青の海 月の光

楽しそうな事があったら、とりあえず一人でも出かけちゃう。

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Needs.67_LastDay

楽日を迎えた。
10日間はいつもあっという間だ。この劇場までの道とも、次に声が掛かるまでお別れだ。
このメンバーと、りあ姐さんと今度一緒になるのは、いつだろう。

今日じゃなくてもいい。でも、いずれ、ニイさんの話を聞かせてもらいたい。
10日間の間、ずっと思っていた事だ。だけど、初日と今とでは、その内面の気持ちは全然違う。
初日は、ただの嫉妬心だった。今の気持ちは・・・言葉にするのは難しい。

ただ、りあ姐さんと仲良くなりたい、そう思っている。
そんな気持ちの変化が起きた自分自身に、少し驚いてもいた。

「あれ・・・?」
劇場の前に、りあ姐さんが立っていた。
スタッフが遅れて、まだ入口が開いてないのかな?と思いながら、私も劇場前に着く。
「おはようございます」
りあ姐さんに声を掛けると、りあ姐さんはびくっと身体を震わせ、私を見た。

泣いていた。

「どうしたんですか?」
「・・・なんでも、ないの。ごめんね。変な顔見せて」
私はりあ姐さんの視線の先を見る。

スタンド花だった。今日になってひとつ増えている。
ひとつは、初日からずっと飾られていた、りあ姐さん宛てのファン一同のもの。
そしてもうひとつも、りあ姐さん宛てのものだった。黄色の花が基調になった、華やかでかわいらしいスタンドだ。
送り主の名は、Nプロモーションと書かれていた。

Nプロモーション、その名前は私も知っている。

「今日、楽日なのに。もったいないなぁ、もう」
りあ姐さんは、そう言って笑った。でも、涙は止まらず、泣き笑いの状態だ。

「喜んで欲しかったんですよ、きっと」
私の口から、自然にそんな言葉が出た。
りあ姐さんは私を見る。

「たとえ一日だけでも、りあ姐さんに喜んでもらえればいい、そう思ったんじゃないですか?」
私はなんで、こんな事を言ってるんだろう。
でも、ニイさんなら、やるかもしれないな、とも思った。

りあ姐さんは、花にそっと触れながら、小さい声で喋った。
「・・・だね」
私に話しかけたのかと思い振り向くと、りあ姐さんは慌てて言った。

「ごめん、今の独り言。気にしないで」
私は頷く。
「よし、楽日だね。今日もよろしく」
「はい」

私とりあ姐さん、二人並んで劇場に入った。

―私は反芻する。りあ姐さんの独り言を。
 
 
「見つけてくれたんだね」

Needs.66_another eye

私は楽屋に戻ると、深いため息をついた。
なんだろう、この感じは・・・。

身体が柔らかいとは聞いていた。だから、難易度の高いポーズを簡単に決めていた。
その姿は、確かに綺麗で素敵だった。
だけど、そこから先は・・・。

ステージでは、多かれ少なかれ、その人自身の人間性が垣間見える。

例えば、亜仁花のステージは、木漏れ日のような、やわらかな輝き。皆を笑顔にさせるパワー。
ユリカ姐さんは、氷のように澄み切った美しさ。心を見透かされそうな危さと、すべて理解してくれそうな優しさ。
 
りあ姐さんは・・・孤独。一人。そんなものを感じた。

でも、孤独という弱さを抱えながらも、それを受け入れる強さを持っている。
一人でいる事の、漠然とした不安と、一人だからこその、不思議な安心感。
一人でいる事を、りあ姐さんは肯定している。

・・・そんな風に感じた事に、私は戸惑った。
りあ姐さんは、ニイさんと結婚しているはずだ。
結婚しているのなら、孤独ではないはずなのに、なんでこんなにも「孤独」を感じるのだろう。

りあ姐さんは、自分で知っているのだろうか。
自分のパフォーマンスに「孤独」が映る事を。

私は再びため息をつく。
知ってる訳、ないか。
自分だって、自分のパフォーマンスが人からどう見られ、どう感じられているのか、分からないのだから。

だが、なんとなく、りあ姐さんに、未だファンがいる訳が分かったような気がした。
ポーズの美しさだけでなく、りあ姐さんのパフォーマンスには、孤独を受け入れ、
一人を否定しない強さと、優しさを感じた。
そんな心を、お客さん達は感じているのだろう。・・・そして多分、ニイさんも。
見せるのは、ダンスと身体だけではない。

私は、何を見せられるのだろうか・・・?

Needs.65_another eye

りあ姐さんのパフォーマンスのタイトルは「Heart」
「愛とか、気持ちとか、心とか、色んな意味を含めている」と言っていた。

オープンを終え、急いで着替えて、場内に入る。
一曲目には間に合ったようだ。

何となく、懐かしさと切なさを感じる旋律、ピアノの音が綺麗だ。
真白のレースのドレスに、同じ素材の髪飾り。
手には、ハート型の銀色の小道具を持っている。
時折、愛しそうにそれを撫でたり、頬に寄せたりする。
曲の最後で、それにそっと舌を這わせた。

曲が変わると、ドレスのスカートの部分をはがす。
玉虫色の薄いパレオのような布を、腰に巻いている。
ドレスの時には気づかなかったが、片足を縄で編み上げてるように緊縛を施していた。
その縄の上を、ゆっくりと指が動く。
そのまま指は身体の上まで進むと、上の衣装を脱ぐ。

パレオの結び目をはずし、肩にかけ直す。銀色のハートはステージ中央に置いたまま、花道を歩き
前盆に寝そべる。
曲のゆったりしたリズムに合わせ、縄を解いていく。
足についた縄目を愛おしそうに撫で、唇を寄せる。
縄を再び手にとり、それを首に巻いてゆく。
両手を上にあげ、縄を伸ばす。首がゆったりと、優しく締められる・・・

一転、曲調が変わる。
縄をぱっとはずし、後ろのステージへ投げる。
パレオを効果的に動かしながら、ポーズを決めてゆく。
客席からは自然に拍手があがる。
終盤、ステージに戻り、銀色のハートを再び持ち上げ、そっとキスをすると、暗転した。

私はしばらくその場から動けなかった。
照明がつき、お客さんが動き始めたので、私は慌てて場内から出た。

Needs.64_another eye

初めての劇場の10日間がスタートした。

香盤によって、楽屋の雰囲気は様々だ。
今回は、皆があまり顔を合わせた事のないメンバーだったので、最初は静かだった。だが数日過ぎるにつれ、
だんだんと慣れてきて、和気藹々とした雰囲気になってきた。
その雰囲気を作ったのは、りあ姐さんだ。

最初、みんながぎこちなかったのを、ストレッチのやり方をみんなに聞いたり、教えたりしながら
少しずつ打ち解けた空気を作ってくれた。
それだけではなく、楽屋やシャワー室の掃除をしてくれたり、差し入れのおやつをみんなに分けたりと
細かな気遣いもしてくれた。

キャリアは2年と少し、そして1年のブランク。踊り子としては若手だが、多分、年齢はこの中で一番上だろう。
本人もそれを自覚しているようで、キャリアの上の踊り子を後輩として気遣いつつも、
年上のお姉さんとしての優しさを、みんなにみせていた。

悪い人じゃない。それどころか、いい人だ。
そのせいもあって、何となくニイさんの話は、あれ以来一度も切り出せずにいた。
何でだろう、亜仁花といい、ユリカ姐さんといい、私の周りには、いい人が集まる・・・。
それは、喜ぶ事かもしれない。だけど、私の中では醜い嫉妬心起こる―

中日を過ぎ、私はりあ姐さんに話しかけた。
「りあ姐さん、次の回、勉強させて頂きたいんですけど、よろしいでしょうか?」
りあ姐さんのパフォーマンスを観てみたい。ずっと思っていた事だった。
「そんな、勉強してもらうような出来栄えじゃないけど・・・それでも良かったら」
りあ姐さんは少し驚いた顔をしたが、快諾してくれた。
「はい、ありがとうございます。観るのは途中からになりますが、よろしくお願いします」

「あ、ねぇ」
りあ姐さんは、私を呼び止める。
「私も、のえちゃんの、勉強させてもらって、いいかな?いつも舞台袖から、綺麗な声してるなって思ってたの」
「え・・・、あ・・・、はい」

今度は私が驚いた。
ダンスをやっていたから「ダンスがうまい」「動きがいい」とは言われた事はあった。
でも、声が綺麗だなんて、初めて言われた。

褒められるのは、なんだか照れくさい。

Needs.63_another eye

その顔は、忘れられるものではなかった。

その日、私はリハーサルのため、深夜に劇場に向かっていた。
初めてのる劇場。一年以上営業停止になっていたと聞いていた。
劇場につくと、入口でスタッフがポスターの張り替えをしているところだった。
初めて顔を合わせる姐さん達が多いなぁ、とポスターを眺めながら思う。

「・・・」
見覚えのある写真があった。

これって、山本さと美・・・

以前、ネットで検索して見た写真。それと同じだ。
改めてポスターを見ると、名前は山本さと美ではなく、新島りあ、とあった。再デビューとも。
新島・・・ニイさんの苗字だ。どういう事?本名?

何ともいえない気持ちのまま、楽屋に入る。早めに来たから一番乗りだ。
ここでユリカ姐さんからもらった「raku」を初出ししようかとも思ったが、
初めての劇場なので、慣れた作品の方がいいかとも思い、引き続き「rain」を踊る事にした。

少しずつ姐さん達が到着し、楽屋で準備を始める。
私は一人一人に挨拶して回った。最後に、新島りあのいる化粧前に座る。
「りあ姐さん、はじめまして」

自己紹介と、パフォーマンスについてひととおり話をする。
思ったよりオバサンな人だ、と思った。30は間違いなく過ぎてるな。
・・・でも、ニイさんも40過ぎてたから、年齢的にはちょうどいいのか。

私がしばらく黙ったままでいるので、りあ姐さんは「何?」というふうに首を傾げた。
「山本さと美姐さんですよね?」
私はストレートに尋ねた。りあ姐さんはちょっと驚いた顔をして言う。
「そうだけど・・・良く知ってたね」

山本さと美、ニイさんの結婚相手だと改めて分かると、私の口は止まらなくなった。
次々に質問を浴びせてしまう。
「なんで、復帰したんですか?」
「名前も、なんで変えたんですか?」

当然かもしれないが、私の質問に、りあ姐さんはちょっと困惑した顔を見せた。
ニイさんの事聞きたい・・・そして、りあ姐さん本人の事も。

だが、スタッフがリハーサルが始まる事を伝えに来た。
りあ姐さんは明らかに、ほっとした顔を見せた。だから私は思わず言ってしまった。

「でも、新島だったら、姐さんじゃなくて、ニイさんですね」
私は、ニイさんの事知っているのよ。私だって、ニイさんの事、好きだった。
そんな気持ちを込めていったのだが、りあ姐さんは単純に私が「兄さん」と言っていると思ったようだ。

私の心の中は、色んな思いが交差した。

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