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法医学者の悩み事
地味な仕事してますが、よろしくおねがいします

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産婦人科医逮捕の件、3月8日付の朝日新聞にも報道されていた。
朝日の記事にも出ているが、話をややこしくし、逮捕者まで出してしまった原因は、外科学会と法医学会の間での、異状死の定義の違いだ。今回のケースでは、結果論から言えば、医療サイドが、外科学会の主張する異状死定義を選択してしまった結果逮捕されてしまったといえる。
異状死の定義を幅広く定義した、法医学会の異状死ガイドラインは国際標準と言えるものである反面、日本の法医解剖においては、国際標準と比べ極めて貧弱な設備・人員しかなく、ガイドラインに沿って届け出られた多くの異状死を検査することができない。それゆえ、日本法医学会の異状死定義は、日本という特殊環境においては現実離れしていると言え、その点問題があるのだ。一方、外科学会の、国際標準とはかけ離れた、狭い異状死定義は、日本特有な貧弱な法医解剖の実施状況には適したガイドラインと言える反面、致命的な問題を抱えている。医師がどんなに「医療過誤または医療過誤が疑われるケース」のみを異状死と定義づけ、それだけを届け出るべきだと主張しても、法的には、「医療過誤(=業務上過失致死)か否か」を判断すべき主体者は裁判所であるし、その発端となるのは、法律上は、検事・警察の捜査しかありえない。つまり、外科学会の異状死定義では、医師が「医療過誤の疑いがあるかないか」を決めてしまえること自体に、法律上は受け入れ難い問題があるのだ。こればかりは、臨床医側がどんなに「法医学会のガイドラインがおかしい」とか「医療過誤は本来民事で判断されるべきだ」と抗議しても変えられない。
臨床医の意識は昔のままであり続けたいという願望があり、また、法医解剖の設備・人員は昔のまま貧弱であり続ける一方で、国民の人権意識だけは西欧の標準レベルに近づいていっている。この国民意識の変化に、外科学会の異状死定義と、日本の法医解剖の設備・人員はとても対応できないのだ。

法医学という学問のあり方そのものから純粋に考えたとき、臨床医が気軽に幅広い死亡事例を届け出て、それが客観的に精査され、その結果が事故防止に利用され、国民の安全に役立つべきであるし、そうした状況を生み出すことが、法医学の究極的な目標である。決して警察の協力だけが法医学の存在目的ではない。そのためにも、異状死なり変死なりを国際標準なレベル程度に検査できるだけの設備や人が必要なことは言うまでもない。

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    実情と違う法解釈をしている法医学会に問題はありませんか。少なくとも法解釈はどうでも実情からすれば逮捕は行き過ぎであるという声明でもだしてくれなければ、臨床医は法医学者を同じ医者とは思えないでしょう。

    [ takknd ]

    2006/3/12(日) 午後 11:41

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    書き込みありがとうございます。 確かに、法医学会の出したガイドラインも現状に即してはいないので問題があると思っています。ただあくまでも、国民の人権を維持する目的で作られたものであって、臨床医を苛めるために作ったガイドラインではない点は、誤解しないでいただきたいです。臨床系の先生は、法医学がお嫌いな方が多いのかもしれませんが、法医学者はこれまで、臨床医の先生の知らない所で、ヒポクラテスの誓いを思い出しては、かなり医者をかばってきた側でした。

    [ ももちゃん ]

    2006/3/13(月) 午後 5:01

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    (続き) 多くの医療事故の司法解剖例で、やむを得ずに起きた事故は、やむを得ないと話してきました。司法解剖例での起訴率は1割程度でしたし、起訴されても殆どが略式起訴であったのは、我々の見えない部分での「真の公正」の名の下での努力だったわけです。臨床医の先生方は、司法解剖に対して極度な嫌悪感を抱いているようですが、起訴率などを知れば実は恐れるに足らないものでもあったのではないでしょうか。それゆえ、広尾病院事件を境に、外科学会が、司法解剖と法医学者を一方的に敵視しだした点は、我々は非常に心外でした。

    [ ももちゃん ]

    2006/3/13(月) 午後 5:02

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    (さらに続き) 広尾病院事件では、法医学会のガイドラインにせいにされていましたが、法曹家に都合よく利用されただけではなかったでしょうか。 それはさておき、今の臨床医の状況は、私の目からも公正な扱いを受けているとはいえないので、何らかの改善は必要だと思います。法医学が悪い部分があればそれも改善すべきでしょう。私のところでも、外科系の先生方と共同して、今回のケースが再発しないように動き始めようとしております。それが本当の法医学の仕事だと思います。

    [ ももちゃん ]

    2006/3/13(月) 午後 5:02

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    (最後) ただ、今回の件で、逮捕が行き過ぎだという声明を出すべきかどうかというと、それはやめたほうがいいと思います。それは、法曹家を知っているからこそのアドバイスです。下手な声明は彼らを刺激する結果に終わります。現に、そのような裏情報も多々入っております。むしろ、今後は、法律とどう付き合うか?を臨床医も法医学者も考えていくことが得策だと思います。法治国家では、そうした「法医学的」な対応が重要なのです。

    [ ももちゃん ]

    2006/3/13(月) 午後 5:03

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    失礼な書き込みにもかかわらず真摯なお返事をありがとうございます。しかし、やはり今回の件は明らかに異常です。検察への刺激に関してもすでに十分に感情的刺激はしていると思います。今更、その懸念をしてはしかたのないと思います。また法曹界に利用されたと言われるのならそうならないような細心の注意をしていただくことを要望いたします。

    [ takknd ]

    2006/3/14(火) 午前 9:41

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    私達法医学者もできる限り、おかしな状況が改善するように頑張ろうと思っております。臨床の先生方も、法医学をうまく利用することを考えていただければ幸いです。

    [ ももちゃん ]

    2006/3/14(火) 午後 8:25

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    今回の記事では、法医学会の異状死の定義が国際標準で、異状死であれば警察や検察が介入する以外にないというわけですね。つまり、病院での死亡の結構な数に上る事例に司法が介入するすることが国際標準だと。 滅多に司法が医療に介入しないのが国際標準だと思っていたのでびっくりしました。

    [ ane*_*amb*o ]

    2007/2/3(土) 午後 11:19

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