映画と筆記具
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【グッド・シェパード ―― 映画と筆記具(6)】第4土曜日ですので、「映画と筆記具」です。リスタートの第1回ですから、笑えるような映画にしようかとも思いましたが、 実は、今回の記事を打ち込みつつ、画像の編集をしていた時に、PCがクラッシュしたという因縁があり、 “意地でも、この作品から”と思っておりまして……。 ■ 静かに、淡々と、灰になりゆく魂タイトルの「グッド・シェパード」とは、聖書に由来します。イエスの言葉「わたしは良き羊飼い(=グッド・シェパード)である。良き羊飼いは羊のために命を捨てる」。 このことを知って観るのと知らずに観るのとでは、 かなり理解が違ってくるのでは――。 「CIA誕生にすべてを捧げた男の物語」 「いくつ愛を失くせば、この国を守れるのか」 「組織と家族――2つのファミリーに引き裂かれる男と女」 ――こうした宣伝コピーだけで、充分にこの映画の雰囲気は伝わると思います。 “CIAもの”で、“マット・デイモン主演”とくれば、 ボーン・シリーズのような、ポリティカル・アクション・ムービーを期待する人もいるかもしれません。 しかし、「グッド・シェパード」は、 むしろそうした映画の対極にある作品と言ってもいいのでは――。 描かれているのは、“解”のない、人間/社会のもつ、根元的悲劇。 これ以上は、これからご覧になる方のために、詳述しません。 詳しくは、 Amazon や Yahoo! Movie などをご覧ください。 また、この作品については、Wikipediaの 「CIA」 や 「グッド・シェパード」 の項も、参考になると思います。 まず、写真中央は、主人公の仕事場の様子。 映画の舞台は、第2次大戦末期から1960年代。 卓上のデスク・ペンなども、雰囲気がありますよね。 写真下段は、エージェントを送り込んでいた南米のコーヒー農園から送りつけられてきた 不審なコーヒー缶をさぐっている場面。 助手が、胸の万年筆を抜き、その尻軸で豆の中を確認すると――。 グリーンのセルロイド軸が印象的です。 そして、写真一番上は、まだこの時点で学生であった主人公が、 情報機関(CIAの前身)のエージェントになることを決定づけた瞬間。 自分の担当教官が持つ“ある名簿”を、寸時だけかすめ、写し取っている場面です。 万年筆が走る音に、これほどの緊張感が与えられるシーンも、なかなかないのではないかと思います。 「CIA」の「I」、すなわち、インテリジェンス=情報が、 人の運命を左右し、戦局を方向づけ、ときには決定づける。 それを象徴するシーンでもあります。 その意味で、“万年筆が武器と化している”。 ――こうやって、この稿を仕上げながら、思い返してるだけで、また重い気持ちになるくらい、
静かに、淡々と進められるストーリーは、とても重厚で……。 やはり、もっと明るい作品にすれば良かったかな? “万年筆が武器と化す”もっと楽しい作品を、 kugel_149さん は、 こちらのブログ で、紹介されていました。 |
■ 今のような春を感じる季節に、ゆったりと観る公開にあたって、何かと話題の多かった作品ですので、詳述はいたしません。公式HP や、万年筆がお好きな方なら、kugel_149さんが、公開前の試写を観て綴った 「魅惑のヴィンテージ万年筆」(2007/09/04) などをご確認ください。 そうそう、 「趣味の文具箱 vol.10」 では、 万年筆愛好家向けに“一時停止すべきシーン”も、まとめて掲載されていましたね。 ネットで「クローズド・ノート」とたたいてみても、 公開時の“騒動”の影響が大きすぎて、 映画そのものについてのレビューが埋もれてしまうほど……。 私の率直な感想は、今のような春を感じる季節に、ゆったりと観ると、 心が少し温かくなる良作だと思いました。 万年筆に興味のある方にとっては、その視点で観ても、充分楽しめると思います。 ■ ディテールをしっかりと作り上げて、静かに、感情を細やかに描く私がキャプチャーした写真右側の一番下は、エンドロールで登場した「美術協力」。中屋万年筆 、 プラチナ 、デルタなどの輸入元のダイヤ産業、 フルハルター、 万年筆画家の 古山浩一さん 、 「趣味の文具箱」編集部 などなど、 そうそうたる名前が連なっています。 映画全体を通じて、万年筆やその手書きの日記がカギとなって、 ストーリーは、静かに、折り重なるようにして展開していきます。 それに堪えうるだけの、しっかりとした作り込み、とりわけディテールの細やかな仕上げがなされています。 この原稿を書くにあたって改めて公式HPを触ってみて、気付いたのですが、 件の「日記」、すべて(!)公開されていました。 映画を観ながら、気になってたんですよ……。 しっかりと1年分、全ページ、手書きの実物が用意されていました。 何だか嬉しくて、しばらく読み耽って―― “最後のページ”、キャプチャーして、プリントして、紙飛行機を作りました。 窓から飛ばしてみようかな? この窓の外に見える桜は、今、満開です。 【追記】
記事をアップしてから、桜、撮影してみました。 数日だけアップしておきます。 |
【インサイダー ―― 映画と筆記具(3)】来月から日本でも公開される映画 「フィクサー(原題:Michael Clayton)」 の試写会へ行ってきました。大手製薬会社が販売した、農薬の毒性に関する事実の隠蔽をめぐり、 その企業と弁護士事務所、農薬の被害者らが、物語を紡いでいきます。 訴訟や事件もさることながら、関わる人々の“迷い”や“葛藤”などを丹念に描いた作品です。 なかなかの秀作でした。 今回の「映画と筆記具」は、それを観ながら思い起こした、私にとっての“名作”の1つ、 「インサイダー」です。 ■ 銃声のない、荘厳なる戦場1999年、マイケル・マン監督。アル・パチーノ、ラッセル・クロウ主演。タバコ会社の研究開発担当副社長だったラッセル・クロウが、 社の方針に沿わない人物として解雇される。 彼と出会ったTVプロデューサー=アル・パチーノが、 人々のために、隠された事実を告発するよう、決断を促すが……。 実話に基づいた映画で、 企業名や製品名、テレビ局名、番組名などをすべて実名で描いています。 法的闘争、大企業と解雇された人間との格闘、 ジャーナリズムを担う公器でありながら同時にやはり企業でもあるTV局と報道人の格闘……。 「銃声のない、荘厳なる戦場へ」というコピーでしたが、絶妙なコピーだと思います。 上が、ラッセル・クロウが、解雇された後、 誰との接触も避けて、自分の書斎にこもっているシーン。 それでも彼は、自分が知ったことを整理しています。 握られているのは、モンブランのマイスターシュテュックのボールペン。 真ん中が、アル・パチーノが、 コンタクトを取ろうとしても拒否するラッセル・クロウに、手書きのファックスを送る場面。 何か、商品の販促用広告が書かれているボールペン。 下が、タバコ会社の社長が、ラッセル・クロウを呼び出し、 解雇後の守秘義務契約を、さらに強めようと交渉している場面。 実際には、彼のみならず、家族の安全も保証しないという“恫喝”をしています。 クロスの金張りボールペンのデスクセットのように見えますが……。 私の持っている「インサイダー」のDVDには(最も初期のものだと思います)、 美術担当や監督が、セットや小道具にこだわっていたことを紹介する“オマケ”映像も収められています。 それを見ると、かなりの練りようです。 恐らく、用いられた筆記具たちも、 その人物の経歴や仕事ぶり等との整合性がきちんと考えられているのだと思います。 例えば、主人公をラッセル・クロウだけにしてしまえば、2時間以内に収まるでしょうし、 逆に、アル・パチーノだけにしても、同じような時間の映画になったでしょう。 というか、普通はそれが限界だと思います。 この「インサイダー」の醍醐味は、2人の主人公という、 ともすれば窮屈になったり消化不足になったりするかもしれないリスクを乗り越えて、 「1+1=2」以上の、「+α」を目指して構成を練り上げたことにあると思います。 ベースが「実話」ですから、さらに事情は複雑だったと思いますが……。 こういう映画を観ると、 「アメリカ」とか「アメリカ的」と言われるものの大きさを見せつけられます。 人々の健康を冒してでも、利潤を追求してしまう企業の“とんでもなさ”も、 それを暴き出し、間違っているものは間違っているという姿勢を貫き、 “とんでもなく”ドラマチックに正義を実現していく姿も、 「アメリカ的」なんですよね……。 「銃声のない、荘厳なる戦場」での武器は、「言葉」です。
自分の存在をかけた「言葉」です。 日本で、もっと不正を糾す力が増すには、 この「言葉の力」を、もっと高める必要がある――私の自戒です。 |






