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GSの反論のうち、投資家の損失は市場の崩壊によって生じたものであり、主張されている不実表示のせいではないという点は説得的でしょうか。この反論は一見もっともなのですが、成り立たないでしょう。もしPaulsonの関与をIKBが知っていたら本件取引をしなかったであろうとの関係が認められるときは、開示がされていたらIKBは取引をしなかったでしょうから損失を蒙ることもなかったからです。ちょうど、説明義務に違反するような勧誘によって有価証券を取得させた者は、説明の対象と無関係の原因から生じた損失をも賠償する責任があるのと同じ理屈です。
最後に、同じ事件が日本で起きたらどのように処理されるでしょうか。
SECは本件で、違反行為の差止め、利益の吐出し、及び民事制裁金の賦課を裁判所に求めています。差止めに当たるのが、金融商品取引法192条です。アメリカでは過去に違反行為を行った者に対しても、違反行為が繰り返される蓋然性があれば、差止めをかけることができます。金商法192条では、違反を行い、又は違反を行おうとする者に対して、行為の禁止または停止を命ずることができるとしており、過去の違反に禁止命令を求めることができるかどうかが明らかでありません(行おうとする者に含まれるかどうか、ですね)。
利益の吐出しは、衡平法上の救済手段で、現行金商法にはありません。民事制裁金に相当するのは課徴金です。したがって、日本で行える最も近い措置としては、192条で差止めをかけつつ課徴金をとることだと思われます。
次に、違反の根拠条文ですが、1933年法17条(a)項に相当する条文を金商法に求めるとすれば、虚偽又は誤解を生じる目論見書の使用を禁止する13条4項、虚偽又は誤解を生じさせる(目論見書以外の)表示を禁止する13条5項でしょうか。両項の違反には罰則が適用されます。しかし、これらば募集又は売出しに限って適用されるため、本件のような私募には適用されません。
1934年法10条(b)項及びrule10b-5に相当するのは金商法157条ですので、本件の募集文書の記載が同条2号の「重要な事項について虚偽の表示があり、または誤解を生じさせないために必要な重要な事項の表示が欠けている文書その他の表示」に当たるのかどうかが問題になるでしょう。もっとも、157条には罰則しかなく、課徴金の対象とされていません。
旧取引所法に由来する(したがって、米国法継受でない)158条(風説の流布・偽計の禁止)は、課徴金の対象となっています。この場合、「偽計」とは何かが問題となり、結局、プロ同士の取引で一方が他方を騙したとはどういう事態を言うのかが問われることになると思われます。
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だいぶ日数がたってしまいましたが、先生コメントを読み返してみてだいぶすっきりとしてきました。
CDSのような取引の場合に、誰がカウンターパーティなのかというのは重要な情報であるということはその通りで、今回の場合、実質的な取引相手(話を持ち込んだ者)が明示されずに、商品が販売されたことが問題ということですね。
持ちかけてきたのがPaulsonだから問題であるとした場合、GSがたまたま持っていたポジションから商品を組成した場合であれば、そのポジションを開示すれば足りるということでしょうか。
問題となるのは、誰がもちかけてきたかということに集約されるのでしょうか。
また、説明義務に違反があったとしても、GSやPaulsonがInsiderとして重要な情報を得ていたのであるならともかく、GSに「欺もうの意図(scienter)」があったとまでは言えないのではないか、という気がしますがどうでしょうか。
[ ok3403 ]
2010/6/18(金) 午前 11:51
誰が持ちかけたかが開示範囲を決めるポイントではないかというのは、私の考え(感想)に過ぎません。事案の紹介では省略しましたが、Paulsonがエクイティ部分を持っているとGSが表示したとか仄めかしたこともSECは主張していますから、そこが決め手になる可能性もあると思います。
scienterは訳しにくい語で、詐欺だから「欺もうの意図」と私は訳していますが、重過失(無謀、recklessness)がこれに含まれるかどうかについて下級審は分かれています。GSの担当者は反対側にPaulsonが居ることは認識していたのですから、GSの担当者の認識をもってGSの認識とみることができるならば、scienterありとされるでしょうね(最後の点は争いの余地があります)。
[ くろぬま ]
2010/6/18(金) 午後 9:15
説明ありがとうございます。
本件は非常に興味深いのでこれからも気をつけて行きたいと思います。でも、多分に政治的なものも感じられますね。
[ ok3403 ]
2010/6/24(木) 午後 9:45