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「アメリカ法」は日米法学会の由緒正しい機関誌で、いい加減なことは書けませんし、判例紹介は4000字なので、そこで書けないような思い付きをここに書き留めておきます。
Morrison事件では、N銀行の普通株式はオーストラリア証券取引所に上場され、そのADR(預託証券)がNYSEに上場されていました。裁判所はこの事実を認識しており、したがって、判旨によると、ADRを(アメリカ国内)で取得した投資家は、rule10b-5訴訟を提起できたと思われます。
このような重複上場の事例で、ADRの取引により損失を蒙った者はアメリカ法による保護を受け、元株の取引をした者が保護を受けられない理由は何でしょうか。
判決は、アメリカと同じように、他の国も国内の証券取引所や証券取引を規制しているはずであり、そこでは、どんなディスクロージャーが求められるか、どんな損害賠償が認められるか、訴訟においてディスカバリーが認められるか、クラス・アクションが認められるか、弁護士費用の賠償が認められるかといった点において、規制内容が異なる。だから、それぞれの国の法が適用されるべきだと述べています。つまり、原告がオーストラリア取引所で元株を取引したのならば、オーストラリア法が適用されるべきだというのです。この結論はもっともですが、それは、「違法行為がオーストラリアで行われたからであって、取引がオーストラリアで行われたからではない」のではないでしょうか。
本件で原告は、N銀行は、子会社の資産を過大評価することにより、アメリカとオーストラリアの法定開示やプレスリリースに虚偽の記載をしたと主張しています。そうすると、資産の過大評価がどこで行われたにせよ、オーストラリアにおける取引で生じた損害はオーストラリアにおける違法行為(虚偽記載)から生じたと考えるのが自然です。また、この場合には、判決が危惧するような法の衝突が起こっています。そこで、オーストラリアで上場されている証券についての虚偽記載にはオーストラリア法が適用されるべきなのです。
N銀行のADR(米国預託証券)が日本で取引された場合はどうでしょうか。N銀行のADRは日本市場に上場されていないので(実は、当時、元株が上場されていたのですが、ここでは無視します)、違法行為は日本では行われていません。日本国内における外国証券の取引に日本法は適用されますが、法定開示書類の虚偽記載がないので、日本の金商法は(157条が適用される可能性があることを除けば)適用されません。この場合には、判決が危惧するような法の衝突はないのです。そうだとすると、この場合にrule10b-5が適用されるか否かは、日本の投資家をアメリカ法で保護しなければアメリカの上場証券の市場の公正性を確保できないかどうかで決まります。第2巡回区の判例法理をきちんと勉強していませんが、これが効果テストではないでしょうか。実は、このケースは、前回述べた「アメリカの証券取引所に上場されている証券が国外で取引される場合」なのです。それについて、rule10b-5を一律に適用するのも、その適用を一律に排除するのも妥当でないことが分かります。
以上の検討からは、やはり行為と効果をテストする第2巡回区の法理の方が、Morrison判決よりも妥当であるように思えて仕方ありません。 日本に置き換えて考えてみましょう。海外で上場していない日本の上場株式の発行者について、有価証券報告書に虚偽記載があり、海外で株式を取得した投資家がいたとします。その投資家は、21条の2や24条の4の請求権を有するでしょうか。日本の市場の公正性を確保する観点からは、請求権を認めるべきです。ただし、金融商品取引法の地理的適用範囲が国内に限られていることから、海外で取得した投資家にこれらの条文は適用されないと言う人がいるかも知れません(もっとも、私は、海外での違反行為に日本法を適用すること(内から外への拡張)は地理的適用範囲によりできないが、外からの請求を認めることは何ら問題ないと考えています)。
なお、Morrison判決は、取引を基準とする理由として、10条(b)項は詐欺的行為を処罰するものではなく、「証券の売買に関する」詐欺的行為のみを処罰するものであることを挙げています。こじつけの理由に感じられますし、、証券の売買に関する詐欺だからといって、証券の売買が行われた場所で行われるとは限らないですね。
さらに、私が取引基準を疑問に思うもう一つの理由は、これでは10条(b)項とrule10b-5が適用される多様な違法行為の類型の違いを無視して、一律に投資家による取引が行われた場所を基準とすることになってしまうからです。前回書いたように、相対取引の当事者間で詐欺が行われる場合は取引の場所を基準とすることも良いでしょう。しかし、法定開示書類の虚偽記載にrule10b-5を適用するときには、本来、法定開示書類の虚偽記載に適用される制定法上の民事責任規定の適用範囲を念頭に置いて、rule10b-5の域外適用の可否を考えるべきです。結局、違法行為の類型に応じて域外適用の可否を考えることが、第2巡回区の法理に繋がるのでしょう。
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ディスクロージャー



