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法医学者の悩み事
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朝日新聞の特集記事

5月12日の朝日新聞朝刊に、医療関連死に関する特集記事が出ていた。
その中で、5月11日に開かれた厚生労働省の第二回検討会の下りがあった。医療側には、刑事免責を求める声が強いのだが、現実には無理だろう。日本は「建前」上は法治国家である以上、建前上、医療現場のみを治外法権の場にはできないのだ。他の国でも、医療過誤を刑事免責することを明文化している国はないと思う。法律は変えられないが、諸外国のように運営を適正化することが必要との発想に変えるべきだと思う。多くの法医学者は、その点を認識していて、「医療事故の刑事免責は無理」と発言してきたのだが、そういうと「お前は医者でなく、法律家のスパイだ」などと揶揄されることもあった。最初のころは医療側は、刑法なども知らない厚生労働省に逃げ込むことで、医師法21条改正により刑事免責できるのではないかという要らぬ期待を持ってしまったようにも見えたが、ここに来て揺り返しが来ているようにも見える。法律を変えるには、医師だけではなく国民の総意が必要なので、厚生労働省だけではなく、刑法学者、法曹家などを説得していかなければならない。彼らに、刑事免責の話をしても烈火のごとく怒りを買うだけでもある。
さて、日本は「建前」上法治国家と書いたが、ちゃんとした法治国家は、法の適正な執行のためにも、遺体における証拠保全の重要性は認識しているもので、そのために、法医学研究所といった立派な建物を持っているものだ。日本には、そういうものが皆無であるので、我々法医学者からすれば、どうみても法治国家に見えないのだ。刑法学者や法曹家にしても、机上の法理論にはこだわる割りに、その現実を殆ど認識しておらず、彼らの議論も砂上の楼閣であることはいうまでもない。そうした部分を、医療側も、法律側も、遺族側も認識を共有した上で、議論すべきだと思う。証拠保全がいい加減であれば、医療過誤の過失の判断も、事故・災害の認定も正確を期することは不可能なのだから。
その点、朝日の記事が若干触れていたのは、貴重な感じがした。
日本の死因究明の現場では、医学ではなく、法学が偏重しすぎている。医学的な死因診断以前に、事件性の判断などの法理論が先行してしまっている。これも、法医学軽視というか、死体軽視の風土が生み出したものだと思う。多くの法治国家では、正確な法律的な判断のためにも、まずは、医学的な死因診断を重視している。日本でもそうすることにより、医療事故における、医師側の抱いている司法に対する不信感もある程度納まると思うのだが。実際福島県立大野病院事件の件でも、死後に解剖などの客観的証拠保全が実施されていれば、あそこまでもめたのか、疑問視する声は法医学者の中では多い。医学的な証拠保全がなかったため、司法が暴走した結果、逮捕・起訴されたと見ることも可能なのだ。

ところで朝日の記事に戻るが、掲載されたグラフの中で、年々異状死届出数が増えていることが示されているものがあった。送検数も示されているのだが、最近送検数が減っているのは、まだ捜査中だからであって、あと5年(業務上過失致死の時効)も立てば、件数は例年並になるのだろう。しかし、ここで注意すべきは、送検されたものが起訴されるかどうかは別問題であるということだ。医療事故は、送検されても起訴されないことが多い。むしろ、気になったのは、5年以上前のデータで、届け出られた数より、送検された数が少ないことだ。これは、所轄警察署で書類が眠っていることを示唆する。こうなった場合、遺族は情報開示を受けることができないので問題が発生する。このデータはむしろ、警察の捜査の未熟さを示すものとしてとらえるべきものだと思った。

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    福島の事件で解剖されていたら何がどう変わったのでしょうか? 医学の範疇内で,死亡原因を検索することに関して解剖は意味のあることだったと思います。 しかし,裁判ということに関して言えば医療はプロスペクティブに判断されるべきであり,その意味では解剖という「結果を判断するに過ぎないプロセス」に重きをおくことは正しいでしょうか?病理判断はあくまで事後にしか行えないものです。今回の裁判でも検察は子宮の病理診断を根拠に挙げようとしているようですが,手術の時点でわかりようのないものは根拠にできるものではないでしょう。それは「後だしジャンケン」に過ぎません。 また,病理解剖でも司法解剖でもわかることは限られています。有用な場合も時にはあるでしょうが,治療の末に亡くなった患者さんの場合には病状の進行と治療の影響が混在していますから,突然死亡した場合でもなければ得られた所見の解釈はかなり困難であると思います。違いますでしょうか? 削除

    [ Level3 ]

    2007/5/13(日) 午後 11:57

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    司法解剖を実際にやったことのある者にしかわからない世界かもしれませんね。解剖後には、病理学的な判断も総合したうえで、死因の診断がされます。その上で、執刀医にはある程度過失の有無に関して相談があります。多くの場合、ここで医療過誤事件にならないものが振り分けられているのが現実です。思うに、福島の件も司法解剖に回っていれば、執刀医が「これは刑事でやっても公判維持は厳しいんじゃない?」程度のアドバイスができたと思います。そうなると多くは起訴されないのですが。

    [ ももちゃん ]

    2007/5/14(月) 午前 0:28

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    また福島の件は、我々執刀医の立場から見れば、組織診断以前の問題でもあります。解剖していないがために、残った胎盤?組織という枝葉の部分で議論がされているようにも見えます。そもそも、多くの事例で、手術中の大出血を刑事的な過失に問うこと自体、難しいわけで、そうしたことは法医学の専門家はよくわかっているものです。捜査関係者には、そのようにアドバイスしてきた法医学者が多いと思います。

    [ ももちゃん ]

    2007/5/14(月) 午前 0:35

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    ところで、福島の事例はいくつかの要素が悪い方向に作用して逮捕・起訴となったと思われます。 1. 病院が外科学会の声明に従って異状死届出をしなかったこと(その結果、刑事での過失の判断を民事手続きの後まで先送りしてしまった) 2. 病院が公立病院であったこと。税金で補償する話になるので、私立に比べ、手続きが遅れ遺族の感情をこじらせる傾向がある。

    [ ももちゃん ]

    2007/5/14(月) 午前 0:53

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    こうした要因が重なったため、遺族か弁護士が警察・検察に告発したのだろうと思います。解剖による証拠保全がないと、証拠隠滅だとも騒がれます。その結果話がこじれていきます。カルテ記載の内容も信用していいのか疑わしいとされ始めると、組織所見といった、本筋とは違う枝葉の部分にまで引き込まれていきます。

    [ ももちゃん ]

    2007/5/14(月) 午前 0:55

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    「解剖の結果何もわからないこともあるから、解剖は要らないのではないか」、と主張する臨床の先生もいますが、解剖の結果何も所見がないのは実は大事なことで、多くの場合、カルテ記載の内容が間違っていないことを支持することになります。

    [ ももちゃん ]

    2007/5/14(月) 午前 0:56

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    解剖もしていない、カルテも、供述も信用していいかわからない、組織診断もよくわからないような状態で、とどめになるのは、臨床医の「専門家」です。臨床医の鑑定人で、民事・刑事の違いもわからず「自分ならこんなミスはしない」とでも検事に話せは、心証は決まってしまうと思います。

    [ ももちゃん ]

    2007/5/14(月) 午前 0:59

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    刑事の過失認定は、民事とは違います。民事の過失判断は、刑事に比べかなり医師に対して厳しいものです。大野病院の件は、民事の過失判断が先行したため、刑事がそれに引っ張られ、医師に厳しくなったように見えます。事故調設置後も、民事・刑事の違いをわかった臨床の先生が意見を述べないと、この手の事件は、益々増える可能性があります。

    [ ももちゃん ]

    2007/5/14(月) 午前 1:03

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    確かにmomohan_1先生のおっしゃるように福島のケースでは解剖していたら逮捕はなかった可能性はあるでしょうね。 公開されている経過から考えますと,失血死は考え難いですから。輸血によって血圧が回復した後に,突然Vfになっているようですから大量輸血に伴う電解質異常か塞栓症が疑われます。塞栓症でも解剖で何も見つからないこともありますが,もし栓子が認められれば診断できたでしょうから... 削除

    [ Level3 ]

    2007/5/14(月) 午後 11:22

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    原死因という言葉がありますが、福島の件、いずれにせよ出血多量が原死因でしょう。結果は重大ではありましたが、その場その場で、常識的な措置を施していれば、刑事的責任は問われません。一方、民事の場合は、債務不履行などの観点から判断されますので、責任を問われることがあります。

    [ ももちゃん ]

    2007/5/15(火) 午前 7:13

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    福島の件では、業務上過失致死の面では過失はないと思うのですが、手続きの問題が大きく響いたように感じてます。担当医も、病院の指示通り異状死届出をしなかっただけで、悪意はないのですが、そうした病院内のルールが遺族には理解できなかったのかもしれません。こうしたちょっとしたことで、炎上してしまい、異状死届け出義務違反+業務上過失致死で起訴されたのでしょう。双方にとってお気の毒です。

    [ ももちゃん ]

    2007/5/15(火) 午前 7:19

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    ところで、最近の我々の心配は、いわゆる「専門家」のご意見です。先日も医療関連死の解剖をしましたが、我々レベルでは刑事的な過失はないと思っている場合でも、あとになって専門医のレベルで、「認定医に価しない行為」と判断されることがあります。確かに高いレベルではそうなのですが、そうした情報だけが司法当局者の耳に入ると、間違った判断のもとになります。特に、法医学者が介在していない場合ではダイレクトに耳に入ると思います。

    [ ももちゃん ]

    2007/5/15(火) 午前 7:23

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    専門医が意見する場合でも、できれば、刑事、民事、それぞれで使用されることを意識したコメントの仕方がされるべきだと思います。医療版事故調ができたら、その点をちゃんと考慮した運営をして欲しいものです。

    [ ももちゃん ]

    2007/5/15(火) 午前 7:27

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