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書庫ディスクロージャー

悪意の取得者(1)

有価証券届出書に限らず開示書類の虚偽記載を知っていた者(悪意の者)は、損害賠償を請求することができないと定められています。

悪意者の請求が排除される理由の説明には、2つあるようです。河本一郎=大武泰南『金融商品取引法読本』94頁は、悪意の取得者については、虚偽記載と損害との間に因果関係がないと説明しています。神崎克郎=志谷匡史=川口恭弘『証券取引法』359頁は、悪意の取得者は保護する必要がないと説明しています。私は「有価証券届出書の虚偽記載(2)」でこれを因果関係で説明しましたが、保護の必要性がないとの説明の方が妥当だと思い直しました。以下、その理由を述べます。

有価証券届出書の虚偽記載は、ふつう、有価証券の募集・売出しを成功させるために発行者に関する悪い情報(有価証券の評価を下げるような情報)を隠す目的で行われます。そこで、発行者が虚偽記載をせず真実を公表していたら、有価証券の引受人が現れず、そもそも募集・売出しが行われない蓋然性が高いのです。悪意者については虚偽記載と損害との間に因果関係が認められないといえるためには、悪意者は虚偽記載がなくても有価証券を取得するといえなければなりません。しかし、募集・売出しが行われなければ悪意者も有価証券を取得することができないので、悪意者については因果関係がないとは必ずしもいえないのではないでしょうか。また、取得者の善意・悪意が因果関係の問題であるとすると、たとえば、虚偽記載と損害との間の因果関係の立証を有価証券の取得者に課している規定(21条1項、21条の2第1項)については取得者が善意を立証しなければならないこととなって、立証責任に関する通説と反する結果となってしまいます。この結論は妥当でありません。したがって、悪意の取得者を排除する理由を因果関係の欠如に求めるのは適切でないと思います。

これに対し、虚偽記載を知っている者は、自己の判断で募集・売出しに応じないことができたのですから保護に値しないといえます。悪意者排除の理由を保護の必要性を欠くことに求めるのは、説明としては妥当でしょう。もっとも、悪意の者は常に保護する必要がないかといえば、例外もあるように思われます。たとえば、時価以下の価額で株主割当ての方法により株式の募集を行う場合、通常、株主としては募集に応じないと持株に生じた損失を回復することができないので、募集に応じることを経済的に強制されることになります。このとき、株主が虚偽記載を知っていたとしても、募集に応じないという選択肢が事実上存在しないのですから、善意の株主と同じように損失を被るのであり、保護の必要性が欠けるとはいえないように思います。資本市場が虚偽記載の情報を反映し、投資者が市場価格で取引せざるを得ないときは、投資者が騙されたかどうかが重要なのではなく、市場が騙されたかどうかが重要なのです。

そこで立法論としては、悪意の取得者にも保護が与えられる余地を残すべきでしょう。解釈論として、「悪意の取得者が保護されないのは保護に値しないからだから、保護に値しないと評価できる場合に限り悪意に該当する」といえるかどうかは、微妙でしょうね。
くろぬま
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