青の海 月の光

楽しそうな事があったら、とりあえず一人でも出かけちゃう。

Stage

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Stage...13 last

楽日。休日のせいか、初回からお客さんが多い。
シャワーを浴びて、メイクをして、衣装を着て、ステージで踊って、写真を撮ってもらって、コメントを書いて、
次の回に返す。
いつもと同じ、私の仕事。代わり映えのない仕事。

以前に、周年作のタイトルを聞いてきたお客さんに、タイトルが決まったと話をした。
Stage―何の変哲もないタイトルだけど、お客さんも、今までの周年作とは違う何かを感じてくれたようだ。

「タイトルついてから、観かたが変わった」
「もう一回観たくなったから、帰るのやめた」
そんな言葉をかけてもらえた。

タンバリンも気にならなくなった。むしろリズムに合わせて、綺麗に鳴らしてくれるのが楽しくなってきた。
お客さんは、リズムを合わせるために、原曲を買って聴いてきたのだと言っていた。そんな手間をかけてくれた
事を、素直に嬉しく思う。

代わり映えのない仕事、だけど、私は新しい楽しみを見つけた。
私のステージが、お客さんのものになる瞬間。お客さんが、私のステージを吸収する瞬間。
その瞬間が、明確に分かるわけではない。だけど、お客さんによって、表情や目線が変わる事がある。

険しい顔が柔らかくなったり、どこを見ているか分からなかったような視線が、不意に真剣になったり。
こちらが笑うと、同じように笑ったり。口をぽかんとあけたままにしていたり。
メガネをかけなおしたり、はずしたり、取り替えたり。
メモを取りはじめたり、時間を計ったりするお客さんもいる。

ユリカ姐さんや、他のお姐さん達は、きっとこの瞬間も楽しんでいるのかもしれないな。

お客さんから見られている私達。だけど実はそれ以上に、私達はお客さんを見ている。
それが苦しく、つらく感じる事もあるかもしれない。
だけど、今は、それが楽しい。



そして、それから一年後・・・


Stage...12

「ステージは、観られた瞬間から、観た人のものになる」

ユリカ姐さんのその言葉が、私には理解できなかった。
「観た人に、こう感じろとか、こう思えとか、ステージだけで理解させるのは、どうやっても無理よ。
人それぞれ感じ方は違うんだから」
私はうなずく。それは分かる。

「人それぞれ、自由に、どんなふうに感じてもらっても構わない。ここはそういう場所。
演目を考察する人もいれば、ただ女性の身体を楽しむだけの人もいる。ダンスを楽しむ人もいるし、
ストーリー性が好きな人もいる。踊り子が、こういうふうに観なさいって強制なんてできないし、
そもそもする必要もない。だってストリップなんだから」
「・・・」
「私達のステージは、お客さんに好きなように吸収してもらっていいの。だからステージは、観た人のものなの」

納得できる話ではない。自分なりに深く考えて作った5周年作が、お客さんの好きなように吸収されるだなんて。
だけどその一方で、少し気持ちがふっきれたような気もした。

あんなに手を込めて、衣装や小道具にも気を配っているユリカ姐さんのステージでさえ、お客さんの好きなように吸収されてしまうのなら、自分のステージが、好きなように吸収されてしまうのは当たり前だ。
 
「ステージ・・・」

ふとひらめいた。周年作のタイトルだ。
ステージと呼ぶのが、一番ふさわしいような気がした。

5年間、踊った場所。
ひどく無防備な姿を晒す場所。だけど、無防備であるだけ、その美しさが際立つ場所。
生活の一部になってしまってはいる。ステージへあがる緊張や興奮も、薄らいではいる。
だけど、切り離せない場所。私にとって、大切な場所だ。

毎回、周年作はアルファベット表記にしていた。だから今回も作品名は「Stage」としよう。
お客さんの何人かに、タイトル教えてと言われていた。明日、教えてあげよう。
お客さんが、このタイトルをどう思うか・・・このタイトルを知った上で、ステージを観たら・・・

「あっ・・・」
思わず声をあげる。
「どうしたの?」

「ユリカ姐さん!私、お客さんが自分のステージをどう観てくれるのか、すごい楽しみになってきました!」

自分のステージが、お客さんのものになる瞬間を見てみたい。
お客さんが、どう吸収してくれるのか、確かめたい。
ユリカ姐さんの言わんとしていることが、急に理解できた気がした。

stage...11

場内の大きな拍手を聞きながら、外に出た。
そのままシャワー室に入る。ユリカ姐さんが戻る前に、シャワーを終えて
おこうと思ったからだ。
 
ユリカ姐さんのステージを観ていたら、息苦しくなってきた。涙を堪えるのが大変だった。

なんでだろう・・・

とても綺麗で、切ないステージだった。
だけど、ユリカ姐さんのこういう寂しさを感じるようなステージは、すでに
何度も勉強させてもらっている。
だからさすがに、毎回涙を流したり、息苦しくなるような事はなくなっている

だけどなぜか、今回は、本当にユリカ姐さんがこのまま消えてしまうかのような、この場からいなくなってしまうような、そんな感じがした。

カズキ先生の件があったからだろうか?
それとも亜仁花のメッセージを読んだからだろうか?
自分でもなんでこんな思いになったのか、よく分からない。

ただ「ユリカ姐さん、いなくならないで」そんな事を強く思った。
 
シャワーから出ると、ちょうどユリカ姐さんがオープンを終えて
戻ってきたところだった。
「お疲れさまでした」
「お疲れさま」
「あ、手伝いましょうか?」
「ありがと」

衣装の後ろのファスナーが引っかかっているようだったので、ユリカ姐さんの後ろに回り、はずすのを手伝った。

「亜仁花ちゃん、のえちゃんと直接話したかったみたい。だけど、人を
待たせてたみたいで、ことづけもらったの」
ユリカ姐さんは話しながら、髪をかき上げ、ファスナーが見えやすくなるようにした。
「私も直接話したかったです。でも、亜仁花の気持ちは分かりました」

汗の滲んだ背中に、数本、長い髪の毛がはりついている。
女性の素の姿など見慣れているのに、至近距離で見るユリカ姐さんの肌に、なぜか少しどきまぎした。

「亜仁花は、またここに戻りたいみたいです。というか
絶対戻ってくるって」
ユリカ姐さんが、ふっと笑った。
「そうなったら、お客さんが大騒ぎになりそうね」
「本当に」
私も笑う。

もし、本当に亜仁花が戻って来たのなら、私はまた、彼女の人気に
嫉妬するのだろうか?
きっと、嫉妬するだろうな。でも、それ以上に、同じステージにいられる
喜びの方が大きいだろう。
 
ユリカ姐さんがシャワーを浴び終えて、楽屋に戻ってきた。
「のえちゃんの周年作、良かったよ。5年間の集大成?」
ユリカ姐さんが言う。
「デビューして、色々悩んで・・・だけど、悩みながらも、やっぱりステージで踊る事を選んで・・・そんな世界観を感じた」
さすがだ。ユリカ姐さんは、私のステージの意図する事を、分かってくれた。

「ありがとうございます。ユリカ姐さんだけですよ、分かってくれるの。
お客さんは全然分かってくれなくて」
「まぁ、しょうがないよ」
「そうなんですけど・・・本当は今回、タンバリンもやって欲しくないんですそんな楽しい気持ちで踊ってるシチュエーションではないから。
でも、タンバリンやりたくなるリズムってのも分かるし・・・」
思わず愚痴がでてきてしまう。

「それも、しょうがない。だって、ステージは、観られた瞬間から、観た人のものになるからさ」
「・・・観た人の、もの・・・?」
「そう」
ユリカ姐さんはうなずく。

Stage...10

まだユリカ姐さんのステージは、始まっていなかった。
新作は、道具の下準備が色々あるようだ。

ポケットを探り、折りたたまれた小さなメモ用紙をひらく。
慌てて書いたのだろう、文字は少し乱れていた。
だけど、ポラのコメントも丁寧だと評判だった亜仁花らしく、小さめにかかれた文字は読みやすかった。

ステージ 感動した
絶対私も戻ってくるから
そしたらチームショーやろう
亜仁花

そう書いてあった。
そうだった。亜仁花とは、いつかチームショーをやってみたいね、と話していた。

亜仁花―
目を閉じる。そうしないと、涙が溢れそうだったから。

「それでは、引き続きまして、氷川ユリカ嬢の登場です」
アナウンスが流れ、場内が暗転する。

こぽこぽこぽ・・・
ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃん・・・
水の中で、泡がたっているような音。
水面を、跳ねているような音。

幕が開く。
ステージには、大きいアクリルの板。
ユリカ姐さんは、紅色のひらひらした衣装を身に纏い、水音に合わせ、ゆらゆらと動いたり、
寝そべったりしている。

水槽の中の金魚―
緑の細長いヴェールは、水草をあらわしているのだろう。
何かに気がついたらしい。水槽に、こつ、こつ、と身体を当てている。

ステージが暗転する。
外に出てきたのは、紅色のドレスを着た少女。

前はひざ丈だが、後ろの裾は長い。金魚の尾ひれのように。
ななめがけにしたポシェットから鏡を出し、床に置く。
鏡を見て、身だしなみをチェックし、ドレスと同じ色の帽子をかぶる。

誰かが手を差し出したようだ。
少女はにっこり笑うと、その手を取った。

少女―ユリカ姐さんは、相手がいるかのように、ゆらゆらと踊る。
やがて帽子をはずし、ドレスの上の部分、ベルトと、はずしていく。

結構時間掛けて作った衣装だと、ユリカ姐さんは言っていた。
それが納得できるつくりの衣装だ。

トップレスのコルセット、後ろには長い裾をひいたままの状態で、ユリカ姐さんは盆にあがった。
盆の脇にはポシェットが置いてある。
ポシェットから出したのは、小さなボトル。水が入っているようだ。

水を口に含むと、指、手首、腕と、舐めはじめた。
官能的な仕草だが、猫が毛づくろいしているかのような、かわいらしさもある。

「ふわっ」そんな表現がぴったりの、やわらかなポーズ切り。
どこにも力が入っていないかのように、自然な動きだ。
だけど、足の指はぎゅっとまるめて、足先もぴんと伸ばしている。
動くたびに、尾ひれがひらひらと揺れているかのようだ。

曲が終わる。
少女は再び水を口に含もうとする。
だが、ボトルの水はなくなっていた。

こぽこぽこぽ・・・
再び水の泡立つ音。
少女は、水槽の中へ戻ろうとする。

だけど、戻れない。
水がない。

助けを求めて手を伸ばす。だけど、その手を取ってくれる人もいない。
異変を感じて後ろをみると、身体の一部の尾ひれがはがれていた。

少女―金魚は、もう、動けない。

ユリカ姐さんに当たっていたライトが、ゆっくりと絞られ、暗転した。
まるで消えてしまったかのように。

Stage...9

ステージが終わった。
私はあえて、客席に目をやらなかった。ステージだけに集中した。
それでも、一番後ろに亜仁花が立っているのは分かった。
そして、少し離れたところにユリカ姐さんがいるのも。

楽屋戻ると、中には誰もいなかった。ポラの準備をして、再び楽屋を出ようとした時、
ドアのところで、ユリカ姐さんと鉢合わせした。

「亜仁花ちゃんから、ことづけもらった」
ユリカ姐さんはそう言って、手に持った小さな紙切れを見せる。
「あ・・・、後にします。預かってて下さい」
今すぐ見たいが、お客さんをあまり待たせるわけにはいかない。
「じゃあ、のえちゃんの化粧前に置いておくね」
「ありがとうございます。あ、この後、よろしくお願いします」
ユリカ姐さんは頷いた。

さっき、ユリカ姐さんが私のステージを客席から見るという話をした時、私もお願いしたのだ。
ユリカ姐さんのステージをお勉強させて下さい、と。

早くポラ終わらせよう、そんな事を思いステージに戻る。
「はーい、お写真の時間でーす。よろしくお願いしまーす」
いつものように、お客さんと二言三言やりとりしながら、写真を撮ってもらう。

多くのお客さんが、今のステージを褒めてくれた。
亜仁花とユリカ姐さんが見てくれているから、いつもよりステージに気合が入っていた。
それをお客さんも感じたのかもしれない。

一部のお客さんは、亜仁花が来ていた事にも気づいていた。
だけど、誰も声を掛けなかったそうだ。
そういうところは、ちゃんと空気を読んでくれてありがたい。

ポラを終えて、オープンショーを済ませる。
急いで楽屋に戻り、楽屋着に着替え、ユリカ姐さんのステージを観るために、場内へ向かう。

「あっと・・・」
化粧前に置かれた亜仁花からのことづけをポケットに入れた。

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