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久しぶりの更新になります。もう言い訳を考え付かないほど、更新の間隔が拡がってしまいました。開き直って、マイペースで更新することにします。
今回から、公開買付規制違反の民事責任規定について解説していきます。
公開買付けに関して金融商品取引法が定める民事責任規定は、①公開買付関係書類の虚偽記載に基づく損害賠償責任を定めるもの、②届出違反の公開買付け、公開買付説明書の虚偽記載および交付義務違反から生ずる損害賠償責任を定めるもの、および③公開買付けの取引規制違反から生ずる損害賠償責任を定めるものに大別されます。これらは平成2年の改正により設けられた規定でして、それまでは民事責任規定はありませんでした。もちろん、学説は法の不備を指摘し、不法行為責任が成立することを指摘していました。
①は発行開示書類の虚偽記載、②は無届募集、目論見書の虚偽記載および交付義務違反に対応するものですが、③は公開買付けの規制に特有のものであり、投資者の損害の填補よりも違反の抑止を目的とした規定であると理解することができます。
【公開買付関係書類の虚偽記載等】
公開買付開始公告、公開買付届出書、公開買付説明書、または対質問回答報告書に、重要な事項について虚偽の表示があるか、表示すべき重要な事実が欠けているか、誤解を生じさせないために必要な重要な事実の表示が欠けている(以下、虚偽記載等という)場合、公開買付者は、公開買付けに応じて株券等の売付け等をした者に対して、損害賠償責任を負うと定められています(27条の20による18条1項の準用)。ただし、売付者が売付け等の際に記載が虚偽であり、または欠けていることを知っていたときは、損害賠償責任は発生しません(同上)。募集・売出しの際の有価証券届出書に重要な虚偽記載等があった場合の発行者の責任(18条)に相当する責任です。本条は、虚偽の情報によって株券等の売付けを行った投資者を保護するために設けられたものであり、公開買付者の責任が無過失責任である点で不法行為の特則となっています。
本条を利用できるのは売付者のみです。公開買付関係書類に虚偽記載があったために、公開買付への応募をしなかった者、市場で対象株券等を売買した者は、本条に基づいて公開買付者の責任を追及することはできません。そして、他に特別規定も定められていないので、その者がもし虚偽記載によって損害を被ったのであれば、公開買付者やその関係者に対して不法行為責任を追及することになるでしょう。
公開買付届出書には対象会社の状況が記載されており、この部分は公開買付者が対象会社の法定開示書類を基礎に記載を行うとされています。たとえば対象会社の有価証券報告書に重要な虚偽記載があり、その結果、公開買付届出書に重要な虚偽記載がある場合には、本条によって、公開買付者は株券等の応募者に対して無過失の損害賠償責任を負うことになるのです。この結果は一見すると公開買付者に酷であるように思われますが、応募者に損害が発生しているときは、虚偽記載によってあるべき価格よりも低い公開買付価格で買付者が株券等を取得していると考えれば、公開買付者に無過失の損害賠償責任を負わせることは不当ではありません。
責任を負うのは公開買付者のほか、公開買付者と共同買付けの合意等をしている特別関係者(27条の2第7項1号)、公開買付者の取締役、会計参与、執行役、理事もしくは監事、またはこれらに準ずる者です(27条の20第3項)。公開買付者以外の者は、相当な注意を用いたにもかかわらず記載が虚偽でありまたは欠けていることを知ることができなかったことを証明したときは、責任を免れます(同条項)。これらは、有価証券届出書の虚偽記載にかかる発行者の関係者の責任(21条)に相当する規定です。
本条には、損害賠償額について特別規定が置かれている(27条の20第2項)。公開買付届出書または公開買付説明書に重要な虚偽記載等があった場合であって、公開買付者が、公開買付終了後に株券等の買付けをする契約があるにもかかわらず、公開買付届出書または公開買付説明書にその旨を記載することなく、公開買付終了後に一部の者(A)から株券等の買付け等をしたときは、売付者の損害賠償額は、(Aからの買付価格−公開買付価格)×売付者の応募株券等の数となります。按分比例方式により売付け等ができなかったものは応募株券から除かれます(27条の17第2項参照)。
この特別規定は、買付者とAとが契約で定めた買付価格を、虚偽記載等がなく真実が明らかになっていたら買付者が買付価格としたであろう価格(想定価格)とみて、実際の買付価格と想定価格との差額を賠償の対象とするものといえるでしょう。しかし、法18条が前提とする原状回復の考え方を公開買付けに及ぼすのであれば、上記特別規定が示す事情の存否にかかわらず、現在の株券等の市場価格(市場価格がないときは処分想定価格)と公開買付価格との差額を賠償させるべきではないでしょうか。
特別規定が適用されない場合には、売付者が虚偽記載等によって被った損害の範囲と額を立証しなければなりません。
【株券等を応募した者が被る損害】
公開買付関係書類に重要な虚偽記載があった場合に、公開買付けに応募した株主は虚偽記載と損害との因果関係をどのように立証することができるかを考えてみましょう。
第1に、対象会社の株価を引き下げるような虚偽記載がされていた場合には、応募株主は、虚偽記載がなければより高い公開買付価格が設定され、より高い価格で株券等を売付けることができたと主張することが考えられます。この場合には、真実が公表されれば対象会社の株価が上昇すると想定されますが、一般の相当因果関係理論からすると、応募株主としては、それでも公開買付者が公開買付けを実施したであろうこと、当該公開買付けにおける公開買付価格、当該公開買付けにおいて応募株主が公開買付者に売付けることができたであろう株式数を、主張・立証しなければならないことになるでしょう。
第2に、第1と同じ状況で、応募株主は、虚偽記載がなければ自身が公開買付けに応募することはなく、その結果、公開買付後に保有する対象株式の市場価格の上昇等によって高い価値を実現できたと主張することも考えられます。この場合に虚偽記載がなければ応募株主が高い株価を実現できたといえるためには、応募株主は、虚偽記載と自己の応募との間の因果関係、自己が応募しなかった場合の公開買付けの成否、公開買付後の残存株式の市場価格などを主張・立証しなければならないことになるでしょう。
第3に、買付けの目的や公開買付者の状況に虚偽記載があり、もし虚偽記載がなく真実が開示されていたら公開買付けは行われなかったか、行われたとしても成功しなかったとして、その後の市場価格の上昇によって保有する対象株式について高い価値を実現できたと主張することも考えられます。この場合には、応募株主は、虚偽記載と公開買付けの成否との間の因果関係、公開買付けが行われなかった場合(あるいは不成功に終わった場合)の対象株式の市場価格などを主張・立証しなければならないことになるでしょう。
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