ここから本文です

書庫全体表示

記事検索
検索
HalliburtonⅡ判決の解説
1 信頼の推定
(1)効率的資本市場仮説に依拠するものでないこと
 Basic判決が出された1988年以降、情報に対する証券市場の効率性については、疑義を呈する実証研究が多数公表されており、市場に対する詐欺理論の基礎が揺らいできました。
 多数意見は、市場に対する詐欺理論は、市場の効率性を前提とするものではないとして、Basic判決を維持しました。Basic判決が特定の経済理論に依拠しているものでないことは、たしかにその通りです。しかし、「市場の効率性」は、依然として、信頼の推定のための要件の一つとされています。
 
 学説では、Basic判決は、市場に対する詐欺理論と効率的市場仮説を結びつけたけれど、本来、ある証券の市場価格が詐欺情報を反映している限り、市場に対する詐欺理論により信頼を推定するために、証券市場が一般的に効率的であることを示す必要がないことが、比較的早くから指摘されてきました[1]HalliburtonⅠおよびHalliburtonⅡでは、多くの学者が裁判所の友(amici curiae)として意見を寄せていますが、それらの多くも、裁判所は市場が効率的であるかどうかではなく、特定の不実表示が市場価格に影響を与えたかどうかに着目すべきであるとしている。
 
(2)Bebchuk & Ferrellの見解
 ここでは、市場が効率性と信頼の推定との関係を例証しているBebchuk & Ferrellの論稿[2]を紹介します。
 一般に、市場は、利益を得る裁定機会(arbitrage opportunity)がない場合に効率的であると定義されてきた。
しかし、第1に、裁定機会の存在は、詐欺による市場価格の歪曲(fraudulent distortion)の存在を否定するものではない(市場が効率的でなくても、詐欺による市場価格の歪曲は起こり得る)。
 市場の効率性は3つの分野で争われてきた。①市場は長期的な収益を過大評価している。②過剰なボラティリティ。③情報に対する市場の反応の鈍さ、である。
 
① 過大評価設例
 市場の株価収益率が歴史的に15倍であったところ、現在、市場が長期的収益を過大評価し、20倍となっていた。企業が収益を1ドルのところ2ドルと不実表示した。株価は20ドルから40ドルに上昇し、不実表示の発覚により株価は20ドルに戻った。その後、市場は長期的な過大評価を修正し、株価利益倍率は15倍に戻り、株価は15ドルとなった。
 → クラスワイドな信頼を認めるかどうかにとって、不実表示によって株価が上昇したことが重要であり、株価収益率が過大評価されていたかどうかは関係がない。
 
 ② 過剰なボラティリティ設例
 上の例で、株価が20ドルから40ドルへ上昇した。過剰なボラティリティのせいで、株価は、1時間ごとにランダムに38ドルから42ドルの間で変動していた。不実表示の発覚により株価は20ドルに戻ったが、同じ理由で、19ドルから21ドルの間で変動していた。
 → クラスワイドな信頼を認めるかどうかについて、過剰なボラティリティの有無は関係がない。たしかに過剰なボラティリティは利益の機会を生じるが、不実表示によって価格が歪められていたことに変わりはない。
 
 ③ 鈍い市場反応設例
 上の例で、良い情報に接して株価は20ドルから35ドルに上昇したが、翌週1週間かけて40ドルまで上昇した。不実表示が発覚すると株価は20ドルに戻った。
 → 不実表示の開示を受けて当該株式を取得した者が、市場価格の歪みの結果、15ドルないし20ドル余分に支払った事実には変わりがない。
 
 第2に、裁定機会がない(市場が効率的である)ことは、不実表示が市場価格の歪みをもたらさない場合があることを否定するものではない。
 ① 公表された情報設例
 インターネット企業が、四半期収益を公表した。その数日後、サイトへの来訪者数が75%上昇したとの不実表示を公表。アナリストは来訪者数の情報を分析して、それが企業の収益性に与える影響を分析した。不実表示を公表したときも、それが不実であると発覚したときも株価に変化はなかった。
 → この場合、価格の歪みがないからクラスワイドな信頼は与えられない。市場が開示情報に反応しなかった理由(情報が重要でなかった、四半期収益の情報で株価が決定されていた、市場が虚偽情報を信頼していなかった等)はなんであれ、重要なのは市場価格に歪みが生じたかどうかである。
 
 ② 埋没した情報設例
 企業が、環境政策に関する公表された報告書(投資家の興味を惹かなかった)の中で、財務情報について不実表示をした。不実表示をしたときも、その発覚のときも、市場価格に変化はなかった。
 → クラスワイドな信頼は与えられない。情報が価格に反映されなかった理由は重要でない。重要なのは市場価格の歪みが生じていないこと。
 
 Bebchuk&Ferrellは、信頼の推定法理は次のように改訂されるべきだとする。
(1) 効率的な市場で取引されている証券の価格は、公開され利用可能な会社に関するすべていくつかの情報を反映する。
(2) したがって、効率的な市場における証券の買主は、購入するに際して、公開情報を当該市場価格が詐欺的に歪められていないことを、たとえば、不実表示がなかったとしても異なる価格でないことを信頼したと推定されることができる。
(3) そして、証券の市場が非効率的である詐欺的に歪められていないとき、原告は市場に対する詐欺クラスワイドな信頼の推定を起動させることができない。
 
(3)判旨の検討
 HalliburtonⅡ判決は、判旨2で価格影響性(price impact)という概念を用いましたが、これは詐欺による歪曲と同義でしょう。多くの学説が主張するように、最高裁は、市場に対する詐欺理論を、市場の効率性を価格影響性に置き換えたものに修正すべきでした。しかし、判例を変更してもしなくても、信頼の推定を認めるという結論は変わらないので、最高裁はBasic判決の修正を避けたものと思われます。
 この結果、HalliburtonⅡ判決によると、信頼の推定を受けるためには、市場が効率的であることを、依然として原告側が示す必要があります。市場の効率性の証明方法としては、Cammer v. Bloom, 711 F. Supp. 1264 (1989)の示した5要因テストが用いられており、そこでは(1)株式の取引量、(2)当該株式をフォローしていたアナリストの数、(3)マーケット・メーカーの数、(4)S-3登録要件を充たすかどうか、(5)予期しない新事象に対する株価の反応を基準として、当該株式の市場が効率的であるか否かが決定されます[3]。裁判実務上、このような効率性の検証が引き続き行われるようであれば、学説から批判されるでしょう。
 
(4)市場の誠実性に対する信頼というレトリック
 法廷意見は、バリュー投資家も、いずれは市場価格が情報を反映すると考えて投資しているから、市場の誠実性を信頼していると説明します。これに対し、反対意見は、バリュー投資家が取引のときに市場の誠実性を信頼していたかどうかが問題なのだとします。
 この議論は、反対意見に分があると思います。ただ、そもそも市場の誠実性に対する信頼を問題にすること自体、レトリックにすぎないのです。バリュー投資家は効率的でない市場の投資家像を反映したものであり、現実の市場には市場価格が情報を反映していると考えて取引を行う投資家とそう考えないゆえに取引を行う投資家が併存することは否定できません。いずれの投資家についても、不実表示によって影響を受けた市場価格で取引を行えば、不実表示と取引との間の因果関係(取引因果関係)が認められるとすれば足りるのです。最高裁は、市場の効率性を前提とするという理解の下でBasic判決を変更しなかったので、レトリックを用いざるを得なかったのでしょう。
 
2 クラス認可段階での価格影響性の反証
(1)価格影響性と損害因果関係
 多数意見は、価格影響性(price impact)という概念を用いて、価格影響性は重要性と異なり、クラス認可段階で反証可能であるとしました。果たして、価格影響性は重要性と異なるのでしょうか。また、損害因果関係とは異なるのでしょうか。
 損害因果関係とは、投資家の取引と彼の被った損失との間の因果関係のことをいいます。損害因果関係があるといえるためには、有価証券の取得時に不実表示によって市場価格が不当に吊上げられていたことを証明するのでは足りないとするのが判例(Dura判決)[4]であり、不実表示の発覚が株価を下落させたことを示すことは損害因果関係の立証の一方法と考えられています。また、価格影響性とは、「被告の不実表示が実際に株価に影響を与えたか」[5]ということですが、これも不実表示がされた時点のイベント・スタディを行うことは難しいことが多いので、不実表示の発覚時のイベント・スタディにより確認することになるでしょう。そうすると、価格影響性と損害因果関係は同じ問題ではないかと思われます。
 Coffee教授は次のようにいいます[6]HalliburtonⅠは、損害因果関係はクラス認可の段階では争えないとした。HalliburtonⅡは、これを実質的に変更して、「価格影響性」はクラス認可段階で争えるとした。同じ証拠が損害因果関係の反証にも価格影響性の反証にも使えるのだから、法はいつもラベル貼りの問題である。Fox教授も、価格影響性と損害因果関係とは実質的に同じ争点であるとします[7]
 これに対しBebchuk & Ferrellは、例を挙げて、価格影響性(詐欺的歪曲)と損害因果関係とは異なるとします。
 
FDA承認設例
 企業が、FDAが医療機器を承認するだろうという虚偽の公表をした。株価は直ちに10%上昇した。原告は、不実表示が市場価格に影響を与えたことを証明した。
 → クラスワイドな信頼は認められる。しかし、詐欺的歪曲が経済損失を生じさせたことはまだ証明されていない。Dura判決は、価格の吊上げだけでは経済損失の近因にならないとする。価格影響性は、損害因果関係の必要条件であるが十分条件ではない。
 
 もっとも、この例は、不実表示時のイベント・スタディで詐欺的歪曲を証明できる事例を前提としており、上記の疑問は払拭されないように思われます。
 
(2)価格影響性の反証の程度
 重要なのは、クラス認可の段階でどの程度の反証の負担があるかです。Coffee教授は次のような問題を設定します。たとえば、訂正情報の開示の際に市場価格が下落したが、その有意性は、通常求められる95%のレベルではなく90%のレベルであった。被告は、価格影響性を反証したと認められるか?
  また、Fox教授は次のように論じています。
クラス認可段階での被告による価格影響性の反証について、本案段階での原告による損害因果関係の立証の同程度のものを求めるとしたら、被告の反証権は意味のないものとなる。すなわち、95%の信頼水準を要求するのでは意味がない。これに対し、原告が損害因果関係の立証ができないであろうことを被告が裁判所に説得することだけで、信頼の推定が反証されるのだとしたら、本判決は被告にとって意味がある。この場合には、価格影響性と実質的に同じ争点である損害因果関係を、クラス認可の段階で、被告に立証責任を負わせて行うことになる。
 価格影響性の反証の程度は、下級審裁判例に委ねられた課題でしょう。
 
(3)不開示の場合とのバランス(略)
 
(4)価格影響性と重要性
 重要性とは、合理的な投資家が投資判断にあたって当該表示を重要と考えたことを意味し、重要かどうかは、当時、利用可能な情報の総体を大きく変えるかどうかで判断されるます。情報が重要であれば市場価格に影響を与えるから、価格影響性と重要性の異同が問題となります。
 本判決は価格影響性と重要性とは異なるとするが、判旨の掲げる価格影響性と重要性の相違は、性質の相違というよりも、クラス認可の段階で証拠が提出されているかどうかの相違にすぎず、理由づけがあまり説得的でありません。
 Bebchuk & Ferrellは、価格影響性(詐欺的歪曲)と重要性は異なり、価格影響性の反証を認めることは重要性の要件の審理を先取りすることにはならないとして、次の例を挙げます。
 
 鉱山設例
 アメリカの鉱山会社がオーストラリアに金鉱を所有している。CEOが鉱山を訪れ、鉱山技師と会話をし、帰国後、「鉱山技師と会話をした。金鉱はとても良いと思う(feel great about the gold mine)」と発言した。株価は10%上昇した。後になって、当該金鉱で金を産出することが不可能であると判明した。原告は、CEOの虚偽発言と市場に対するインパクトを証明した。
 → クラスワイドな信頼は認められる。しかし、本案段階で、被告は表示の重要性を争う余地がある。なぜなら、事実の争点は、技師がCEOに話した内容はなにか、その内容(情報)は金鉱をどれだけ有望なものにするか、その情報はCEOの発言を導いたかといった点にあるから。市場に対する影響度と、表示が重要な点で誤解を生じるものを含んでいたかどうかは別問題である。
 
 この例が価格影響性と重要性が異なることをうまく説明できているのかどうか、私には疑問に思われました。
 
3 クラス・アクションへの影響(略)
 
4 日本法への示唆(略)
 
 字数制限のせいか、注が落ちてしまいました。興味のある方は、日本証券経済研究所のHPに掲載される金融商品取引法研究会の記録をご覧ください。

Halliburton判決(3)

判決の紹介をしてから、だいぶ時間が経ってしまいました。今年出すべき原稿は出したので、もう一度、Halliburton判決を振り返ってみたいと思います。
 
証券経済研究所の研究会で、この判決を採り上げました。その際、HalliburtonⅠ、Amgenを知らないと、HalliburtonⅡを正しく理解できないことが分かりました。すこし遠回りですが、これらを振り返ってみます。
 
Erica P. John Fund, Inc. v. Halliburton Co., 131 S. Ct. 2179 (2011).
解説として、藤林大地「市場における詐欺理論の適用と損害因果関係の立証の要否」商事1979号(201253
【事実】
 EPJ Fundが、Halliburton社が、(1)アスベスト訴訟の潜在的な責任の範囲、(2)ある建設契約から生じる予想収益、および(3)他の会社との合併の便益について、故意に、さまざまな虚偽の開示を行ったと主張して、199963日から2001127日までにH社の株式を購入した者を代表してクラス・アクションを提起した。
 却下の申立て(motion to dismiss)を退けたのち、地方裁判所は、EPJ Fundは、請求に係る損害因果関係を証明しておらず、連邦民事規則23(b)(3)号の要件を充たさないとして、クラスの認可を拒絶した。第5巡回区の先例は、クラス認可を得るために原告に損害因果関係の立証を求めていた。
 クラス認可のために損害因果関係の立証が必要かどうか、巡回区の不一致を解消するために、最高裁は裁量上訴を認めた。
 
【判旨】 破棄差戻し
 本件下級審は、クラス認可における共通性の要件を充たすために、信頼の立証が必要であり、信頼の証明のためには損害因果関係の証明が必要と考えた。
 しかし、控訴裁判所の要件は、Basic判決の論理からは正当化されない。損害因果関係は、投資家が不実表示を信頼したか否かとは関係のない事柄に関するものである。後の損失が不実表示の発覚以外の要因によって生じたという事実は、投資家が最初の段階で不実表示を信頼したかどうか(それが直接であれ、推定される場合であれ)とは関係がない。
 Halliburtonは、本件下級審が損害因果関係の名の下で実際に問うたのは、主張された不実表示が最初の段階で市場価格に影響を与えたか、すなわち価格影響性(price impact)の有無であったと主張する。しかし、控訴裁判所が言おうとしたことをHalliburtonがどう考えるにせよ、実際に言ったのは損害因果関係である。
 
【解説】
 判決の内容は当然のように思えますが、Amgen判決、HalliburtonⅡ判決への伏線となっており、そう単純な問題ではありません。
 
Amgen Inc. v. Connecticut Retirement Plans and Trust Funds, 133 S. Ct. 1184 (2013).
解説として、藤林大地「証券集団訴訟の認可と不実表示の重要性の立証の要否」商事2015号(201338頁。
 
【事実】
 コネチカット退職年金ファンドが、バイオテック会社Amgenとその役員(併せてAmegenという)に対し、証券クラス・アクションを提起し、信頼の要件については「市場に対する詐欺」推定を援用し、クラス・アクションの認可を求めた。地裁はクラスを認可し、第9巡回区控訴裁判所は、退職ファンドはクラス認可の前に虚偽記載または省略の重要性を証明する必要があるとのAmgenの主張を退け、クラスの認可を維持した。同裁判所は、また、クラス認可の段階でAmgenが提出した、重要性の反証となる証拠を考慮することを地裁が拒絶した点に誤りはなかったと判示した。最高裁は、クラス認可のために重要性を立証する必要があるかどうかについて、巡回区の不一致を解消するために、裁量上訴を認めた。
 
【判旨】
 重要な問題は、クラスに共通する法または事実の問題が、個々のメンバーのみに影響する問題に対して支配的であるといえるためには、重要性の証明が必要かどうかである。その答えは2つの理由により「否」である。
 第1に、重要性は客観的な基準に従って判断できるので、クラスに共通の証拠によって証明され得るからである。したがって、重要性は、23(b)(3)号にいう「共通の問題」(common question)である。
2に、原告が略式判決の申立てや本案において、重要性の十分な証拠を提出できなかったときは、個々人の信頼の問題がクラスに共通の問題に優越するという事態を招くことはない。重要性の要件の証明に失敗したときには、すべての者にとって訴訟は終了し、個々人の信頼という争点が支配的になるような請求が残ることはない。
 
Amgenは、市場に対する詐欺理論の前提条件はクラス認可の前に充たされなければならないから、前提条件の一つである重要性もクラス認可の前に証明されなければならないという。しかし、重要性と異なり、市場の効率性および不実表示が公表されたことは、Rule10b-5の欠くことのできない要素ではない。後2者が証明されなくても、信頼の個別的立証が許されるが、重要性が証明されなければクラスの請求全部が棄却される。市場の効率性や公表の争点と異なり、重要性の争点が証明できなければ、個別問題が共通問題に優越することはないので、重要性は23(b)(3)号のクラス認可の前に証明される必要はない。
 
 Amgenは、クラス認可は和解への大きな圧力となるから、認可前に重要性を争えないと、重要性を争う場面がなくなると主張する。しかし、その点は、不実表示や損害因果関係の要件についても同じである。議会は和解の圧力に対して、クラス認可段階で重要性の証明を求めること以外の手段によって対処したのであり、これに加えて裁判所が23(b)(3)号の再解釈により調整を行う必要はない。
 
 Amgenは、原告の申立てに対して、重要性の反証を提出できないとした点に地裁判決の誤りがあると主張する。しかし、主張された不実表示が最終的に重要でないとされる可能性があることは、共通問題が支配的であることを妨げるものではない。本件の地方裁判所が、Amgenの反証の考慮を略式判決または事実審(トライアル)にとっておいたのは正しい。
 
 本判決では、Thomas判事が反対意見を記載し、Kennedy判事がこれに同調、Scalia判示もその一部に同調している。
 
【解説】
 不実表示の重要性は、市場に対する詐欺理論による信頼の推定を認める要件の一つなのに、クラス認可の段階で証明を要しないのはなぜか。判決はこの問題に対して、重要性が客観的証拠によって証明できるという点で「共通の問題」であること、仮に本案において重要性が証明されなかった場合には、訴訟は終了するので、改めてクラスの認可を判断する必要がないことを以って答えています。
 クラス認可の段階で重要性の証明が不要だとすると、被告は重要性を反証する証拠を提出できないという不利益を受けますが、裁判所はそれもやむを得ないと考えたのです。この点は、HalliburtonⅡ判決で、一部変更されたとみることもできます(後述)。

Halliburton判決(2)

Thomas, Scalia, Alito判事の意見(実質的には反対意見)は次のように論じています。
 
Basic判決による信頼の推定は誤りであった。その理由は第1に、裁判所が、争いのある経済理論と投資家の行動についての誤った直観に依拠したからであり、第2に、それが、クラス認可を求める原告に、個別の争点より共通の争点が優越するという要件の立証を求める連邦民事規則23条に関する判例法に反するからである。第3に、推定された信頼は、ほとんど反証することが不可能であり、信頼の要件を廃止するのに等しいからである。
 
A 1
Basic判決が前提とする事実のうち、すなわち公表情報が市場価格に反映されているという点は、効率的資本市場仮説に立脚したものであるが、Basic判決以来、その経済理論は広く批判にさらされている。また、市場が公表情報を反映するにしても、正確に反映するとは限らないことを示す多くの実証研究がある。
 
Basic判決が前提とするもう一つの事実、すなわち投資家は市場の誠実性を信頼しているという点は、誤りである。多くの投資家は、市場が株式を過大評価または過小評価していると信じているからこそ、取引をしているのであるし、他の投資家は、価格と関係のない理由で、たとえば流動性の需要、税金の考慮、ポートフォリオの組換えのために取引している。
 
多数意見は、穏健な前提を置くことで理論と現実を架橋しようとする。しかし、そのような穏健な前提は、Basic判決の判決文言と整合しない。また、多数意見は、市場が過大評価・過小評価している価値投資家も、将来、市場価格が公表情報を反映することを信じているというが、取引の際に市場価格が公表情報を反映していなければ、投資家は、公表情報が彼を取引に誘い込んだと主張することはできないはずである。
 
Basic判決による信頼の推定は、クラスの認可を求める当事者が連邦民事規則23条の要件を立証しなければならないとするComcast Corp. v. Behrend, 133 S. Ct. 1426 (2013)に反する。Basic判決は、推定が発動されれば、クラス認可のための優越性の要件が充足されると考えているようであるが、我々の理解では、Basic判決は、個々の投資家が市場価格を信頼して売買したことの証明を求めているのであり、このような問いは、本質的に個別の争点である。もし、Basic判決が前者のように解釈されるのであれば、それは裁判所の権限を越えている。
 
Basic判決は、被告に反証の機会を与えているようにみえる。しかし、クラス認可の段階では、反証はクラス代表に対してのみなされるので、クラス代表の信頼を反証することは難しい。クラス認可後は、裁判所は信頼の要件の反証を拒絶してきた。信頼の反証を認めた事例は、何千ものrule10b-5訴訟中、6件しかないという。Basic判決は、信頼の要件を実質的に廃棄するのに等しい。
 
多数意見は、先例拘束の原則により、制定法の解釈の変更には特別の理由が必要であるとする。しかし、rule10b-5は判例による訴権であるから、制定法の解釈のような先例拘束は働かない。裁判官が作った法が間違っていたときは、議会に期待するのではなく、自ら誤りを正すべきである。
 

Halliburton判決(1)

6月23日にアメリカ合衆国の連邦裁判所は、Halliburton, Co. v. Erica P. John Fund, Incを下しました。これをHalliburtonⅡ(判決)といいます。この事件では、rule10b-5訴訟で信頼(reliance)の推定を認めた1988年のBasic Inc. v. Levinson, 485 U.S. 224(以下、Basic判決)を見直すかどうかが注目されていました。Basic判決が変更されれば、証券クラスアクションを提起すること自体がかなり難しくなるため、影響が大きいのです。判決は、結局、Basic判決の見直しをせず、クラス認可前の段階で、発行者は虚偽記載が市場価格に影響を与えなかったこと(price impactがないこと)を証明して、信頼の推定を覆すことができる(争うことができる)としました。価格影響性(price impanct)の判示も重要であり、アメリカではHalliburtonⅡは重く受け取られているようです。この判決が、ただちに金商法の解釈に影響を与えるものではありませんが、米連邦最高裁の考え方を知るにはよい材料ですので、まず、以下に判決の要約を示します(一部、意訳が入っています)。
 
Erica P. John Fund, Inc. v. Hallibuirton Co., 131 S. Ct. 2179 (2011)(以下、HalliburtonⅠ)において我々(最高裁のこと)は、Basic判決またはその論理は、Basic判決の推定を発動させるためには、証券訴訟の原告がクラス認可の段階で損害因果関係(虚偽記載と損害との間の因果関係)を証明することを要求していないと判示した。差戻審において、Halliburtonは、損害因果関係の反証として提出していた証拠は、虚偽記載が価格に影響を与えていなかったことの証拠でもあると主張した。地裁はHalliburtonの主張を取り上げることを否定し、第5巡回区控訴裁判所も、価格影響性の主張は事実審(トライアル)でのみ認められるとした。
 
Ⅱ A
まず、判例の変更には特別の正当事由(special justification)が必要であることが、我々の判例法である。Diskerson v. U. S., 530 U. S. 428 (2000)参照。
 
Basic判決において当裁判所は、信頼の要件の直接的な証明が、公開市場で取引するrule10b-5の原告に不必要かつ非現実的な負担を課すことを認識し、よく発達した市場において証券の市場価格が公に利用可能な全ての情報を反映していると考える「市場に対する詐欺(fraud-on-the-market)理論」に基づいて、当該市場で形成された価格で株式を売買した投資者は、公表された重要な虚偽記載を信頼したと推定されると判示した。この理論によると、信頼の推定を受けるためには、原告は、(1)虚偽記載が公表されていること、(2)虚偽記載が重要であること、(3)株式が効率的な市場で取引されていること、(4)虚偽記載がされ、真実が発覚するまでの間に、原告が取引を行ったことを示す必要がある。
 
Halliburtonは、Basic判決の2つの前提が今日では成り立たないので、判例が変更されるべきだと主張する。
 
第1に、Halliburtonは、今日では、効率的資本市場仮説(efficient capital market hypothesis)が成り立たない証拠がいくらでもあるという。しかし、Basic判決が、信頼の推定を認めるに当たり、特定の理論に依拠していないことは、当該判決が述べるとおりである。裁判所は、一般的にいって、市場のプロが、会社に関して公表された重要な情報の多くを考慮しており、したがって、市場価格に影響を与えるという穏健な前提を置いているだけである。Halliburtonが引用する学説は、このような穏健な前提を否定するものではない。
 
第2に、Halliburtonは、投資家が市場価格の誠実性(integrity)を信頼して投資を行うという、Basic判決が仮定に置いている命題を攻撃する。Halliburtonは多くの例を引用するが、そのうち重要なのは、株式が過小評価または過大評価されていると信じている価値投資家(value investor)であろう。しかし、Basic判決は価値投資家の存在を否定するものではない。そのような投資家は、株価が最終的には重要な情報を反映すると暗黙のうちに信頼しているのである(そのような市場修正がないとしたら、どうやって価値投資家は利益をえるのか?)。たしかに、価値投資家は取引の時には価格を信頼していない。しかし、信頼の推定を受けるためには、合理的な期間内に市場が情報を反映すると信じていれば足りる。
 
Basic判決は、信頼の推定を受けるために原告は、公開性、重要性、市場の効率性、および取引のタイミングを証明しなければならないとした(上記A参照)。これらの前提の証明責任は原告にあり、かつ(重要性を除いて)、クラス認可前に証明されなければならない。
 
Halliburtonおよびその賛同者は、Basic判決は、証券クラスアクションを促進することにより、深刻で害のある結果を引き起こしてきたと主張する。しかし、そのような心配は議会によって対応されるべきものであり、すでに1995年の私的証券訴訟改革法(Private Securities Litigation Reform Act of 1995)によって対処されてきた。
 
Ⅲ  
Halliburtonは、Basic判決を変更する2つの提案をしている。
 
第1は、信頼の推定を発動させるために、原告は、虚偽記載の価格影響性を証明しなければならないというものである。たしかに、Basic判決が採用した信頼推定の4つの要件(上記A(1)-(4))のうち、(1)-(3)は価格影響性に向けられたものである。しかし、Basic判決の信頼推定の要件は2つの構成要素からなる。第1に、原告が、虚偽記載が公表されており、重要で、かつ原告が、一般的に効率的な市場デリバティブ取引をしたことを証明した場合には、彼は虚偽記載が価格に影響を与えたとの推定を受けることができる。第2に、原告が、関連する期間に市場価格で株式を購入したことを証明した場合には、彼は虚偽記載を信頼して株式を取得したとの推定を受けることができる。原告が価格影響性を直接に証明しなければならないというHalliburtonの提案は、第1の構成要素を奪うことになる。市場の効率性はあるかないかの命題ではないから、一般的に効率的な市場において、重要な虚偽記載が株価に影響を与えないこともあり得る。だからこそ、Basic判決は、特定の虚偽記載が価格に影響を与えなかったという反論の機会を被告に与えている。我々は、Basic判決を半分廃棄することになる原告の主張を認めることはできない。
 
第2に、Halliburtonは、クラス認可段階で、虚偽記載が株価に影響を与えなかったという証拠により、推定を覆すことを認めるべきだと提案する。我々はこの提案に賛成する。
 
従来から、クラス認可の段階で被告が価格影響性を否定する証拠を提出することは、それが、推定の反証ではなく、市場の効率性を反証する目的を持つ限り、認められてきた。しかし、このような制限は意味がなく、奇妙な結果を招く。たとえば、クラス認可の段階で、被告が6つのイベントに関するイベントスタディを提示し、そのうちの一つが被告の虚偽記載であったとする。地裁が、市場は効率的であったが、虚偽記載に対しては市場の反応がなかったと認定した場合、これは信頼の推定を覆すものではないという理由でクラスを認可することはおかしい。
 
このようなおかしな結果はBasic判決の論理とも矛盾する。Basic判決の市場に対する詐欺理論の下で、市場の効率性と他の前提条件が価格影響性を間接的に証明する。そのことは価格影響性の直接的な反証を許さないものではない。したがって、価格影響性はrule10b-5のクラスアクションにとって本質的な前提条件である。
 
控訴裁判所は、Amgen判決に依拠して、Halliburtonはクラス認可段階で価格影響性の反証を提出できないと判断した。しかし、Amgen判決は、クラス認可段階で原告が重要性を証明しなければならないかどうかについて判示したものである。重要性はBasic判決の推定の前提条件であるが、それは連邦民事規則23条(a)項(3)号の優越の要件と関連しないので(重要性の要件は各原告に共通するので、クラス認可の適否の判断とは関係しない)、本案まで持ち越されると我々は判示した。EPJ Fundは、価格影響性の要件も重要性の要件と同じであるという。しかし、価格影響性は重要性と重要な点で異なる。他の要件がクラス認可の段階で証明されているのであれば、クラスに共通する要件である重要性を本案段階に持ち越したとしても、クラスの認可をあとで覆すような事態には至らないからである。 
 
Ginsburg判事、Breyer判事、Sotomayor判事による賛成意見
 
価格影響性の考慮を本案段階からクラス認可段階へ早めることは、認可段階で利用できるディスカバリーの範囲を拡げることになる。もっとも、価格影響性がないことの立証責任は被告が負うので、本判決は証券訴訟の原告に追加的負担を課すものではない。以上の理解を前提として法廷意見に賛成する。
 
Thomas判事らの実質的反対意見は次回に紹介します。
太田洋弁護士と共編で、第一法規出版から、「論点体系金融商品取引法」という本を出す予定です。この本は、論点体系会社法の姉妹編で、若手の研究者や若手の実務家に執筆をお願いしています。条文ごとに(ただし、論点のない条文は除く)実務上の論点を掲げて検討しているのですが、実務上の論点がない場合は、解釈論上の論点を探してもらって記載することにしています。
 
私自身、金商法158条の見本原稿を書きましたので、その関係で、158条違反に対する課徴金を定める173条も担当しました。いざ調べてみると、173条の課徴金事例は存在しないようであり、また、同条は課徴金の額が一義的に定まるように規定しているだけなので、論点を探すのはなかなか大変です。こんなときに研究者は何を考えるのかを、紹介してみたいと思います。
 
私が挙げた第1の論点は、「有価証券等の価格への影響」です。
 
173条は158条違反のすべてを課徴金の対象とするのではなく、風説の流布または偽計により有価証券等の価格に影響を与えたことを要件としています。この要件は、以前は、違反行為により有価証券等の相場を変動させ、当該変動させた相場により、有価証券等の売買をしたと定められていました。この要件の立証が難しいので、平成20年改正で、価格になんらかの影響を与えたことで足りるとしたものです。その結果、価格になんらかの影響を与えたことは必要であるものの、有価証券等の価格が風説の流布や偽計と関係のない原因により変動した場合にも、その変動幅を基準として課徴金を課すことができるようになりました。課徴金を取りやすくする以外に、これを正当化する理由はなにかという話が一つ。
 
第2の論点は、「違反行為の終了時」はいつかという問題です。
 
173条の課徴金の額は、違反行為終了時のポジションを違反行為終了後1か月以内の最高値(売りポジションの場合は最安値)で反対売買した場合に得られる利得に相当する額と定められています(173条1項1号2号、ただし、違反行為前から有している有価証券については、違反行為開始時に、違反行為開始前の価格で買い付けたとみなして計算をします)。これは、相場操縦(159条)の変動操作についての課徴金のうち、違反行為終了時のポジションに関する課徴金の額の定め(174条の2第1項2号)と同じです。言い換えると、174条の2第1項1号に相当するものが173条では定められていません。同号は、違反行為期間中の売買によって得られた利得相当額を課徴金に含めるものです。
 
173条がなぜこのような定めになったのかは、説明がないので分かりませんが、この規定だと、違反行為期間中に買付けと売付けを行った対当数量については、課徴金が算定されないことになります。そうすると、たとえば風説の流布という違反行為の終了時がいつかという解釈が、課徴金の額に影響を与えることになるのです。違反行為の終了時は、風説を発した時か、それが市場に到達した時か、風説が市場価格に影響を与え始めた時か、風説が市場価格に与えた影響が止んだ時か? これを論点として取り上げました。
 
第3の論点は、第2のものと関連するのですが、173条は多様な類型の偽計にうまく対応できるのかという問題です。原稿では、相手方に対する詐欺、不公正な比率を公正に見せかける組織再編行為、不公正ファイナンスの3類型について、173条による課徴金が算定できるのかを検討しました。そこでは、「有価証券等の価格」は市場外の取引価格、非上場証券の価格を含むか、増資新株の取得は「有価証券の買付け等」に当たるか、不公正ファイナンスの違法行為の終了時はいつか、といった解釈が問題になります。
 
私の答えはここには書きませんので、みなさん、考えてみてください。
くろぬま
くろぬま
非公開 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
検索 検索
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

最新のコメント最新のコメント

すべて表示

スマートフォンで見る

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

スマートフォン版Yahoo!ブログにアクセス!

よしもとブログランキング

もっと見る
本文はここまでですこのページの先頭へ

[PR]お得情報

いまならもらえる!ウィスパーWガード
薄いしモレを防ぐパンティライナー
話題の新製品を10,000名様にプレゼント
ふるさと納税サイト『さとふる』
11/30まで5周年記念キャンペーン中!
Amazonギフト券1000円分当たる!
いまならもらえる!ウィスパーうすさら
薄いしモレを防ぐ尿ケアパッド
話題の新製品を10,000名様にプレゼント

その他のキャンペーン

みんなの更新記事