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今年の私法学会(於北海道大学)の商法関係シンポジウムは、商法改正と金融商品取引法の2つあって、後者では私も報告をします。その資料が商事法務の8月25日号に掲載されています。
私のテーマは「投資者保護のための法執行」で、①金商法を投資詐欺事件の防止と被害者救済に役立てるために、法の適用範囲について、解釈論上工夫できる点はないか、②課徴金を被害者救済に役立てるためには、どのような法整備が必要か、③違反行為の早期の発見と是正のためには、どのような法整備が必要かという3つの問題を論じています。メインは②で、要するに「課徴金を被害者に分配せよ」という話です。今年1月のアメリカ出張や消費者庁の研究会での議論の成果を生かせればよいなあと思って、このテーマを選んだのですが、あまり充実したものになっていません。具体的な制度の姿を示すのは、一人の研究者の力ではなかなか難しいですね。
最近の私法学会では、資料を要約して発表するスタイルは流行らないので、資料に書いたこと以外に何を付け加えるか悩んでいるところです。そのようなもの(資料に書かなかったこと)として、2つの論点を知りましたので、役に立つか分かりませんが、以下にメモしておきます。
1つは、証券取引等監視委員会が、187条の権限を行使することを検討しているという話を聞いたことです。緊急差止命令の申立(192条)は、アメリカでは頻繁に用いられていますが、日本では適用例がありません。シンポジウム資料では192条の利用ももちろん論じているのですが、金商法は、192条の申立権を金融庁長官から監視委員会に委任するとともに(194条の7第4項2号)、その権限の行使を判断するための調査権限を監視委員会に委任しています(同項1号)。これにより、緊急差止命令の申立をするかどうか判断するために、監視委員会は、①関係人・参考人の意見聴取、②鑑定人による鑑定、③帳簿書類等の提出命令、④財産状況の検査をすることができます(187条)。この調査権限は、調査の対象が金融商品取引業者や課徴金の対象である違反行為の違反者に限定されていないところに強みがあります。つまり、無登録業者や不公正ファイナンスの関係者に対する調査がやりやすくなるのです。また、監視委員会がこの権限の行使を検討しているということは、192条の利用を検討しているということでしょう。
もう1つは、平成22年改正により、金融庁に金融商品取引業者の破産申立権が認められたことです(更生特例法490条)。従来は、平成10年改正により投資者保護基金制度を導入した際、倒産手続きにおいて投資者保護基金に投資者保護のための一定の権限を与えたことから、投資者保護基金に加入している第一種金融商品取引業者についてのみ金融庁に破産申立権が認められていました(もっとも、投資者保護基金の役割と金融庁の破産申立権との間に論理的な繋がりがあったとは思えませんね)。他方、ファンドの販売業者(第二種金融商品取引業者)やファンドの運用業者(投資運用業者)において詐欺的な行為が行われ、金融庁が行政処分を行った事案について、業者がて破産状態にある場合には、一刻も早く破産手続を開始して業者の財産を管財人の管理下に置くことが被害拡大防止のために有効であることから、破産申立の対象を第一種金融商品取引業者から金融商品取引業者全般に拡大したのです(立案担当者の解説)。
アメリカでは、緊急差止命令(インジャンクション)の付随的救済として、財産の凍結が認められていることは前に書いたとおりです。この改正は、被害者救済のために違反行為者の財産を維持することについて金融庁に一定の役割を負わせたものと評価できるでしょう。わが国において、違反者の財産を凍結する手段が事実上破産申立等に限られるとすると、金融商品取引業者以外の者(無登録業者)についても金融庁に破産申立権を与えたらどうかという議論が次に来るように思われます。
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