【Montblanc Pencil-13 ―― Octagonal, HUGE!】8月になりました。蒸し暑い夜には、怪談話――お化けがよく似合います。 第1週ですので、「個別モデル紹介」。 ちょっとした“お化け”です。 ■ 定規の目盛りを読んでみて下さい何が“お化け”かって、ともかく、このサイズ。全長180mm。 しかも、単に長いだけでなく、 「ペン先部」と「軸」の長さの比率、「全体の長さ」と「軸の太さ」の比率、重心の位置など、 あらゆる“比率”が、そのまま。 (比較の対象にしているのは、 【10】 などです) ですから、実物を手にすると、「でかっ!」という感じです。 女性の手はもちろん、男性でも並の体格の人では、 普通に握ると、ごっつい8角軸で、後ろに重心があるため、 “ペンシルで走り書き”とは参りません。 いろいろ考えたのですが、 やはりこの【13】は、“かなりの巨漢用”かな……。 手元にある2種類の1930年代のカタログには、【13】は掲載されていませんでした。 かなり特殊なモデルだったのだと思います。 このタイプの繰り出し式ペンシルが最も盛んだったのは、 ノック式のPIXが登場する以前、すなわち、1930年代前後の頃です。 「MADE IN...」となっていることから、 英語圏への輸出用だったということが推測されるわけですが、 それが「HAMBURG」、ハンブルクとされているのがおもしろいですね。 改めて説明するまでもなく、 通常であれば、「国名」、すなわち「GERMANY」となるはず。 そこに、都市名である「HANBURG」を入れるということが起こりえたのは、 ドイツ特有の歴史的背景、ハンブルクという街の独特な文化に由来していると思われます。 さかのぼること、中世ドイツ=神聖ローマ帝国。 その最大の特徴は、「帝国」という名を冠しているものの、 実態は、各都市・各地方の領邦君主の実権が大変強い“連邦制”だったことにあります。 なかでもハンブルクは、「自由都市」と呼ばれる、 他の領邦から独立し、自治権をもった特異な存在でした。 その地位は現在にも引き継がれ、ハンブルクはどこの州にも属さない「特別市」となっています。 こうした歴史的背景があり、加えて、 1930年代という、第1次大戦での敗戦後の政情不安定な時期であったことが重なり 「MADE IN HAMBURG」と刻印されたものかと思われます。 でも、このことは大変示唆的な気がします。 「国家」が揺らぐとき、人々は、より身近に実感できる基盤を求める。 裏を返せば、近現代の「国家」を「想像の共同体」と看破した人がいましたが、 はからずも、そうしたもろさを如実に映しているようにも感じました。 果たして、日本はどうかな?
遠からず、「MADE IN OSAKA」とか「MADE IN OKINAWA」等と 刻印して輸出し始める人たちが出てきそうな予感も……。 |
PIXの前史・後史
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養老孟司さんは“さすがモノ書き”と評したくなるほど、 キャップを開け、万年筆を握る位置、書いている姿勢――いずれも美しい。 年が明けてから流れ始めた坂本龍一さんのCMは、 和装で端座して、左利きで万年筆を使ってらっしゃるのが印象的でした。 養老さんは、ペリカン・スーベレーン(600? 800?)、 坂本さんは、モンブラン・マイスターシュテュック(146?)。 ちょっと気になったのは、男女を問わず、若手の方たちのなかに、 ペンの持ち方がきれいな人がいなかったことかなぁ……。 握りがビックリなのはもとより、 ペンを向こう側に倒して書く人が多いこと! 自由でいいとは思いますが、 あの書き方では、自由に使いこなせるペンは、おのずと少なくなると思います。 もったいないなぁ、というのが率直な感想でした。 ■ 古風な味わいの4色ペンシルさて土曜日ですので、個別モデル紹介です。1930年代を中心に販売されていた、サイドレバー方式の4色ペンシルです。 全長は125mm。12角軸。これは、銀製のものです。 芯は、1.18mmです。 このスタイルでよく知られているのは、ボールペンではないでしょうか。 【 50 】や【 57 】をご紹介したこともあります。 でも、「ボールペン」という存在自体、戦後のものですから、 それよりもずっと早くから、マルチ・カラー(多色)をペンシルでやっていたことになります。 しかし、操作方法はかなり複雑。 それぞれのペン先の出し入れは、 出すときはレバーを引き下げればいいわけですが、 引っ込める時は、写真「A」のような使っていない色のレバーを、押し込んで、押し上げてあげると、 使用中のペン先のロックが外れ、出ていたペン先が引っ込みます。 別の色を出すためには、一旦、こうして戻さなければなりませんでした。 また、芯の出し入れは、「B」で拡大してみましたが、 矢印のように回転させると、軸内の芯棒が押し出されてきて、芯が出ます。 つまめる部分が小さいですので、無骨な手では、難しいかも……。 こんな面倒さも、ビンテージ好きからすれば、“古風な味わい”といったことになるわけですが、 実用性で言うと、ちょっと……が率直な感想でしょうね。 このモデルは、やっぱりボールペンになったのが正解だったと思います。 それでも、当時としてはかなり評判を得たマルチ・カラー・ペンシル。
赤のほか、青・緑・黒―― 多少操作が面倒でも、そんなに色々なペンシルが必要だった人たちって、 一体どのような場面で使っていたのでしょうかね? |
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「ベビーサイズ」と呼ばれた、全長=86mmの小振りなモデルです。 その「プレシャス・メタル・シリーズ」になります。 ボディは8角軸の総銀無垢。 そこに精細な彫金が施されています。 普通に眺めてもまったく気付きませんが、 ルーペでのぞいてみると、 線のリズムや幅の不均一さ、 ところどころには、誤って刻まれた線も見て取れます。 そんな“不細工”も、 この彫りが手作業であったことを確かに伝えてくれていて、 私は、愛おしさを感じてしまいます。 トップに嵌め込まれたホワイトスターはエナメル製。 1世紀近い年月が経っても、変わることがありません。 でも、「プレシャス」なのは材質ばかりでなく、 「道具」としての作りの細やかさにおいても、 “1クラス上”を目指していたことが伺えます。 例えば、ペン先の部分は、 よく見かけるこの当時のメタル製品が、 実際にはエボナイトに金属プレートを巻き付けてできているのに比して、 このペンシルの場合は、すべてメタル。 小振りでも充分な重みを持たせ、重心がさがりすぎないための配慮です。 更に、こんな小さな軸の中にも、 換え芯ホルダーとしてのロケットが装填されていて、 目に見えないところにもこだわる心がたまりません。 そんな、本当の“贅を尽くした”ペンシルは、
後世、手にした人にも、愛用され続けるだけの味わいを備えています。 |
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当時のカタログをひもとくと、「ドローイング用」として紹介されています。 芯の太さから言っても、短いボディに太めの軸というデザインから言っても、 確かに文字を書くためのペンシルではないですね。 ペン先のカラーが、この青のほかにも、赤、緑、黄などがあったそうです。
できることならすべてそろえて、孫にプレゼントしてやりたいなぁ……。 そんなことしても、こだわり爺さんの押し付けにしかなりませんかね(笑)。 |





