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国際法学会(ILA)の大会でブルガリアのソフィア(=写真)に来ています。2年前はハーグでした(同じような記事を書きました)。会場はPalace of Justice(裁判所=写真)で、私の属する委員会の報告書では金融機関の破たん前の処理と店頭デリバティブの規制を扱っています。原文はここhttp://www.ila-hq.org/en/committees/index.cfm/cid/23をご覧ください。報告のうち、店頭デリバティブの規制については、日本でも法整備が進行しているので、大会当日に日本の状況を報告しました。その際にメモとして作った報告書の要約を掲げておきます(EUとUSの規制の概要が掴めると思います)。(例によってフォントの変更はご容赦)
第10暫定報告書
Part 1 Overview
Part 2 Global OTC Derivative Regulation
1989年当時、デリバティブの主役はオプションと先物取引だった。それ以来、デリバティブは質、量ともに増加し、1日当たりのデリバティブ契約の想定元本は現物の株式・社債の取引高を超えるまでになっている。
毎年のように、利用者や投資者にとってデリバティブの潜在的な危険を認識させる事件が起きている。銀行規制当局は、1990年代初頭から、銀行に洗練されたリスク管理とリスク評価のテクニックを実施するよう要求してきた。国内法は、1990年代中ごろまでに、デリバティブ契約がデフォルトになったときに、グロスベースではなくネットベースで決済できるように改正された。
過去2年間をみると、2009年にG20は、店頭デリバティブ取引の清算と報告を強制する法・規制を実施することを合意した。EUは、EMIR(European Markets Infrastructure Regulation)において店頭デリバティブの改革案を提示し、USはDodd-Frankにデリバティブ改革を盛り込んだ。
国際的な不調和も見られる。J.P.Morgan London支店の巨額デリバティブ損失事件の報道に接して、CFTCの委員長は、多くの国際取引はUSの登録制の下に置かれるべきだと発言し、EUの金融サービス委員会委員長はこれに不快感を示した。
本報告は、世界的なデリバティブ改革の論点のうち、取引相手の信用リスクと市場の透明性を取り上げる。
A. Counterparty Credit Risk
1. Nature and Links to Systemic Risk
取引相手の信用リスクとは、キャッシュフローの最終決済まえに取引の相手が債務不履行に陥るリスクである。これには支払不能と支払拒絶とがある。
取引相手が信用リスクを吸収できない場合は、信用リスクがシステミックリスクに転化する。システミックリスクが生じる可能性は、デリバティブが金融システムにおいて果たしている役割と、デリバティブの損失を金融システム全体に移転するメカニズムに依存する。
店頭デリバティブの規制が緩やかだったことが金融危機の重要な要因であることは疑いがないから、デリバティブ市場をより厳格な規制のコントロールに服させようという関心が高まっていることは驚くべきことではない。このような関心は、世界的な金融危機の要因を店頭デリバティブ業界に求める点に現れているように政治的な色彩を帯びている。
2. Risk Mitigation Techniques and Regulatory Approach
店頭デリバティブ市場はしばしば規制されていないと言われてきたが、取引相手信用リスクのコントロールのさまざまな仕組みはすでに取り入れられていた。第1に、義務の履行について担保をとることが一般的となっていた。第2に、Baselの自己資本規制においても担保を取ることが奨励されていた。第3に、店頭デリバティブ市場の透明性は低かったが、参加者はリスク管理の義務を負っていたことに変わりがない。
このような観点から見ると、規制当局による監視は店頭デリバティブのリスクに及んでいたはずであり、信用リスクから生じるシステミックリスクを評価する一定の能力があった。したがって、店頭デリバティブに対する規制枠組みの最近の展開は、規制の重点が間接的なものから直接的なものへ移行してきたものと見ることができる。
3. Regulatory Developments and Proposals
G20の合意は、すべての標準化された店頭デリバティブについてCCPを通じた清算を強制することを求めた。リスクの軽減は、CCPによる履行の保証、及びネッティング・証拠金・担保要求によるリスク管理から生ずる。CCPにリスクが集中することから、CCPの健全性規制その他の規制を通じた効果的な行政監督が極めて重要である。CCPに対する各国の規制内容は異なりうる。
a Mandatory Clearing Obligation
2つの争点がある。1.どんな契約がCCPで清算されるか。2.CCPの連携をどうするか。
1.Hong Kongでは、現引きのできない先渡し(forward)と金利スワップのみを対象とした。
標準化された契約とは、one-size-fits-all mannerで取扱いができるほど同質化されていることが必要である。上場されている先物取引がその典型とされることは、驚くに当たらない。
標準化された契約の決定について、FSBとIOSCOは2つのアプローチを採る。CCPが対象契約を提案するbottom-up approachと、規制当局が提案するtop-down approachである。
考慮すべき要素は、第1にシステミックリスクへの影響であり、他に、契約の流動性、価格情報の利用可能性、決定が透明性に対して与える効果である。
EUでは、清算集中を求めるデリバティブの決定はEMIRによる。ところがEMIRは店頭デリバティブしか扱えないため、上場デリバティブの清算集中を求めることができない。USでは、清算集中の対象はスワップとされており、これには金利、商品スワップのようなnon-security based swapと、単一証券のスワップやCDSのようなsecurity-based swapとが含まれる。上場デリバティブの清算集中を除外する規定もない。スワップの種類の相違は、上場の有無、清算のプロセス、ディーラーの義務、報告義務に影響する。Security-based swapはSECの規制に、non-security based swapはCFTCの規制に服するという相違もある
例としてHong Kong政府の報告書は次の問題点を指摘している。
(a) 証券デリバティブを含むとすると、店頭デリバティブ取引の定義が広すぎないか。
(b) 従来の規制とのオーバーラップはないか。
(c) 銀行その他の規制対象が取引当事者となっていないが、オリジネーターまたは執行者となっている取引を対象とすべきか。
(d) 外国銀行による店頭デリバティブ取引を規制対象とするか。国内銀行がグループベースで守るべき要件はなにか。
(e) 報告および清算の閾値の決定方法
(f) 店頭デリバティブが純粋にヘッジ目的で用いられる場合に、エンド・ユーザーに関する適用除外規定がないこと
(g) 海外銀行または国内銀行の海外支店による報告義務について、顧客情報の保護に関する法が抵触する可能性があること
EMIRの下での清算義務は、EUにおける金融機関同士の取引に適用される。USにおいても、金融機関とエンド・ユーザーとの取引は除外されている。このようにEUとUSの政策は、commercial formのデリバティブ取引はシステミックリスクの源泉としては重要でないという仮定に立脚している。
b Mandatory Exchange Trading
G20の合意内容:2012年末までに、すべての標準化されたデリバティブ契約は取引所で取引されるか、電子取引基盤で取引され、そこでは清算集中が行われるべきである。店頭デリバティブ契約は取引情報蓄積機関に報告されなければならない。清算集中されない取引は、より高い自己資本基準に服するべきである。
2010年10月のFSBの報告書は、取引所取引への移行を示唆したが、2012年2月のIOSCOの報告書は、この問題を検討していない。これはEUとUSの見解の相違を反映している。Dodd-Frankでは標準化されたスワップは取引所での取引が強制される。理由は、取引の透明性が競争とより良い価格付けをもたらし、ビジネスとその消費者にコストの削減をもたらすことにある。
EUやアジアの多くの地域では取引所取引の強制は採用されていない。しかし、Markets in Financial Instruments Regulation (MiFIR Ⅱ)の新提案では、清算集中の求められるデリバティブの取引所取引を求めている。もっとも、そこにいう取引所とは、規制市場のほか、MTF、organized trading facility (OTF)を含む。
c Jurisdiction and Extraterritoriality
EMIRはEU域外で約束されたデリバティブには適用されない。ただし、non-EU entityのEU域内支店には適用される。EMIRはthird country entityには適用されないが、そのEU域内の取引相手に適用されるため、その取引は清算集中が義務付けられ、報告義務も生ずる。
Dodd-Frankは、スワップのいずれか一方の当事者がUS entityであれば適用される。CFTCが2012年6月に提案したガイドラインでは、US entityの定義を、USで設立されたか営業している金融機関を超えて拡大し、US市民と取引をしたか、US市民に清算サービスを提供したforeign entity(またはそのUS内の支店)を含むとしている。???
アジアでも状況は同じである。店頭デリバティブがいずれかのレジームで清算集中の対象となれば、コンプライアンス・リスク、とくにどのレジームの清算要件が優先するかという問題が生じる。たとえば、Hong KongのCCPを通じて取引しているUS entityにDodd-Frankは適用されるか。Hong KongのCCPが第三国の機関としてUSでの登録を免れるかという問題には、政治的イシューが潜んでいる。
ビジネス面でいうと、バイサイドにおいて、コンプライアンス・リスクを避けるために、保険のようなデリバティブ以外の手法を使う例が増えるかも知れない。
d Authorisation and Supervision of CCPs
清算業務は、現在、MiFID上の投資サービスではない。EMIRは、CCPの認可と監督が加盟国の権限ある機関によって行われることを求める。EMIRによって設定された健全性規制は、CCPの流動性と信用エクスポージャーの管理に着目するものである。CCPは参加者から日ごとに証拠金を集め、分離保管する。Default waterfallは、第1段階として、デフォルトした参加者の証拠金をそれによって生じた損失の補填に用いる。第2段階として、参加者がエクスポージャーに応じて拠出した証拠金からなるデフォルト・ファンドが、デフォルトした参加者の拠出額の限度で、CCPの損失の補填に使われる。次いで、デフォルトしていない参加者の拠出したデフォルト・ファンドが用いられ、最後に、CCPが証拠金およびデフォルト・ファンドを超える損失に備えて保有する自らのファンドが補填に用いられる。デフォルトしていない参加者はデフォルト・ファンドに拠出した額を超えて責任を負うことはない。
EMIRはCCPに信用リスク及び市場リスクの低い、高度に流動性のある担保のみを受け入れるよう求めている。
(つづく)
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