【Montblanc Pencil-10 ―― URUSHI by myself (3)】
前回は、漆の基本理解に力点を置きましたので、今回は、実践編です。
“失敗談”満載です(笑)。
■ 漆とエボナイトは相性抜群
椀や箸など、一般に漆器と呼ばれているものの製作の場合、
その丈夫さを左右するのは、「木地作り」という作業です。
木材で基本となる形(箸なら箸の姿)を作り、
そこに下地となる漆を塗ったりして「木地堅め」という作業を行います。
しかし、私のような、できあがった製品への塗りの場合、下準備はいたって簡単。
エボナイトの軸の表面を、サンドペーパーなどで少し粗くして、透漆で下塗りを行うだけです。
本格的にペンに塗る前に、ちょっとした実験をしてみました。
漆は“何にでも塗れる”と言われますが、そのなかでも相性があるのでは?
ということで、
艶やかな表面のままの、エボナイト軸とレジン(プラスチック)軸、
表面を少し粗くした、エボナイト軸とレジン軸――
都合4種類の表面に漆を塗って、乾かして、強さを試してみました。
あえて引っ掻いて、傷つき方、剥がれ方を試してみたわけです。
結果的に、「表面を少し粗くしたエボナイト軸」が、最も強かったわけです。
ほとんど“一体化”している感じです。
数値化できるような実験ではありませんが、
エボナイトの主成分は、天然ゴム(それに硫黄を加えて硫化させます)。
いわゆる石油製品であるレジンよりも、漆と同じ「樹脂」が原料となっているエボナイトの方が、
相性がいいのも当たり前かなと、勝手に納得した次第です。
■ 原型を活かしつつ“私だけの1本”に ―― 螺鈿に「TRY!」
今回、漆塗りをやったのは、1930年代の回転繰り出し式のペンシル【10】です。
写真3枚目が、もとの状態です。
相当年季の入ったもので、エボナイトのボディが黄土色に変色し、枯れた感じになっています。
ロゴもモデルナンバーも、かすれてしまっていて写せないどほです。
8角軸です。そこで、そのうちの4面に螺鈿をやってみよう!
ということで、作業中の様子が2枚目の写真です。
螺鈿は、貝殻を用いた、装飾のひとつの手法です。
貝のサイズに限りがあるため、通常は、
細かく砕いた貝片を寄せ合わせながら、モザイク的に絵柄にしたり、
ある程度の大きさのもので接ぎを行いながら、1つの模様にしていきます。
本来は、この貝細工自体に相当の技術が求められるわけですが、探せばあるもの。
東急ハンズで、ペンシルの長さにぴったりの、細切りにされた貝片が売られていました。
1度、朱漆を塗って乾かした後、貝を漆で貼り付けます。
文字通り、「接着剤」としての使い方ですね。
ただ、瞬間接着剤のようには参りませんので、糸で結わえて乾かしました(写真2枚目右上)。
その後、何度も、塗って乾かして研いで……を、繰り返します。
漆の面が貝の厚みと同じになるまで、やります。
■ 1にも2にも「せっかち」は禁物 ―― 3歩進んで2歩さがりながら完成
詳しく書き続けると、きりがありませんので、実践での留意事項は、箇条書きにします。
【総論】
◎ 何事も、急がない、焦らない、せっつかない
―― ゆったり呼吸しながら作業しよう。
―― 駄目ならやり直せばいい。繰り返すことを嫌がるな!
【塗り】
◎ ともかく「薄く」塗る。厚塗りは厳禁
―― 厚く塗れば、「塗る回数を減らせるのでは?」は、大誤解。
―― 厚塗りした箇所は、漆が焼けを起こし、ヒケを起こしてシワにもなり、さらに色もくすむ。
―― 結局、塗った分はもちろん、その被害を受けなかったところまで削り戻すことになる。
◎ 塵・埃も厳禁
―― 塗る対象(ペンシル)に、埃が付いていないことは当然のこと。
―― 自分自身、作業スペース周辺も、きれいに。無風で。
―― 小さな埃が混じっただけでも、漆はそれを一緒に固め、不要な模様にしてしまう。
【乾燥】
◎ 適温・適湿で、完全に乾くまで!
―― 湿度が高ければ、「早く乾く」も、大誤解。
―― 「乾いたかな?」で次の作業も禁物。完全に乾いていない漆は、生乾きの接着剤のようなもの。
―― ゆっくり乾かす、充分に乾かすことを楽しむくらいの気持ちでやる。
【研ぎ・磨き】
◎ 決して力を入れない!
―― 1度の塗りでできる漆膜は100分の数ミリ程度。
―― 研磨剤(磨き粉+植物油)をつけた布でゴシゴシやれば削げ落ちる。
―― 撫でるように研ぐ。たくさん研ぎたい時は、「力」ではなく「繰り返し」でやること。
基本的には、このようなところでしょうか。
裏を返せば、これはすべて、自分で失敗したことです。
失敗するたびに、大丈夫だったところまで戻る。
「3歩進んで2歩下がる」。
そうしようと思っていたわけではありませんが、結果的には、そんな感じの前進でした。
■ 螺鈿の難しさ。角軸の難しさ。
少し、今回のペンシル【10】の螺鈿ならではの難しさを補足しておきます。
1つは、貝の良し悪しの見分けの難しさです。
この商品は、幅2mm・長さ110mmの貝片が、20〜30枚くらいパックになって販売されていました。
でも、よく見てみると、その1枚全体が傷なしのものというのは、数枚です。
今回はその中から選んで選んで、4枚を使いました。
そうして選り抜いても、実際に使ってみると、細かなヒビや穴が見つかります。
漆は、毛細管現象で、そうした傷にも入り込んでしまうからです。
これは、そうなってしまったものを、元に戻すことはできません。
普通に見たところでは、気になるようなものではありませんが……。
本格的な螺鈿では、もっと厚い貝で、もっとよく選んだ良い部分を使って、やるのだろうと思います。
もう1つは、貝の表面を漆面と平滑にすることの難しさです。
厚い貝を用いて、その貝も削ってよければ、もう少し楽な作業なのだと思いますが、
ホビー用の出来合いの薄い貝でやったため、
“貝の上まで漆で塗り込めて、あとで削って出す”ことは、ほとんどできません。
そこで、貝の上をマスキングしながら、塗るという作業になりました。
写真2枚目の右下が、マスキングして塗りを行ったところです。
マスキングは、仮止め用の紙テープです。
でも、このマスキングは、埃を巻き込む可能性が高く、かなり難儀でした。
最後に――角軸の色漆作業は、丸軸への作業に比して、格段に難しかったです。
それは「研ぎ・磨き」をやる際に、どうしても、角の部分の方が削られやすく、
そこだけ先に塗った面が露出してきやすいからです。
黒漆であれば、それほど気にならないことだと思いますが、
朱漆のような色漆の場合、気を遣わなければならないでしょう。
■ 螺鈿の魅惑の表情 ―― 漆の世界をもっと歩きます
完成品に取りつけてあるクリップは、
モンブランの、ペンシル【10】と同じ1930年代に、
セーフティ・タイプの万年筆などで用いられていたスネーククリップ。
そのレプリカ(銀無垢)を販売してくれる方がいましたので、取り寄せました。
身近なところでは、限定品【アガサ・クリスティ】がモチーフにしたものです。
女房は、「蛇なんて気持ち悪い……」で終わってしまいましたが(笑)、
ヨーロッパで蛇にはどんなイメージがあるのかしら?
モンブランがなぜこんなデザインを用いたのか、知りたくなりました。
ちなみに、のちのマイスターシュテュック用のクリップ
(【72G】や限定品【ヘミングウェイ】にも使われたものです)も、スネーククリップと呼ばれます。
こちらは、生々しかった蛇の姿を抽象化してできたデザインだそうです。
でも、どこかミステリアスな印象のあるスネーククリップに、
見る角度次第で色の変わる、魅惑的な螺鈿のストライプ。
自分で温めたイメージに沿った出来映えになりました。
かなり手前味噌な漆塗り講釈になってしまいましたが、お許し下さい。
でも、ホントに楽しいですよ。
私は、ビンテージ品については、
できるだけ良い状態のものを、そのまま次代へ伝えたいと思いながら扱っています。
でも同時に、放っておけば朽ちてしまうもの、恐らくは捨てられてしまうものもあります。
それを救って使えるようにすることも大事だと思っています。
漆は、そんな私の関心への、1つの回答になりそうです。
今は、次に「TRY!」してみたい“変わり塗り”の実験中です。
ある程度のめどが付いたら、またやってみて、ご報告したいと思います。
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この蛇クリップ好きですね。アガサ・クリスティを思い出しますね。
2008/3/13(木) 午後 10:59
ムーミンさん、いつも励まし、ありがとうございます!
こんな筆記具の楽しみ方もありかなと思っていろいろチャレンジしてます。笑って見ていてやって下さい。
2008/3/15(土) 午後 6:15 [ montblanc_pix ]
はじめまして…(☆▽☆)
きちんとお礼言いたくて迷いながらもコメントしてみました♪
様々なことがありずっと落ち込んでいましたが、montblanc_pixさんのブログ見ていたら少し元気を取り戻せました!( ´∀`)
新鮮な気持ちを手に出来てすっと孤独感が抜けた気がします。
人は一人じゃないなんてよく言うけど、私なんて…と思ってばかり居て…。
変な気持ちに囚われてばかりいて、自分で自分を追い込んでばかりいたというか(汗)
こんなにすっきりしたの久しぶりです
harunan_n@i.softbank.jp
突然アドレスも書き込み驚かせてしまったかもしれませんが、ほんの少し、私の悩みをきいてもらえませんか?
アドバイスとまでは言いません。聞いてくれるだけでいいのでお時間いただけたら嬉しいです。
煩わしかったらこのコメント消してしまってください。
2015/4/2(木) 午前 5:16 [ gre***** ]