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いわゆる暴利行為に関する判例は、他人の窮迫軽率または無経験を利用して著しく過当な利益の獲得を目的とする法律行為を公序良俗違反として無効としています(大判昭和9・5・1民集13巻875頁)。つまり、判例は、①他人の窮迫軽率・無経験につけ込むという主観的要素と、②著しく過当な利益の獲得という客観的要素の双方を充たす行為のみを無効としているのです。そこで、判例法理に基礎を置く本条1項も、但書において、無登録業者の側が、売買契約等の締結が主観的要素と客観的要素のいずれかを欠くことを立証したときには、売買契約等は無効にならないとしました(そう、説明されています)。
 
本条1項但書は、判例の①②を有価証券の売買取引に即して明文化したものといえます。無登録業者等が立証すべき第一の選択的要件は、売付け等が顧客の知識、経験、財産の状況、および対象契約を締結する目的に照らして顧客の保護に欠けるものでないこと、すなわち適合性の原則(40条1号)に違反しないことです。適合性の原則(狭義)とは、顧客の知識、経験、財産の状況、契約締結の目的に照らして顧客に適合しない商品を勧誘してはならないという原則です。適合性の原則は登録業者に適用される規制ですが、無登録業者であっても勧誘行為を業として行う以上はこれを守るべきであると説明されています。ここは、むしろ、適合性の原則は他人の窮迫軽率・無経験につけ込むという要件を現代的に表現したものであって、適合性の原則違反は暴利行為の一要件であると説明すれば足り、金商法で禁止されていることを「かませる」必要はないでしょう。適合性の原則違反が金商法違反であることを強調すると、適合性の原則が適用されない特定投資家が相手方であっても171条の2が適用されることをうまく説明できないように思われるのです。
 
前にも述べましたが、無登録業者による未公開株の勧誘に限って契約を無効にすると考えると奇異な感じがするのですが、適合性の原則に違反して対価の不相当な契約を締結することは公序良俗違反だから無効であると考えれば、理解できます。金商法の業規制に私法規定を置くことも、64条の3(外務員の代理権の擬制)に例があります。これも、それまでの判例法を明文化したものでした。
 
適合性の原則違反の例として、たとえば、顧客が未公開株へ投資をする意欲を有していても、その財産が乏しく未公開株のリスク(公開できるか否か分からないリスク)に耐えられない場合には、当該顧客に対する売付け等は適合性の原則に違反するといえるでしょう。反対に、顧客が未公開株の取引に詳しく、リスクに耐えるだけの資産を持ち、上場の見通しの立たない未公開株であっても長期的投資の観点から購入する意欲を有していたことを無登録業者等が証明したときは、売買契約は無効とされません。
 
無登録業者等が立証すべき第二の選択的要件は、売付け等が不当な利得行為に該当しないことです。不当な利得行為とは、判例のいう「著しく過当な利益の獲得」とほぼ同義でしょう。不当な利得行為に該当するか否かは、仲介行為ではなく売買契約等について判定されます。そして、顧客が未公開有価証券を取得するために支払った金銭の総額と顧客が得た当該有価証券の経済的価値とを比較して、前者が後者を大きく上回る場合に、当該売付け等は不当な利得行為に該当すると解されます。顧客が仲介者である無登録業者に手数料を支払った場合には、当該手数料は顧客が支払った金銭に含められるべきです。ですから、未公開有価証券の売主は、自己が受け取った売買代金と有価証券の価値とが釣り合っていても、買主が無登録業者に支払った手数料を含めて、買主にとって売買が「不当な損失行為」になっていないことを証明しなければなりません。
 
顧客の支払総額と未公開有価証券の経済的価値とがどれ位近接すれば不当な利得行為に該当しないことになるかは、最終的には裁判所の判断によりますが、顧客が得た有価証券の経済的価値は、売買等が行われた時点において、当該有価証券の上場の見込みを勘案して客観的に判断されますから、上場の見込みについて無登録業者に詐欺があったり顧客に錯誤があったりした場合には、支払額と客観的価値とが大きく乖離しているのが普通でしょう。売買契約・取得契約が有効であるとの反証は、勧誘行為をした無登録業者、売主、対象契約の当事者である発行者のいずれが行っても構いません。
 
民法上の詐欺無効と異なり、顧客に重大な過失があっても無効の主張は妨げられません。それでは、無登録業者等は売買契約等の無効を主張できるでしょうか。本条は、無効の主張権者を顧客に限定していませんので、そのような解釈を許すように読めます。しかし、①本条は、顧客保護のために契約を無効とするものであること、および、②もし、無登録業者等からの無効の主張を認めるとすると、上述のように、暴利行為の主観的要素又は客観的要素を欠くために契約が有効であるとの反証を顧客に認めるべきであるのに、そのような規定が置かれていないことから、本条による無効は顧客に限って主張することが認められると解されます(立案担当者の説明も同趣旨です)。無効の主張権者が顧客に限られるとすると、それは取消しに似てきますが、本条が顧客に契約の取消権を認めるのではなく契約を無効とする構成を採用したのは、顧客保護の論拠を公序良俗に求めたからだと思われます。
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