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法医学者の悩み事
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戦没者遺骨収集で日米に齟齬 共同現地調査の米提案に厚労省は消極的
2018年7月29日産経新聞
 
 終戦から今年で73年となる中、戦没者の遺骨収集をめぐり日米間で協力態勢に齟齬(そご)が生じている。米側は現地での収集、調査を共同で行う覚書の締結を度々要請するのに対し、日本側はかわし続けているのだ。厚生労働省は遺族の感情に配慮していると強調するが、日本遺族会は逆に「やってほしい」として、同省の姿勢に疑問の目を向ける。(坂井広志)
  7月10日、千鳥ケ淵戦没者墓苑(東京都千代田区)に1人の米国防総省幹部が献花に訪れ、戦没者に哀悼の意を示した。捕虜・行方不明者調査局(DPAA)のマッキーグ局長だ。その後、挨拶で遺骨収集について「私たちは協力と協働の力を強化し、研究、分析、調査をしなければならない」と訴えた。
  マッキーグ氏は、9日には厚労省で橋本泰宏審議官と向き合いこう迫った。
  「日米共同で現場に行って遺骨の収集、鑑定をするよう覚書を締結したい」
  橋本氏は「これから考えたい」と答えた。
  先の大戦で沖縄や、東京都小笠原村硫黄島、さらに外地で命を落とした日本の戦没者の遺骨は約240万人に上る。収容されたのは6月末現在で約128万人。いまだ約112万人の遺骨が残されている。
  日米で死闘を繰り広げた南太平洋諸島をはじめとする南方地域には米兵の遺骨も残されている。
  日本側はこれまでの遺骨収集で、米兵とみられるものは現場に残し、米側に連絡してきた。細かすぎて身元が判別できない遺骨については現地で焼却した上で日本に持ち帰り、千鳥ケ淵に埋葬している。
  問題は、焼却した遺骨はDNA鑑定ができなくなることだ。身元不明人の識別を行う法医人類学者は米側が充実しているとされる。実際、遺骨収集事業の関係者は「米側は細かい骨も含めて自国へ持ち帰り詳細に鑑定するので、兵士個々のデータ管理も充実している。米側のゴールは遺族に遺骨を戻すことにあり、日本とは考え方に温度差がある」と語る。
  日本側もDNA鑑定を平成15年度から行っている。ただ、遺留品などの手掛かりがあったり、身元をあらかじめ推定できたりするケースに限定している。米側が共同調査にこだわるのは、こうした背景がある。
  産経新聞が入手した厚労省作成の内部文書によると、米側は近年、日本側が収容した遺骨に米兵が混ざっている可能性があるとして、現場での焼却に懸念を表明したこともある。
  日本側が鑑定に条件を設けていることに、それなりの理由はある。シベリア抑留中の死者は多くが鑑定条件を満たしているが、南方は戦闘地であったことや高温多湿で遺骨の保存状況が悪い。DNA鑑定の対象を拡大しても血縁関係を決定することは困難だという。
  鑑定技術が日本より勝る米側の協力は不可欠とみられる。それでも、厚労省の担当者は「旧敵国」との共同調査は遺族側の感情を害しかねないと慎重だ。
  これに対し、父親がミャンマーで戦死した日本遺族会副会長で山口県遺族連盟会長の市来(いちき)健之助さん(81)は「日米共同で調査することに感情的なものはない。米側が共同でやりたいというなら、それに乗っかったらよい」と述べる。政府は28〜36年度を遺骨収集の集中実施期間と定めていることについても、市来さんは「遅きに失した感がある」と語る。
  マッキーグ氏は取材に対し「厚労省は『政府間の決め事なので外務省にも相談する』と話すが、外務省が関係しなければならない国際的な法的基準を作るわけではない。今後、覚書の下書きを提出させてもらう」と語った。
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戦没者のみならず、身元不明な遺骨についてはDNA鑑定がされるべきだが、警察庁が予算の出し渋りから身元不明死体のDNA鑑定を大学に依頼しなくなったことから、大学におけるDNA検査は今まさに消滅しようとしている。厚労省は縦割り行政の下警察庁にDNA鑑定を頼めないので、大学等に検査を依頼してきたが、その大学が危機的なので、遺骨のDNA鑑定は宙ぶらりんになってしまうのだ。
そもそも本来なら身元不明死体のDNA検査自体を警察任せにするのは国際的にみても異常なことだ。こうした問題を放置したこの国の政治家にも責任があると言わざるをえない。

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府警、弟の司法解剖せず…妻が何度も要望し解剖
 2018年06月21日 読売新聞

堺市で3月、練炭自殺にみせかけて弟を殺害したとして姉が逮捕された事件で、大阪府警は、自殺とみて弟の建築会社社長足立聖光さん(40)(堺市南区)の司法解剖を実施しなかった。しかし、妻から何度も求められ、遺体を調べ直したところ事件性が強まったという。犯罪による死亡が見落とされかねない現状が浮かぶ。
 
府警などによると、聖光さんは実家のトイレで倒れていたのが見つかった。トイレには、燃えた練炭が入った鍋が置かれ、ドアの隙間は接着剤で埋められていた。聖光さんのものとみられる遺書もあり、西堺署は自殺とみて、大学の法医学教室などで詳しく調べる司法解剖を見送った。
 ただ、妻の要望で、事件性が高くない遺体の死因を医師らが調べる死因・身元調査法に基づく解剖を実施。大阪府の場合は血液検査は義務付けられておらず、尿検査で異常なしとされた。

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10人の男性を遺産目当てで青酸カリで殺害した疑いのある事件も関西だったが、また関西で犯罪見逃しだ。
今回は解剖されているものの、司法解剖ではないので薬物検査はされなかったという。オーストラリアなど他の国では解剖と付随して薬物検査は当然行われているが、日本の調査法解剖では、警察庁が予算を出したくないせいか、薬物検査も、組織検査もやらなくていいなどと各都道府県警察に指示を出したため、薬物検査が行われない場合がある。
数年前警察庁に死因究明に関する検討会があったさ際、警察庁が神奈川の監察医解剖を見学した際に、吉野家の牛丼のように、安くて速い解剖に感銘を受け、しかも神奈川では犯罪見逃しが起きにくいとか誰が言ったのかわからない根拠のない説明を信じてしまったせいで、新しく作った調査法解剖では、法医学者が神奈川の監察医解剖はだめだと助言するにも関わらずそれを無視して、警察庁のお役人だけの素人考えから解剖だけやって、薬物検査も組織検査もいらないなどとしてしまい、一体当たり12万円などとありえない低価格で大学に解剖を依頼する話になってしまった。結果的に薬物検査が医師の判断でできないという異常な法医解剖の運営がされてしまっている。
調査法解剖の運営はしっかり見直して、ちゃんとした価格に設定し、必要な検査すべてできるようにしなければだめだろう。
この事件は、解剖で大学側の善意により、臓器や血液などの保管がされたに過ぎない。善意にすがっただけの結果であった以上、単に運が良かったというだけだ。血液や尿、臓器などを保管し、しかも検査することを制度化しなければ、いずれ重大なミスを犯すと予想される。

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懲りないなあ

「死亡」の男性生きていた 警視庁誤認、遺体を別家族に
平成30年6月12日朝日新聞デジタル

 警視庁は12日、東京都内で見つかった男性の遺体を、無関係の家族に引き渡していたと発表した。死亡したとされた男性が今年、親族の家に現れたことで誤りが発覚した。
  刑事総務課によると、昨年6月下旬、東京都葛飾区の江戸川で意識不明の男性が見つかり、死亡が確認された。亀有署は、この3日前に行方不明者届が出ていた千葉県松戸市の40代の男性と年代や身長などの特徴が似ていたため、男性の親族3人に遺体の顔の確認を依頼。3人が「間違いない」と話したため、遺体を引き渡した。遺体は火葬されたという。
  しかし、今年5月、この男性が親族の家を訪れたため、親族が今月6日、同署に連絡。署が改めて残っていた指紋などで確認し、遺体の身元は東京都内の30代男性と判明した。親族らが顔を見て身元確認ができたと判断した場合は、指紋やDNA型の照合はしていないという。同庁は死亡した男性の遺族らに経緯を説明し、遺骨を引き渡す手続きを始めたという。警視庁の上原智明・刑事総務課長は「身元を誤認したまま遺体が引き渡されたことは誠に遺憾。本件を教訓に再発防止の徹底をはかる」とコメントした。

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顔貌を遺族に見てもらって個人を特定すると、間違いが発生することが昔から知られている。だからこそ、他の国では、顔貌を当てにせず、指紋、歯科所見、DNA検査といった客観的証拠に基づいて身元を特定している。
監察医務院のある東京23区でもこんなレベル。というか医務院も身元の特定は警察頼みなので、どうにもならない。他の国ではメディカルイグザミナーオフィスや、法医学研究所などが身元特定しているところも多いのではないだろうか。警察任せにするから、身元特定において遺族にDNA検査資料の提出を求められるなどプライバシーも侵害されるし、死体がいい加減な扱いを受けている可能性もある。厚労省は戦没者の遺骨ばかり扱うが、普段から出てくる死体についても身元特定をすればいいのにと思う。

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司法解剖の価格と鑑定書提出率の表を比較してみた。
青線が司法解剖の価格が35万以上の県、赤線が10万円未満の県である。
価格が低い件での鑑定書提出率が低い傾向にあることが見て取れる。

価格が10万円未満の県を総計すると、解剖数が996件で、鑑定書作成が221件、提出率は22.2%。

価格が10万から20万円の県を総計すると、解剖数が4760件で、鑑定書作成が2999件、提出率は60.8%

20万以上の県を総計すると、解剖数は10825件で、鑑定書作成は10310件、提出率は95.2%

これを見ると、少なくとも鑑定書を提出できるようにするには、最低でも20万円以上の費用が必要であろうことがみてとれる。さらに、適正に組織検査をするとか、薬物検査をするということを加味するのであれば、より費用が必要であるということは言うまでもない。

解剖費用は役人は安くあげたがるが、安ければいいという話ではないということだ。現在、解剖価格を一律にする話も出ているが、低いところと高いところの平均の価格にするという話はナンセンスである。そんなことをすれば、鑑定書をしっかり提出していた県まで提出できなくなるであろうし、やるべき検査も実施できなくなってしまうだろう。解剖に付随してどのような検査を実施し、鑑定書をしっかり提出するという基準を定め、各県それに近づけるには、どのような費用が必要なのかという議論をしていくことが本来求められる姿のはずだ。
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諸悪の根源

年3800遺体を解剖 法医学会も問題視する横浜の「研究所」
週刊ポスト2018年5月18日号

 自分が死んだら遺体は荼毘に付され、骨になって埋葬される──多くの人はそう思っているだろう。だが、「死に場所」によっては、火葬前に見知らぬ医師によって亡骸にメスを入れられ、遺族には「解剖費」が請求されることがある。

 昨秋、神奈川県横浜市にある一軒家で、70代の男性が早朝に死亡しているのを家族が発見した。すぐに119番通報すると、遺体は「警察の取り扱いになる可能性がある」と説明され、警察署に引き取られた。そして警察署で「病院に搬送して解剖することになる」と告げられたという。故人が自宅に帰ってきたのは翌日の夕方だった。その時のことを遺族が振り返る。

「『心筋梗塞』と書かれた死体検案書とともに戻ってきた亡骸は、胸から腹にかけて大きな縫い目があり、痛々しいものでした。さらに葬儀社から“解剖代を立て替えている”と言われて領収書を提示されたのです。金額は8万8000円でした。相場なんてわかりませんが、解剖理由も金額の説明もなかったので、釈然としなかった」

 葬儀社は、「日本のどこでも同じように必要な費用ですから」と説明したという。実は、この葬儀社の説明は正しくない。全国を見渡しても、こうしたケースで解剖費を遺族から徴収するケースはない。

◆1日平均10体超を解剖

 解剖というと多くの人は殺人事件などで死因を特定するための「司法解剖」を思い浮かべるだろうが、日本には他にも“解剖理由”がある。この遺体に行なわれた解剖は、「承諾解剖」と呼ばれるものだ。
 医師が看取らずに病院以外の場所で死亡するなど、死因が明確でない場合、その遺体は「異状死」とされ、警察が検死する。それでも死因が特定されない場合や公衆衛生の必要に応じて、遺族の承諾を得て解剖に回されることがある。これが「承諾解剖」だ。
「死体解剖保存法によって規定された制度で、同法7条には『死体の解剖をしようとする者は、その遺族の承諾を受けなければならない』とありますが、遺体を取り扱うのが警察のため、医師ではなく、警察が遺族に解剖の承諾を得ているケースが多い」(神奈川県内の葬儀社関係者)
 昨年は全国で16万5837体(交通事故を除く)の異状死が報告されている。そのうち承諾解剖は9582体だった。東京23区や名古屋、大阪、神戸では、戦後に作られた死因調査を専門とする監察医制度がある。監察医制度の下では、異状死を対象に、公費で承諾解剖が行なわれている。一方、監察医制度のない道府県では、承諾解剖はほぼ行なわれていない(2017年は32道県で「0」)。
 そんななか、監察医制度がないにもかかわらず神奈川県の承諾解剖数は4014件と全国の4割以上を占め、その全てが遺族負担だという。しかも驚くことに、そのうち3800体を超える解剖を1人の解剖医が行なっていた。365日稼働したとしても、この解剖医は1日平均10体以上の解剖を行なっている計算になる。
 その場所が冒頭の遺体が運ばれた施設であるが、建物には「○○研究所」という、病院らしからぬ名前が記されていた。法医学者で日本医科大学教授の大野曜吉氏が語る。
「承諾解剖では、まず遺体の外表を調べた後、メスで首の下から下腹部まで開き、臓器を取り出して重さを測ったり、組織を採取・検査したりして、死因を探っていく。その後に死体検案書を書いたり、解剖記録などを残すことになります。1人ができるのは1日1遺体か、多くても2遺体。年間300体が限界でしょう」

◆葬儀社スタッフも手伝う

 横浜市内にある「研究所」に運ばれてくる“患者”は遺体だけだ。朝7時頃から建物の前には葬儀社の車が並び、「研究所」に遺体が運ばれる。「鑑識」と書かれたジャンパーを着ている警察官も頻繁に出入りしている。「研究所」に遺体を搬送し、解剖の現場にも立ち会ったことがある川崎市内の葬儀社関係者は、こう証言する。
「臓器や脳を次々と取り出して容器に入れ、重さを測り終えると、再び体の中に流し込んで縫う。この一連の作業を医師と助手が猛スピードで行なうのです。1体につき20分ほどだったと思います」

葬儀社のスタッフが解剖を手伝うこともあるという。

「研究所内には解剖台が5つあり、ご遺体が“切られた”状態で並んでいます。ある葬儀社の社員が、容器に入った内臓を洗う手伝いをして、さらに解剖後、慣れた手付きでご遺体を縫っているのを見たことがあります」(横浜市の葬儀社社員)
 法医学関係者が問題視しているのはそうした“解剖数”の多さだけではない。承諾解剖の費用が遺族に請求されている点だ。日本法医学会理事長を務める名古屋市立大学教授の青木康博氏が言う。
「全国的に承諾解剖は公費で賄われており、遺族から解剖費を徴収するのは神奈川県だけ。1人の医師が多くの解剖を請け負うという構図も歪です。この問題をどう改善すべきかは、これまで学会などでも議論されてきましたが、いまだ解決されていません」
 この問題は行政側も認識しているようだ。神奈川県はこう話す。
「“隣の東京(23区)では、(監察医制度があるために)解剖は公費負担なのに、神奈川ではなぜ遺族負担なのか”という疑問の声が届いているのは事実です。その点については、これから対策を考える必要があると考えています」(県庁医療課)
 冒頭の遺族は神奈川県警から「解剖することになる」と告げられた。多くの葬儀社関係者も「研究所に遺体を運ぶように指示しているのは県警」と口を揃える。前述したように「研究所」には鑑識のジャンパーを着た者も出入りしている。
 そこで神奈川県警に、承諾解剖の委託先や費用についての質問書を送った。しかし県警は、「承諾解剖は御遺族の希望または公衆衛生を目的に、御遺族の承諾のもと、医師の判断で実施されている。警察としては答える立場にない」(広報県民課)と、“無関係”だと主張するだけだった。

◆「8万8000円はむしろ安い」

 では、当の解剖医はどう答えるのか。横浜市内にある自宅を訪ねた。インターフォンを鳴らすと、本人が玄関から姿を現わしたが、何を聞いても「取材は受けない」という。だが、後日、改めて質問書を送ると、電話での取材に応じた。

──1人で行なうには解剖数があまりに多いとの指摘がある。

「そんなことはない。毎日朝7時から夕方まで、それなりのスタッフとともに効率よくこなせば、1日10体ぐらいならできる。私は開業以来、趣味のゴルフをやめ、365日盆暮れもなく働いている。自分を犠牲にして死因究明にあたってきた」

──葬儀社スタッフに手伝わせているのは事実か?

「遺体を解剖台に乗せるなどの簡単な協力はしてもらっているが、それ以上のことはさせていない。研究所のスタッフには葬儀社から転職した者もいるので、それを勘違いしているのではないか。そもそも日本の法律には解剖補助の制限はないので、彼らの手を借りても問題はない」

──解剖費用の8万8000円は妥当なのか。

「それだけの費用がかかるということ。私が施設に投じた費用は3億円。浄化装置も毎日フル稼働していてランニングコストもかかる。むしろ安いほうだと思う」

──遺族から解剖費用を徴収することが問題視されている。

「神奈川県だけが遺族から取っているわけではないでしょう」

──承諾解剖を行なっている各自治体に取材したところ、遺族負担は神奈川県だけだった。

「私の認識では全国の7割、8割は遺族負担のはずだが……いずれにせよ、私のしていることは批判されるものではない。8年ほど前、当時警察庁の刑事局長だった金高雅仁さん(後に警察庁長官)が私の研究所へ視察に訪れ、“もっとこんな施設が増えればいい”と賞賛してくれた。いわば、警察庁長官のお墨付きだ」
 前出の日本法医学会の青木理事長は、こう話す。
「承諾解剖は行政上の必要があって行なうもので、公衆衛生上も、死者の生命の尊重という点でも必要なものです。しかし、明確なルールがないため、遺族への説明が不足していたり、自治体によって負担の差があるなどの問題は早期に改善すべきです。神奈川県の現状は、日本の死因究明制度の未熟さを表わしていると思います」
 冒頭の遺族はこう語った。
「本当に必要な解剖だったのか疑問なのです。何のための、誰のための解剖だったのか……」
 死因究明における制度のルールづくりや、地域差の解消など、課題は多い。少なくとも遺族が十分に納得していないような状態の中で、亡骸が傷つけられることはあってはならないだろう。

文■山田敏弘(国際ジャーナリスト)

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神奈川では監察医制度が廃止されたが、今でも元開業監察医が、遺族から費用をとって承諾解剖を異常なほど多数実施している。この解剖には多くの問題がある。問題点を箇条書きにしてみる。

・ 執刀医が一人で、まったくの無鑑査状態であり、死因判定の質の高低が不明であること。
・ 解剖所見を詳細に記載したレポート(記録)が作成されていない可能性が高いこと。
・ 遺族を委託者とする契約関係にあるはずが、詳細なレポート等が遺族に渡されていない可能性が高いこと(債務不履行の可能性)。
・ 組織検査や薬物検査など必要な検査を十分実施していない可能性が高いこと。
・ 当初犯罪性が疑われていなかったものの、だいぶ後になって犯罪性が疑われ、薬物検査や組織検査等が必要となっても、検査資料が残されていない可能性が高いこと。

こんな解剖であるにも関わらず、元警察庁長官が刑事局長であったころ、死因究明に関する警察庁の研究会において、やたらと神奈川の解剖を褒めていた。研究会に参加している法医学の専門委員が、あんな解剖ではだめだとアドバイスしているにも関わらず、その主張を変えることはなかった。結果的に、新しく作られた死因身元調査法による解剖(調査法解剖)については、価格の基準は神奈川の解剖とされてしまい、警察庁は、調査法解剖においては解剖だけやって、薬物検査などは不要などと馬鹿なことを主張するに至った。そんな解剖では薬物犯罪はフリーパスだし、感染症なども見逃され、公衆衛生向上の役に立つことなどないというのに。
諸悪の根源はこんなところにあったのだと思い出す。

それにしても、神奈川の数千体の承諾解剖を、法医解剖として警察庁はカウントしているのもいかがなものだろうか。法医解剖というのは、公益目的のために公費で実施されるべきものであり、しかも得られた情報が社会に還元されるべきものである。遺族の負担で実施され、解剖結果がデータベースや報告書として公式に残されていないようなものはカウントすべきではない。水増しによるまやかしと批判されてしかるべきことだと思うが。日本は警察届け出死体の解剖率が12%と極めて低いが、解剖結果が報告書やデータベースとして公式に残されているものこそカウントされるべきであり、そうでないものは解剖したなどとカウントすべきものでもないだろう。その意味では、本当の解剖率は10%にさえ達していないのではないかと思う。

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司法解剖鑑定書3000件超未作成か 「犯罪見逃す恐れ」 27、28年
産経新聞2018年5月3日

 犯罪死が疑われる場合に行う司法解剖が平成27年と28年、全国で計1万6750件実施された一方、捜査当局の委託を受けた大学などの解剖医による当局への鑑定書提出件数は両年度で計1万3530件だったことが2日、警察庁の開示資料などで分かった。統計が暦年と年度で単純比較はできないが、3千件以上の違いがあり、年間、千件単位で鑑定書が未作成だった可能性がある。
 複数の大学は背景として法医学分野の人材不足を挙げる。作成は法律で義務付けられていないが、専門家は「鑑定書がなければ解剖医の死亡などで過去の事例が検証できず、犯罪を見逃す恐れがある。早急に改善すべきだ」と指摘する。
 重要な資料
 開示された、鑑定書提出に伴う謝金支払件数の資料などによると、岡山県は27、28年の司法解剖が計270件だったのに対し、支払いは28年度の1件。愛媛、福井、香川、秋田、宮崎各県も解剖数に対する支払いが1割を切り、352〜126件少なかった。
 鑑定書には死因や死亡推定時刻、外傷の部位が写真入りで記載される。ある検察幹部は「容疑者の供述の合理性も推定でき、起訴時や公判の重要な資料になる」と話す。
 時間がない
 大学の解剖医らによると、一般的に作成には数カ月かかる。作成しないのは事故死や孤独死など事件性がない場合が多いが、事件性があっても結果を口頭や簡易なメモで伝えることもある。岡山大は「解剖を相当数こなし、教員の職務もおろそかにできない。鑑定書作成の時間まで取れない」としている。
 警察庁によると10年以降、検視や解剖などで事件性なしとされた遺体が後に犯罪死と判明したのは54件。同庁は「早期に提出を受けるよう指導している」という。
 内閣府の死因究明等推進計画検討会元専門委員の福武公子弁護士は「大学にポストがなく、法医学分野は人材が集まりにくい。政府が死因究明の専門機関をつくるべきだ」と話している。
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人材不足のため司法解剖の鑑定書が作成されないケースがある。
一方、調査法解剖と行政解剖、承諾解剖についてはどうなのだろうか?
ほとんど報告書が書かれていないのではないかと思うが。解剖したのにレポートがないなんて、解剖した意味がないと思うし、死者や家族、国民に対しての裏切り行為にも思える。そうした点の調査も必要だ。

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鑑定がばらつく原因

先日職場の抄読会で以下の論文が紹介された。

Oliver WR, Fang X.
Forensic Pathologist Consensus in the Interpretation of Photographs of Patterned Injuries of the Skin.
J Forensic Sci. 2016 Jul;61(4):972-8.

この論文によると、判定に自信がある人ほど、コンセンサスから外れる傾向があり、また、規模が大きい施設に属する人の方が小さい施設に所属する人よりコンセンサスの得やすい判断をするという。つまり大学法医学教室の教授や法医学研究所の施設長のほうが、その部下より独善的な鑑定をするという話なのだが、なんか日本で発生している状況をよく表しているような気がする。

司法解剖における鑑定書作成においてのみならず、虐待を受けた児童の生体あるいは死体について、捜査当局から意見を求められ調書が作成される場合、日本では法医学者や臨床医に個人的な依頼がされており、施設として依頼されることはない。結果的に法医学者も、臨床医も、誰とも相談することなく、鑑定書を作成したり調書作成に応じている。このような状況で何が発生するかを、この論文はよく表しているように思う。

都内も人口規模は大きいが、小規模な大学法医学教室がバラバラに活動している。そんな状況でどんなことが起きうるだろうか。

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先日韓国の法医学の先生から様々な話を伺う機会があった。

韓国では、完全に警察と独立した機関であるNFSという機関が、法医解剖を実施し、薬物検査、DNA検査なども行っている。韓国では、NFS以外にも大学法医学教室と、開業法医学者が解剖しているというのだが、それだけ聞くと、「なんだ、日本と同じではないか」と思うのだが、細かく聞くとだいぶ違っているらしい。

解剖や諸検査の結果についてのデータベースはNFSと大学法医学教室、開業法医学者と共有されているという。一人で年間数千体解剖する神奈川の開業監察医のように、解剖結果があるのかないのかわからないという話とは偉い違いだ。

韓国での鑑定書作成は、ITを使って行われ、ペーパレス化が進んでいて、鑑定書未提出ということはありえないとのこと。日本では大学法医学教室であっても、司法解剖の鑑定書を未提出のまま済ます事例が結構あるようなので、だいぶ遅れをとってしまっている。ましてや、死因身元調査法による解剖(調査法解剖)では、どれだけ報告書が作成されているのだろうか。

日本では都内が比較的ましだと言われている東京都内でさえ、韓国の状況と比べると相当遅れをとっているように思う。

薬物検査だけ取ってみても、都内においては、行政解剖ではいまだにネズミに胃内容を食べさせるスクリーニングをしていると聞くし、司法解剖や調査法解剖では、複数の大学が統一された基準もなくバラバラに実施しているので、必要な薬物検査、そして組織検査も、適正に実施されているかといえば、大いに疑問だ。

解剖結果も、司法解剖の鑑定書がかかれない場合があるくらいなのだから、都内の調査法解剖でどの程度報告書が提出されているのか、検証されるべきだが、そんなこともされていない。ましてや、各大学が実施した、司法解剖、調査法解剖について、それをまとめた共通のデータベースすらない。何もかも、やりっぱなしで、解剖結果を公的に活用しようという意思さえ感じられない。

本来なら、東京都が行っている死因究明等協議会で、司法解剖や調査法解剖のデータベース化や、諸検査の統一した基準などが議題になるべきだが、まったくそのような動きもない。

行政の世界では、特定の大学理事長の主張が、「首相案件」の名前の下に、優先されることが起きている。死因究明制度の問題を解決することは、そうした一部の方々のためではなく、国民全体の安心安全につながることなのだから、まさに「首相案件」として処理すべき問題だろうと思われる。結局は、日本の上層部の質が問われているということなのだろうか。

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TBSドラマ、アンナチュラルが終わってしまった。
米国では死体を埋葬するため、後で掘り返して再解剖されることもあるが、日本ではほぼすべて火葬するので、解剖していなければ一度見逃された犯罪は二度と見つけ出すことなど不可能という、日本と諸外国の対比がされていて、興味深かった。火葬大国日本だからこそ、他の国に比べ高い解剖率、検査実施率が必要なのだが、実際は世界でも最低水準なので、現実は本当に惨憺たるものである。最近も非常に暗澹たる気持ちになることが起きた。

年度末になると、次年度の司法解剖関連の検査費用について、警察庁があれこれ指示を出してくるが、薬物検査について、「可能な限り科捜研で実施すること」などという注意書きがされていることに気づいた。薬物検査は法医学において解剖と並ぶほど、重要な部門だが、警察庁は予算を他に回したいのだろうが、死体の薬物検査を科捜研で実施するようになれば、法医学の薬物検査部門(法中毒分野)をつぶすことにつながる。これは国民にとって非常に不利益だ。

以下、科捜研で死体の薬物検査を実施することとし、法医学教室で実施できなくなってしまった場合に発生する弊害を列挙しておく。諸外国の制度を知っている者からすれば、警察で死体の薬物検査を行うなど、あまりにバカげたことであり、国民のためにも絶対に認めるべきではない。

検査の客観性が担保できない
司法解剖を法医学教室に依頼することは、そもそも、死因を専門家に客観的に判定してもらうことが最大の目的である。死因判定に肝ともいえる薬物検査を警察にゆだねることは、死因判定の客観性の担保を無視するということに他ならない。警察は、独特の正義感がある一方で、面倒なことはしたがらない傾向がある。メディアで騒がれた事件などでは時々、見込み捜査、思い込み捜査をするが、首を絞められて殺されたと思い込んで捜査を進めた場合、後になって血液から致死濃度相当の薬物が検出されても無視しようとすることがある。また、通常の初動捜査で犯罪性がないと思ってしまえば、必要な(簡易でない)精密な薬物スクリーニング検査を実施しないとか、薬物スクリーニング検査で怪しい薬物が検出されても無視してしまい必要な定量検査を実施しないなどといったことが起きる。こういったことは、最近でも実際に経験されていることであり、重大な問題である。

薬物の致死濃度について誰も研究できなくなる
ある薬物の致死濃度を決めるためには、その薬物を飲んでいるのに、それで死んだわけではない事例と、その薬物を飲んで死んだことが確実な事例を分類し、それぞれについて薬物の濃度を正確に計測し、事例を集め、研究する必要がある。警察に薬物検査を任せてしまうと、薬物で殺された疑いのある事例だけについて薬物濃度を測定することになるが、新薬などが使われた場合、何が致死濃度なのか研究できないこととなり、致死濃度でない低い濃度が検出された場合でもそれが判定できず、単に薬物が出たというだけで犯罪とされ、冤罪を生み出すことになる。死体の薬物検査に基づく死因判定そのものは純然たる医行為なのであって、そんな検査を警察が実施することは医師法違反でもあると思われる。

科捜研は血液・尿などの資料を保管せず、全量消費の悪癖が抜けていない
死体解剖保存法によれば、死体から得た血液や尿などの資料は、大学などで保管することができるとされる。大学で薬物検査を実施する限り、この法律にのっとり、血液や尿を保管して、未知の薬物検出の可能性に備えることもできる。一方、警察で血液や尿などの資料を保管する義務について規定する法律はなく、血液や尿などの貴重な資料については、科捜研で検査後に全量を消費したことにして廃棄しているのが現実だ。後で、警察の検査に問題がありそうだと思われたときに、資料が保管されていないので、再検証が不可能になることが過去に多々発生している。大学で薬物検査を実施できなくなると、大学で血液や尿などを保管する必要もなくなり、再検査は全く不可能となる。

警察以外の機関から依頼があった場合を想定していない
司法解剖を依頼してくるのは警察だけではなく、海上保安庁や地方検察庁、自衛隊なども依頼してくることがある。これら警察以外の機関は、科捜研を持っていないし、警察の科捜研も自由に使うこともできない。法医学教室で薬物検査を実施できなくなってしまうと、こうした機関で解剖されたものについては、薬物検査が実施されないことになる。薬物で殺害後、海に浮かべておけば、犯罪は自動的に見逃される結果を生みかねない。





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韓国の法医学

先日韓国を訪問し、あちらの法医学関係の施設を見学する機会を得た。

以下韓国の法医学について箇条書きで記しておく。

・ 大学のほか、国立科学捜査研究院(National Forensic Service, NFS)が法医解剖を行う。
・ NFSには、解剖部門、薬物検査部門、DNA検査部門、交通鑑識部門などがある。日本の科学捜査研究所とは異なり、警察から独立した機関である。アンナチュラルのUDIラボを国立にしたようなイメージではある。
・ NFSは支部をあわせて6か所に置かれている(人口1000万に1施設?)。
・ 警察届け出死体の20%程度が法医解剖になる。
・ NFSでは鑑定書は通常2か月で提出するルールがあり、ITを活用し、オンラインで警察などに提出される。
・ 日本と同様、解剖実施を決めるのは警察官。そのため、日本と同様犯罪見逃しが問題になっている。最近、韓国内で犯罪見逃し事案が発覚し騒がれたことから、解剖数が急増している。解剖医の定員を増やす予定である。
・ NFSと大学法医学教室とは昔は仲が悪かった。最近は連携が深まっていて協力関係にある。

日本と異なり、大学ではないので、研究面で悩みを抱えているようにも感じられたが、実務的な面では、日本より数歩先に行ってしまっているようだ。解剖率はすでに日本の平均の12%より高いようだし、しかも鑑定書がほぼ全例で提出されるのだから、日本とは雲泥の差だ。日本では、年間8000件程度の司法解剖でさえ鑑定書が提出されない例があるうえ、行政解剖や調査法解剖の12000件に至っては殆ど書類がないような状態だ。つまり、韓国の場合、死体が解剖され、鑑定書や報告書が作成されるのは、警察届け出死体の20%程度だが、日本はわずか5%程度ということである。しかも韓国ではITを活用し、データベースも構築され、データベースソフトの輸出まで考えているそうだ。
解剖の種類が他の諸外国と同様、司法解剖一種類しかないので、日本と違って、責任の所在がはっきりするなどメリットがあるように感じられた。一方、日本と同様警察の権限でしか解剖できず、公衆衛生面が無視されがちであることを、韓国の法医学者は嘆いていたが、日本の死因身元調査法と同じような解剖を作ればそれも解消されそうな気がした。今後NFSが、大学の研究部門との連携を深め、新しい法律を作れば、日本はいずれ太刀打ちできなくなってしまう可能性がある。

日本は韓国より遅れを取り始めてしまっていると感じられ、愛国者としてはいささかさみしさを覚えた。

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