうようでは、学会としての良識を疑われかねない。

本来であれば、法医学会がやるべきことは、病理学会がそうしたように、特別委員会でも作って、大学法人の意向を伺いつつ、また弁護士などもに相談しながら妥当な額についてまずは解剖経費と検査代について明細を作り、示すことであるように思われる。

とにもかくにも、おかしな金額で無理やり契約させられ、結果的に法医学が衰退しないことを祈るばかりだし、法医学会としての良識が示されることを祈るばかりである。


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金正男氏暗殺 VXガス使用の可能性 別の女逮捕、殺意を否認
産経新聞 2017年2月17日

 【ソウル=桜井紀雄、クアラルンプール=吉村英輝】北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男氏がクアラルンプール国際空港で殺害された事件で、韓国メディアは16日、外交消息筋の話として、致死性の高いVXガスが犯行に使われた可能性があるとの見方を伝えた。
  一方、マレーシア警察は16日、犯行に関与した2人目の容疑者として「シティ・アイシャ」と名乗る25歳の女を逮捕した。インドネシアの旅券を所持していた。現場映像に同容疑者が写っていたという。殺害の意図は否認している。同警察は女の交際相手であるマレーシア人の男(26)も逮捕、事件への関与を調べているが、「捜査進展のため」として、事件への直接関与に否定的な見方を示している。
  現地の裁判所は16日、前日に逮捕されたベトナム旅券を持つ28歳の容疑者「ドアン・ティ・フォン」について、7日間の拘置を認めた。地元紙は、この女が金正男氏にスプレーを噴射する役だったと報じている。事件には、逮捕された女2人のほか別の男4人が関与しているとみて警察が行方を追っている。遺体は金正男氏と確認された。
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北朝鮮、正男氏の火葬要求 司法解剖反対、2日遅らす
東京新聞2017年2月17日

 【クアラルンプール共同】マレーシアで北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男氏が殺害された事件で、在マレーシア北朝鮮大使館が遺体の司法解剖に強く反対、火葬を要求していたことが17日、分かった。このため解剖は2日間遅れた。マレーシア政府高官が明らかにした。正男氏は毒物で殺害されたとみられており、情報当局者の間では北朝鮮側が証拠隠滅を図ろうとしたとの見方が出ている。
 正男氏は13日に襲われたとされる。マレーシア当局は13日に遺体を司法解剖しようとしたが、北朝鮮側の反対を受け延期。事件が大きく報道された後の15日、犯罪性が強く疑われるとして司法解剖した。
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この件、日本の空港で発生していたらどうなっただろう。
以前偽造パスポートで入国した際に、逮捕起訴せずに帰国させてしまったこともあったことを考えると、日本の場合、外交上の配慮から遺体を解剖せずに返してしまうかもしれない。もし仮に解剖せずに返したら、日本の空港は暗殺し放題だとほかの国から舐められてしまうだろう。その意味では、マレーシア政府は自国民をそうした危険から守ったといえる。

ところで、マレーシアは最近急速に発展している。法医学研究所もあるようだし、いずれ日本はアジアの中で後進国になってしまうかもしれない。日本で殺しても薬物はフリーパスなどとされたら、日本中で暗殺し放題だ。

思い返してみれば、オウム真理教がVXガスやサリンなどを使って殺害した事件があったが、薬物をしっかり検出できたケースは稀だった。あのころから日本は何も変わっていないように感じる。


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「勾留中に暴行死」 法医学者が奈良県警の警官告発
産経ニュース 2016年11月14日
 
 平成22年2月、奈良県警に業務上過失致死容疑で逮捕され、県警桜井署で勾留中だった男性医師=当時(54)=が死亡したのは、取り調べ時に警察官から暴行を受けたことが原因だったとして、遺体の鑑定書を調べた岩手医大の出羽厚二教授(法医学)が15日、特別公務員暴行陵虐致死罪で、容疑者不詳のまま県警に刑事告発した。
 告発状によると、男性医師は22年2月14日〜24日ごろ、取り調べ時に警察官から頭部、胸部、足を殴打され、これが原因で発症した急性腎不全などの多臓器不全によって死亡したとしている。
 当時別の医師が行った司法解剖では、死因は急性心筋梗塞と判断されたが、出羽教授は「下肢に広範囲の皮下出血があり、打撲により生じたものだと考えられる」と訴えている。
 男性医師は18年6月、奈良県大和郡山市の医療法人雄山会「山本病院」(廃院)で、男性患者=当時(51)=の肝臓の手術を助手として担当。誤って肝静脈を損傷し失血死させたとして、22年2月6日に逮捕され、同25日に勾留中の桜井署の留置場内で倒れているのが見つかり、搬送先の病院で死亡した。

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殺人適用せず、父に懲役12年判決…東京高裁
 毎日新聞2017年1月13日

 神奈川県厚木市のアパートで当時5歳の長男を放置して虐待死させたとして、殺人罪などに問われた元トラック運転手、斎藤幸裕被告(38)の控訴審判決で、東京高裁は13日、懲役19年とした裁判員裁判の1審・横浜地裁判決を破棄し、懲役12年を言い渡した。秋葉康弘裁判長は「適切な対応をしなければ死亡する可能性が高いと認識していたとは言えない」と述べ、1審が認めた殺人罪を適用せず保護責任者遺棄致死罪に当たると判断した。

 事件は2014年5月にアパートで斎藤被告の長男、理玖(りく)君の白骨遺体が見つかり発覚した。司法解剖でも死因は明確にならず、死亡前の長男の衰弱状態について述べた複数の専門家の証言をどのように評価するかで1審と2審の結論が分かれた。
 1審は、小児法医学の専門医の証言を基に長男が死亡した07年1月の1カ月前ごろには、栄養不足から関節が曲がって固まる症状が始まっていたと認めた。その上で「遅くともこの段階で医師の適切な診療を受けていれば救命できた」として、診療を受けさせるなどしなかった被告に殺意があったと判断した。
 これに対して2審は、解剖医の証言も重視して「長男に関節が曲がる症状があったとは認定できない」と判断。長男が動けない状態だったと述べた被告の調書についても、取り調べで誘導した疑いもあったとして「信用性は高くない」と指摘し、「長男に適切な診療を受けさせるなどしなければ、死亡する可能性が高かったとも、そのことを被告が認識していたとも認定できない」と結論付けた。
 判決によると、斎藤被告は長男に適切な食事を与えず部屋に閉じ込めて放置し、07年1月に死亡させた。被告の弁護人は「実の子への殺意が否定され被告はほっとしていた。刑事訴訟法の原則に忠実な判決だ」と評価。東京高検の曽木徹也次席検事は「判決を精査・検討し適切に対処したい」とコメントした。【近松仁太郎】

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<乳児死亡>元少女に無罪判決「首絞め断定できず」東京地裁
毎日新聞2017年 2月13日

 2013年に東京都渋谷区のマンションで、知人女性から預かった生後3カ月の女児の首を絞めて死亡させたとして、傷害致死罪に問われた当時18歳の元少女(21)に対する裁判員裁判で、東京地裁は13日、無罪判決(求刑・懲役7年)を言い渡した。家令和典裁判長は死因について「ひものようなもので首を絞めたことによる窒息死と証明されたとは言えない」と指摘した。
  元少女は「首を絞めていない」と無罪を主張。弁護側も栄養失調による衰弱死やうつぶせ寝の状態で窒息死した可能性があると訴えていた。
  判決は、女児の首に残る痕をひものようなもので圧迫されたものと判断した専門医の見解について「皮膚の写真に基づく判断で、内部の変化まで読み取れるか疑問」と指摘。検察側が、首を圧迫された根拠の一つとした血液成分の変化も「他の死因でも変化することがあり、首の圧迫があったと断定できない」と退けた。その上で、女児が栄養をほとんど与えられず衰弱していたことや、死亡前にうつぶせで寝ていた状況を踏まえ、他の死因も考えられると結論付けた。
  閉廷後、4人の裁判員が記者会見した。審理で遺体の写真が示されたことに関し「イラストより判断しやすい」「不必要な部分を見せない配慮があり、負担にならなかった」などと述べた。
  元少女は、女性とその長女の女児、別の少女の3人と同居し、女性に代わって女児を世話していた。13年11月1日に部屋にいた女児の首を絞めて死亡させた、として起訴された。
  無罪判決を受け、東京地検の落合義和次席検事は「主張が認められなかったことは遺憾であり、判決内容を検討して適切に対処したい」とのコメントを出した。【近松仁太郎】
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ここのところの報道を見ると、死因判定のばらつきが原因でおかしなことが起きているように感じる。というか、昔から同じようなことは頻回に起きていると思うが、どの件にも共通点があると思われる。

多くの国では、複数の鑑定人が所属する法医学研究所で、同僚同志議論を積み重ねながら死因を判定しているが、日本では法医学的な鑑定機関が法医学教室といった小規模な機関であり、教室内の鑑定人は教授しかいないか、あるいは他にいたとしても、教授とは対等とは言えない助教や講師が1人しかいないという状況が生み出されている。このような環境では、教授一人の独裁となり、鑑定について同僚からの批判を受けることがなく、独善に陥ってしまう。結果的には、日本では鑑定の質が諸外国以上に大きくばらつくことになる。

鑑定がバラバラの機関が存在するという状態は、恣意的な結論を得たい検察・警察、弁護士にとっては大変都合が良いといえる。日本のどこにおいても同様の状態だが、特に東京都内のような大規模都市周辺は、大学が複数ある割りにいずれも小規模であり、日本の縮図といえ、容易に都合のよい鑑定人を見つけ出せてしまうところがあるため、より問題が起きやすいといえるかもしれない。

例えば、首に首絞めの形跡が明確にない死体がみつかった場合、ある鑑定人は慎重に対応し、「首絞めとは断定できない」と判断するが、警察のいうことを鵜呑みにする傾向のある別の鑑定人は「首絞めの可能性が高い」とか、「首絞めとして矛盾しない」などと断定に近い表現をすることがある。警察が被疑者を有罪にしたいなら、後者の鑑定人の書いた鑑定書だけを裁判にだせばいいだろう。

あるいは白骨の死体が見つかった場合、多くの法医学者は、「死因は不明とすべきだし、骨だけでは関節の拘縮があったかなどわかるわけがない」と考えるのに、「関節が曲がっているから関節に拘縮があったと思われる」と言ってくれてしまう者が現れたりする。警察や検察が被疑者の罪を重くしたいとき、後者の鑑定人の意見は、関節の拘縮に気づいていたのにわざと放置したという被疑者の悪質性を表すストーリーに利用可能である。

あるいは、警察官が暴れる犯人を取り押さえていたら、突然犯人が死んでしまったようなケースでは、「警察官の暴行が死因に関与した可能性は否定できない」と判断する鑑定人がいる一方で、「病死である」と断定する鑑定人もいる。もし警察が身内を無罪にしたければ、後者に鑑定を任せればいい。

このように死因などの判定にばらつきがあることは、被疑者を有罪あるいは無罪にしたい場合、そのためのストーリー構成において非常に好都合なパーツを提供してくれるといえる。

警察官は犯人を捕まえ、事件を解決すると評価されるが、冤罪防止に尽力しても評価されない。警察とは良くも悪くもそういう組織である。彼らが正義と思って行動したとしても、結果的に行き過ぎた捜査に陥る傾向がある。そうした環境で、法医学における死因鑑定にばらつきがあれば、警察が独特の正義感から有罪にしたいと思えば、警察の思い描くストーリーの通りに鑑定してくれる鑑定人を見つけ出すことができてしまうというわけだ。

しかしながら、これでは、法医学が本来目指すべき、公平・公正さが実現されているとはいいがたい。科学的・客観的に正しい鑑定が証拠として採用されないことも起きるので、冤罪は起きやすくなるし、警察内で発生した犯罪は隠蔽しやすくもなる。国民にとっては大きな問題だ。

本来は中立・公正であるべき法医学的な観点からは、現在の状況は大いに問題があるため、以前から法医学会としては政府に対して、複数の鑑定人が所属し、相互に批判しあえるような機関として諸外国のような法医学研究所の設置を要望してきた。しかしながら、この要望はいまでも無視され、法医学を取り巻く状況はむしろ悪化しているといえる。

特に最近は、警察や検察が鑑定する法医学者を恣意的に選ぶ傾向は強まっているようにみえるし、法医学的に必要な検査(組織検査やDNA検査)を警察が予算等の都合でやるなと言ってきたりもする。医師が医師として判断することさえできない状態だ。

このままでは、えん罪発生の予防には基本的に関心の薄い捜査側のやりたい放題となってしまうので、大変危険な状態といえるのだが、国民がその実態を知らないのは問題といえるだろう。その点、メディアが、鑑定のばらつきの原因について、深く掘り下げて報じないのも問題のように思う。

国民の安全安心のためには、公平公正であるべき法医学がしっかり機能し、ある時は行き過ぎた正義感から発生する行き過ぎた捜査を諫めることができるような制度作りを進めなければならない。


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