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今年の7月末に日本証券経済研究所から「上場会社における業績予想開示の在り方に関する研究会報告書」が公表されました。この報告書は、東証の行っている上場会社に対する業績予想の開示要請について提言をすることを目的としており、東証のHPで公開されています。http://www.tse.or.jp/rules/kessan/gyouseki/ 報告書の提言の要点は、私の理解するところでは、現在、上場会社にとって強制と受け取られている業績予想開示の一律の要請をやめ、決算発表時に上場会社が業績予想を有している場合は、それを開示する、決算発表時に上場会社が業績予想を有していない場合には開示しなくてよいが、その後に業績予想を有した時点で開示するという内容に要請を変えるというものです。
 
私はこの研究会に参加していて、雑誌「企業会計」の11月号で組まれる「業績予想開示」の特集に原稿を書きました。ここではその原稿で取り上げた論点のうち、将来情報に対する民事責任のセーフハーバールールについて、少し考えてみたいと思います。上記の研究会は、東証のタイムリーディスクロージャー政策に対して提言を行うもので、立法提案を目的としていませんので、セーフハーバールールには詳しく触れていません。雑誌原稿でも将来の課題として簡単に触れただけなので、書ききれなかった点を書いていこうと思います。
 
業績予想は将来情報ですから、それが外れた場合に民事責任を負わされるのではないかということが常に問題にされます。アメリカでは、かつてSECは、開示書類に発行者が将来情報(forward-looking information)を記載することを禁止していましたが、1978年に政策を転換し、予想が外れた場合に一定の条件の下で表示者の民事責任を免除するセーフハーバールールを定めた上で、将来情報の開示を奨励しています。日本では、セーフハーバールールがない状況で証券取引所が業績予想の開示を奨励し、大多数の上場会社がこれに従ってきたことは、驚くべきことであるといわれます。そこで、日本でもセーフハーバールールを導入すべきであるという意見をよく聞きます。この問題を検討するには、アメリカの状況を知る必要があると思われますので、まずはそのおさらいから(拙著「証券市場の機能と不公正取引の規制」270頁以下)。
 
1979年に制定されたSEC規則では、セーフハーバールールの適用範囲がSECへ提出される文書と株主宛年次報告書に記載された表示に限定されていた点に欠点がありました。また、将来表示に一定の注意表示が伴っている場合に免責を認める、判例法上の注意表示の法理(bespeak caution doctrine)も、事実審理前の請求棄却が認められないなどの問題がありました。そこで、連邦証券諸法の1995年証券訴訟制度改革法(Private Securities Litigation Reform Act of 1995)は、法定開示書類以外の書類や口頭の表示にも適用され、事実審理前の請求棄却を可能にする包括的なセーフハーバールールを定めました。
 
その内容は、将来情報の表示(forward-looking statements)は、①将来情報であることが明示され、かつ、意味のある注意表示(meaningful cautionary statements)を伴っている場合、②重要でない(immaterial)場合、または、③表示者の悪意(actual knowledge)を立証できなかった場合には、表示者は民事責任を負わないというものです(33年法27A条(i)項、34年法21E条(c)(1)項)。このルールの特徴は、①の要件を満たす場合、訴訟が事実審理前に棄却される点にあります。あとで問題にしますが、表意者が悪意であったかどうかは事実審理(トライアル)をしないと分からないのに対し、①の要件の充足は証拠調べをしなくても分かるからです。
 
 
 

緊急差止命令(3)

(前回の続き)
もう一つの細かい問題も、違反行為と差止の対象との関係に関するものです。
 
本決定による差止命令の内容は、「Y1らは、いずれも金融商品取引法29条所定の登録(ただし、第一種金融商品取引業を行う者としての登録)その他同法所定の適式の登録を受けずに、株券、新株予約権証券又はこれらに表示されるべき権利であって株券若しくは新株予約権が発行されていない場合における当該権利について、売買、売買の媒介若しくは代理又は募集若しくは私募の取扱いを業として行ってはならない」というものです。
 
この差止命令を発するために裁判所は、A会社の株式、新株予約権の取得勧誘を繰り返し行っていたことのほか、同様に4つの会社の株式について勧誘行為を繰り返していたことを、Y1らの自認によって認定しています。なぜ4社の株式についての勧誘行為を認定したのか考えてみると、4社の株式には、すでに発行された株式の勧誘行為が含まれており、裁判所は、これらの勧誘行為が、有価証券の売買の媒介又は募集若しくは私募の取扱いのいずれかに該当すると認定しているのです。つまり、このような認定は、差止の対象として、新規発行株式等の勧誘だけでなく、既発行株式等の勧誘を含めるためだったのではないかと思われるのです。
 
それでは、4つの会社の株式の勧誘行為についてY1らの自認がなければ、裁判所は、既発行証券の売買の媒介等を差し止めることができなかったのでしょうか。私はそうは思いません。裁判所は、A会社や4社の株式等だけでなく、銘柄を問わず株式・新株予約権の勧誘の差止を認めています。未公開株を勧誘する無登録業者は、銘柄を問わないでしょうから、銘柄を限定した差止では意味がないので、この判断は妥当です。そうだとすると、同様に、未公開株の勧誘業者は、株式が新規発行のものか既発行のものかを問わないでしょうから、違反行為が新規発行に係るものであったとしても、既発行の株式の勧誘も差し止めることが認められるべきです。そしてこのような解釈を正面から認めるためにも、緊急差止命令制度の目的(の一つ)が、繰り返される将来の違反行為の差止であることをはっきりさせる必要があると思うのです。
 
この決定については、他にも論ずべき点がありますが、それらについては判例評論(近刊)をご覧下さい。

緊急差止命令(2)

最近、評釈をするために、東京地決平成22年11月26日判例時報2104号130頁を読んでいました。未公開株の勧誘をした無登録業者に対して、裁判所が初めて金商法192条に基づく緊急差止命令を発した事例です。改めて条文を読んで、事例へのあてはめを検討してみると、いろいろと面白い問題が見えてきます。
 
金商法192条は、「裁判所は、・・・この法律又はこの法律に基づく命令に違反する行為を行い、又は行おうとする者に対し、その行為の禁止又は停止を命ずることができる」と規定しています。まず、禁止と停止はどう違うのでしょうか。条文を素直に読むと、違反行為を行う者にその行為の禁止を命じ、行おうとする者にその行為の停止を命ずることになりそうです。この条文の基になったアメリカの1933年証券法20条(b)項、1934年証券取引所法21条(d)項(1)号では、person in engaged or is about to engage in acts or pracices constituting a violation of any provision of this title, ・・に対し、to enjoin such acts or practices を求めることができると規定されています。このように条文上は、日米ともに、「違反する行為を行い」とは、現在、違反行為を行っていることを意味するように読めます。そこで生じる疑問は、過去の違反行為を理由に将来の違反行為を禁止することができるのか、ということです。
 
上記の裁判所は、無登録業を行う者への該当性と無登録業を行おうとする者への該当性とをきちっと分けて認定しており、前者については、「Y1らは、・・・行ったというべきであるから、・・無登録業を行う者に該当することは明らかである」としています。つまり、裁判所は、「違反行為を行い」とは過去に違反行為を行った場合を含むと解釈しているようです。ところが、金商法192条は、「その行為」の禁止を命ずることが出来ると書いてあるので(アメリカ法も、such acts or practiceで同じ)、過去の違反行為以外の行為を差し止めることができるか、疑義があるわけです。
 
実質的に考えると、違反行為が繰り返されている状況で、違反行為と違反行為との間で差止めの申立てをすると、差止めの対象がないということになっては、被害の拡大を防ぐという緊急差止命令の用をなしません。したがって、過去の違反行為に基づいて将来の違反行為の禁止を命ずることができると考えるべきです。もっとも、常に差し止めることができるのではなくて、「緊急の必要性があり、かつ、公益及び投資者保護のため必要かつ適当である」場合に限って差止めが認められます。
 
この論点は実は、神崎克郎先生の「証券取引法(新版)」(青林書林、1987年)580頁以下に既に指摘されています。温故知新ですね。現行法に即して一部表現を変えて書くと、すでに、違反行為が相当期間継続して行われるのでない場合、すなわち、違反行為がすでに行われ将来も行われる相当の可能性がある場合にも、緊急停止命令の発動を求めることができるのか、必ずしも疑問がないわけではない。しかし、同様の文言を置いているアメリカ法の裁判例は、違反行為がすでに行われ将来も行われる相当の可能性がある場合にも緊急停止命令を発しうると解している。
 
神崎先生は、ご自身の意見を明確に述べておられませんが、文言に疑義があることを認めた上で、過去の違反行為に基づいて将来の違反行為の差止めができるように解釈すべきだと仰っているように感じます。私もこういう点はきちんと論じた方が後々のために良いと思っているのです。
 
この決定に対する評釈は判例評論に掲載される予定です。
 
いわゆる暴利行為に関する判例は、他人の窮迫軽率または無経験を利用して著しく過当な利益の獲得を目的とする法律行為を公序良俗違反として無効としています(大判昭和9・5・1民集13巻875頁)。つまり、判例は、①他人の窮迫軽率・無経験につけ込むという主観的要素と、②著しく過当な利益の獲得という客観的要素の双方を充たす行為のみを無効としているのです。そこで、判例法理に基礎を置く本条1項も、但書において、無登録業者の側が、売買契約等の締結が主観的要素と客観的要素のいずれかを欠くことを立証したときには、売買契約等は無効にならないとしました(そう、説明されています)。
 
本条1項但書は、判例の①②を有価証券の売買取引に即して明文化したものといえます。無登録業者等が立証すべき第一の選択的要件は、売付け等が顧客の知識、経験、財産の状況、および対象契約を締結する目的に照らして顧客の保護に欠けるものでないこと、すなわち適合性の原則(40条1号)に違反しないことです。適合性の原則(狭義)とは、顧客の知識、経験、財産の状況、契約締結の目的に照らして顧客に適合しない商品を勧誘してはならないという原則です。適合性の原則は登録業者に適用される規制ですが、無登録業者であっても勧誘行為を業として行う以上はこれを守るべきであると説明されています。ここは、むしろ、適合性の原則は他人の窮迫軽率・無経験につけ込むという要件を現代的に表現したものであって、適合性の原則違反は暴利行為の一要件であると説明すれば足り、金商法で禁止されていることを「かませる」必要はないでしょう。適合性の原則違反が金商法違反であることを強調すると、適合性の原則が適用されない特定投資家が相手方であっても171条の2が適用されることをうまく説明できないように思われるのです。
 
前にも述べましたが、無登録業者による未公開株の勧誘に限って契約を無効にすると考えると奇異な感じがするのですが、適合性の原則に違反して対価の不相当な契約を締結することは公序良俗違反だから無効であると考えれば、理解できます。金商法の業規制に私法規定を置くことも、64条の3(外務員の代理権の擬制)に例があります。これも、それまでの判例法を明文化したものでした。
 
適合性の原則違反の例として、たとえば、顧客が未公開株へ投資をする意欲を有していても、その財産が乏しく未公開株のリスク(公開できるか否か分からないリスク)に耐えられない場合には、当該顧客に対する売付け等は適合性の原則に違反するといえるでしょう。反対に、顧客が未公開株の取引に詳しく、リスクに耐えるだけの資産を持ち、上場の見通しの立たない未公開株であっても長期的投資の観点から購入する意欲を有していたことを無登録業者等が証明したときは、売買契約は無効とされません。
 
無登録業者等が立証すべき第二の選択的要件は、売付け等が不当な利得行為に該当しないことです。不当な利得行為とは、判例のいう「著しく過当な利益の獲得」とほぼ同義でしょう。不当な利得行為に該当するか否かは、仲介行為ではなく売買契約等について判定されます。そして、顧客が未公開有価証券を取得するために支払った金銭の総額と顧客が得た当該有価証券の経済的価値とを比較して、前者が後者を大きく上回る場合に、当該売付け等は不当な利得行為に該当すると解されます。顧客が仲介者である無登録業者に手数料を支払った場合には、当該手数料は顧客が支払った金銭に含められるべきです。ですから、未公開有価証券の売主は、自己が受け取った売買代金と有価証券の価値とが釣り合っていても、買主が無登録業者に支払った手数料を含めて、買主にとって売買が「不当な損失行為」になっていないことを証明しなければなりません。
 
顧客の支払総額と未公開有価証券の経済的価値とがどれ位近接すれば不当な利得行為に該当しないことになるかは、最終的には裁判所の判断によりますが、顧客が得た有価証券の経済的価値は、売買等が行われた時点において、当該有価証券の上場の見込みを勘案して客観的に判断されますから、上場の見込みについて無登録業者に詐欺があったり顧客に錯誤があったりした場合には、支払額と客観的価値とが大きく乖離しているのが普通でしょう。売買契約・取得契約が有効であるとの反証は、勧誘行為をした無登録業者、売主、対象契約の当事者である発行者のいずれが行っても構いません。
 
民法上の詐欺無効と異なり、顧客に重大な過失があっても無効の主張は妨げられません。それでは、無登録業者等は売買契約等の無効を主張できるでしょうか。本条は、無効の主張権者を顧客に限定していませんので、そのような解釈を許すように読めます。しかし、①本条は、顧客保護のために契約を無効とするものであること、および、②もし、無登録業者等からの無効の主張を認めるとすると、上述のように、暴利行為の主観的要素又は客観的要素を欠くために契約が有効であるとの反証を顧客に認めるべきであるのに、そのような規定が置かれていないことから、本条による無効は顧客に限って主張することが認められると解されます(立案担当者の説明も同趣旨です)。無効の主張権者が顧客に限られるとすると、それは取消しに似てきますが、本条が顧客に契約の取消権を認めるのではなく契約を無効とする構成を採用したのは、顧客保護の論拠を公序良俗に求めたからだと思われます。
本条の未公開有価証券とは、社債券、株券、新株予約権証券その他の政令で定める有価証券であって、①金融商品取引所に上場されている有価証券、②店頭売買有価証券又は取扱有価証券(グリーンシート銘柄)、③売買価格又は発行者に関する情報を容易に取得することができるものとして政令で定める有価証券のいずれにも該当しないものをいいます(本条2項)。そもそも、未公開株詐欺は、現在は未上場だが近く上場するといって無登録業者が取得を勧誘し、顧客が上場時に高値で売却できることを期待して未公開株を購入するものですから、上場やそれに類する取引(店頭市場への上場、グリーンシート銘柄への指定)の対象となる有価証券でなければ、未公開株詐欺の対象となりません。また、上場有価証券のように売買価格や発行者に関する情報を投資者が容易に取得できる有価証券については、無登録業者と投資者との間で情報の非対称性が強いとはいえず、その売買契約を一律に無効とするのは適当でないと考えられました。そこで、本条の適用範囲を政令で指定する有価証券で上場等をしていないものに限定したわけです。
 
未公開株と称して法的実体のない会社の株券(と称する権利)の販売が行われることも考えられます。そのような仮装の権利も勧誘を受ける投資者との関係では本条の「株券」に当たると解して、本条を適用すべきであると思います。また、2項有価証券(ファンド持分等)が政令指定されるかどうかは分かりませんが、2項有価証券については自己募集も金融商品取引業に該当するため、無登録で自己募集を行えば本条の適用対象となります。そうしたときに、2項有価証券は上場等の可能性がないから未公開有価証券に当たらないとされる可能性もあります。これでは2項有価証券を政令指定した意味がありません。2項有価証券について未公開株詐欺に近い詐欺が行われるのは、それを株券と偽って販売したが実はファンド持分に過ぎなかったという場合でしょう。その場合、上述のように「株券」に当たるという解釈が難しければ、ファンド持分に当たるとして本条を適用すべきと考えます。
 
大阪証券取引所の研究会である大家の先生が、こんなにカズイスティックでローマ法みたいな立法のやり方は感心しないという趣旨のことを仰られました。そのときはよく意味が分からなかったのですが、本条では、政令で種類ごとに有価証券を指定しなければ、その種類の有価証券に本条を適用できないのです。これは、未公開株詐欺の行われている有価証券の売買のみを無効とするためのやり方だと思いますが、「政令指定した商品についてのみ無効」というのがカズイスティックだというのでしょう。
 
売付け等とは、売付け、売付け等の媒介・代理、募集又は売出しの取扱い、および政令で定める行為をいいます。既に発行されている有価証券を購入させる行為だけでなく、新たに発行される有価証券を取得させる行為も含まれます。これらの行為は勧誘という事実行為ですから、無登録業者が未公開有価証券の売主であっても仲介者であっても、売付け等に該当する勧誘行為を行う限り、本条を適用することができます。
 
無登録業者が顧客から未公開有価証券を買い付ける行為(買付け等)は本条の適用対象とされていません。もっとも、無登録業者が、顧客が発行者から未公開株を購入した場合にそれを高値で買い受けることを約束する行為は、顧客が発行者から未公開株を買い付けるよう促す効果を有しますので、未公開株の「募集又は売出しの取扱い」として「売付け等」に当たるでしょう。
 
対象契約とは、売付け等に係る契約又は売付け等により締結された契約であって、顧客による未公開有価証券の取得を内容とするものをいいます。顧客がすでに発行されている未公開有価証券を買い付ける契約(売買契約)と、新たに発行される有価証券を発行者から取得する契約(取得契約)がこれに含まれます。対象契約上の顧客の相手方が無登録業者以外の者、すなわち発行者又は無登録業者以外の売主であっても、当該対象契約が無効とされることが本条のポイントです。
 
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