ビンテージ・モンブランの備忘録

毎週土曜日が定期アップ。心が温められたり揺さぶられたときには、イレギュラー投稿もあります。

漆塗り

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【Montblanc PIX-272 ―― URUSHI by myself (5)】 

第3土曜日ですので、「テーマ研究」です。
PCがクラッシュしても、“手慰み”は止めていませんでした。
最近の私のお気に入りの1本になっている、PIXの漆塗りです。

■ 漆の光沢
ご紹介しているのは、50年代のPIXの中堅モデル【272】。
これまでにも、
ベーシックな グレー縞タイガー・アイ のものをご紹介したことがあります。

今回漆を施したものは、元は黒のオーソドックスなものでした。
ただ機構面は完璧でしたが、ボディに傷が多々あり、
セルロイドが痩せてセンターリングもかなり緩くなっていましたので、
朱漆を塗って“再生”したものです。

これまでやってきたエボナイトの軸に比べると、
この50年代の製品に用いられているセルロイドは、明らかに表面がなめらか。
そこで、漆を塗り始める前に、胴軸に粗めのサンドペーパーをかけ、
漆の食い付きが良くなるようにしておきました。

少し細かな作業になったのは、2重のセンターリングの間のスペース。
リング自体を傷つけてはいけませんので、
マスキングをして、サンドペーパーを細く折ったもので、ゆっくり荒らしました。

あとは、特別な漆の装飾は施していませんので、
塗って乾かし磨いて――の繰り返し。
こちらが少し慣れてきたこともあるかもしれませんが、
漆にチャレンジしはじめた冬の作業に比べると、
乾きがよく、安定して作業が繰り返せます。
気温も高くなり、湿度も上がる夏の方が、ベターなのかもしれません。
湿気が大の苦手の私も、少し心持ちが変わりそうです。

仕上げは、金属パーツの再鍍金。
24金メッキですので、オリジナルに比べると、黄味が強い感じです。

今回は、手元の黒と比較撮影。
センターリングもしっかり固定され、あたかも元々、こうであったかのようなペアに……。
と書くと、自画自賛が過ぎますね(笑)。
本当は、コーラル・レッドの【72/2】に恋い焦がれて、朱にしたまでのことなんです。
yellowdaliさんのブログで紹介 されていたことがあるものです。

朱漆は、塗り上げ磨き上げた段階から、時間が経つにつれ、発色が良くなってきます。
漆本来の透明感が生まれ、顔料の鮮やかさが増すわけです。
この【272】も、一旦仕上げてから約1か月余りですが、
ぐんぐん朱としての美しさを増しています。

私にできる限りのことはやる。あとは時の流れに任せて、待って、見る……というのが、漆の流儀。
こうした自然の素材ならではの仕上がり方は、
普段私が陥っている“何でもかんでも自分の手でできる”という錯覚から、
わずかばかりでも解き放ってくれる妙薬のようです。

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【Montblanc Pencil-51 ―― URUSHI by myself (4)】 

GW、ど真ん中。私は仕事の、ど真ん中。
そんな私が、小さな隙間の時間を使いながら、自分に水やりしている話です。
第1土曜日ですので「個別モデル紹介」です。

■ 「枯れた」1本
回転繰り出し式のペンシル【51】です。
戦前の、とりわけノック式の「PIX」が誕生する(1934年)以前が、全盛期でした。

全長140mm。
天冠部のデザインも洒落ていますし、クリップも付いたモデルで、存在感はたっぷり。
ただ、元の状態は、エボナイトが黄褐色に日焼けし、クリップも錆びついて、
文字通りの「枯れた」存在になっていました。

日本語の「枯れる」には、否定的な意味ばかりでなく、
“人柄や技芸が深みのある渋さをもつようになる。円熟する”(大辞林)といった
ポジティブなニュアンスもあります。

まさにこの【51】がそうで、
このままでも時代の流れも背負った貫禄のある1本と言えなくもないのですが……。

錆びが一番の厄介者で、機構部もやられかねません。
クリップだけを磨いてもいいのですが、そうするとアンバランスになってしまう――
などと、自分で自分を説得して(笑)、全面的にリニューアルすることにしました。

■ 「偶然」が生む妙味
漆塗りの技法に、“変わり塗り”と呼ばれるジャンルがあります。
塗り重ねて完成させる漆の特性を活かしたもので、
多くの“変わり塗り”は、
偶然「これ、模様としてきれいじゃない?」といった感じで始まり、
技術的に確立されていったものだそうです。

今回は、津軽の「唐塗」の原理を試してみました。
下塗りをした後、あえて、無作為に点々を盛り塗りして乾かし(仕掛け塗り)、
その上から黒漆を塗り重ね、最後は、朱漆で塗り覆います。

そこから今度は、
最初の点々が模様となって出てくるまで研ぎ出していく。
ところどころに、金粉を蒔いていましたので、
それもかすかな文様となって浮き出てきました。

本来の唐塗は、
最初の仕掛けで使う漆も、粘りけを出した特殊なものですし、
点々を作る(という表現がよいかどうかは別として)塗り方も、特殊なヘラを使いますし、
もっと色彩的に美しくするために、緑や黄色の漆、錫粉なども用いられますので、
工程数も格段に違いますが……。
もう少し知りたい方は、 ココココ などをご覧になってみてください。

胴軸以外の作業については、
天冠部とペン先部は、黒漆のみ。
クリップを磨いて再鍍金した際に、ペン先の金属部も鍍金しました。

“変わり塗り”の魅力は、偶然性・一回性だと思います。
同じような仕上がりはできても、同じものはない。
そんな密やかな楽しみを味わいながら、隙間時間に、少しずつ作業を繰り返している私です。

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【Montblanc Pencil-10 ―― URUSHI by myself (3)】 

前回は、漆の基本理解に力点を置きましたので、今回は、実践編です。
“失敗談”満載です(笑)。

■ 漆とエボナイトは相性抜群
椀や箸など、一般に漆器と呼ばれているものの製作の場合、
その丈夫さを左右するのは、「木地作り」という作業です。
木材で基本となる形(箸なら箸の姿)を作り、
そこに下地となる漆を塗ったりして「木地堅め」という作業を行います。

しかし、私のような、できあがった製品への塗りの場合、下準備はいたって簡単。
エボナイトの軸の表面を、サンドペーパーなどで少し粗くして、透漆で下塗りを行うだけです。

本格的にペンに塗る前に、ちょっとした実験をしてみました。
漆は“何にでも塗れる”と言われますが、そのなかでも相性があるのでは?
ということで、
艶やかな表面のままの、エボナイト軸とレジン(プラスチック)軸、
表面を少し粗くした、エボナイト軸とレジン軸――
都合4種類の表面に漆を塗って、乾かして、強さを試してみました。
あえて引っ掻いて、傷つき方、剥がれ方を試してみたわけです。

結果的に、「表面を少し粗くしたエボナイト軸」が、最も強かったわけです。
ほとんど“一体化”している感じです。

数値化できるような実験ではありませんが、
エボナイトの主成分は、天然ゴム(それに硫黄を加えて硫化させます)。
いわゆる石油製品であるレジンよりも、漆と同じ「樹脂」が原料となっているエボナイトの方が、
相性がいいのも当たり前かなと、勝手に納得した次第です。

■ 原型を活かしつつ“私だけの1本”に ―― 螺鈿に「TRY!」
今回、漆塗りをやったのは、1930年代の回転繰り出し式のペンシル【10】です。
写真3枚目が、もとの状態です。
相当年季の入ったもので、エボナイトのボディが黄土色に変色し、枯れた感じになっています。
ロゴもモデルナンバーも、かすれてしまっていて写せないどほです。

8角軸です。そこで、そのうちの4面に螺鈿をやってみよう!
ということで、作業中の様子が2枚目の写真です。

螺鈿は、貝殻を用いた、装飾のひとつの手法です。
貝のサイズに限りがあるため、通常は、
細かく砕いた貝片を寄せ合わせながら、モザイク的に絵柄にしたり、
ある程度の大きさのもので接ぎを行いながら、1つの模様にしていきます。

本来は、この貝細工自体に相当の技術が求められるわけですが、探せばあるもの。
東急ハンズで、ペンシルの長さにぴったりの、細切りにされた貝片が売られていました。

1度、朱漆を塗って乾かした後、貝を漆で貼り付けます。
文字通り、「接着剤」としての使い方ですね。
ただ、瞬間接着剤のようには参りませんので、糸で結わえて乾かしました(写真2枚目右上)。
その後、何度も、塗って乾かして研いで……を、繰り返します。
漆の面が貝の厚みと同じになるまで、やります。

■ 1にも2にも「せっかち」は禁物 ―― 3歩進んで2歩さがりながら完成
詳しく書き続けると、きりがありませんので、実践での留意事項は、箇条書きにします。

【総論】
 ◎ 何事も、急がない、焦らない、せっつかない
   ―― ゆったり呼吸しながら作業しよう。
   ―― 駄目ならやり直せばいい。繰り返すことを嫌がるな!

【塗り】
 ◎ ともかく「薄く」塗る。厚塗りは厳禁
   ―― 厚く塗れば、「塗る回数を減らせるのでは?」は、大誤解。
   ―― 厚塗りした箇所は、漆が焼けを起こし、ヒケを起こしてシワにもなり、さらに色もくすむ。
   ―― 結局、塗った分はもちろん、その被害を受けなかったところまで削り戻すことになる。
 ◎ 塵・埃も厳禁
   ―― 塗る対象(ペンシル)に、埃が付いていないことは当然のこと。
   ―― 自分自身、作業スペース周辺も、きれいに。無風で。
   ―― 小さな埃が混じっただけでも、漆はそれを一緒に固め、不要な模様にしてしまう。

【乾燥】
 ◎ 適温・適湿で、完全に乾くまで!
   ―― 湿度が高ければ、「早く乾く」も、大誤解。
   ―― 「乾いたかな?」で次の作業も禁物。完全に乾いていない漆は、生乾きの接着剤のようなもの。
   ―― ゆっくり乾かす、充分に乾かすことを楽しむくらいの気持ちでやる。

【研ぎ・磨き】
 ◎ 決して力を入れない!
   ―― 1度の塗りでできる漆膜は100分の数ミリ程度。
   ―― 研磨剤(磨き粉+植物油)をつけた布でゴシゴシやれば削げ落ちる。
   ―― 撫でるように研ぐ。たくさん研ぎたい時は、「力」ではなく「繰り返し」でやること。

基本的には、このようなところでしょうか。
裏を返せば、これはすべて、自分で失敗したことです。
失敗するたびに、大丈夫だったところまで戻る。
「3歩進んで2歩下がる」。
そうしようと思っていたわけではありませんが、結果的には、そんな感じの前進でした。

■ 螺鈿の難しさ。角軸の難しさ。
少し、今回のペンシル【10】の螺鈿ならではの難しさを補足しておきます。

1つは、貝の良し悪しの見分けの難しさです。
この商品は、幅2mm・長さ110mmの貝片が、20〜30枚くらいパックになって販売されていました。
でも、よく見てみると、その1枚全体が傷なしのものというのは、数枚です。
今回はその中から選んで選んで、4枚を使いました。

そうして選り抜いても、実際に使ってみると、細かなヒビや穴が見つかります。
漆は、毛細管現象で、そうした傷にも入り込んでしまうからです。

これは、そうなってしまったものを、元に戻すことはできません。
普通に見たところでは、気になるようなものではありませんが……。
本格的な螺鈿では、もっと厚い貝で、もっとよく選んだ良い部分を使って、やるのだろうと思います。

もう1つは、貝の表面を漆面と平滑にすることの難しさです。
厚い貝を用いて、その貝も削ってよければ、もう少し楽な作業なのだと思いますが、
ホビー用の出来合いの薄い貝でやったため、
“貝の上まで漆で塗り込めて、あとで削って出す”ことは、ほとんどできません。
そこで、貝の上をマスキングしながら、塗るという作業になりました。

写真2枚目の右下が、マスキングして塗りを行ったところです。
マスキングは、仮止め用の紙テープです。
でも、このマスキングは、埃を巻き込む可能性が高く、かなり難儀でした。

最後に――角軸の色漆作業は、丸軸への作業に比して、格段に難しかったです。
それは「研ぎ・磨き」をやる際に、どうしても、角の部分の方が削られやすく、
そこだけ先に塗った面が露出してきやすいからです。
黒漆であれば、それほど気にならないことだと思いますが、
朱漆のような色漆の場合、気を遣わなければならないでしょう。

■ 螺鈿の魅惑の表情 ―― 漆の世界をもっと歩きます
完成品に取りつけてあるクリップは、
モンブランの、ペンシル【10】と同じ1930年代に、
セーフティ・タイプの万年筆などで用いられていたスネーククリップ。
そのレプリカ(銀無垢)を販売してくれる方がいましたので、取り寄せました。
身近なところでは、限定品【アガサ・クリスティ】がモチーフにしたものです。

女房は、「蛇なんて気持ち悪い……」で終わってしまいましたが(笑)、
ヨーロッパで蛇にはどんなイメージがあるのかしら?
モンブランがなぜこんなデザインを用いたのか、知りたくなりました。
ちなみに、のちのマイスターシュテュック用のクリップ
(【72G】や限定品【ヘミングウェイ】にも使われたものです)も、スネーククリップと呼ばれます。
こちらは、生々しかった蛇の姿を抽象化してできたデザインだそうです。

でも、どこかミステリアスな印象のあるスネーククリップに、
見る角度次第で色の変わる、魅惑的な螺鈿のストライプ。
自分で温めたイメージに沿った出来映えになりました。

かなり手前味噌な漆塗り講釈になってしまいましたが、お許し下さい。
でも、ホントに楽しいですよ。
私は、ビンテージ品については、
できるだけ良い状態のものを、そのまま次代へ伝えたいと思いながら扱っています。
でも同時に、放っておけば朽ちてしまうもの、恐らくは捨てられてしまうものもあります。
それを救って使えるようにすることも大事だと思っています。
漆は、そんな私の関心への、1つの回答になりそうです。

今は、次に「TRY!」してみたい“変わり塗り”の実験中です。
ある程度のめどが付いたら、またやってみて、ご報告したいと思います。

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【Montblanc PIX-281 ―― URUSHI by myself (2)】 

過日、 漆芸に関する書籍紹介 の際、2本のペンシルに漆塗りを施したことに触れました。
今回は、漆の基本理解につながるような話を中心に、
そのうちの1本、朱塗りした【PIX-281】について書きます。

■ 日常生活で活かされてきて、数千年!
「漆」と聞いて、どこか“古くささ”を感じる人も少なくないと思います。
実際、日本で人が漆を使うようになって、数千年と言われ、
縄文時代(!)の遺跡などからも発見されているほどです。
“古くさい”などというレベルではないですね(笑)。

その用途は、土偶や櫛などに装飾的に用いられていたり、
住居の建築、矢尻の製作などでは接着剤として使われていました。
丈夫さもお墨付きで、およそ2000年前の遺跡から調度品が発掘物された時のこと、
その遺跡自体が泥中、当然、ほとんどの調度品は朽ちてしまっていました。
しかし、漆を施されたものは、おおむね、もとのままだったと言われています。

つまり、古来、漆は、「装飾用の塗料」として用いられるとともに、
「接着剤」として、また「補強剤」として、使用されてきたことになります。
文字通りの“天の賜物”ですね。

■ 漆は樹液。「乾燥」には「湿気」が不可欠?!
「漆黒」という言葉がありますが、実際の漆は、はじめは乳白色の半透明の液体です。
漆の木に傷を付けると、その傷をふさごうと樹液があふれてきます。
それを集めて精製したものが「生漆(きうるし)」。ここに顔料等を混ぜてはじめて、色が出るわけです。

私が、漆塗りをはじめるにあたって、一番驚いたのは、
「乾かす=乾燥させる」という概念の違いです。
通常、「乾かす」と言えば、そこに含まれた水分を飛ばしてなくすことを指しますが、
漆の「乾燥」は、まったくメカニズムが違うわけです。

先に化学的な説明をしてしまうと、
漆の成分は、樹脂としてのウルシオールをメインに、ゴム質、酵素(ラッカーゼ)等。
そして、漆液の乾燥とは、
この酵素が、空気中の水分を取り込み、その水分のなかに含まれた酸素と結合(=酸化)する、
その過程が、触媒作用となって、ウルシオールが固化する――
ということだそうです。

この酵素の働きとウルシオールの関係には、温度の条件もあって、
20度〜30度くらいが最適で、低すぎても高すぎても、固まりません。
適温状態で、湿度を60%〜70%くらいにしてあげると、
最も理想的な乾き方をする――
というのが、実際の作業に即した言い方になります。
(金属に漆塗りを行う際の乾燥には、まったくことなる「高温固化法」を用いますが、今回は省略します)

実際、自分で漆塗りをやってみて、一番神経を使っているのは、この乾燥ですね。
本格的にやるためには、温度・湿度を管理するための「塗師風呂」と呼ばれるスペースが必要ですが、
やはり、自宅では、無理です。
そこで、誰の邪魔にもならずにやれるよう、自分なりの試行錯誤で「TRY!」しています。

■ 個人で、自宅で、やる条件 ―― まずは最小限で「TRY!」
こんな説明を進めれば進めるほど、ハードルが高すぎるんじゃないの? という声が聞こえてきそうです。
でも、もとをたどれば、縄文時代からの技術。
必要なのは、“高度さ”ではなく“使ってみせる”という気概なのでは……。
最低限の要件だけを満たしながらやれば、きっとできるはずだと信じて、
段取りの模索、道具の物色をはじめました。

イメージを具体的に描くために、
まずは、特に、実際に職人の方が作業している風景を求めて、文献あさり。
多く見れば見るほど、自然と、漆を扱う際の“心構え”のようなものが分かってきます。
同時に、デパートなどに行った際には、漆器のコーナーに寄って、ともかく、触らせて頂きました。
高級文具を置いてあるところでは、ナミキのものなども手にしてみました。
そうやって多くの漆製品に触れていくなかで、自分が欲しているものは、
蒔絵などがあるものよりも、シンプルな塗りが中心のものだとも、自覚しました。

その上で、自分がやりたいこと、目指す完成型を整理すると、
塗られるペンシル自体は手元にありますから、
あとは、「塗る→乾かす→研ぐ・磨く」だけのことだと、高をくくって……(笑)。

すると、必要な道具は、
「塗り」に必要な、漆と筆・刷毛。
乾かす「塗師風呂」の代用として、段ボール箱とアンカ。
「研ぎ・磨き」に必要な、サンドペーパーと研ぎ粉やコンパウンド。

実際、スタート段階で手元になかったのは、漆と筆・刷毛だけで、
いろいろ物色した結果、「筆付瓶入り漆 すぐ塗れーる」という、便利ものを発見。
マニキュア風の瓶状漆で、黒漆、透漆、朱漆、そろえて買っても2520円でした。
(最近、価格改定されたそうです)

ちなみに「すぐ塗れーる」は、嘘みたいに、手軽さと安さを謳っていますが、
れっきとした天然漆。中身は本格的なものです。
私のように、少数の、小物への塗りだけで使うには、まずはこれで充分です。

■ 駄目パーツも取っておけば生きる日が
さて、きょうは能書きめいた話はこれくらいにして、
実物をごらんになって頂きましょう。

最初に「TRY!」した 【PIX-72G】 は、塗り分けをしたものでしたが、
追加して始めた【PIX-281】は、朱の美しさに惹かれて、それを活かしたいと思い、やってみたものです。

この【PIX-281】は、3カ所からのパーツの寄せ集めです。
“取っておいても使わないかな”と思いつつ、捨てられずにいたものたちが生きました。

まず、基本となる機構やエボナイトのボディなどは【PIX-281】ですが、
もとは 【PIX-283】 と同じように、クリップレスでリングのみ。さらにノック部が紛失された状態でした。
クリップは、「パーツ取りにどうぞ」と出品されていた 【PIX-72】 に、
間違えて(というか恐らく出品者の手元にあったので)付けられていた 【PIX-71】 用のもの。
ノック部は、普段やりとりをしているビンテージ・コレクターに問い合わせて、譲って頂いたものです。
金張りのノック部ですので、 【PIX-672】【PIX-772】 用のものですね。
これが一番高くついたかも知れません(笑)。

■ 大敵は「ムラ」 ―― 素人が負けない秘訣は、納得するまで繰り返す根性
で、「塗る→乾かす→研ぐ・磨く」を十数回、繰り返してたどり着いたのが、現状です。
全面的に朱漆を施してみて、苦労したのは、「ムラ」です。
1本目の【72G】よりも広く塗ることになって、難しいなぁと思った点でした。

漆塗りの場合、ムラには2つあって、1つは塗りむら。
1回の塗りで、ムラができないようにすること。
ムラができると、繰り返すほど、どんどん表面に凹凸ができてしまいます。
もう1つは、乾燥の条件の違いによる、色ムラ。
湿度の強弱や、温度の高低など、乾燥条件が違うと、
乾いた後の朱の発色が違ってきます。
すると、凹凸をなくそうと研いだ際に、細かな縞のようになってしまう。

ですから、1回1回が、“この程度ならOK”では、どんどん狂いが大きくなっちゃうんです。
1回1回、自分で納得できた場合のみ、次の上塗りをする。
ダメだと思ったら、容赦なく、一番いいと思えたところまで削って戻す。

“そんな面倒なら、自分では無理”と言ってしまうと、おしまいなわけで……。
視点を逆にとれば、妥協さえせず、繰り返すことを恐れない根性さえあれば、
誰でもできるのが漆塗りとも言えます。

艶やかに仕上がった【PIX-281】は、
ノック部の金張りが朱のボディに映えて、雅(みやび)な印象に生まれ変わりました。
また、もとの太軸自体、私の好みなのですが、塗り重ねた分だけ、一層、丸みを帯びて、
(例えば写真のクリップ・リングの上下あたりなどを、塗りの前後で見比べると、お分かりだと思います)
漆塗り独特の柔らかな触感とともに、私にとっての“極上の1本”となりました。

次回は、「塗る→乾かす→研ぐ・磨く」の実践面の話を中心に、
もう1本のペンシルをご紹介します。

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【「うるしの話」「漆芸」 ―― URUSHI by myself (1)】 

万年筆関連の出版がありました。 『万年筆を極める』書斎館 のオーナーでもある赤堀正俊さんの監修です。
「はじめに」にある通り、この本は「万年筆の魅力を多くの方に知っていただくために」、
「万年筆ビギナーのために」書かれた本です。
「極める」というタイトルに惹かれてしまった方には、
ちょっと肩すかしをくらってしまったような気がするかも……。
でも、この数年、ものすごく内容的にも技術的にも濃密で高度な本が続きましたから、
こうした“ビギナー本”は、それはそれとしてのニーズもあるのかなと思います。

今回の「文献紹介」は趣向を変えて、漆の本です。

■ 漆の「伝統」と「現在」
私が漆の魅力に惹かれ、自分でも塗りを始めたことは、お話ししたことがございました( ココ です)。
初動の段階で「TRY!」の決意を促してくれたのが、今回ご紹介している2冊です。

1つは 「うるしの話」 。漆に限らず日本の工芸に関する文献のなかでも、古典の風格をもった1冊です。
著者の松田権六さん(1896-1986)は、「漆聖」と呼ばれる、現代の日本の漆芸の“源流”のような方です。
本書は大きく2部構成で、
第1部は、漆そのものの特性や、漆器の基本、さらに漆器の装飾としての蒔絵等について、
第2部は、ご自身の半生記で、7歳の時からはじまった、漆と歩んできた人生について、書かれています。

私のブログを面白がってくださる方のなかには、ご存じの方も多いかと思いますが、
松田さんは、ダンヒル・ナミキ万年筆の事実上の“生みの親”。
並木製作所(現・パイロット)に入社し、ダンヒルからの受注に応じた製品を作り始めた人でもあります。

私はそうしたことは知らずに、この本を読み始めていたのですが、
梅田晴夫さんの愛用品を見て、漆塗りに関心を持ち始めた私にとっては、
また“導かれているのかも”と、運命的なものを、感じてしまいました(笑い)。

もう1冊は、 「漆芸――日本が捨てた宝物」 。日本の漆芸が置かれている“現在”を感じさせてくれる1冊です。
著者・更谷富造さんの半生記です。
更谷さんは、18年間、ヨーロッパやアメリカで、漆芸品の“復元家”として活躍し、
現在は、北海道で、世界から寄せられる復元作業をする傍ら、自分の創作活動も展開しているそうです。

この本のおもしろさは、
何千年もの歴史をもつ漆の世界と直結する形で、現在の漆芸を見つめ直そうとしている姿勢にあります。
海外に渡っている漆芸品は、作られた時代も、産地も、技術者も千差万別ですから、
“復元家”という仕事は、想像以上に、難度の高いもの。
しかし、それは同時に、漆の歴史そのものに触れることにもなります。

欧米でそこに打ち込んできた更谷さんだからこそ、現在の日本の漆芸界の閉鎖性は、強く指弾されています。
それは同時に、漆を見放してしまったかに見える、日本の文化的貧困さに対する警鐘でもあります。
その警鐘は、私の胸に、とても強く響きました。

■ 作るところからやってみると、良さがよく分かる
こうしてみると、この2人の著者は対極的な位置にいるようですが、
私のなかでは、強烈なタッグで、「TRY!」を後押ししてくれました。

お2人に共通するのは、
漆そのものがもつ美しさ・強靱さといった魅力を知り抜いていることと、
それを活かしてきた人間・歴史・文化への畏敬の念です。
私にとっては、
そうした「漆」という存在が、誰もが使う「道具」と結びついて育ってきたことに、
一層魅せらたのかも知れません。

そうして取り組み始めた漆塗り。
最初の「TRY!」開始後ほどなく、2本、さらに「TRY!」をしました。
そして一応の姿になったモノが、写真右側の脇にあるペンシルたちです。

自分の手でやってみると、改めて、漆のすばらしさを実感します。
近日、そんな体験談――といっても多くは失敗談ですが――を、
それぞれの「Before-After」の写真とともに、ご紹介します。

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