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平成23年金融商品取引法改正の一番のサプライズは、無登録業者による未公開株の売付けを無効とする171条の2でしょう。
 
この改正案を最初に聞いたときは、契約の内容を問うことなく、売り方が悪かったからといって契約を無効にしてよいものだろうかと思ったものでした。けれど、金商法違反の私法上の効力については学説の議論があり、私も15条違反のうち無届募集による売付けは無効と考えていましたから、無効とすること自体には違和感はありません。もっとも、無届募集では売主は発行者ですし、誰が勧誘しても(私見では)無効であるのに対し、171条の2は、未公開株を無登録業者が勧誘して売り付けた場合に限って無効とする点に特徴があります。
 
171条の2については、大阪証券取引所の研究会で藤本課長の話を聞き、また、すでに商事法務に立案担当者による解説が載っています。今回の記事の大部分は、これらによる耳学問ですが、今秋、発刊予定のコンメンタールで私はこの条文を担当していますので、多少の私見をまじえて書いてみようと思います。
 
171条の2第1項は、無登録業者による未公開有価証券の売付けが行われた場合に、対象契約を原則として無効とします。無効とした理由は、金商法の規制する無登録業者の行う行為であり、未公開株等という情報の非対称性の強い有価証券に関する取引であることを踏まえると、公序良俗に反する不当な利益を得る行為である蓋然性が高いことに求められています。
 
「不当な利得を得る行為」とはいわゆる暴利行為のことです。このように本条は暴利行為に関する判例法理に基礎を置くものです。もっとも、対象契約の効力については、無登録業者、売主、または発行者が、勧誘が適合性の原則に違反していなかったこと、又は契約者が不当な利得行為に該当しないことを立証すると、契約は無効とされません(本条1項但書)。これらの反証要件は、後で述べるように判例法理に立脚しています。そうだとすると、対象契約が無効とされる実質的な根拠は、「適合性の原則に違反した勧誘により不当な利得行為となる契約が締結されたこと」に求めることができ、「無登録業者による未公開株等の売付け等」が行われたという要件は、無効の立証責任を転換するために置かれたものと理解すべきでしょう。
 
本条にいう「無登録業者」とは、法29条の規定に違反して内閣総理大臣の登録を受けないで第一種金融商品取引業又は第二種金融商品取引業を行う者をいいます。登録業者が未公開有価証券の売付け等を行っても本条は適用されませんが、登録業者は、金融商品取引業協会の自主規制により、一定の場合を除いて未公開有価証券の投資勧誘を禁止されています(この点については批判もあるところですが、ここでは立ち入りません)。
 
第一種金融商品取引業又は第二種金融商品取引業を行うとは、それぞれの業に該当する行為(28条1項、2項)を反復継続する意思をもって行うことを意味しますので、反復継続して未公開有価証券の売付け等を行う予定でない者は、登録を受けずに売付け等を行っても無登録業者に該当しません。したがって、たとえば未登録株の発行者の役職員が当該未公開株等の売付け等を行う場合には本条は適用されません。登録を受けないで第二種金融商品取引業を行う者も無登録業者とされたのは、本条1項の政令によって2項有価証券が未公開有価証券に指定された場合に備えたものでしょう。
 
大分間が空いてしまいました・・ 全部を解説する必要もないので、今回を最終回とします。
 
報告書はインサイダー取引該当性が問題となる(なり得る)事例を4つ挙げて検討しています。それらは次のようなものです(若干簡略にしています)。
(a) 対象事業者の業務に係る発生事実
 甲電力会社が設置している原子力発電所が地震により損壊し、操業を停止した。これにより、甲では火力発電所の操業を大幅に増加させる必要が生じた。職務遂行上、その事実を知った同社代表取締役Aは、自らの計算で、事実が公表される前に排出枠(又は排出枠デリバティブ)を購入し、多額の利益を得た。
 
(b) 対象事業者の業務に係る決定事実
 乙電力会社は、今後数年間ですべての石炭火力発電所を廃止し、高効率の天然ガス発電及び再生エネルギーによる発電に置き換えることを内容とする中期経営計画を策定した。この計画によれば、来年度から乙の温室効果ガス排出量は大幅に減少することが見込まれる。職務遂行上、当該事実を知った同社代表取締役Bは、自らの計算で、事実が公表される前に排出枠(又は排出枠デリバティブ)を売却し、多額の損失を免れた。
 
(c) 排出規制の制度変更(政府情報)
 国内排出枠取引制度の施行当初、制度対象者に対する温室効果ガスの削減義務が2010年比で5%減とするものとされていた。ところが翌年度から2010年比で10%減とすることが政府内部で決定された。職務遂行上、その事実を事前に知った政府関係者であるCは、その事実が公表されるより前に排出枠(又は排出枠デリバティブ)を購入し、多額の利益を得た。
 
(d) 需給情報
 排出枠の大口需要家が仲介業者である丙社に対して大量の買い注文を出したが、その事実を知った同社の従業員であるDは、自らの計算において排出枠(又は排出枠デリバティブ)を購入し、多額の利益を得た。
 
今回の報告書は東日本大震災が起こる前に公表されていますが、事例(a)などは笑い話にならないですね。(c)も、どこかの首相の思いつき発言で排出枠価格が大きく変動するなんてことがあるかも知れません(こちらは(笑)ですが)。
 
これらの例を見ると、いずれもインサイダー取引を許すべきでないように思えます。しかし、報告書は、株式と排出枠の違いを踏まえた検討が必要であると指摘しています(61頁)。それは、金融商品取引法は、原則として発行者を情報源とする事実を重要事実としているが、排出枠には発行者はいないからです。上の(a)(b)は、発行者を情報源とする事実に見えますが、単に需給に影響を与える事実に過ぎないのです。ですから、排出枠にインサイダー取引規制をかけるとすると、需給に関する情報のみを対象とするインサイダー取引規制を設けることになるが、それで良いか?と報告書は問いかけています。もっとも、報告書も、公開買付け等事実という需給に関する情報がインサイダー取引規制の対象とされていることは認めており、そこで、需給に影響を与える事実の一部をインサイダー取引の規制対象とすることも考えられるとしています。
 
(以下、私見) 排出枠の発行者をあえて求めるならば政府でしょう。しかし、そのことは政府を発信源とする情報のみをインサイダー取引規制の対象とすれば済むことを意味しません。情報源が誰であれ、それへのアクセスを有する者が当該情報を利用して取引することが、一般投資者から見て不公正である(と感じられる)から、インサイダー取引を禁止する必要があるのです。金商法は、有価証券に関する情報が発行者により生産されることが多い点に着目して、発行者を中心とする規制の体系を作ったに過ぎず、中心となるべき情報源がないならば、むしろ、規制の対象となる情報源を限定する必要がないことになるのではないでしょうか。事例(a)(b)が不公正と感じられることは、まさにインサイダー取引規制の必要性を裏付けています。
 
金商法上、政府情報はインサイダー取引規制の対象とされていません。これは、政府情報が価格に与える影響が間接的であるからと説明されています。そこで報告書は、排出枠の価格に対する影響が直接的であるならば、政府情報を規制対象とすることも考えられるとします(62頁)。排出枠は、発行の主体が国である点で国債と共通しており、金利等の政府情報は国債の価格に直接的な影響を与え得る情報なのに、規制対象となっておらず、それにより重大な問題も生じていません。そこで、報告書は、排出枠取引についても、政府情報はインサイダー取引規制の対象とせず、公務員の秘密保持義務に委ねたらどうかとしています(63頁)。
 
(以下、私見)  政府情報をインサイダー取引規制の対象としないのは、日本法特有のもので、評判が良くありません。最近の某省役人のインサイダー疑惑をみても(あのケースでは、会社関係者か情報受領者として規制の対象とされたのでしょう)、政府情報を規制の対象とすべきであることが分かります。排出枠取引については、むしろ政府情報に基づくインサイダー取引こそ規制すべきでしょうね。
仲介業者・取引業者の行為規制、取引所集中義務を課すか、海外排出枠・クレジットの国内取引の規制、海外における国内排出枠の取引の規制、現在すでに存在する排出枠・クレジット関連商品の規制上の取扱いについては、省略し、不公正取引の規制のうちインサイダー取引規制に入ります。
 
報告書はまず、現状分析として、①商品先物取引にはインサイダー取引規制がないこと、②その理由は、価格形成に影響を与える情報の確定が困難だからであると説明されていること、③金商法のインサイダー取引規制は、株券の現物の一部及びデリバティブ取引の一部に限定されていること、④政府の経済政策・産業政策に関する情報、有価証券の需給に関する情報(公開買付け・株式買集めに関するものを除く)は規制の対象外とされていることを指摘しています。
 
また、英国の規制の紹介として、英国ではEUの市場濫用指令に基づき金融サービス市場法が規制を行っているが、①排出枠の現物取引は金融サービス市場法の規制対象でないため、インサイダー取引規制の対象でないこと、②排出枠のデリバティブ取引は商品デリバティブとして規制の対象となるが、ある内部情報が、商品デリバティブに係る内部情報の要件である「当該デリバティブが取引されている市場で承認された市場慣行に照らして、当該市場の参加者が当該情報を受領することを期待するものであろうもの」に該当しない可能性が高いので、インサイダー取引規制が排出枠のデリバティブ取引に適用される場面は想定されないと分析しています(報告書60頁)。
 
これらの点を少し検討してみましょう。商品取引になぜインサイダー取引がないかは、よく分からないところです。商品先物取引には、発行者のように取引の価値の判断に重要な情報を集中的に保有している者がいないので、インサイダー取引を想定しにくいのは確かです。しかし、需給に関する情報は商品先物取引にとっても重要であり、証券のインサイダー取引について需給情報がインサイダー取引規制の対象になるべきものであれば、商品先物取引についても同様に考えるべきでしょう。この点は、EUや米国では証券取引の需給に関する情報も広くインサイダー取引規制の対象とされており、日本法の適用範囲が狭すぎると批判されているところなので、不備のある日本法を議論の出発点にする必要はないと私は考えています。
 
英国金融サービス市場法における商品デリバティブ取引の内部情報の定義は、当該情報が市場慣行に照らして一般投資家に公表されるものであればインサイダー取引の規制対象とすることを意味しています。かつて、日本ではインサイダー取引規制とディスクロージャーの範囲が合致していて、「ディスクロージャーなくしてインサイダーなし」といえる状況にあったのですが、取扱い有価証券(グリーンシート銘柄)がインサイダー取引の対象とされたときに、この原則は破られました(グリーンシート銘柄には法定のディスクロージャーは適用されないがインサイダー取引規制の対象となる)。ですから、今日、ディスクロージャーの対象でなければインサイダー取引規制はかけられないと考える必要はないでしょう。英国法の定義も、法定のディスクロージャーに限らず、市場慣行によって公表を期待できる情報であればインサイダー取引の対象とするようです。英国法の定義規定についてきちんと勉強していないのですが、これは、法律上のディスクロージャーが及ばない情報であると、永久に公表されない場合があり、そのときには情報を知った者が永久に取引できないのは不合理なので、公表を予定している情報に対象を限定したのではないでしょうか。そうだとすると、これは情報の内容・性質によってケースバイケースで判断することになるとはいえ、インサイダー取引規制が排出枠のデリバティブ取引に適用される場面は想定されないとするのは言い過ぎだったかなと思っています。
排出枠の現物取引およびデリバティブ取引を認めるとして、取引参加者の範囲をどうするかが第2の論点となります。報告書は、個人の参加と海外投資家の参加を認めるかという議論をしています。まず、個人については、現状では参加を認める意義も弊害も乏しいと分析した上で、参加を禁止できるかという観点から論じています。これは、参加の可否について理論で決することが難しいので、仮に参加を認めないと政策決定した場合に参加を禁止することが可能なのかという技術論からアプローチするものと言えるでしょう。そして、まず、現物取引については、登録簿における口座開設を個人に認めないことは可能としつつ、個人が仲介業者や取引業者に委託して排出枠を売買するまで禁止することには慎重な検討を要するとしています。また、個人の現物取引を禁止したとしても、排出枠のデリバティブ取引を禁止しない限り、個人を市場参加から排除することはできないのではないかとしています。排出枠のデリバティブ取引を行うには登録簿における口座開設は必要がないからです。
 
報告書のこの部分には私個人は違和感を持っています。私の考えは、報告書32頁注22の、「個人にあっては、個人投資家保護の目的で排出枠のデリバティブ取引を禁じることも想定される」という点に表れています。ただ、この注には「前例はないが」という断り書きが付されています。しかし、私は前例はあると思っています。それは、有価証券のプロ向け市場であり、そこには特定投資家以外の個人投資家は参加できない仕組みがとられています。技術的には、業者にデリバティブ取引の市場集中義務を課し、取引所における排出枠のデリバティブ取引のみを合法化すれば、個人投資家をデリバティブ取引から排除することも可能であると私は考えています。この意見に対する研究会の大方の反応は、デリバティブ取引(とくに店頭デリバティブ取引)を違法化することは難しいというもので、私は少なからずショックを受けました。法令で許容しない限りデリバティブ取引は賭博に当たると思っていたので、大方の見解とは原則と例外が引っ繰り返っていることを自覚したからです。
 
つぎに海外投資家ですが、海外投資家を参加させるメリットは流動性にある程度寄与することであり、デメリットは企業経営が排出枠・クレジットの価格乱高下にさらされる可能性があることだと報告書は指摘します。海外投資家の取引からの排除などというといかにも排他的に聞こえますが、排出量取引制度は国内の政策目標達成のための制度ですから、目的達成に害になるのであれば海外投資家の参加を排除することも正当化されます。報告書は、ここでも技術論からのアプローチを試み、デリバティブ取引については個人投資家の場合と同様、参加を禁じるのは難しい、現物取引については、一切禁止することは難しく、①口座開設のために内国法人の設立を認めるか、②制限を認めずに口座開設を認めるか、という両論を併記しています。
 
論点の第3は、仲介業者・取引業者の業規制です。報告書は、業規制の検討に当たり、不動産、商品、有価証券の現物とデリバティブについて、業者にどのような規制(規制なし、登録制、許可制、免許制の別)が置かれているかを比較しています。業規制の対象とすべきか否かについて基準となる考えを理論的に導くのが難しいので、排出枠取引をどの取引に近いものとして規制したらよいかという発想に立って規制のあり方を考えるものといえるでしょう。
 
報告書は業規制を考えるに当たって2つの観点が重要であるとしています。第1は、市場参加者の保護のために業規制が必要であるという観点、第2は、公正な排出枠の取引の確保や排出量削減の実現という国内排出量取引制度の目的を達成するために業規制が必要であるという観点です。第2の観点は、不動産、商品、有価証券の規制では通常、意識されていません。それは、投資者・委託者を保護することによって、それぞれの取引の規制を行う目的を達成することができるからだと思われます(私見)。これに対して、排出枠の取引では投資者の保護が排出量削減の実現に必ずしも直結しないため、2つの観点が必要になるのです。
 
不動産、商品、有価証券を比較すると、不動産、有価証券では現物取引が業規制の対象とされているのに対し、商品の現物取引は業規制の対象とされていません。そこで、報告書は、排出枠取引についても業規制の対象をデリバティブ取引に限定するかどうかを検討しています。そして、まず、デリバティブ取引については市場参加者の保護という観点からは業規制が必要であることを確認しています。つぎに、現物取引の業規制については、商品先物取引法が現物取引を業規制の対象としないのは、投機目的で現物取引に参加する者がいないからであると説明されていることを挙げ、排出枠についても現物取引に投機目的で参加する者がいるかどうかという観点から検討すべきだとしています(36頁)。報告書では必ずしも明らかでありませんが、投機目的で参加する者がいる場合、投資者・委託者の保護という観点と排出量削減の目的達成という観点の両方から、業規制が必要になる場合があるという考えがとられているといえるでしょう。
 
研究会の際には気づかなかったのですが、そもそも取引が投機の対象になるか否かで区別する判断枠組みは妥当でしょうか。投機を抑えるのは不公正取引等の市場規制であって業規制ではないのではないでしょうか。そして、商品の現物取引に業規制がないのは、誰でも容易に取引に参加できるからではないか。誰でも容易に取引に参加できる世界では、取引ルールだけが必要であって業規制は必要でありません。誰でも容易に取引に参加できない世界では、業者に取引を委託せざるを得ず、その結果、業者の不正行為から委託者を保護する業規制が必要になるのです。そうだとすると、取引業者に取引を委託せざるを得ないように排出枠の現物取引市場を設計する場合には、委託者保護のための業規制が必要になると思われます。この考えによると、もし個人には口座開設を認めず、委託による現物取引を認めるのであれば、委託者である個人投資家保護のために業規制が必要になるでしょう。
証券的規制の第一の論点は、デリバティブ取引を認めるか否かです。排出枠のデリバティブ取引を認めることの制度対象者にとってのメリットとしては、買手が排出枠の調達コストを固定できること、売手が売却収入を固定できることが挙げられます。さらに、遵守期間中における企業活動の状況に応じて、以前に約定した排出枠の買い/売りを、決済期日以前に反対売買を通じて解消させ、柔軟にポジションを見直すこともできます。そこで報告書は、エネルギーの大口需要家である制度対象者は、デリバティブ取引によって各種の費用を安定化させることができるから、国内排出量取引制度においてもその活用を排除する必要はないとしています(28頁)。
 
報告書の表現は少し分かりにくいですが、「デリバティブ取引によって排出量削減費用を安定化させることが、排出量削減という制度目標の達成にとって望ましいから」という意味で書いてあるのであれば、よく理解できます。これが、もし、制度対象者は、もともとエネルギーのデリバティブ取引でエネルギーの製造費用を安定化させているのだから、排出量削減費用についても当然、デリバティブ取引をさせろというのであると、話が違うような気もします。
 
私が研究会に出て一番気になったのは、デリバティブ取引を認めることによって、制度対象者の排出量削減に対するインセンティブにどのような影響が生じるかということです。排出枠の現物取引を認める目的である「削減費用の最小化」に良い影響を与えるのであれば、認めるべきでしょう。これについては、費用が安定化できないと削減プロジェクトへの投資が行われないという説明がありました。たしかにそうでしょう。反面、排出枠の価格が安いときに調達費用を固定化してしまうと、排出量削減プロジェクトを推進するインセンティブが損なわれるのではないかという恐れもあるでしょう。どちらの方向へのインセンティブが働くかは、いろいろな条件に左右されるということでしょうか。
 
報告書は、デリバティブ取引を認めることによって投機資金が流入し、価格が大きく変動する懸念があることにも触れています。そして、投機資金の流入について真に懸念すべきは、何らかの要因により排出枠価格の高止まり・乱高下が引き起こされ、これが産業活動に悪影響を与え、また、炭素リーケージ(企業が、規制の緩やかな国に生産拠点を移転し、緩やかな規制の下で生産を行うことにより、地球全体としての温室効果ガスの排出量が増加してしまうこと)を引き起こすことにより、制度の目的が達成できなくなることにあると分析しています。このような分析に立って報告書は、デリバティブ取引を認めることにより、企業は排出枠価格の高止まり・乱高下に一定程度有効に対応することができると考えられるから、そのような取引を抽象的な投機への懸念を理由として禁止することは合理的とはいえないとします(報告書29頁)。そして、排出枠価格の安定は、市場参加者の要件、仲介業者・取引業者の業規制および行為規制、不公正取引の禁止などで対処すべきだとします(同前)。
 
この点については、報告書前段の分析はその通りでしょう。後段のデリバティブ取引で乱高下に対処するというのは、ちょっと鶏と卵の関係の話みたいです。デリバティブ取引を認めることで生じる価格の乱高下はデリバティブ取引で対処すれば良いのはその通りですが、このような書き振りであると、価格の乱高下についてだけ見ると、デリバティブ取引を認めないことにより価格の乱高下が生じない状態の方が、デリバティブ取引を認めるよりも良く見えてしまいます。ここは、デリバティブ取引を認める方が価格の乱高下を抑えられることを示すか、デリバティブ取引を認めるメリットが総体でデメリットを上回ることを示す必要があるのでしょう。そして、デメリットを抑える方法として、最後段の手段があるということでしょう。
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