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Q&A14は、プット・オプションの行使による株券等の買付けは、通常、株券等の買付け等に該当し公開買付けの方法による必要があるとします。その理由として、三井ほかの解説は、①オプションの行使により売買が成立するため、形式的に「株券等の買付け等」に当たるところ、適用除外として規定されていないこと、②会社の支配に影響を及ぼし得る一定の証券取引について透明性と公平な売却の機会を確保する要請は、プット・オプションの行使による株券等の買付け等にも当て嵌まること、③プット・オプションの取得時に公開買付規制がかからないこと(令6条3項2号の反対解釈)を挙げています。また、④プット・オプションの行使は買主側の意思によるものではないという意見に対しては、プット・オプションの付与が意思に基づくものである以上、行使部分だけを捉えて意思に基づくものでないと考えるのは形式的に過ぎると反論しています。
プット・オプションの行使による取得は、コール・オプションの行使による取得より、実際上、深刻です。なぜなら、プット・オプションの行使による取得時には、通常、市場株価よりも高値で買付けが行われるからです。
理由中、①は、Q13で述べたのと同じように決め手にはなりません。②は確かにそうですが、もしそうだとすると、公開買付規制が適用されそうなプット・オプションの付与はおよそできなくなってしまうのではないでしょうか。プット・オプションの取得者は、株価が下落したときに高値で売付けることの出来る権利をお金を出して購入したのです。ところが、プット・オプションの行使によってオプション付与者に公開買付義務が生ずると、プット・オプションの権利者は、自己の株式を全部買い付けてもらうことができなくなります。つまり、プット・オプションの債務は一部、履行不能か債務不履行になるのです。
このように考えると、正当なプット・オプションの付与と行使を実現するために、プット・オプションの行使による株券の取得は、原則として「株券等の買付け等」に当たらないと解すべきではないでしょうか。
ただし、プット・オプションの付与と行使が公開買付規制を回避する目的でなされる危険性はあります。その場合こそ、プット・オプションの付与と行使が買主の意思に基づくものなので、脱法として公開買付規制違反とされるのです。④のいうプット・オプションの付与が付与者の意思に基づくから、買付けも意思に基づくものと見ることができるのは、オプションの付与と行使が一体のものとして脱法のために計画された場合に限定されるのではないでしょうか。
この点について、三井ほかの解説は、オプションの付与が付与者(買付者)の意思に基づいていれば足りると考えているようです。しかし、③のようにプット・オプションの付与が公開買付けの対象とされていないのは、プット・オプションの付与だけでは相手方がオプションを行使するかどうか分からないため、付与者の意思に基づく買付け等があるとは認められないからです。相手方との通謀があって(すなわち脱法に用いられる場合に限って)意思による買付けが認められるのです。ですから、③は、プット・オプションの行使による取得が株券等の買付け等に当たる理由ではなく、当たらない理由というべきでしょう。
Q&A15の検討は以前の記事を参照してください。
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遅まきながら、今年3月に公表された金融庁の「株券等の公開買付けに関するQ&A」を読む機会がありました。このQ&Aは一種の公定解釈になっているのだろうとは思いますが、思いついた疑問点を書きとめておきたいと思います。
A13はコール・オプションの行使による株券等の買付等は、原則として公開買付の方法による必要があるとします。その理由として、三井ほかの解説(以下、三井解説という)では、新株予約権の行使による買付等と異なり、適用除外として規定されていないこと、および他の株主の売却の機会を確保する必要があることが挙げられています。
私は、「原則として買付け等に当たらない」と解すべきではないかと思います。まず、利害の状況は新株予約権の行使による買付等とほとんど変わりません。適用除外がないという形式的理由は、「株券等の買付け等」に当たらないと解釈すればクリアできます。新株予約権の行使による取得も、理論上当然に、「株券等の買付け等」に当たらないのだが、念のため適用除外規定が設けられたと解すれば足りるのです。
株主の売却機会の確保という実質的な理由の方はどうでしょうか。三井解説は、コール・オプションの取得の際に公開買付けの方法によることが求められるが、取得したコール・オプションの行使を誰に対してするかオプション権者に選択権があるから、それだけでは株式売却機会は確保されないとしています。たしかに、コール・オプションの取得時に求められる公開買付けは、コール・オプションの取得に関するものであって、オプション取得者は株式を取得する必要がないのに対し、コール・オプションの行使時に求められる公開買付けは株式に対するものですから、株式の売却機会を与えるためには後者を公開買付けの方法によらせる必要がありますといえます。
しかし、本当に株式売却の機会が与えられるのでしょうか。典型的なケースで考えてみましょう。株式のコール・オプションの取得とは、通常、当該株式の現在の市場価格よりも高い価格を行使価格とするコール・オプションを対価を払って取得することです。コール・オプションだけで潜在的な議決権が3分の1を超えるような場合には、コール・オプションの売却の機会に一般株主を参加させる意味はあります。それに対して、このオプションが行使されるのは、通常、現在の市場価格が権利行使価格を上回っている場合でしょう(株価1000円のときに、800円で取得する権利を行使する)。そうだとすると、行使の際に公開買付けを要求しても、ディスカウント買付け(一株800円の買付け)が行われるだけであり、他の株主に株式売却の機会が与えられるとは言えないのではないでしょうか。
このように考えると、コール・オプションの行使による株券の買付けは、原則として「株券等の買付け等」に当たらず、公開買付けの方法による必要はないと解すべきです。ただし、通常ならば株式の譲渡によるところ、規制を回避する目的で、コール・オプションの取得と行使が行われる場合は、脱法ですから、例外に該当し禁止されるべきです。その場合は、コール・オプションの取得についての公開買付けに一般株主が応募してくるような状況を避けるでしょうから、脱法かどうかは比較的明確に区別できます。言い換えると、コール・オプションの公開買付けに一般株主が参加する機会が実質的に与えられていれば、脱法と解する理由はないと思えるのです。
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大分間が空いてしまいました。
「ブログを更新している暇があったら原稿を出せ」と言われそうな筋がいくつもあり、また、ちょっと無気力状態に陥っていたのですが、週末なので気を取り直して書くことにします。もっとも、今日の話は以前にジュリストに書いたものとほぼ同じです。
最後に残ったのは、「外国証券売出し」に該当し、かつ、外国証券情報の提供・公表が求められる場合です。想定されるのは、外国株式(形容矛盾ですが)や外国社債でしょう。これらについては、金融商品取引業者等は、内閣府令で定める「外国証券情報」を、売付けの時までに、相手方に対し提供し、又は公表しなければなりません(27条の32の2第1項)。外国証券情報の提供・公表は、発行開示を免除する要件としてではなく、金融商品取引業者等の義務として定められています。遵守の実効性を上げるためだと思われます。この義務は、金融商品取引業者等の説明義務や適合性の原則に沿った勧誘を行う義務を排除するものではありませんので、外国証券情報の提供だけでは説明義務等を満たさない場合があり得ます。外国証券情報の内容は、内閣府令で定めていますが、たとえば外国株式(海外発行株券)の発行者情報としては、記載事項として「事業の内容」や「経理の概要」といった概括的な事項が挙げられており(「証券情報等の提供又は公表に関する内閣府令」別表)、どの程度の詳しさで記載がされるのかは、分かりません。
外国証券売出しを行った金融商品取引業者等は、投資者から請求があった場合又は投資判断に影響を及ぼす重要事実が発生した場合には、当該投資者に外国証券情報を提供し又は公表しなければなりません(27条の32の2第2項)。これは、外国証券売出しを行った業者に、継続開示に対応するような継続的な情報の提供・公表義務を課すものです。発行者に代わって業者に継続開示義務を負わせるものであり、これまでの金融商品取引法になかった、画期的な義務付けだと思います。
勧誘を行った業者が、①情報を提供せずに有価証券を取得させた場合、②勧誘の際に提供・公表した情報に虚偽等があった場合、③請求に応じて公表した情報に虚偽等があった場合に有価証券の取得者に対して負う損害賠償責任について、16条・17条に倣った特則が設けられました(27条の34の2)。立案担当者は、これを厳格責任を定めるものではないと説明していますが、16条に相当する①(27条の32の2第1項)の責任は、16条と同様、厳格責任を定めたものと解すべきではないでしょうか。②③の責任は、業者が「相当な注意」を払えば免れますが、「相当な注意」の水準は、業者がデュー・ディリジェンス(引受審査)を行っていないことを前提に判断されるべきでしょう。
以上で「売出しの定義」シリーズはお終いです。
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「アメリカ法」は日米法学会の由緒正しい機関誌で、いい加減なことは書けませんし、判例紹介は4000字なので、そこで書けないような思い付きをここに書き留めておきます。
Morrison事件では、N銀行の普通株式はオーストラリア証券取引所に上場され、そのADR(預託証券)がNYSEに上場されていました。裁判所はこの事実を認識しており、したがって、判旨によると、ADRを(アメリカ国内)で取得した投資家は、rule10b-5訴訟を提起できたと思われます。
このような重複上場の事例で、ADRの取引により損失を蒙った者はアメリカ法による保護を受け、元株の取引をした者が保護を受けられない理由は何でしょうか。
判決は、アメリカと同じように、他の国も国内の証券取引所や証券取引を規制しているはずであり、そこでは、どんなディスクロージャーが求められるか、どんな損害賠償が認められるか、訴訟においてディスカバリーが認められるか、クラス・アクションが認められるか、弁護士費用の賠償が認められるかといった点において、規制内容が異なる。だから、それぞれの国の法が適用されるべきだと述べています。つまり、原告がオーストラリア取引所で元株を取引したのならば、オーストラリア法が適用されるべきだというのです。この結論はもっともですが、それは、「違法行為がオーストラリアで行われたからであって、取引がオーストラリアで行われたからではない」のではないでしょうか。
本件で原告は、N銀行は、子会社の資産を過大評価することにより、アメリカとオーストラリアの法定開示やプレスリリースに虚偽の記載をしたと主張しています。そうすると、資産の過大評価がどこで行われたにせよ、オーストラリアにおける取引で生じた損害はオーストラリアにおける違法行為(虚偽記載)から生じたと考えるのが自然です。また、この場合には、判決が危惧するような法の衝突が起こっています。そこで、オーストラリアで上場されている証券についての虚偽記載にはオーストラリア法が適用されるべきなのです。
N銀行のADR(米国預託証券)が日本で取引された場合はどうでしょうか。N銀行のADRは日本市場に上場されていないので(実は、当時、元株が上場されていたのですが、ここでは無視します)、違法行為は日本では行われていません。日本国内における外国証券の取引に日本法は適用されますが、法定開示書類の虚偽記載がないので、日本の金商法は(157条が適用される可能性があることを除けば)適用されません。この場合には、判決が危惧するような法の衝突はないのです。そうだとすると、この場合にrule10b-5が適用されるか否かは、日本の投資家をアメリカ法で保護しなければアメリカの上場証券の市場の公正性を確保できないかどうかで決まります。第2巡回区の判例法理をきちんと勉強していませんが、これが効果テストではないでしょうか。実は、このケースは、前回述べた「アメリカの証券取引所に上場されている証券が国外で取引される場合」なのです。それについて、rule10b-5を一律に適用するのも、その適用を一律に排除するのも妥当でないことが分かります。
以上の検討からは、やはり行為と効果をテストする第2巡回区の法理の方が、Morrison判決よりも妥当であるように思えて仕方ありません。 日本に置き換えて考えてみましょう。海外で上場していない日本の上場株式の発行者について、有価証券報告書に虚偽記載があり、海外で株式を取得した投資家がいたとします。その投資家は、21条の2や24条の4の請求権を有するでしょうか。日本の市場の公正性を確保する観点からは、請求権を認めるべきです。ただし、金融商品取引法の地理的適用範囲が国内に限られていることから、海外で取得した投資家にこれらの条文は適用されないと言う人がいるかも知れません(もっとも、私は、海外での違反行為に日本法を適用すること(内から外への拡張)は地理的適用範囲によりできないが、外からの請求を認めることは何ら問題ないと考えています)。
なお、Morrison判決は、取引を基準とする理由として、10条(b)項は詐欺的行為を処罰するものではなく、「証券の売買に関する」詐欺的行為のみを処罰するものであることを挙げています。こじつけの理由に感じられますし、、証券の売買に関する詐欺だからといって、証券の売買が行われた場所で行われるとは限らないですね。
さらに、私が取引基準を疑問に思うもう一つの理由は、これでは10条(b)項とrule10b-5が適用される多様な違法行為の類型の違いを無視して、一律に投資家による取引が行われた場所を基準とすることになってしまうからです。前回書いたように、相対取引の当事者間で詐欺が行われる場合は取引の場所を基準とすることも良いでしょう。しかし、法定開示書類の虚偽記載にrule10b-5を適用するときには、本来、法定開示書類の虚偽記載に適用される制定法上の民事責任規定の適用範囲を念頭に置いて、rule10b-5の域外適用の可否を考えるべきです。結局、違法行為の類型に応じて域外適用の可否を考えることが、第2巡回区の法理に繋がるのでしょう。
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雑誌「アメリカ法」からの依頼で、判例紹介を掲載するためにアメリカの最高裁判決を読んでいます。
対象は、Morrison v. National Australia Bank Ltd., 130 S. Ct. 2869 (2010)です。この判決は、1934年証券取引所法の詐欺防止条項の域外適用について連邦最高裁が初めて判断を下したものです。しかも、それまで10条(b)項を域外適用してきた第2巡回区の判断を否定して、§10(b)の域外適用は認められないとした(ある意味で)画期的な判決です。さんざん域外適用してきて、今更なんだよという気がしないでもありませんね。
事案は次のようなものです(文字の大きさが変わり、読みにくくて済みません)。
1998年、ナショナル・オーストラリア銀行(以下、N銀行という)は、フロリダ州を本拠とし住宅ローン債権回収事業を営むホームサイド社(以下、H社という)を買収した。N銀行の普通株式は、アメリカの証券取引所には上場されていなかった。2001年、N銀行はH社の資産を減損処理せざるを得なくなったため、N銀行の株価が下落した。減損処理の前にN銀行の普通株式を購入したオーストラリア人原告が、証券取引所法10条(b)項、20条(a)項、およびSEC規則10b−5条に基づいて、N銀行、H社、および両会社の役員らを訴えた。地方裁判所は、事物管轄がないとして訴えを却下し、第2巡回区控訴裁判所もその判断を是認した。原告が上告。
判旨はここには書きませんが、最高裁は事物管轄はあるとした上で、原告に対する関係で10条(b)項および規則10b−5は適用されないとしました。判決は、第2巡回区が採用してきた行為・効果テスト(国際的な詐欺的行為のうち、アメリカで一部の重要な行為が行われるか、アメリカの証券市場または投資者に実質的な影響があれば10条(b)項を適用できる)を否定し、新しく取引テスト(transactional test)を採用しました。その内容は、「国内の取引所に上場された証券の取引、および、それ以外の証券の国内取引にのみ、10条(b)項が適用される」というものです。
この部分を読んで真っ先に浮かんだ疑問は、判決が、テストの前段部分で、上場証券の取引所を通じた取引と言わずに、上場証券の取引と言っている点です。これを素直に読めば、アメリカ国内の上場証券を海外でアメリカの取引所を通じずに取引しても10条(b)項が適用されることになりそうです。しかし、NYSEの上場証券を日本でAがBから買うときにCが詐欺をしたらアメリカ法が適用されるというのは域外適用に他ならないでしょう。最近出た判決なので評釈はアメリカでもほとんどないのですが、Painter他の書いた論文(SSRNから入手可能)では、判旨が矛盾していると指摘しています(ただし、結論としては、上場証券も国内取引に限って10条(b)項が適用されると読む)。この事件は、取引テストの後段が適用されるものなので、取引テストの前段は事件の解決には影響はないのですが、域外適用についての最初の判例がこんなんで良いのでしょうか。
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