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(つづき) 判旨は、また、処分原告に1株1081円との差額をすべて損害と認めることは、結果的に最悪の売却選択をした株主に最大の損害賠償を認めることになると批判しています。たしかに、虚偽記載の公表後によって株価が下落したことが投資者の損害だと考える「市場下落説」に立つときは、虚偽記載の公表後に投資者が株式を売却したか否か、いつ売却したか等により、賠償されるべき損害の額が異なるという問題が生じます。投資者は株式の取得時に真の価格との差額分の損害を被ると考える「取得時差額説」ではこのような問題は生じないのであり、これは市場下落説の理論的欠点の1つであると思われます。そこで判旨は、原告の株式売却時期によって賠償額が異ならないように、相当因果関係の範囲を限定しようとしたのかも知れません。しかし、賠償額を均一にするために、投資判断の善し悪しを事後的に判定するのであれば、それは後知恵との非難を免れないし、次に述べるように却って自己責任の原則に反することになりかねないと思います。 自己責任の原則は真実の開示を前提としているから、市場価格が真実の情報を反映した後は自己責任の原則が妥当すると言えるでしょう。いま、虚偽記載の事実の公表直前(t1)の株価がX、虚偽記載の事実の公表により株価が下落し真実の情報を完全に反映した時(t2)の株価がY、その後に株価が下がり続け(または上昇して)、現在(t3)Zになったと仮定しましょう。市場下落説を前提とする場合、虚偽記載の後に株式を取得しt1〜t2に売却した者に自己責任を問うことはできないから、その1株当たりの損害額はXと売却価格との差額となります。t2〜t3に株式を売却した者には自己責任を問うことができるから、1株当たりの損害額はX−Yであり、その額は当該株式の売却価格に左右されることはありません。t2以降の株価の変動は自己責任の原則により投資者が負担すべきだからです。もしZ>Xのときは、当該株式を現在保有する投資者は利益を得ていることになりますが、それは自己責任の原則により正当に享受してよい利益ですから損害額の認定において控除されるべきでないのです。この意味で、保有原告の請求を棄却した本判決の結論こそ自己責任の原則に反するといえます。 本件において、いつ市場価格が真実の情報を完全に反映したと認めるべきかは、事実認定の問題ですから、ここでは詳細な検討を避けますが、虚偽記載と上場廃止決定を一体の事実とみることができる本件では、上場廃止決定が下された平成16年11月16日をt2、これを受けて形成された同日終値の1株268円をYと考えることもできるのではないでしょうか。 以上の話は、勤務校の紀要向けの原稿に書いたのですが、公表がかなり先になりそうなので、本件の最高裁判決が出る前にと思って、ここに載せました。
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