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書庫インサイダー取引

日本商事事件最高裁判決は、重要事実が2つ以上の側面を有する場合に166条2項4号の包括条項を適用できる枠組みを示しました。

たしかに、ある事実が2つ以上の事実に該当しうる場合には、その側面ごとに166条2項各号を適用することは可能でしょう。しかし、日本商事事件では、やはり「業務に起因する損害」としか評価できないような事実が問題になっていると考えられるので、この事件に包括条項を適用することは、4号の文言から無理があると、私は考えています(拙著119頁)。もっとも、本件では、控訴審判決が指摘するように、日本商事の逸失利益や信用・イメージの低下という要素は「業務に起因する損害」のなかで評価することができると考えますので、被告人を有罪とした判断は是認できます。逸失利益は損害に含まれないという見解もありますが、これを損害に含めなければ、得べかりし利益の大きさを反映して高騰していた株価に対する副作用情報の影響度(重要性)を正しく評価できないことは明らかです。

最高裁判決の枠組みには次のような問題もあります。判決は同じ事実を2つの側面に分けて評価しましたが、投資判断に際して投資家はそのように事実を分けて評価している訳ではありません。2つ以上の側面に分けた場合、それぞれの側面は投資判断上、重要でないと評価されると、その事実は重要事実でないことになりますが、その事実の全体が投資判断に重要な影響を及ぼすのであればインサイダー取引の規制対象としなければならないはずです。最高裁判決の判示がこのような不都合を生じるのは、判示が誤っているからではなく、個別列挙条項と包括条項を併用する証券取引法(金融商品取引法)の構造に由来するのです(商事法務1687号(2004年)40頁の拙稿を参照)。

4号の規定から「前3号に掲げる事実を除き」との文言を削除すれば、このような不都合は解消されるでしょうか。もしそうすると、前3号に該当するが重要基準または軽微基準を満たさない事実について4号を適用できるようになりますが、これも控訴審判決が指摘するように、1ないし3号を処罰対象の構成要件として定めた意味がなくなり、1ないし3号は実質的に空文化することになります。したがって、不都合を解消するためには、やはり個別列挙条項をやめ、包括条項一本で重要事実を定義することが必要です。包括条項のみであると構成要件の明確性に欠けるとの見解もありますが、構成要件概念を生み出したドイツ法においても、インサイダー取引の重要事実は包括条項一本で定めているのです。

くろぬま
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