青の海 月の光

楽しそうな事があったら、とりあえず一人でも出かけちゃう。

氷解

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氷解34―ラスト

ストリップをはじめて、1年が過ぎた。
楽しい事も、つらい事もあったが、とにかく進んできた。川が流れ続けるように。

ファンだと言ってくれる人もできたし、顔と名前を覚えたお客さんもできた。
私のあとにも、何人かがデビューし、その子達から「姐さん」と呼ばれる事もあった。
たくさんの姐さん達のステージを見せてもらい、色々なものを吸収した。

1周年のステージは、初めて自分で振り付けした作品を踊る。
ずっと、表現方法を考えてきた作品だ。

タイトルは「raku」
これは、リズからの手紙を読んで、思いついた作品だ。
落ちていく姿、そして、その中で楽しさを見つけていく姿。そんなものを表現したかった。

raku―落ちる、楽しむ、漢字の持つ意味合いは違うのに、どちらの字もそう読める。
リズは、まだ戻って来ない。お客さんも最初のうちは「熱川ちゃんはどこに行った」と騒いでいたが、
いずれ、誰も何も言わなくなった。
寂しさはあるが、この業界、そういうものなのかもしれない。

思ってみれば私も、リズの本名や、どこに住んでいるかも、電話番号すらも聞いていなかった。
考えてみれば、一緒に過ごした時間も、短いくらいだ。

だけど、そんな事は、どうでもいい。

私に新しい世界を教えてくれた人がいた。
そして私は今、その世界で踊っている。

私にとって大事な事は、それだけだ。

氷解33

カズキ先生は、手紙を読み終わった後も、しばらく黙っていた。やがて言った。

「リズちゃんから、名前の由来って聞いた?」
「名前の由来・・・?ええっと、名前がカタカナって話は聞きましたが」

カズキ先生は「ふふっ」と笑った。
「カタカナだと、お客さんに覚えてもらいやすそうでしょ?字が下手な人でも、カタカナなら、そこそこ上手に
書けるだろうし・・・そして苗字はね、アタシみんなに川の字を入れるのね。それは川のように、
みんなに流れて欲しいからなの」

「流れて?」

「そう、つらい過去や、苦しかった思いに、いつまでも囚われずに、先へ向けて、流れて欲しくて。
でも、未来だっていい事ばかりでもない。それでも、流れ続ければ、どこかでいい事があるかも
しれないじゃない。逆に、いいからって、楽しいからってずっとそこに留まり続けるのも、
自分の為にはよくないのよね。
とにかく未来を恐れず、先へ進んでって、そういう思いなの」

「・・・ありがとう、ございます」
口から自然にお礼の言葉が出た。
そんな思いが込められていたなんて。
氷川ユリカ―心の中でつぶやく。私の新しい名前。
大事にしよう。そう思った。

「リズちゃんは、新しい流れにのっていった。ユリカちゃんだって、これからどんな流れが来るか分からない。
でも、進んでいきましょう。ね。その流れが間違っていてもいいの。いずれ正しい方へ流れるはずだから」
「はい」
そう言うと、カズキ先生は時計を見る。

「随分、時間経っちゃったわね。さ、レッスンしましょ」
「よろしくお願いします」

氷解32

あっという間のデビュー公演が終わり、10日のオフになった。
私は新しい作品も作りたいと思い、カズキ先生にレッスンをお願いしていた。

「デビューは上手くいったみたいね」
「はい、カズキ先生のお陰です。ありがとうございます」
「新作も作りたいなんで、頑張るじゃない」
カズキ先生は、私の頭を撫でる。

「あの、カズキ先生。リズ姐さんの事は、聞きましたか?」
「リズちゃん・・・?ううん、何も」

私は、カズキ先生に一枚の封書を渡した。

「リズ姐さんからの手紙です。楽日の日、私の化粧前に置いてあったんですけど。
カズキ先生にも、読んでもらった方がいいかと思って」

その手紙は、化粧前に置いたままにしていたドライヤーの下に挟んであった。
宛名も何もない封筒だったので、最初はリズの書いた手紙だとは思わなかった。

多分、私をタクシーで送り出した後に書いたのだろう。
字が少しばかり雑で、文章も、話し掛けているような綴り方だった。
そして文章の最後には、Rizのサインにバナナとワニのイラストがついていた。
 

誰にも何も言わずにここを去ろうと思ったけど、やっぱりやめました。
ユリカちゃんは、私がスカウトしたんだしね。
私はこれから、長い休みをもらいます。
休みだから、いつか必ずここに戻る!つもり。
なんで休むかというと・・・それは、戻ってきたら話すね。
その時には笑い話になっているといいな。
 
さっき、この世界に入ったきっかけはって聞いたよね?
私はね「落ちたかった」の。とことん、どん底までね。
そんなふうに思って、危ない遊びや仕事をしている時に、カズキ先生と知り合ったの。
カズキ先生は、落ちたがった自分を認めてくれた。口先だけで心配する人なんかより、ずっと嬉しかった。
とは言っても、ストリップを紹介された時は「この人、本気で落とす気だ」って思ったけどね(笑)

でも、ストリップやりはじめたら「落ちたかった」って考えがどんどんバカらしくなってきた。
落ちたと思った場所でも、意外に楽しいし。そもそも落ちるって何だ、自分の思い込みの評価じゃないかって。
楽しかったら、それでいいじゃんって。

私はストリップの舞台で踊るの、好き。周りから何を言われようがね。
だから、やめないよ。休むだけ。

では、しばらくのお別れです。またね。

氷解31

最終日。私はいつものように、劇場へ入った。
「おはようございまーす」
楽屋に入り、姐さん達に挨拶する。

「ユリカちゃん、今日、リズ姐さん休演だから、フィナーレ長くするって」
「えっ?」
「それでも時間あまるなら、合同ポラもいれるかもだって。合同ポラ、やった事ないよね?」
「はい・・・」

姐さんは、合同ポラについて、丁寧に説明してくれたが、ほとんど頭に入らなかった。

リズが休演?

昨日のリズの言葉を思い出す。
「ユリカちゃん、あとは頑張ってね」
やっぱりあの言葉は・・・
 
リズの休演は、お客さんの間でも、ちょっとした騒動になっていた。
今日の休演だけでなく、明日からの別の劇場での香盤予定も、すべてキャンセルになっているのだそうだ。
私にもポラの時に「熱川ちゃん、どうしちゃったの?」と聞かれる事もあったが「分からないです」と
答えるしかなかった。

昨日の夜、二人で飲んだ事は、誰にも言わないでおこう。

私自身、誰にも言いたくはない。

氷解30

飲み始めて、一時間ばかり過ぎただろうか。
リズと私は、誰もいないのをいい事に、楽屋からステージ上へ場所を移動した。
お客さんもなく、照明もついていない場内は、どこか哀愁があるように感じた。

「私、やっぱりここのステージが一番好きだな。照明も綺麗だし、奥行きもあるし」
リズは片手に缶酎ハイを持ちながら、ゆったりとステップを踏むように、ステージを歩く。

私服だし、メイクもしていない。ステージも白色灯がついているだけだ。
だけど、リズがステージにいると、それだけで何かパフォーマンスをしているように見える。

「ストリップって、いいよね。この場所を独り占めできて、好きな踊りができて」
「そうですね。私もそう思いました」
「誰にも理解されなくていい。私はここで踊るのが好き」
「・・・」

私はリズのその言葉に、相槌も返事もできなかった。
その言葉に、何とも言えない重みがあったからだ。
まだ私には、その言葉を吸収できるだけの経験が、ない。

リズは花道をゆっくり歩き、前盆に座った。そして、ステージの端にいる私を見ると、言った。

「ユリカちゃん、あとは頑張ってね」
「はい」

そう返事をした後、ふとリズの言葉に引っ掛かりを感じた。

あとは頑張ってね?

「リズ姐さん、それって・・・」
「結構遅くなっちゃったね。タクシー呼ぶね」

私の言葉は、リズの言葉にかき消された。
結局私は、それ以上リズに話を聞く事もできず、リズに見送られながらタクシーに乗り、家に帰った。

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