ビンテージ・モンブランの備忘録

毎週土曜日が定期アップ。心が温められたり揺さぶられたときには、イレギュラー投稿もあります。

PIX:60年代〜モデル

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【2桁シリーズの変遷 ―― PIX-86】 

トライし始めた“漆塗り”。かなり、はまってます。
1本、やってみて“いける!”と思い、
「2本、追加してやってます」と ご報告 しておりましたが、いい状態に仕上がってきました。
手順も含めてご案内する機会をもとうかしら?

さて、今回は第3週の土曜日。「研究」の週です。
1960年代の「2桁シリーズ」の総金張りペンシル【PIX-86】を見たいと思います。

■ 初期型から最終形へ ―― 3つの変化
「2桁シリーズ」とは、1960年代のモンブランの製品を総称する用語です。
モンブランの製品に限ったことではありませんが、
60年代というのは、筆記具の“転換期”だったのだと思います。
50年代までのような“職人仕事”的な製品から、今で言う“工業製品”への転換期。
「2桁シリーズ」はその両方の良さ――職人気質が生む味わいと、規格の統一性による安心感――を併せ持ち、
大変高い人気を、今も、得ています。

『趣味の文具箱 Vol.3』で特集が組まれたことがあり、
「2桁シリーズ」の万年筆の、製造時期による変化がかなり詳しく触れられていました。
私も以前、ボールペンについて、 【BP-78】 で観察したことがあります。
今回は、ペンシルということになります。

写真右側が、初期のタイプ。左側が最終形と思われるモデルです。
(写真は、すべて、左側のものは左側に、右のものは右側に写るように置いてあります)
この初期型から最終形にいたるまでには、はっきりと分かるポイントで3つの違いがあります。

まず、センターリングに刻まれた「モデルナンバー」(写真4)。
これはよく知られたところで、「NO」の文字があるものが「後期モデル」です。

次に、一見して目に付くのが「ノック部」(写真2)。
通常、よく見られる【86】は、ノック部は、プラスチック樹脂でできた“黒”。
日本に輸入されていたものも、すべてこのモデルだったそうです。

でも、ビンテージ・モンブランの“バイブル”と言われる『Collectible Stars』には、
【86】は「金張りのノック部」を持つものが掲載されています(お持ちの方は56頁です)。
“著者の何かの間違い?”――そういうわけではありません。
ドイツ人で実際にモンブランに勤めていた方に尋ねてみると、最後の最後、この状態だったそうです。

そして3点目は、胴軸のペン先近くの形状(写真3)。
初期の【86】は、樹脂製モデル( コレコレ です)と同様、口金部が“丸見え”です。
後期の【86】のなかには(この写真のものもそうですが)、
口金をほとんど包み込むようなデザインになったものがあります。

これらのデザインの変遷は、
70年代のメタル・ボディのPIX(例えば コレ )と比べてみると、
その変化の方向性が、より分かりやすいと思います。

「同じモデルナンバー」を持ちながら、多くの微細なる違いがある――
そんな愉しみが得られるも、この時期の製品まででしょうか。

PIX−75 レッド

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【PIX−75 レッド】

海外のペン・コレクターの方とお付き合いしていると、いろいろな面で、
ペン・コレクター独特の習慣とか、
その方のお国柄などを感じさせられることがあります。

例えば、ペンの梱包や発送の宛名書きなどは、
顕著にその国の雰囲気を伝えてくれるものです。

ドイツの方の多くは、字も包装も、とても丁寧。
アメリカの方は、1本のペンをすごく大きな梱包で送ってこられることがよくあります。
「アメリカン・サイズ」を地でいく感じです。
イタリアの方は、ちょくちょくオマケがついています。

何百人もの人とお付き合いしているわけではありませんから、
これをもって何かを断言しようとは思いませんし、
私は基本的に、「国民性」などというものの見方は、
往々にして、“十把一絡げ”で物事を捉えようという乱暴なものだと思っています。

でも、実感としては、やはりあるんですよね、お国柄って。
それは、どこの国の文化がいいとか劣るとかいうことではなくて、
むしろ、違っているって楽しいことだなぁと感じています。

とともに、ペン・コレクターならではの特性のようなものもあり、
それはむしろ、各国共通な感じです。
それは、端的に言って、「鷹揚さ」。
今回、ご紹介している【PIX−75 レッド】も、
そんな“コレクターぶり”を感じさせてくれる到着具合でした。

というのは、この方、
「日本では、60年代のペンシルが好まれているそうだね。
 今度、送るから、見てみてよければ入金して」
という、嬉しい申し出をして下さいました。

ところが、待てど暮らせど、届かず……。
支払ってるわけでもないので、催促するのも、気が引けていたのですが、
なんと、8カ月ほど経っての到着でした。

そして、一緒にメモが入っていて、「中古だし、遅くなったから、XXXドルでどうですか?」。
おおおおおーっ! と叫んでしまったほど、低額の提示でした。
【75】の赤軸なんて、なかなか手には入りませんので(以前、「幻」 と呼ばれていたことをご紹介しました)、
感謝の気持ちで、ささやかですが、御礼に純和風のペントレイを送ったらとても喜んでくれていました。

コレクターの方に感じる鷹揚さは、
そうしたやりとりを心から楽しむことに根ざしているのだと思います。
仕事では、時間や精度に迫られることが多い私ですが、
だからこそ、こうした蒐集の中で、癒されているのかなぁ――そんなことを感じます。

PIX−15

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【PIX−15】

暦の上では立秋をはるかに過ぎましたが、今年は本当に残暑が厳しいですね。
それでもようやく、昨夜あたりから東京の空気は少し和らぎをみせ、
しきりに鳴いていた蝉の声に替わって、
コオロギでしょうか、秋の虫の声が聞こえはじめました。

今回ご紹介するのは、
PIXの“フルモデルチェンジ”とも言うべき変化を遂げた
60年代の「2桁シリーズ」のうち、
マイスターシュテュック系統の【PIX−15】です。

個人的な感覚ですが、PIX全体を対象に蒐集しているためか、
「2桁シリーズ」には、どこか初秋のような、“終わりのはじまり”を感じます。

実際、自分の手元のPIXの数を比率で言うと、
「60年代+70年代」を「1」とすると、
「戦前モデル」が「2」、「50年代」が「3」程度となります。

日本では、圧倒的に「2桁シリーズ」が人気ですが、
その大きな要因は、なんと言っても実用面での評価の高さ、
すなわち、デザインのシンプルさや程よい重さ、パーツの交換しやすさ等々、
“完成度の高さ”が指摘されています。

しかし、それとは別の角度の「背景」も、あるのでは?――
そんなことを考えさせてくれたのは、 『万年筆クロニクル』 でした。
それは分かりやすく言うと、
「日本には『2桁シリーズ』以前の製品はなかった」ということです。

「なかった」と書くと断定的な響きが強いですが、
『万年筆クロニクル』に「モンブラン日本初輸入時のカタログ」が紹介されています。
それによると、モンブランの製品が正式に輸入品として入ってきたのは、
1960年代になってから、とのこと。
私にとっては、“あら、これまでなかったの?!”と、ちょっとした驚きでした。
なんとなく50年代には輸入が始まっていたような気がしていたのですが……。

いろいろ調べてみると、
日本人が海外旅行を楽しめるようになったのも、ようやく60年代に入ってからのこと。
それ以前は、モンブランを手にすることは、
ほんの一握りの特別な機会を得て渡航した人や、
極少数の“舶来モノ”を扱う店でなければ、難しかったわけです。

つまり、
戦前から1950年代までのPIXは、
日本人にとっては“一部の人だけが巡りあえた道具”だったわけで、
事実上、“存在していなかった”。
60年代に入り一般の輸入がはじまり、
“誰でも手にできる道具”となって初めて、評価の対象となり得た――
これは、大きな“背景”ではないかと思います。

私の場合、PIXに触れた順序はかなりちがって、
特別な意識もないまま、親父のペン立てから勝手に拝借し、
ずっと使っていたのが、シルバーのストリームラインのPIX。
その後、親父が蒐集していたものに気付き、面白がって整理をはじめましたが、
それらも、戦前や50年代のものが中心でした。
「2桁シリーズ」なんて言葉を知るようになったのは、あとになってからのことです。

そういう目で見てみると「ちょっとおもしろいかも」と
私的再評価(大げさですが)した“ペーパー”を、次回の水曜日、ご紹介します。

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【PIX−86――あるいは伊丹十三さんとPIX】

60年代の「2桁シリーズ」のPIX(ピックス)のうち、
総金張りモデルの【86】です。

やはり、全体が金張りされていると、
使う方が少し緊張してしまいそうなくらい、高貴な印象があります。
今回写真でご紹介している【86】は、文字通りの未使用品でもあり、
他の多くのPIXたちと並んでいても、少しおすましした“お嬢さん”のような……。
使い倒して、離れるに離れられない“女房”にしたいと思っています。

これまでに、 【76】 【75グレー】 などをご紹介してきましたが、
60年代のPIXについて語られるとき、
必ず名前が挙がる人の1人に、伊丹十三さんがいらっしゃいます。

2年ほど前(2005年)に出版された『伊丹十三の本』の中には、
使う道具=モノにこだわっていた姿も、様々紹介されています。

写真でご紹介しているのは、伊丹さんのペントレーが写ったページ。
左肩のキャプションには
「神田神保町の『金ペン堂』で扱っていたモンブランのシャープペンを愛用した」と。
トレーには、
ニューマンの0.92mm「舶来シャープ用替芯」や、
ファーバーカステルのノック式消しゴム、シェーファーのBPとともに、
使い込まれたPIXの総金張りの【85】、黒と赤の【75】が並んでいます。
気に入ったモノは、いくつもストックしていたという伊丹さんらしいトレーかと……。

この本を読んでいると、
そうした“モノへのこだわり”と、
“ものを考え続け、ものを考えさせる作品を生み出し続けた生き様”は、
やはり深く結びついていた――そんな風に感じさせられます。

だから、この写真が伝えているのは、
“コレクターとしての伊丹さん”でも、“伊丹さんのコレクション”でもなく、
“仕事をした人としての伊丹さん”であり、“伊丹さんと仕事をしたPIXたち”。

私も、そんな在り方を大切にしたいと思います。

PIX−1666

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【PIX−1666】

前回ご紹介した【BP−1866】とペアになる、
70年代の銀無垢【PIX−1666】です。

「PIX」という、
3重のスリットが入った口金が独特なノック感をもたらす
モンブランのメカニカル・ペンシルの歴史は、
この70年代のもので、終わりを告げることになりました。
「Pix」の文字自体は、
今でもモンブランの現行品(ペンシルばかりでなく)で見ることはできます。
姿を消しても「名を残す」のは、名誉なことでありましょうが――。

先日、『The万年筆』という梅田晴夫さんの本で、おもしろい記述を見つけました。
1974年に読売新聞社から出版された単行本です。
万年筆がお好きな方は、梅田さんの名前を聞いて、プラチナの【#3776】を思い起こすでしょう。
「まえがき」では、
「万年筆というものについての本はおそらく、いや確実に〈世界最初〉のものである」
と断言しちゃってまして(実際にはそんなことはありませんので)、ちょっとした気負いも感じますが、
裏を返すと、今に比べれば、すぐ手にはいるような関連文献も極々少なかったのだろうと想像されます。

その中の「モンブラン社史」の項で、PIXについての記述が出てきます。
「この時代(=1930年代)に、
 いわゆるモンブランの〈ピックス〉と名付けられた自動吸入式ペンシルが発明されている。
 この技術的に完成した商品の名は、
 ヘッドを押してリードが前方にすすむときに出る音から付けられたのである。
 この筆記具の品質とそれに対する信頼感が今日でも多くの人々が
 どのメカニカル・ペンシルをあげつらっても〈ピックス〉という名称でよぶという結果を招いたのである」

かなり堅い日本語で読みづらいかもしれませんが、
“多くの人が、どのシャーペンを見てもPIXと呼んでいた”とは……。
これもちょっと大げさな気がしないでもないですが、
PIXファンの私にとっては、なんとなく嬉しくなる一文であり、
今のモンブランが、ところ構わず「Pix」と打っているのも、ワケなきことではないのかなと、
少しばかり得心した次第です。

※今回ご紹介した【PIX−1666】は、以前、「PIXの大別分類」で写真掲載していました。
 この稿をアップするにあたり、差し替えてあります。ご了承ください。

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