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みずほ証券が、平成17年12月にジェイコム株に係る誤発注の取消注文が適時に執行されなかったことから生じた損害の賠償を東京証券取引所に求めた事件の東京地裁判決が、12月4日に下されました。結果は、416億円の請求中、107億円余りの賠償が認められました。 この判決はさまざまな興味深い論点を含んでいますが、ここでは、裁判所が損害賠償請求を一部認容した論理を中心に紹介してみたいと思います(判決原文については、たとえば金融商事判例1330号16頁以下を参照)。中心となる論点は、債務不履行の有無、免責規定の適用、損害額の認定、過失相殺など民法に関するものなので、このブログでは検討は加えません。 【事実の概要】 平成17年12月8日、この日に東証マザーズ市場に新規上場されたジェイコム株は、上場に先立つ公募価格が1株61万円、上場初日は買い優勢の状態が続いており、67万2000円の買い特別気配が表示されていた。同日午前9時27分56秒、みずほ証券(以下、みずほ)の担当者は、ジェイコム株「61万円1株」と指示すべき売り注文を誤って「1円61万株」と入力し(本件売り注文)、東証の売買システムはこれを受け付けた結果、注文処理のルールに従って、売り注文の一部が1株67万2000円で成立した。みずほの別の従業員は、誤注文に気付き、午前9時29分21秒、取消注文を入力した。ところが、誤入力した売り注文に残数が存在していたにもかかわらず、全数約定済み(取消対象注文はすべて約定してしまったので取消しができない)と判定されたため(これは、いわゆるバグであった)、取消しは実行されなかった。この間、1822株の売り注文が約定された。 その後も、常に更新値幅以内に買い注文が残存する状況であったため、3秒ごとの自動執行が繰り返されることにより、値幅制限の下限である、57万2000円まで、順次、値を下げながら連続対当していった。その間は、付合せタスクが作動していない時間が全くなかったので、取消注文が入力されても、常に取消待ちとされたため、取消しが実行されなかった。さらに、値幅制限に達した後も、付合せタスクが作動していない時間が1秒未満であったため、この間隔に取消注文が入力されない限り、当該取消注文は取消待ちとされ、取消しは実行されない状況にあった。みずほは、午前9時33分17秒から午前9時35分にかけて、取消注文ないし変更注文を発したが、上の理由から取消しが実行されることはなく、注文が約定されてしまった。 みずほは、午前9時35分33秒移行、ジェイコム株につき、自己勘定による買い注文を開始し、午前9時37分17秒までに、合計46万7688株を自己対当させ、その結果、本件売り注文は板から消滅した。本件売り注文がすべて約定した時点で、本件銘柄は約14万株の売り越し状態になったが、これはジェイコム株の発行済み株式総数1万4500株を大きく上回り、みずほが決済に必要な株式を調達することは不可能であった。そこでクリアリング機構は、いわゆる強制解合い(とけあい)を適用し、株式ではなく現金で決済させることにした。 以上の経緯から、みずほが、東証のコンピュータシステムに瑕疵があり、また、東証が売買停止措置等を取らなかったために、注文取消しの効果が生じなかったとして、東証に対し、売却損、取引参加料金、クリアリング機構清算手数料、及び弁護士費用相当額の合計415億7892万余円、ならびに遅延損害金の支払いを求めて提訴したのが本件です。 判決を理解するためには、次の事実を確認しておくことが重要と思われます。
第1に、被告は東証のみであり、売買システムを開発・納入した富士通は被告とされていないだけでなく、訴訟参加もしていないこと。 第2に、61万株が1株1円で売れてしまったわけではなく、値幅制限と付合せルールに従って処理されていること。 第3に、みずほは誤発注から生じた損害をすべて賠償せよと主張しているのではなく、取消注文が実行されなかったことによって生じた損害の賠償を求めていること。 |
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