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MFW判決(1)

神戸大学商法研究会の昨年夏の合宿で、アメリカの判例の研究報告をしました。たまには会社法を勉強してみようと思い、アメリカ法に詳しい院生に最新判例を教えてもらいました。原稿にするまでにロー・レビューに評釈が載るかと待っていたのですが、載らないようなので、報告原稿を基にまとめてみました。表題は、「締出し合併に経営判断原則が適用される要件」。判決は、
In re MFW Shareholders Litigation, 67 A. 3d 496 (Del. Ch. 2013)
まずは、事実と判旨から(例によって、コピー・ペーストするとフォントが変わります)。アメリカで非上場化がどのように行われているかを知る上でも、面白い事案です。
 
〔事実の概要〕
 MFWはデラウェア州で設立され、NYSEに上場していた持株会社である。MFWは、著名な投資家であるロナルド・ペレルマンが100%支配するMacAndrews & Forbes(M&F)によって、43.4%の株式を所有されていた。
 2011年5月、ペレルマンはMFWを非上場化する計画の検討を開始した。当時、MFWの株式は20ドルから24ドルの範囲で取引されていた。
 同年6月13日、M&F副会長兼主席運営役員であるS(MFWの社長兼CEOでもある)は、MFWの取締役会に対し、同社の株式を1株24ドルで買収する提案を行った。買収提案には、①取引はMFWの取締役会の承認に服すること、②MFWにおいて組織される独立取締役の特別委員会の承認が得られなければ、M&Fは取引を先に進める意思がないこと、③取引は、M&Fとその関係者によって保有されている株式を除くMFWの株式の過半数の賛成を条件とすることが、含まれていた。
 6月14日、MFWは取締役会を開催し、M&F兼任取締役が退席した後、合併提案を審査するために特別委員会を組織する決議を行った。当該決議によると、特別委員会は、①合併提案について調査・交渉権限を有し、②合併提案への賛否について取締役会に対し意見を述べることができ、③取締役会は、特別委員会の推薦が得られなければ合併提案に賛成してはならないとされていた。また、④特別委員会は、法律顧問、財務アドバイザー、その他必要な代理人を雇うことができるとされていた。
 MFWの取締役会は13名から成り、そのうち、B、D、Wが特別委員会を構成した。
 特別委員会は、法律顧問を選任するとともに、財務アドバイザーについては5社を面接してEvercore Partners投資助言会社(E社)を選任した。特別委員会とE社はMFWの経営者とMFW門下の事業部門に最新の業績予測を提出させた。これらに基づき、8月10日、E社はMFW株を1株15ドルから45ドルと評価した。E社によるMFW株の評価は、DCFモデルに基づく場合は22ドルから38ドル、プレミアム分析に基づく場合は22ドルから45ドルであった。特別委員会はM&Fによる24ドルの提案を拒絶し、1株30ドルの反対提案を行った。9月9日、M&Fは30ドル提案を拒絶し、24ドル提案を維持した。Sはペレルマンから1株25ドルの最終提案をすることの同意を取り付け、9月10日に開かれた第8回会合で、E社は当該価格は公正であるとの意見を表明し、特別委員会は全会一致で25ドル提案を受け入れた。
 MFW取締役会においては、M&Fに関係する3名、MFWの事業セグメントのCEOである2名が退席して議論が行われ、残りの8名の取締役が全会一致でM&Fの提案を株主に推薦することを決定した。
 2011年11月18日の株主総会において、株主は合併の経緯と取引に賛成することの推薦を記載した委任状説明書により情報を与えられた。委任状説明書は、特別委員会が一株30ドルの反対提案を行ったこと、それにもかかわらず最終的に1株25ドルの提案を得ることしかできなかったことが明確に記載されていた。委任状説明書には、MFWの事業部が、E社が受け取った最初の業績予測が経営者の最新の考えを反映したものかどうか、E社と議論を行い、最新の業績予想はより低いものであることを記載していたし、E社が作成した5通りの分析によるMFWの株価評価の範囲も記載していた。
 11月21日に投票を集計した結果、M&F以外が保有する株式の65%の株主が提案に賛成したことが判明し、同日、買収が調印された。
 株主が、M&F、ペレルマンおよびMFWの取締役らを被告として訴訟を提起し、合併は不公正であると主張した。原告は、合併に係る投票前にその差止めを求めていたが、その後、請求の趣旨を信任義務違反に基づく損害賠償に変更した。
 被告が略式判決を申し立て。
 
〔判旨〕 被告勝訴の略式判決を下した。
1 締出し合併の審査基準
「支配株主との合併が、支配株主がそれを最初に提案した時から、①十分な拒絶権を与えられた独立取締役の特別委員会による交渉と賛成、および②強圧性がなく、十分な情報に基づいた少数投資家の過半数の投票による賛成を条件としているときは、審査基準として経営判断の原則が適用されると、当裁判所は結論付ける。この結論は、公平な取締役の情報に基づいた判断を、とくにその判断が十分な情報に基づき、強圧性を免れた、利害関係のない株主による賛成を得ているときには、尊重するというデラウェア州法の中心的な伝統と整合的である。それだけではなく、このルールは、支配株主が少数投資家に対して、尊敬されている学者が投資家に最善の保護を与えると信じる取引構造を与えることになるから、このルールの採用は少数株主に利益をもたらす。その取引構造とは、株主が、最善の価格を求めて交渉し、もし、正当な理由から取引を勧められないと信じたときには取引を拒絶できるような権限を有する、独立した代理人の利益を受けることができ、かつ、株主が、その交渉代理人が彼らに勧めた取引を受け入れるかどうかを自ら決定する重要な権限を有するような構造のことをいう。特別委員会だけでは、価格を交渉することができ、したがって株主が直面する集合行為の問題に対処できる交渉代理人がいることを確保するのみであり、株主に自らを守る機会を与えることはできない。少数株主の過半数の賛成投票は、支配株主の支配する取締役会が提案した合併について投票する機会を株主に与えるが、株主に代わって合併価格を交渉し、交渉代理人が投票に際して少数株主に受諾を推奨するような好ましい価格かどうかを決定する独立交渉代理人をもつ機会を株主に与えるものではない。したがって、これらの保護措置は、不完全であり、互いに代替するものではなく、むしろ補完的であり、協同して効果を発揮するものである。
 それだけではなく、支配株主が、特別委員会が賛成しなければ先に進まないと約束することは、支配株主が、本質的により強圧的な装置である公開買付けによって、委員会をバイパスしないことを確保する。Lynch判決における重大な関心は、このバイパスの脅しであり、バイパスの脅しが、特別委員会の効果的な運営に疑問を投げかける。支配株主が、直接株主のところへ行くチャンスを放棄する場合にのみ、経営判断の原則の適用を受けられるからこそ、強圧性の可能性が最小化されるのである。実際、委員会の賛同がなければ先に進まないと支配株主が約束しなければならなかったことは注目を集めるので、報復的な行動は隠すことが難しいし、忠実義務の違反から株主を守るためにわれわれ裁判所が与えられた道具は、報復的な行動を取り締まるのに利用できるだろう。・・・株主が特別委員会によって交渉された合併に反対票を投じる機会を自由に与えられている状況で、彼らの過半数が合併を支持した場合には、経営判断原則以外の審査基準を用いることは、資本コスト全体に及ぼす影響の点からみて、一般に、投資家にとって利益になるよりも負担になることは間違いない。」
「経営判断の原則は次の場合にのみ発動される。すなわち、①支配株主が取引の進行を、特別委員会の賛成と少数株主の過半数の賛成に条件付け、②特別委員会が独立であり、③特別委員会が、自由に自身の助言者を雇うことができ、かつ拒絶権を付与されており、④特別委員会がその注意義務を履行し、⑤少数株主の投票が情報に基づいたものであり、⑥少数株主に対する強圧性がない場合である。」
 
2 事案への当てはめ
 本件の特別委員会が、資格のある法律アドバイザーおよび財務アドバイザーを雇う権限を有し、実際に雇用したこと、取引に対する拒絶権を有していたこと、MFWにとって利用可能な他の選択肢を評価することを含めて、情報を得るために広い範囲の財務情報を検討したこと、したがって特別委員会が、M&Fとの間でその提案について交渉する権限を有し、実際に交渉したことは、証拠上、明らかである。
 (特別委員会の3名の委員について個別に検討した上で)MFWの特別委員会は、法的にみて、独立した取締役のみによって構成されていた。
 原告は、特別委員会のメンバーが、提案を評価し、交渉し、最終的に1株25ドルの提案に賛成した点について、注意義務の違反を示すいかなる証拠も示していない。
 原告は、開示の違反や強圧行動を示していないので、少数株主の過半数の賛成投票が、情報に基づいて強圧性のない状態で行われたことを争っていない。
 以上より、本件の合併取引の審査には経営判断の原則が適用される。
 経営判断の原則が適用されるとき、理性的な者であれば、合併がMFWの少数株主にとって好ましい(favorable)と信じることができなかったといえる場合でなければ、被告に対する請求は棄却される。原告は、合併がより高い価格で行われるべきであったといえる理由について議論しているが、それを支える事実はほとんどなく、経営判断の原則の下で事実審における事実に関する争点を指摘できていない。

 
(解説は次回に)

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