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雑誌「アメリカ法」からの依頼で、判例紹介を掲載するためにアメリカの最高裁判決を読んでいます。
対象は、Morrison v. National Australia Bank Ltd., 130 S. Ct. 2869 (2010)です。この判決は、1934年証券取引所法の詐欺防止条項の域外適用について連邦最高裁が初めて判断を下したものです。しかも、それまで10条(b)項を域外適用してきた第2巡回区の判断を否定して、§10(b)の域外適用は認められないとした(ある意味で)画期的な判決です。さんざん域外適用してきて、今更なんだよという気がしないでもありませんね。
事案は次のようなものです(文字の大きさが変わり、読みにくくて済みません)。
1998年、ナショナル・オーストラリア銀行(以下、N銀行という)は、フロリダ州を本拠とし住宅ローン債権回収事業を営むホームサイド社(以下、H社という)を買収した。N銀行の普通株式は、アメリカの証券取引所には上場されていなかった。2001年、N銀行はH社の資産を減損処理せざるを得なくなったため、N銀行の株価が下落した。減損処理の前にN銀行の普通株式を購入したオーストラリア人原告が、証券取引所法10条(b)項、20条(a)項、およびSEC規則10b−5条に基づいて、N銀行、H社、および両会社の役員らを訴えた。地方裁判所は、事物管轄がないとして訴えを却下し、第2巡回区控訴裁判所もその判断を是認した。原告が上告。
判旨はここには書きませんが、最高裁は事物管轄はあるとした上で、原告に対する関係で10条(b)項および規則10b−5は適用されないとしました。判決は、第2巡回区が採用してきた行為・効果テスト(国際的な詐欺的行為のうち、アメリカで一部の重要な行為が行われるか、アメリカの証券市場または投資者に実質的な影響があれば10条(b)項を適用できる)を否定し、新しく取引テスト(transactional test)を採用しました。その内容は、「国内の取引所に上場された証券の取引、および、それ以外の証券の国内取引にのみ、10条(b)項が適用される」というものです。
この部分を読んで真っ先に浮かんだ疑問は、判決が、テストの前段部分で、上場証券の取引所を通じた取引と言わずに、上場証券の取引と言っている点です。これを素直に読めば、アメリカ国内の上場証券を海外でアメリカの取引所を通じずに取引しても10条(b)項が適用されることになりそうです。しかし、NYSEの上場証券を日本でAがBから買うときにCが詐欺をしたらアメリカ法が適用されるというのは域外適用に他ならないでしょう。最近出た判決なので評釈はアメリカでもほとんどないのですが、Painter他の書いた論文(SSRNから入手可能)では、判旨が矛盾していると指摘しています(ただし、結論としては、上場証券も国内取引に限って10条(b)項が適用されると読む)。この事件は、取引テストの後段が適用されるものなので、取引テストの前段は事件の解決には影響はないのですが、域外適用についての最初の判例がこんなんで良いのでしょうか。
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ディスクロージャー



