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自然に 素朴に 明日をみつめて

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「毎日新聞」5月19日付夕刊「特集ワイド この国はどこへ行こうとしているのか」の、作家・半藤一利さん(84)の「今が『引き換えせぬ地点』」と題したインタビューには考えさせられた。
 
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記事に入る前に。
「ポイント・オブ・ノーリターン」という言葉がある。
元々は航空用語で、飛行機がもはや出発点に戻る燃料がなくなる地点──「帰還不能点」という意味だそうだ。「引き返すことができなくなる時点」「もはや後戻りできない段階」「改善のための努力を行っても、その効果が得られなくなってしまう時点」というものだ。


半藤さんは、1930年東京生まれ。半藤さん自身、1945年3月10日に14歳の時に東京大空襲でで炎に追われ、中川に飛び込んだ。自分にすがろうと伸びてきた手を振りほどいた。それからというもの、何度も空襲の夢を見たという。
 
その半藤さんの著書「日露戦争史」の冒頭に次の一文がある。
「歴史には、あとは一瀉千里(いっしゃせんり)に突き進むよりほかはない時点があるのかもしれない。いわゆるノー・リターン・ポイント(引き返せぬ地点)である」
 

「自称、歴史探偵」の半藤さんは、「日本が戦争にかじを切ったいくつものターニングポイント(転機)を繰り返しつづってきた」として、「太平洋戦争であれば1931年の満州事変がその一つ」だという。
 
「しかし事変直後、国民がいきなり好戦的になったわけではない。その6年後、永井荷風の『ボク東綺譚(ぼくとうきだん)』や堀辰雄の『風立ちぬ』など昭和文学の名作が次々発表されました。世の中にも人の心にもまだ余裕があり、時の権力者が中国を植民地化する野望を抱いていたことなど気づいてもいなかったのでしょう。今の日本も同じ。昭和の国民が気づいていなかったのと同じように、私たちも気づいていないだけではないでしょうか」


その前後の歴史を振り返ってみた。
1925年が治安維持法、1931年満州事変、1936年が2.26事件、1937年が盧溝橋事件。
 

そして、戦前の戦争への「ノー・リターン・ポイント」(引き返せぬ地点)となったのが、1938年の「国家総動員法」で、昭和の国民にとって後戻りできぬ戦争へとすすむ転機となったという。
 
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半藤さんは、1938年の国家総動員法第4条の条文「勅令ノ定ムル所ニ依リ帝国臣民ヲ徴用シテ総動員業務ニ従事セシムルコトヲ得……」と書いた小さな手書きのメモを見ながら述べた。

「運用次第で何でもできる条文です。1万人を徴用することも、24時間徹夜で働かせることも。この法を境に日本は『戦時国家』となり、国民生活が大きく変わった。法を盾に右翼が非好戦的な人を『非国民』となじり始めた」
 
その後、国家総動員法の2年後、1940年に大政翼賛会。
1940年、米やみそなどの購入が切符制に。1941年には生活必需物資統制令公布。同年末にはもう真珠湾攻撃で全面戦争に突入していく。

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しかし、当時の国民はどうか。
「歴史に戦前の日本の転機を見いだすことはできても、その時代に生きた国民がそれを実感していたかは別なんです」「いつか今を振り返った時、特定秘密保護法も転機と語られるのかもしれない」と述べる。
 
 
では、戦後の「ノー・リターン・ポイント」(引き換えせぬ地点)はどれか。
今、この安倍首相の「解釈改憲」が、戦後の「引き返せぬポイント」と指摘する半藤さん。
 
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「今回の解釈改憲は、運用次第でどうにでもできる新法を作るのと同じ。時の政府に何だって許してしまう。70年間、戦争で人を殺しも殺されもしなかったこの国の国際的信頼という国益を手放し、国のかたちを変えてしまう」
 
さらに、「今の日本は太平洋戦争へと突き進んだ最初の転機である1931〜1933年の3年間に重なる」と指摘する。
情報の国家統制、臣民教育を目指した国定教科書の改訂、5・15事件などのテロ……。
「今はまだ幸いなことに新聞各社が自由な論調を維持できているが、間もなくかもしれません。その証拠にNHKはすでに危うい。歴史教科書の問題も、仮想敵国が強調されるのも当時とそっくり。テロはまだのようだが、ヘイトスピーチやネトウヨ現象は気になります」


「日露戦争は勝ったとはいえ多くの人の命を奪い、国民生活を圧迫した悲惨な戦争でした。『勝った勝った』と美談として語られるようになったのは、終戦直後ではなく、1930年代に入ってからなんです。戦争を体験した世代が生きている限り、時計はそう速く進まない。しかし彼らが死んだ途端、時計は大急ぎで動き出す。今の安倍晋三政権もそう。政治や官僚の中堅に戦争体験者はもういない。いるのは右肩上がりの栄光しか知らない世代です」

2003年の個人情報保護法成立後、防衛省の戦史研究センターなどで戦犯の裁判記録や軍人の日記を読もうにも、名前や住所が黒く消されるようになった。「若い世代が昭和史や戦史を学ぶのが困難な時代になってしまった。やがて、作られた美談の歴史だけが残っていくのかもしれません」

最後に、半藤さんは、「一人一人に今できることは何なのか」と問いに「戦争の芽をつぶしてかかるしかないですね。自分の目で見つめ、戦争の芽だと思うものを見つけたら、一つ一つ」と、指で、空をつまみ何度も何度も「芽」をつぶす仕草をする。


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もうひとつ。半藤さんと同じ様な分析をする記事があった。
 
「福島民報」4月6日付「日曜論壇」に、音楽家で国立歴史民俗博物館名誉教授の小島美子さんの「忍び寄る戦争への道」と題した論説である。 

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小島さんは「私は今の政治の方向が恐ろしくてたまらない」として、次のように述べている。
 
「戦前、戦中と軍国主義教育をしっかりと受けて育った私たちは、敗戦後次第に事実を知るにつれ、それがどんなに偏った誤った思想、歴史観、国家観、世界観に基づくものであったかということを骨身にしみて知った。」

「今の政府が打ち出している動きを見ていると、戦前戦中の国家体制と本質的に同じような体制を目指しているように思われてならない。特定秘密保護法、国家安全保障戦略(NSS)、防衛大綱を決め、4月1日には防衛装備移転三原則を閣議決定した。そして、さらに重要な集団的自衛権の問題を閣議決定しようとしている。
 閣議決定というものが、このように重要な問題を決めて実施する力を本来持っていたのかと驚くのだが、本当にいいのだろうか。もしこの方法を是とするならば、今後も閣議決定で何でもできてしまうだろう。これはもう独裁政治に近づく一歩ではないだろうか。
 
そして、「他にも教育委員会や教科書の問題、NHK幹部の人事問題など、いつの間にか今の政府の目指す先に向けて、着々と周りを固め」「政府は国際情勢が極めて緊迫しているから安全保障上、集団的自衛権も武器の国際共同開発のための防衛装備移転三原則も必要だと説く」が「本当にそんなに緊迫した情勢にあるのだろうか」と問う。

「第二次大戦前にもそれに似たセリフに私たちがすっかり乗せられてしまった」としながら、NHK・BSで、アメリカ政府がイラク戦争を始めた際、亡命イラク人のデマを口実にし、それにマスコミも乗じて空気を煽ったと報道していたことを紹介し「私たちは、これらの教訓に学ばなければならない」とする。

最後に「こうして書き並べてみると、もはや日本は戦争への道を相当な勢いで突っ走っている」としながら「多くの人々が『戦争は嫌だ。日本は戦争をしない平和な国のはずだったのに』と気が付いた時には、もう私たちは何も動けない状態になっているのではないか。私にはそれが見えて、ひたすら恐ろしいのである。」と結ぶ。
 
 
小島さんは、半藤さんかより1年早い1929年生まれ。16歳で終戦を迎えている。
半藤さんも小島さんも、同じ世代だが、私の周りでも、戦争時代を体験された方々は、みな「今の状況は、戦前のあの時代と似ている」と言われる方が多い。
 
 
 
たしかに政府自民党の中枢幹部による集団的自衛権の議論は、すでに「気分は『国防軍』といったところだ。
 
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自民党の石破幹事長は5月17日の「朝日」インタビューで、「集団的自衛権を行使するようになれば、自衛隊が他国民のために血を流すことになるかもしれない」「 (1991年の湾岸戦争で)日本は多額の金を出したが、国際的な理解は得られなかった。米国の指導者は、他国を守るために自国の兵士が命を落とすことを覚悟している。日本の指導者は自国を守るためには命を懸けるが、他の国のための覚悟はできていない。そんな日本の姿勢が今後も世界で通用するのか、考えるべきだ」と述べ、さらに、翌日5月18日のNHKの討論番組でも「アメリカの若者が血を流しているのに、日本の若者が血を流さなくていいのか?」と明言している。
 
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安倍首相も、2004年に出版した岡崎久彦氏との共著『この国を守る決意』の中で次のように述べている。
「われわれには新たな責任というのがあるわけです。新たな責任というのは、この日米安保条約を堂々たる双務性(対等な義務を持つこと)にしていくということです。」「いうまでもなく、軍事同盟というのは血の同盟です。日本がもし外敵から攻撃を受ければ、アメリカの若者が血を流します。しかし、今の憲法解釈のもとでは、日本の自衛隊は、少なくともアメリカが攻撃されたときに血を流すことはないわけです。実際にそういう事態になる可能性は極めて小さいのですが、しかし完全なイコールパートナー(対等の相手)と言えるでしょうか。」「双務性を高めるということは、具体的には集団的自衛権の行使だと思います。この問題から目をそむけていて、ただ、アメリカに文句を言っていても物事は前進しませんし、われわれの安全保障にとっても有益ではないと思います。」
 
 
つまり、「日本は米軍にいつも守ってもらってばかりで肩身が狭いのだ。日本の若者も血を流す──つまり人を殺したり、相手に殺されることを覚悟せよ。その時が来たのだよ」といわんばかりだ。

ここまでくると、「戦前に逆戻りか…」と誰もが思うかもしれない。
 
しかし、決して「このまま戦前に逆戻り、一路戦争・徴兵制へ」と単純には考えたくない。
 
戦前のノー・リターン・ポイントの時期とは違い、今は、当時とは国民の意識も違うし、幅広い反対の世論と運動もある。世界の状況も違う。
安倍総理が「戦後レジームからの脱却」、麻生副総理が「60年間、洗脳されてきた」とか言い、「日本を取り戻したい」「誇りある国に」と主張する人たちが、「集団的自衛権行使容認は当たり前」と声高に叫んでいても、国民の中では、「平和憲法を守るべき」「集団的自衛権行使容認に反対・慎重」との世論は過半数を超える。
 
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そして、心強いのは、戦争に危機感を募らせる、年配の人たちだけではなく、学生がラップのリズムに合わせて数百人でデモをしたり、ママたちが各地のカフェなどで「知憲」と称して「まず憲法を知ろう」と学習会を開いたり、マンガあり、紙芝居あり、替え歌ありだ。
「集団的自衛権の是非は置いといて、“解釈で憲法変えるのはダメ”」とネットで署名が始まったり、これまでない新しい形態の運動がひろがっていることだ。
 
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これからさらに、「自ら考え、想像力を発揮する」人たちがもっと声をあげ、その人たちがさらに智恵を絞ってまわりに発信し、そして力を合わせて“踏ん張る”ことができれば、きっと状況は変えられるはずだ。

 
 
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半藤さん、小島さん、戦争を実際に知る方の貴重な意見ですね。私もまったく同じことを思います。半藤さん監修の第2次世界大戦のDVDも発売されるようです。もっともっと戦争体験から学ばなくてはいけませんね。転載させてください。

2014/6/2(月) 午前 4:59 [ できごと・つぶやき ]

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転載させてくださいね。

2014/6/2(月) 午前 7:22 [ あさり ]

こんにちは!

大変興味深い内容でした。
私は1961年生まれで、全く戦争はわかりません。戦後、豊かになりつつある世代でした。
戦争以前の話はとても貴重ですね!

小島さんが、変な教育をされていたことに後で気がついた、と書いていましたが、これこそが洗脳ではないでしょうか。

今、また、洗脳されやすい日本人をアベやイシバや麻生が洗脳しようとしています。

旅人さんのおっしゃる通り、若い人たちのエネルギーが、オジたちに打ち勝って欲しいです!

携帯なので転載できないから、全文引用させていただきたいと思います

どうぞ宜しくお願いいたしますm(_ _)m

今後とも宜しくお願いいたしますm(_ _)m暑さにお気をつけてお過ごしくださいませ
暑さには、アベの恐怖政治を

2014/6/2(月) 午前 11:43 [ 開運サリー ]

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できごと•つぶやきさま
間もなく戦後70年。戦争体験そのものが貴重な時代になりつつあります。今こそ、戦争体験を聞き記録に残す大運動をすべき時だと思います。

2014/6/3(火) 午前 1:35 [ TABIBITO ]

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あさりさま
ありがとうございます。

2014/6/3(火) 午前 1:36 [ TABIBITO ]

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開運サリーさま
ありがとうございます。
戦争は洗脳や煽動がつきものです。なぜなら、そうでなければ人と人が殺し合うことができないからです。

2014/6/3(火) 午前 1:46 [ TABIBITO ]

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戦後の焼け跡や食糧難、傷痍軍人、遺族、引き揚げ者の記憶をもつ私たちシニア世代が、自分たちの子供と孫たちに、非戦の思想と他国人民に対する敬愛の心を継承させたいと思います。

2014/6/4(水) 午前 5:11 [ 悪人正機 ]

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悪人正機さま
戦争を体験された方たちの言葉ほど重いものはありません。
それに対して、机上の論議で「血を流せ」と言って、日本の国をとんでもない方向に持っていこうとする閣僚や政治家たちがいかに薄っぺらなのでしようか。
ぜひ、多くの人たちに語り継いでほしいと思います。

2014/6/4(水) 午後 10:20 [ TABIBITO ]

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これからの若い世代のためにも、戦争への道を歩まないように、真剣な議論が展開されることを願っています。☆転載させてください。

2014/6/9(月) 午後 10:33 mimi

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mimiさま
本当に、青年や子どもたちが、近い将来、戦地で血を流すことに絶対にさせないようにしたいですね。

2014/6/10(火) 午前 1:20 [ TABIBITO ]


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