トロントから遅れて帰ってきた麻酔科医

役にも立たない、新米さいたま県民のひとり言です・・・

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臨床研修が始まって一週間が経ちました。
英語が解らないことは覚悟していましたが、麻酔方法・薬剤の違いは予想以上で驚いています。
書ける範囲で少しずつ紹介したいと思います。
今日は筋弛緩薬について紹介します。

 日本で麻酔中に使用される筋弛緩薬といえば、Pancuronium、Suxamethonium、そして一番使用頻度が高いのはVecuroniumでしょう。ところが当院では、クラッシュ導入時Suxamethoniumを除いて、そのいずれもが使用されていないようです。

 最も使用頻度が高いのは、Rocuronium(商品名 Zemuron, 1V=50mg/5ml)です。RocuroniumはPancuronium、Vecuronium同様にステロイド環をもつ非脱分極性の筋弛緩薬ですが、作用発現がVecuroniumより早いため急速に普及したようです。全身麻酔導入時の投与量0.6mg/kgの場合(Vecuroniumの力価1/6、大まかに成人では1V=50mg全量)90秒で挿管できます。1-1.2mg/kgの投与量では60秒で挿管できるため、Suxamethoniumと大差ありません。作用持続時間は0.6mg/kgで30〜40分、1mg/kgで60分、0.1〜0.2mg/kgの追加投与で10〜20分です。カナダの麻酔科医は筋弛緩薬の追加投与を好まないようです。術中に患者が動いたので追加投与したら注意されました。「こういう時はプロポフォールをボーラスして下さい」とのことでした。どうしても閉腹できない時のみRocuroniumを10mg/dose程度追加投与するようです。Vecuronium同様に肝臓で代謝される割合が多いのですが、Vecuroniumとは異なり代謝産物には筋弛緩作用がありません。

 Mivacurium(商品名 Mivacron、1V=20mg/10ml)はクラーレに似たベンジルイソキノロン構造を持つ非脱分極性の筋弛緩薬で、Suxamethonium同様に血漿中偽Cholinesterase(pseudo-cholinesterase)により分解されるため肝障害・腎障害があっても使用できますが、異型コリンエステラーゼ血症の患者さんは使用を避けます。全身麻酔導入時の投与量0.1mg/kgの場合、気管挿管まで3-4分とRocuroniumよりは時間がかかりますが(Vecuroniumと同程度)、作用持続時間は15-20分とRocuroniumより短いです。リバーサルもできます。クラーレに似た構造なので、0.15mg/kg以上の大量投与ではヒスタミン遊離による血圧低下に注意が必要です。

 Cisatracurium(商品名 Nimbex、1V=20mg/10ml)もベンジルイソキノロン構造を持つ非脱分極性の筋弛緩薬で、Atrauriumよりヒスタミン遊離の少ない異性体です。代謝に特徴があって、1/3はHofmann分解、2/3はエステル加水分解されるため、患者の全身状態(肝機能・腎機能)に関係なく持続時間が安定しているので一部の麻酔科医は好んで使っています。全身麻酔導入時の使用量は0.1(〜0.2)mg/kg、挿管できるまでの所要時間は3-4分とやや長め、作用時間は35〜45分(Vecuroniumに近い)です。

 カナダの病院における筋弛緩薬のリバサールにも日本と異なる特徴がありました。Neostigmine2.5mg=1ml(1V=12.5mg/5ml)にGlycopyrrolate0.4mg(1A=0.4ml/2ml)を混合して投与しています。全例に筋弛緩モニター(TOF: Train of Four)を装着するのですが、T4が少しでも弱いとリバーサルは倍量(Neostigmine 5mg+ Glycopyrrolte 0.8mg)投与するには驚きました。

 日本で麻酔を習った時は(もう10年以上前ですが)「筋弛緩薬のリバースは、Neostigmine 0.05mg/kg、Atropine 0.02mg/kg。体重50kgとすると、Neostigmine 2.5mgとAtropine 1mg、これがルーチン。」と習いました。Neostigmineによる副作用もありますので(Neostigmine Blockなど)、これまで追加投与した経験は、ほとんど無かったのですが、麻酔の教科書には「Neostigmineは0.07mg/kgまで筋弛緩拮抗の効果増強が認められる」と書いてあるので体重70kgならば5mgまでよいのですね。日本人も最近は体格が大きくなっているので、2.5mgにこだわることはないのかもしれません。


 あと、日本ではNeostigmineにAtropine(作用発現まで1分、作用持続30-60分)を混合していましたが、カナダではGlycopyrrolate(作用発現まで2-3分)を混合しています。投与量はAtropineの半量なのだそうです。Atropineとは異なるGlycopyrrolateの特徴は、頻脈になりにくい、より強い分泌物抑制効果がある、BBBを通過しないので(Atropineとは異なり)麻酔後の記憶障害が少ない、のだそうです。

 ちなみに米国「MGH麻酔の手引き」によると、MGHのルーチンはNeostigmine 3mgとGlucopyrrolate 0.6mgの混合なのだそうです。体重60kgとすると、Neostigmine 0.05mg/kg、Glycopyrrolate 0.01mg/kgです。

 更に当院では手術が終わる前にリバーサルを投与してしまって、手術終了後すぐに抜管しています。抜管前に心電図を外してしまってストレッチャーも横づけしてしまうのもびっくりしました。

 この筋弛緩薬方法では、麻酔導入時のみ投与、術中の追加投与なし、リバーサルは十分量ということなので、覚醒時に筋弛緩薬が残存していることは確かにありません。一般にはTOF ratio(T4/T1)が0.7が抜管の基準と考えられますが、その状態でも舌根に沈下を来たすことがあるので安全性は高いですね。吸入麻酔薬を主体とした全身麻酔方法なので可能なのかもしれません。(個人的にはTIVAが好きなのですが・・)吸入麻酔薬の使用方法にも特徴があるので、次回に紹介したいと思います。

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