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本務校のGCOEの研究会でSchammoさんというイギリスの若手研究者を招いて、EU目論見所法(EU Prospectus Law)について話してもらいました。その研究会の準備のために自分で勉強したことと、研究会における報告・討論から私が理解したことを、書き留めて置きたいと思います。ですから、内容の誤りはすべて私に帰せられます。Schammo氏の研究の成果や分析に興味のある人は、http://www.cambridge.org/gb/knowledge/isbn/item6282763/?site_locale=en_GB をご覧ください。
EUの目論見書指令(Prospectus Directive)は、2003年に制定され2010年に改正されています。加盟国は、改正法の内容を2012年7月までに国内法化して施行しなければなりません。もともと、目論見書指令は、それまでの公募指令(Public Offering Directive)と上場明細書指令(Listing Particular Directive)を一本にしたものです。公募指令は、ある発行者が加盟国(本国、ホームカントリー)で資金調達のために公募目論見書を作成した場合、その文書を相互承認の下に、他の加盟国(受入国、ホストカントリー)における資金調達においても使用できるようにするために制定されたものです。しかし、実際には相互承認は使われず、発行者は、公募の抜け穴を悪用したといわれています。加盟国の思惑の相違により、公募指令では「公募」の定義さえ定められていませんでした。加えて、目論見書の全訳(受入国の言語への)を求める権限を行使できるなど、受入国の規制当局の力が強すぎるといった問題もありました。
そこで、目論見書指令は、加盟国の裁量をできるだけ少なくする、最大調和の指令(maximum harmonisation directive)を目指しました。加盟国が指令の規制に要件を加えることは、原則としてできません。また、目論見書指令は、いわゆるランファルシー(Lamfalussy)手続によって作られており、指令は原理・原則のみを定め、委員会の定める規則(レベル2)、およびソフトローに当たるレベル3の規則によって補完されます。したがって、指令を見ただけでは、実際の規制の内容を知ることはできないのですが、ここでは指令の内容の紹介にとどめます(勉強していないため)。
先に進む前に、目論見書の意義を確認しておきたいと思います。日本では、発行開示の手段として、有価証券届出書と目論見書が用いられ、前者は間接開示、後者は直接開示の手段とされています。このような日本の仕組はアメリカ法に倣ったものです。前にイギリスの制度を少し勉強したときにうすうす感じていたのですが、EUで目論見書という場合、日本の有価証券届出書と目論見書を併せたものを意味するようです。後で述べるように、EUでは承認を受けた目論見書は公表され、投資者から請求があれば紙媒体または電子的方法で交付されます。交付も広い意味での公表の一部と構成されており、日本の届出書と目論見書の相違はEUでは「公表の方法」の相違となります。ですから、EU目論見書法とはEUの発行開示規制を意味することになるのです。
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2つの最高裁判決には、差玉向かいのメリット・デメリット(それが板寄せ仕法とザラバ仕法とでどう違うのか)等、いろいろと取り上げるべき論点がありますが、すでに先行業績もあり、私の評釈もそのうちに公表されますので、ここでは、ほかで論じられていない点(つまり、オリジナル)を一点だけ、取り上げます。それは、説明義務の内容は何かという問題です。
2つの判決は、商品取引員は専門的知識を有しない委託者に対し、取引を受託する前に、その取引については差玉向かいを用いていること、および差玉向かいは商品取引員と委託者との間に利益相反関係が生ずる可能性があることを十分に説明すべき義務を負うとします。
差玉向かいの説明義務は、商品取引員がなぜ差玉向かいをするのか、その説明を求めるものではありません。判旨はそのように述べていませんし、商品取引員が差玉向かいをすることの合理性について顧客が納得したとしても、提供情報の信頼性が低下することには変わりがないからです。それでは、太字部分は何を説明したらよいのでしょうか。「商品取引員と委託者との間に利益相反関係が生ずる可能性があります」とか「業者が儲かるときにあなたは損をし、あなたが儲かるときに業者が損をします」といえば良いのでしょうか。
本件判決を受けて商品取引所法が改正され(今年1月からは、商品先物取引法)、その施行規則では、商品先物取引業者が差玉向かいを行っている場合に、「利益が相反するおそれがある旨を説明しないで」委託者から委託を受ける行為を禁止しました。経産省は、「利益が相反するおそれがある旨」を説明すれば良いと考えているようです。
しかし、最高裁は、差玉向かいを行っているときは商品取引員の提供する情報の信頼性が低下するから、それを顧客によく理解させたうえで委託を受ける必要があると考えているわけですから、利益相反関係が存在するために、商品取引員が提供する情報を顧客が割り引いて評価すべきことを理解させるような説明が必要になると考えられます。単に「利益が相反するおそれがある旨」を説明するだけでは「十分に説明」したことにならないということです。したがって、もし、その取引の委託が商品取引員の情報提供によるものであるときは、取引を受託する際に、提供情報が当てにならないということを商品取引員は説明しなければならないことになります。商品取引員の情報に依拠して取引しようとする顧客(専門的知識のない委託者)が、これまでの情報提供やこれからの情報提供が当てにならないと説明されて、果たして取引を委託するでしょうか。つまり、最高裁判決には、差玉向かいを事実上禁止する効果があるというのが、私の理解です。
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ある研究会で商品先物取引の判例を評釈してきました。対象判例は、最判平成21・12・18判時2072号ですが、最判平成21・7・16民集63巻6号1280頁がより重要なので、一緒に取り上げます。これらの判例は、商品取引員(現在は商品先物取引業者といいます)は、委託者に対し、差玉向かいを行っていることとそれが委託者との間に利益相反関係が生ずる可能性が高いものであることを説明する義務を負う(これに違反したときは不法行為責任を負う)とするものです。
商品先物取引の用語は難しいので正確な理解が出来ているか自信がないのですが、差玉向かいとは、特定の商品、特定の限月の先物取引について、それぞれ委託玉(商品取引員が顧客からの委託により、顧客の計算でする取引)と自己玉(商品取引員が自己の計算でする取引)とを通算した「売りの取組高」と「買いの取組高」が均衡するよう自己玉を建てることを繰り返す取引手法をいいます。もともと、差玉向かいは板寄せ仕法で取引が行われるときに用いられる慣行のことをいい、最判平成21・7・16のケースがそうでした。最判平成21・12・18では、ザラバ仕法による取引における同様の手法が問題となっているため、同判決はこれを本件取引手法と呼んでいますが、ここでは差玉向かいと呼ぶことにします。板寄せ仕法とは何か、ザラバ仕法とは何かについては、これらの判例の評釈を参考にして下さい。
差玉向かいを行っている商品取引員に説明義務が生ずる根拠として、2つの判例は、差玉向かいを行っている場合に取引が決済されると、ある商品取引員にとって、委託者全体に利益が出るときは商品取引員に損失が生じ、委託者全体に損失が生じるときは商品取引員に利益が出る関係にあるから、委託者全体が損をするように、商品取引員において、故意に、委託者に対し、投資判断を誤らせるような不適切な情報を提供する危険が内在するといいます。つまり、商品取引員が差玉向かいを行っていることは、商品取引員が提供する情報一般の信用性に対する委託者の評価を低下させる可能性が高いから、委託契約上(最判平成21・7・16)または信義則上(最判平成21・12・18)、商品取引員に説明義務が生じるとしたのです。
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ニイウスコー事件判決のもう一つの重要な判旨は、虚偽記載の発覚と民事再生手続き開始の申立てが同じ日に行われたのに、金商法21条の2第2項の推定損害額からの減額(同条5項)を行わなかったことです。判決は次のようにいいます(要約しています)。
再生手続開始の申立てやそれによる上場廃止が明らかになった後に株式の市場価値が下落することがあるとしても、これはこうした事実を原因とするものではなく、飽くまで当該会社が再生手続開始の申立てに至るまでの経営、財務等の状態が悪化していた事実が明らかになったことによるものである。そして、本件においては、虚偽記載によりニイウスコーが相当期間にわたり巨額の債務超過等の状態にあった事実が明らかにされていなかったものが、再生手続開始の申立てと同時に明らかになっているのであるから、本件株式の市場価値が下落したのはまさにこの事実が明らかになったことによるものである。したがって、再生手続き開始の申立てやそれに引き続く上場廃止という事情があるからといって、虚偽記載と損害との因果関係を認めるに足りないということはできないし、金商法21条の2第4項所定の事情の証明がなされたということもできない。
上記に述べたことからすれば、推定損害額の全部または一部が虚偽記載によって生ずべき本件株式の値下り以外の事情によって生じたとは認められないから、金商法21条の2第5項の適用による減額はできない。
この判示は、再生手続開始の申立てや上場廃止による株価の下落も、虚偽記載の発覚による株価の下落も、根本要因は、ニイウスコーの巨額の債務超過であるから、異なる原因ではない。したがって、再生手続開始の申立てや上場廃止は虚偽記載によって生ずべき株式の値下り以外の事情に当たらないとするものです。
アーバン事件②③判決は、事案の特殊性を考慮して同じことを言っているのだと解する余地はありますが、アーバン事件①判決はそういっていません。アーバン事件とニイウスコー事件ではもちろん事案は違いますが、真実が開示されたとしても同じ結果(民事再生手続開始)になっていたであろう点では共通しています(この点は、西武鉄道事件も同じですね)。虚偽記載の発覚によって発行者の信用が毀損され企業価値が下落した場合や、虚偽記載の発覚によって上場廃止の可能性が生じて株価が下落した場合には、その下落分は金商法21条の2の適用範囲ではないという見解がありますが、ニイウスコー事件判決は、その見解に立つ場合でも、発覚すれば民事再生手続開始に追い込まれるような財務状況が隠されていた場合には、別に考える余地を示しているように思います(この点については論文で簡単に触れたことがあります)。
前回の記事では、私はこの判旨に賛成と書きましたが、詳しく検討していくと、粉飾決算が発覚して倒産したケースはすべて本当にニイウスコー事件判決と同じに判断してよいのかについては、若干の疑問も残ります。粉飾決算が長年継続し、それが発覚して倒産に至ったケースでは、粉飾の初期では粉飾の幅(すなわち取得時差額)が小さく、虚偽記載の発覚直前では粉飾の幅が大きいはずです。粉飾の初期に株式を取得した投資家についても、発覚直前の粉飾の幅を反映した株価下落を基準として損害賠償を認めて良いのかという疑問が生じます。これについては考え中なので、意見を留保させてください。
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東日本大震災で本人やご家族が被害に遭われた方に、お見舞い申し上げます。
私は家族とも無事でした。阪神大震災のころ私は神戸大学に勤めていたのですが、そのときはたまたま家族と東京におり、直接震災を体験しませんでした。ですから、そのときの揺れと比べることはできないのですが、今回は津波の被害が甚大であったことと、原発の事故があり社会不安や停電による影響が大きく、かつ長引いている点で、未曾有の災害であると思います。東京でも、交通の不便と、人が集まることの危険性から、研究会の中止が相次いでいます。金商法の研究は、こういう災害には全く役に立たないのですが、こういうときはそれぞれの本分を尽くすことが重要だと思いますので、ブログを続けます(原稿も書いています
最近、「判例体系」の仕事をしていて、ニイウスコー事件判決(東京地判平成22年6月25日金判1346号25頁)を知りました。会社名は聞いていたのですが、判決に気づかなくて不覚でした。西田さん、中野さん、ごめんなさい。
事件はアーバンコーポレイションと似ています。4事業年度にわたり有価証券報告書に虚偽記載(粉飾決算)を行い、最近3事業年度は債務超過に陥っていたニイウスコー株式会社が、有価証券報告書に虚偽の記載が含まれていることを公表した日に民事再生手続開始決定の申立てをしました。査定異議事件において、ニイ社の金商法21条の2に基づく責任の有無が争われたのですが、(私の関心からは)2つの重要な判示をしています。私はその一つに賛成で、もう一つに反対です。
まず、反対のほうから。21条の2第1項の損害賠償責任として、投資者は原状回復方式の主張をしました。ニイ社が真実の情報を開示していたら、虚偽記載または債務超過を理由としてニイ社株は上場廃止になっていたはずであり、上場廃止になっていたら自分はニイ社株を購入できなかったから、株式購入代金の総額が投資者の被った損害であると主張したのです。
裁判所は、原状回復方式は21条の2に含まれていないなどとは言わず、この主張を引き取り、投資者のこうした主張は、いずれも本件株式(ニイ社株式)の客観的価値がないことを前提とするものであるとした上で、虚偽記載がされていても、債務超過であっても、本件株式の価値がないと認めることはできず、X(投資者)が本件株式を取得することがなかったということはできないのであり、Xの上記主張は合理的な根拠があるものとはいえないとしました。
こういう判示をした裁判例は過去にもありましたが、明らかに論理のすり替えです。判決を読む限り、Xは本件株式の客観的価値がないなどの主張はしていません。それを勝手に「客観的価値がないことを前提とする」と言い換えた上で、客観的価値がないとはいえないから主張は成り立たないというのです。上記引用中でも、「本件株式の価値がないと認めることはできず」と、「Xが本件株式を取得することがなかったということはできない」とが繋がらないことは分かるでしょう。投資者は、株式に客観的価値があっても、買わないという選択をすることはいくらでもあり得るのです。不当勧誘がなかったら当該株式を買わなかったという不法行為の主張は、当該株式の客観的価値がなかったことを前提としている訳ではありません。客観的価値があろうとなかろうと、買わなかったはずだから金を返せと主張しているだけなのです。
判決は、また、Xがニイ社が債務超過状態にあることを公表した後もニイ社株を購入していたことを、上記主張を排斥する理由として挙げています。しかし、Xの主張は「自分は買わなかった」というものではなく、「上場廃止の株を一般投資家の自分が買えるはずがない」というものですから、判決のようにXの属性を問うことはできないですね。
この裁判所は、アーバン事件判決と異なり、裁量的減額をしなかった点では高く評価できるのですが、今日取り上げた判示については残念でした。
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