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曲解されたり、勘繰られたりするのではと、いつも及び腰になってしまうのですが、たまには時事問題にも触れましょう。
西友の(元)社外取締役によるインサイダー取引疑惑が報じられました。事例は比較的単純そうですが、法制審議会における会社法改正の議論にも影響を与えかねない(関係者には)衝撃のニュースでした。
朝日新聞社会面には、上村達男教授と山口利昭弁護士のコメントが載っていました。「社外取締役が証券市場で不正をするのは、警察官が泥棒するのと同じだ」(上村教授)、「選任した会社は、個人の規範意識のせいだけにせずに、内部統制の欠陥問題として認識しなければならない」(山口弁護士)
どちらも、「うまいなあ」と思います。読者への訴求力があるし、自分にはとても真似できないと感心しました。と同時に、自分だったら、迷ってしまい言い切ることができないと思いました。以下、「それは、なぜか」という話をします。
社外取締役がインサイダー取引をするのは、警察官が泥棒するのと同じでしょうか。インサイダー取引の防止は内部統制の対象でしょうか。この2つは同じ問いです。そして、これらに答えるのは、なかなか難しいのです。
会社関係者が接する内部情報は、会社の事業に関する情報とそれ以外の情報の二種類に分けることができます。前者については、インサイダー取引の有無に拘らず、会社は情報管理を行う必要があるでしょう。たとえば、M&A業務を行っている証券会社で、社員がM&A情報を利用してインサイダー取引を行っていたとしたら、会社は情報管理についての内部統制の不備を問われるでしょう。しかし、今回のケースは、対象会社の買収に関する情報であり、対象会社の事業に関する情報ではないので、内部統制の対象にならないのではないでしょうか。たしかに、買収提案に取締役会は対応する必要がありますが、それは、株主に対する関係から生じる事柄であり、会社の行っている事業そのものではありません。
また、インサイダー取引は個人の犯罪であり、それによって、必然的に会社が損害を被るとは言えません。インサイダー取引が取締役の忠実義務違反に該当するときも、会社に現実に損害が生じることは少ないでしょう。今回のケースは、公開買付けを行うことについての決定という外部情報なので、(もしあるとしても)損害を受けるのは買付者であって対象会社ではありません。ですから、会社は自らが損害を蒙るのを防止するために、(本件のような)インサイダー取引を防止する必要はないと言えそうです。このように考えると、インサイダー取引がされないように監視するのは社外取締役の役目ではないし、(本件のような)インサイダー取引の防止は内部統制の対象でないことになりそうです。
もっとも、そうも言い切れないところが難しいのです。会社の従業員や取締役がインサイダー取引を行い、それが発覚すれば、会社の評判が落ち、業績が悪化するかも知れないというのが、日本の現状でしょう。インサイダー取引を防止できなかったのは内部統制に欠陥があったからだと考えて、取引先が取引を拒絶するかも知れません。そうだとすると、インサイダー取引は個人の犯罪だからといって放っておくわけにも行きません。私生活でスキャンダルを起こさないというのが取締役の善管注意義務の内容であるという議論さえ、成り立ちうるのです。さらに、インサイダー取引の悪性を流動性の低下に求める考えに立てば、インサイダー取引が発覚した銘柄は流動性が低下するから、会社に損害が生じていなくても、株主に株価下落という損害が生じているといえ(株主価値の低下)、そういう事態を引き起こさないようにするのが内部統制だともいえるのです。
同じ議論は、取締役の会社に対する義務と責任というレベルでも成り立ちます。旧商法時代は、責任原因の一つである「法令定款違反」の「法令」の範囲が議論されていました。今でも具体的な法令の違反は任務懈怠に当たると解されていますから、個人に適用されるインサイダー取引規制が「法令」に含まれるかという問題があるのです。もっとも、私は法令違反に当たるか否かを問う必要はなく、任務懈怠=善管注意義務違反いっぽんで良いと考えているので、個人の犯罪が会社の評判を落とす蓋然性(世のかなの風潮がどうなっているか)とその認識可能性の問題に還元されるのではないかと思っています。
ながながと書きましたが、まあ、こういうことは新聞では書けないので(テレビではなおのこと)、識者のコメントは一般人に胸にすっと落ちるのが一番ですね。
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インサイダー取引







お世話になっております。
法的な問題を一般の人たちにもわかりやすく説明するというのも学者の先生方の役割なのでしょうが、簡潔に言い切るのはなかなか難しく、誤解を生じやすいということですね。
ところで、本件に限って言えば、ウォルマートは2002年ころから西友と資本提携を始め、2005年には子会社化したようです。
そうなると、「親会社の戦略=グループの重要な情報」でしょうから、西友にとってもTOBの情報は会社の事業に関する情報に準じたものとなり、内部統制の問題と言うこともできなくはない気がしますが、いかがでしょうか?
[ ok3403 ]
2010/11/12(金) 午後 4:45
仰るとおり、このケースに限って言えば、社内問題と捉えることもできそうですね。
[ くろぬま ]
2010/11/16(火) 午後 2:25