|
論文の3つ目のテーマとして「ディスクロージャーの効用と限界」と題し、具体的には役員報酬の個別開示(平成23年内閣府令改正)と第三者割当増資(平成21年取引所規則と内閣府令の改正)を取り上げました。
役員報酬の個別開示は、金融審議会のスタディグループ報告を受けてのものであるとされているが、同報告は報酬の個人別の開示までは求めていません。役員報酬の個別開示は政治的判断で導入されたものといえるでしょう。
会社法でなかなか実現しなかった役員報酬の個別開示が、上場会社の役員(取締役・監査役・執行役)に限って、かつ1億円以上に限ってではあるが、法律ではなく内閣府令の改正によってあっさり実現してしまったのです。注目したいのは、情報が投資者の投資判断にとって重要であるという理屈さえ立てば、金融商品取引法は開示会社または上場会社に対してどんな開示でも要求できるというディスクロージャーの強制力です。
他方で、このような強制力に鑑みると、どのような開示を求めるかは、それによって害される利益との衡量のなかで慎重に決定されなければなりません。役員報酬の個別開示との関係で衡量されるべき利益はコーポレート・ガバナンス、換言すると株主の利益でしょう。論文では、1億円以上の役員報酬の開示が、上場会社に役員報酬の引下げを促したり、有能な経営者の採用を難しくすることを通じて株主の利益を害さないかが慎重に検討されなければならないと指摘しました。
第三者割当増資の開示については、内閣府令と取引所の上場規則を説明し、両者を比較しました。前者は開示ルール、後者は行為規範となっており、内容も後者の方が発行者に厳しいものとなっています。そこではハード・ローとソフト・ローの役割分担が行われているとみることもできますが、上場会社等の発行者に対して金融商品取引法では開示規制しか及ぼすことができないというのは当然のことかという問題提起をしました。
この問題については、金融商品取引法と会社法の役割を画すべきであり、上場会社の株主保護は会社法の領域に属する問題であるというという声をよく聞きます。しかし、私自身は、金融商品取引法は行政処分や課徴金によって法を執行することができる点で上場会社の株主に適切な救済を与えることができるから、金融商品取引法の利用を一概に否定すべきではないと考えています。上場会社は既に金融商品取引法上の行政処分の対象とされているのであり、立法すれば、発行者の役員の解任命令権を金融庁長官に付与することさえできるでしょう。また、たとえば、希釈化率300%超の第三者割当を金融商品取引法上禁止して、証券取引等監視委員会が192条に基づく緊急差止命令を申し立てることができるようにすれば、これを取引所の自主規制のみに委ねて上場廃止とするよりも株主の保護を図ることができるようになります。
前半では、効用が強いので規制のデザインを慎重にすべきであるといい、後半は限界を超えて強い効用を大いに利用すべきであるといっており、結論がバラバラですが、この辺りは論文というよりもエッセイになっていると反省しているところです。
|
ディスクロージャー



