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2回目のドイツ出張は、11月2日から7日まで。フランクフルトのゲーテ大学で、同大、私の勤務校、ペンシルバニア大学ロースクール、中国清華大の学生を集めた「グローバル・フォーラム」が開かれました。今年のテーマは、「国際的な金融規制と監督」だったため、勤務校からは江頭教授と私が参加しました。
この会合は、勤務校のトランスナショナルプログラムを見て、ペン・ローが呼びかけて始めたもので、今年で2回目。本来参加する予定のユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)が予算がなくて不参加。清華大の学生はビザが下りるのに時間がかかって不参加(教授一人のみ参加)。参加学生の人数はペン・ローが一番多くて、勤務校からは2人参加。学生を全部集めても12名という豪華なセミナーになりました。
私は「日本における企業買収の規制」と題して、強制公開買付制度の日欧米比較をしました。江頭教授はタイムリーな地震保険の話。ロースクールのソクラティック・メソッドでやるのかと思ったら、皆さんレクチャー形式でした。全員がパワーポイントを使っていました。江頭教授がそうすると聞いて、直前に自分用のパワーポンとの資料を作っておいて良かった。講義2日目の夜に学生を3班に分けて、翌日、班毎の発表。講義を聴きっぱなし、資料もない状態で発表できるか心配でしたが、学生はそれぞれの知識の範囲内で議論して、それなりの報告になりました。
ペン・ローの学生は金融機関に勤めていた者が多いのです。テーマに関心のある学生が応募して選ばれるわけだから当然ともいえますが、司法試験合格至上主義になってしまった日本のロー・スクールでは望むべくもないですね。
ゲーテ大学にはエイゼンハワー・ルームという歴史的記念物があります。第二次大戦後に占領軍が司令部として使っていた部屋で、日本で言えばGHQ司令室。ドイツ占領は40年も続きました。その部屋が入っている建物(後に大学のものになった)が立派で、ここでも彼我の違いを思い知らされました。ゲーテ大学は比較法、とくにアジア法に力を入れていて、日本法の講座があり、図書も他大学から移してきています。ハンブルクで知り合った日本法を勉強している助手に再会したのですが、彼は日本のインサイダー取引を研究しています。お昼に見知った顔の先生がおられるなと思ったら、5、6年前に早稲田でコーポレート・ガバナンスをテーマにトランスナショナルプログラムを開いたときに(私が担当)いらしたキュープラー(Kuebler)教授でした。私のことを憶えていらして嬉しかったです。彼は当時、ペンシルバニア大学とゲーテ大学の教授を兼任しておられたので(現在はどちらも名誉教授)、このプログラムに縁が深かったのです。
グローバル・フォーラムのプログラムに、欧州中央銀行(ECB)での会合があり、ボードの法律顧問の話を聞きました。欧州中央銀行がドイツにあることも知らなかったのですが
ゲーテ大学(アイゼンハワー・ルームのある建物)
欧州中央銀行前のテント
クロンベルクのランタン・ツアー
最後に少しだけ宣伝を。10月に私が編者の一人をしている「金融商品取引法コンメンタール」の初刊(第4巻)が刊行されました。この巻は金商法の157条から最後までと金融商品販売法をカバーしており、主に研究者の方の執筆をお願いしています。
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世間では、ディスクロージャーとコーポレート・ガバナンスに関する重大事件が持ち上がっているところですが、前回のエントリーからまたまた時間が経ってしまいました。言い訳になりますが、この間、学期中にも拘わらず、2度もドイツに出張し、忙しくしていました。
1回目は10月19日から24日まで。ハンブルクにあるマックスプランク外国私法・国際私法研究所で、日独修好条約150周年を記念した研究会が開かれました(150年前は不平等条約じゃないかと思うのですが
こういう研究会をドイツで開くと、ドイツ側は親日家が集まるので(他の人は興味ない?)、研究会は学問的な意味で対等とはいえません。マックスプランクのバウム教授は少し日本語を話すし、参加されたゲーテ大学のベルツ教授に至っては日本法の講座を持っています。ちなみにベツル先生は、お雇い外国人ベルツ博士の兄弟の御子孫だそうです。
今回の出張は私にとって15年振りのドイツでした。15年前は、ミュンスター大学に2ヶ月間短期留学し、グロスフェルト教授のお世話になりました。ハンブルクは初めてでした。港町のイメージが強いですが、河口から100kmも離れています。ハンザ同盟の盟主として栄えた街で、思ったよりもきれいでした。15年振りで忘れていたのでしょうが、鉄道駅に改札がないのには驚きました。帰国の日には、世界遺産のリューベック(同じくハンザ同盟の主要都市)に寄ってきました。
ハンブルク市庁舎 ハンブルク港
リューベックの街並み
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もうかなり前になりますが、9月13日に西武鉄道の虚偽記載事件の最高裁判決(2件:機関投資家訴訟と一般投資家訴訟)が出ました。どちらも、東京高裁では、取得自体損害(原状回復的損害賠償)の主張が認められず、虚偽記載の公表後の市場下落分のうち15%程度の損害賠償しか認められていませんでした。私は、東京高裁判決に反対の判例研究を公表していますので、最高裁が、取得自体損害の主張を認めたことには大賛成です。他方で、最高裁の多数意見は、取得時から虚偽記載の公表時までの市場価格の下落のうち虚偽記載と関係のない部分を除外するという立場をとっており、差戻審の認定によっては、市場下落説と大差ない結果が出るかも知れません。
遅ればせながら、判決(一般投資家訴訟)を紹介しましょう。事案はすでにこのブログでも紹介していますので、省略します。判決は裁判所ホームページに掲載されています。
多数意見
Y1株に関しては,昭和32年3月期以降本件虚偽記載が継続され,上場廃止事由として少数特定者持株数基準が定められた昭和57年10月1日以降継続して同基準に該当しており,現に,東京証券取引所は,本件公表後,同基準に係る猶予期間の経過を待つことなく,財務諸表等虚偽記載基準及び公益等保護基準に該当するとして本件公表後1か月余にして上場廃止を決定したというのであるから,仮に,被上告人Y1が上告人らによるY1株の取得より前に継続してきた本件虚偽記載をやめ,あるいは本件虚偽記載を訂正していた場合には,その後速やかにY1株につき上場廃止の措置が執られていた蓋然性が高く,少数特定者持株数基準に該当する事実の解消に向けた行動が取られたとしても,C社等の持株数に照らして上場廃止を回避するまでに至った可能性は極めて乏しかったとみるべきである。そうであれば,一般投資家であり,Y1株を取引所市場で取得した上告人らにおいては,本件虚偽記載がなければ,取引所市場の内外を問わず,Y1株を取得することはできず,あるいはその取得を避けたことは確実であって,これを取得するという結果自体が生じなかったとみることが相当である。
有価証券報告書等に虚偽の記載がされている上場株式を取引所市場において取得した投資者が,当該虚偽記載がなければこれを取得することはなかったとみるべき場合,当該虚偽記載により上記投資者に生じた損害の額,すなわち当該虚偽記載と相当因果関係のある損害の額は,上記投資者が,当該虚偽記載の公表後,上記株式を取引所市場において処分したときはその取得価額と処分価額との差額を,また,上記株式を保有し続けているときはその取得価額と事実審の口頭弁論終結時の上記株式の市場価額(上場が廃止された場合にはその非上場株式としての評価額。以下同じ。)との差額をそれぞれ基礎とし,経済情勢,市場動向,当該会社の業績等当該虚偽記載に起因しない市場価額の下落分を上記差額から控除して,これを算定すべきものと解される。
一般投資家である上記投資者は,当該虚偽記載がなければ上記株式を取得することはなかったとしても,取得した株式の市場価額が経済情勢,市場動向,当該会社の業績等当該虚偽記載とは無関係な要因に基づき変動することは当然想定した上で,これを投資の対象として取得し,かつ,上記要因に関しては開示された情報に基づきこれを処分するか保有し続けるかを自ら判断することができる状態にあったということができる。このことからすると,上記投資者が自らの判断でその保有を継続していた間に生ずる上記要因に基づく市場価額の変動のリスクは,上記投資者が自ら負うべきであり,上記要因で市場価額が下落したことにより損失を被ったとしても,その損失は投資者の負担に帰せしめるのが相当である。したがって,経済情勢,市場動向,当該会社の業績等当該虚偽記載とは無関係な要因に基づく上記株式の市場価額の下落分は,当該虚偽記載と相当因果関係がないものとして,上記差額から控除されるべきである。
若干の検討
この判決は、まず、本件の事案では、もし虚偽記載がなかったら、投資者が有価証券を取得するという結果自体が存在しなかったと見るのが相当であるとしています。私は、西武鉄道事件は、虚偽記載と取得との因果関係が認められるレアなケースだと思っていたのですが、それを認めたのはごく一部の地裁判決にとどまっていたのに、最高裁がこれを認めたことは画期的であると思います。
ついで、多数意見は、虚偽記載がなければ有価証券を取得することはなかったといえる場合には、取得価額と処分価額の差額、もし保有し続けているときは口頭弁論終結時の市場価格(上場が廃止された場合は、非上場株式としての評価額)が基準となるといいます。
虚偽記載がなければ有価証券を取得することはなかったといえる場合には、取得後の市場価格の変化は損害の発生と基本的に関係がなく、市場価格の変動は、その取得者を原状に回復するためにいくらの賠償を与えたらよいかにのみ影響を与えるからです。そうであるならば、なぜ、取得後の、虚偽記載とは関係のない市場価格の下落分を控除するのでしょうか。
多数意見は、投資者が自らの判断でその保有を継続していた間に生ずる虚偽記載と関係のない市場価額の変動のリスクは投資者が自ら負うべきであるからといいます。これについては寺田裁判官が実質的には反対意見と見うる意見を述べており、田原裁判官が多数意見を補強する補足意見を述べています。この下りは大変に面白いのですが、長くなるので次回で。
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(つづき)意味のある注意表示(meaningful cautionary statement)とは何かという問いかけに、SECは大要、次のように答えています。
何が意味のある注意表示に当たるかは、各事案の事実と状況に依存する。司法が作った「注意表示の法理」(bespeak caution doctrine)に言及しつつ、議会の報告書は、紋切り型の警告(boilerplate warining)では不十分であり、注意表示には、当該発行者の事業に関する情報のように、予測された表示の結果を現実に大きく変える、実質的な情報をもたらすものでなければならないとする。発行者は、すべての知りえたリスク要因を特定する必要はないが、歴史的事実を不実に表示する注意表示はセーフハーバーによって保護されない。
裁判所は、「1フィート先にグランドキャニオンが横たわっていることを知りつつ、ハイキングの同行者に、前方に溝があるかも知れないと警告する者には保護が与えられない」としている(判決名省略)。SECも行政手続きで同様の立場をとっている。
本件では、「高利回り社債への投資の損失は第1四半期よりもかなり低くなると予想される」という将来情報の表示に対し、「高利回り部門の潜在的な(potential)悪化が投資ポートフォリオの更なる損失を招く可能性がある」という注意表示がされている。このような表示は、悪化が現実に起こっていることを被告が知っている場合には、「意味のある」注意表示に該当しない。「潜在的な」という記載が歴史的事実に反するからである。
(以下、感想)
このSECの意見書は裁判実務に影響を及ぼすように思います。
アメリカの連邦法上のセーフハーバールールは、将来情報が虚偽であることを発行者の役員が知っていても、意味のある注意文言を置いておけば、発行者は責任を問われないという奇妙な規定です。これは、意味のある注意文言が置かれた将来情報の表示は重要性の要件を欠くという判例(In re Donald J. Trump Securities Litigation, 3d Cir. 1993)を採り入れて、事実審理前の請求棄却を認めるためのものでした。しかし、1995年の制定当初から、免責規定は嘘をつくライセンスを与えるものであってはならないという批判がありました。また、1995年以降の裁判例は、表示者が悪意であっても注意表示の要件を充たせば被告は免責されると解する裁判例が多いものの、悪意でなされた虚偽の予想に付された注意表示は「意味のある」ものと認められないとして、悪意の要件と注意表示の要件を組み合わせる裁判例もあります。この問題を論じた論文は3つあったのですが、すべて表示者は悪意でも免責される(多数裁判例に賛成)としています。
これに対してSECは、注意表示そのものが虚偽でありそれを表示者が知っているときは「意味のある注意表示」の要件を充たさないと言っているのです。注意表示そのものが虚偽であるとか、それを知っているとかを問うことに意味はないようにも思いますが、紋切り型の注意表示では駄目で、注意表示に虚偽があり表示者がそれを知っているということは、注意表示が保護しようとしている将来情報の表示にも虚偽があり表示者がそれを知っている場合が多いことに注意してください。SECは上記の少数裁判例と同じ立場をとっていることが分かるでしょう。
雑誌「企業会計」には、日本ではセーフハーバールールをどう考えるべきかについても書きました。興味のある方はそちらをご覧ください。
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セーフハーバールールに関する最近のアメリカの判例・実務を調べていたら、面白い文書を見つけました。
Slayton, et al v. Am. Express Co., et al., No. 08-5442-cvという裁判で、裁判所の質問書に応じて、2010年にSECが提出した文書(amicus curiae brief)です。この質問書では、4つの質問が投げかけられています。
①34年法21E条(b)(e)(A)は、GAAPに従って作成された財務諸表に含まれる将来情報をセーフハーバーから除外しているところ、四半期報告書(Form 10-Q)のMD&Aセクションにおける将来情報は、財務諸表に含まれる将来情報に該当するか。
②34年法21E条(c)(1)(A)(i)は、セーフハーバーの保護を得るには、表示は将来情報と特定(アイデンティファイ)されなければならないとしているが、この要件を充たすには、表示は「将来情報(Forward-Looking Statements)」として分離されたセクションになされなければならないか、「将来情報」といった特別のラベルで識別されなければならないか、それとも四半期報告の末尾に「believe, expect, anticipate, optimistic, intend, aim, will, should といった語、その他の同様の表現は、その記載が将来情報であることを示すために用いられている」という趣旨の注をすることで十分か。
③意味のある注意表示とはなにか。本件で意味のある注意表示はなされているか。
④34年法21E条(c)(1)(B)は、記載がされたときに、被告が、記載が虚偽または誤解を生じることを現実に知っていたことを原告が証明しない限り、被告は責任を負わないとする。悪意は重過失(recklessness)とどれだけ異なるのか。表示が合理的な基礎の一部または全部を欠いている場合、表示者は表示が誤解を生じることを知っているといえるか。
2010年にもなって裁判所(それも第2巡回区)がこのような基本的な問いをSECに投げかけていること自体、驚きですが、①②④は難しい問いではありません。SECの回答は次のようなものです。
①Form 10-QのMD&Aセクションは、GAAPに従って作成された財務諸表の一部ではない。したがって、セーフハーバールールの適用対象になる。
②一般的に、believe, expect, anticipate , optimistic, intend, aim, will, should といった語は、その表示が将来情報であることを特定するのに十分な表現である。
④表示者が表示をしたときに、表示が合理的な基礎の一部または全部を欠いていることを知っていたときは、悪意の要件を充たす。Amexの事例のように、「損失は相当に少ないと予想される」(losses ...are expected to be substantially lower)との記載は、(i)当該表示内容が純粋に信じられた(genuinely believee)こと、(ii)当該信念(belief)に合理的な基礎があること、(iii)表示の正確性を減殺するような開示されていない事実を表示者は知らないことを、黙示的に表示している。上記いずれかの表示が虚偽である場合に、将来情報は詐欺防止条項による訴訟の対象になると裁判所は判断してきた。したがって、上記いずれかの表示が虚偽であることを表示者が知っていることが、悪意の内容である。
Helwig v. Vencor, Inc., 251 F. 3d 540 (6th Cir. 2001)では、発行者の役員は、立法が発行者の事業に潜在的にネガティブな影響を持つことを知っていたから、制定中の法律が発行者の事業に及ぼす影響についての楽観的な将来情報が誤解を生じるものであることを、発行者の役員は知っていたと判断した。「ある事実を自分が知っているかのように主張した者、あるいは、あまりにも積極的に主張したために、知っていると受け取られた者は、彼がそのように他人から誤解されることを知っていたという状況の下では、実際には、彼が自分の言ったことが真実であるか否か知らなかった場合には、事実について他人を偽もうする意思は認められないとしても、彼の有している情報の範囲について、他人を偽もうする意思があったものと判断される」(同上)。
この基準は、明らかに、誤解を生じる将来情報を表示したときに、表示者が重過失であること以上の証明を要求するものである。
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