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書庫インサイダー取引

よく知られているように、アメリカでは1980年代にインサイダー取引規制のエンフォースメントが強化され、それに呼応するように法と経済学(というよりシカゴ学派)の立場からインサイダー取引擁護論が唱えられました。簡単には、拙著『アメリカ証券取引法』(弘文堂)を参照ください。

擁護論は、インサイダー取引は会社役員の報酬として効率的であるといいます。ある役員が会社の利益になるような企画を考えて、それを推進して会社に利益がもたらされても、利益は報酬アップ、ストック・オプションの価値上昇等の形態で役員全員に分け与えられてしまうから、良い企画を構想し推進するインセンティブを個々の役員に与えることができません。インサイダー取引を許容すれば、そのようなインセンティブを与えることができるというものです。この部分は理論的には反論が難しいと私は考えています。ただ、アイディア、企画の段階では、インサイダー取引規制の対象となるような重要な未公開情報が生じているとはいえないので、実際には、インサイダー取引を禁止したとしても、アイディアを出し、企画を推進するインセンティブは失われないでしょう。

ここで思い出すのは、平成11年の日本織物加工株インサイダー取引事件(別名、弁護士インサイダー事件)です。拙著『証券市場の機能と不公正取引の規制』(手売り中)にも、商事法務に載せた評釈を収録しています(さりげなく宣伝)。この事件では、日本織物加工の社長が、親会社の常務に「よろしくお願いします」と発言したことを以って「株式の発行」についての決定事実があったとしました。社長は親会社から派遣されているため、社長自身が業務執行決定機関とみられるからです。

この事実と最高裁の解釈を前提とすると、決定があったのは社長が心の中で決めた時点でしょうか、それとも外部に伝達した時点でしょうか。最高裁ははっきりのべていませんが、後者とみている節があります。もし後者の解釈が妥当だとすると、社長が心の中で決めた時点では決定がありませんから、社長が株を購入してもインサイダー取引にならないことになります。社長の決断は、「良いアイディアを出し、企画を推進する」のと同じくらい会社の利益を左右し、適切な判断を行うインセンティブを社長に与えることが求められます。そうだとすると、ある者の決定が業務執行決定機関による決定と見られる場合に、その者による関係有価証券の取引はインサイダー取引に該当しないという解釈も、十分成り立つ余地があると考えられます。

くろぬま
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