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MFW判決(2)

解説は商事法務に掲載予定なので、コピーペーストはせず、要点のみを書きます。
 
この判決は、支配株主との間の取引について、独立取締役からなる特別委員会の賛成と、株主総会における少数株主の過半数の賛成(Majoritiy of Minority)があれば、その差止めや損害賠償が求められた場合の審査基準は、経営判断の原則になるとした点、および充足すべき6要件を明示した点で重要な判決です。
 
研究報告ではアメリカの判例の変遷を紹介したのですが、出発点は、支配株主との取引には完全な公正基準(entire fairness standard)が適用されるとしたWeinberger判決です。その後、1994年のLynch判決は、特別委員会の賛成または少数株主の過半数の賛成がある場合には、完全な公正基準の立証責任が、取引を攻撃する側に転換されると判示していたので、この2つの要件がともに充足される場合にどうなるのかが、注目されていました。
 
もう一つの背景として、支配株主との結合取引に制定法上の合併を用いるのではなく、公開買付けで90%超の株式を取得した上で、支配株主と会社が略式合併をする場合の審査基準があります。2001年のSiliconix判決は、買付者は公正な対価を提案する義務を負わないから、公開買付けには完全な公正基準は適用されず、同年のGlassman判決は、略式合併には完全な公正基準は適用されないとしていました。この結果、合併による締めしでは完全公正基準が適用されるのに、公開買付けによる締め出しでは適用されないという、アンバランスが生じていました。この問題については、2010年のCNX判決が、第一段階の公開買付けにおいて、①独立した取締役からなる特別委員会が取引に賛成し、かつ②少数株主の過半数が買い付けに応じることを条件とするのであれば、公開買付けによる締出しに経営判断原則が適用される(それ以外の場合は、完全公正基準が適用される)と判示し、アンバランスの解消に動いていました。
 
本判決は、合併による締出しに経営判断原則が適用される要件を示し、合併による締出しの側からアンバランスを解消しようとするものです。この判決は、Strineという学者肌の裁判官が書いているのですが、判旨中蛍光ペンを付した「尊敬される学者」に注が付いていて、次の2つの論文が参照されています。
 
 Gilson & Gordon, Controlling Controlling Shareholders, 152 U. Pa. L. Rev. 785 (2003)
  Subramanian, Fixing Freezeouts, 115 Yale L. J. 2 (2005)
 
要するに、この判決はこの2つの論文、とくに後者の見解を採用したものなのです。私の解説も多くをSubramanianの論文に負っているので、興味のある人は読んでみてください。
 
ここでは、あと3点のみ、指摘しておきます。
 
第1に、特別委員会の賛成+少数株主の過半数の賛成=経営判断の原則という図式は、独立当事者間取引のアナロジーから来ているということです。独立当事者間取引ならば、取締役会の承認+株主の過半数の賛成=経営判断の原則となるのですが、支配株主との取引は一種の利益相反取引なので、同じ状況を作り出すためには、独立取締役のみからなる特別委員会の賛成と、利害関係のない株主の過半数の賛成を要するというわけです。
 
第2に、Subramanianの論文で指摘されていることですが、少数株主の過半数の賛成(MOM)を要求することは、当該取引にマーケット・チェックを入れるという意味があるのです。支配株主のいる会社は、会社支配権の市場にないので、買収取引の際に対象会社の取締役がショッピングをする(会社支配権の市場に晒す)必要はないのですが、少数株主の過半数の賛成を要求することによって、当該取引に反対する者は市場で少数株式を買い集めて買収を阻止することができるようになる、それが株主の利益になるということです。
 
第3に、これは私の意見ですが、ここでは特別委員会を組織することやMOMを得るインセンティブを与えるために、経営判断の原則という手段が用いられているのであり、冒険的な経営を促すという経営判断原則の本来の目的とは違った使われ方がされているといえます。

MFW判決(1)

神戸大学商法研究会の昨年夏の合宿で、アメリカの判例の研究報告をしました。たまには会社法を勉強してみようと思い、アメリカ法に詳しい院生に最新判例を教えてもらいました。原稿にするまでにロー・レビューに評釈が載るかと待っていたのですが、載らないようなので、報告原稿を基にまとめてみました。表題は、「締出し合併に経営判断原則が適用される要件」。判決は、
In re MFW Shareholders Litigation, 67 A. 3d 496 (Del. Ch. 2013)
まずは、事実と判旨から(例によって、コピー・ペーストするとフォントが変わります)。アメリカで非上場化がどのように行われているかを知る上でも、面白い事案です。
 
〔事実の概要〕
 MFWはデラウェア州で設立され、NYSEに上場していた持株会社である。MFWは、著名な投資家であるロナルド・ペレルマンが100%支配するMacAndrews & Forbes(M&F)によって、43.4%の株式を所有されていた。
 2011年5月、ペレルマンはMFWを非上場化する計画の検討を開始した。当時、MFWの株式は20ドルから24ドルの範囲で取引されていた。
 同年6月13日、M&F副会長兼主席運営役員であるS(MFWの社長兼CEOでもある)は、MFWの取締役会に対し、同社の株式を1株24ドルで買収する提案を行った。買収提案には、①取引はMFWの取締役会の承認に服すること、②MFWにおいて組織される独立取締役の特別委員会の承認が得られなければ、M&Fは取引を先に進める意思がないこと、③取引は、M&Fとその関係者によって保有されている株式を除くMFWの株式の過半数の賛成を条件とすることが、含まれていた。
 6月14日、MFWは取締役会を開催し、M&F兼任取締役が退席した後、合併提案を審査するために特別委員会を組織する決議を行った。当該決議によると、特別委員会は、①合併提案について調査・交渉権限を有し、②合併提案への賛否について取締役会に対し意見を述べることができ、③取締役会は、特別委員会の推薦が得られなければ合併提案に賛成してはならないとされていた。また、④特別委員会は、法律顧問、財務アドバイザー、その他必要な代理人を雇うことができるとされていた。
 MFWの取締役会は13名から成り、そのうち、B、D、Wが特別委員会を構成した。
 特別委員会は、法律顧問を選任するとともに、財務アドバイザーについては5社を面接してEvercore Partners投資助言会社(E社)を選任した。特別委員会とE社はMFWの経営者とMFW門下の事業部門に最新の業績予測を提出させた。これらに基づき、8月10日、E社はMFW株を1株15ドルから45ドルと評価した。E社によるMFW株の評価は、DCFモデルに基づく場合は22ドルから38ドル、プレミアム分析に基づく場合は22ドルから45ドルであった。特別委員会はM&Fによる24ドルの提案を拒絶し、1株30ドルの反対提案を行った。9月9日、M&Fは30ドル提案を拒絶し、24ドル提案を維持した。Sはペレルマンから1株25ドルの最終提案をすることの同意を取り付け、9月10日に開かれた第8回会合で、E社は当該価格は公正であるとの意見を表明し、特別委員会は全会一致で25ドル提案を受け入れた。
 MFW取締役会においては、M&Fに関係する3名、MFWの事業セグメントのCEOである2名が退席して議論が行われ、残りの8名の取締役が全会一致でM&Fの提案を株主に推薦することを決定した。
 2011年11月18日の株主総会において、株主は合併の経緯と取引に賛成することの推薦を記載した委任状説明書により情報を与えられた。委任状説明書は、特別委員会が一株30ドルの反対提案を行ったこと、それにもかかわらず最終的に1株25ドルの提案を得ることしかできなかったことが明確に記載されていた。委任状説明書には、MFWの事業部が、E社が受け取った最初の業績予測が経営者の最新の考えを反映したものかどうか、E社と議論を行い、最新の業績予想はより低いものであることを記載していたし、E社が作成した5通りの分析によるMFWの株価評価の範囲も記載していた。
 11月21日に投票を集計した結果、M&F以外が保有する株式の65%の株主が提案に賛成したことが判明し、同日、買収が調印された。
 株主が、M&F、ペレルマンおよびMFWの取締役らを被告として訴訟を提起し、合併は不公正であると主張した。原告は、合併に係る投票前にその差止めを求めていたが、その後、請求の趣旨を信任義務違反に基づく損害賠償に変更した。
 被告が略式判決を申し立て。
 
〔判旨〕 被告勝訴の略式判決を下した。
1 締出し合併の審査基準
「支配株主との合併が、支配株主がそれを最初に提案した時から、①十分な拒絶権を与えられた独立取締役の特別委員会による交渉と賛成、および②強圧性がなく、十分な情報に基づいた少数投資家の過半数の投票による賛成を条件としているときは、審査基準として経営判断の原則が適用されると、当裁判所は結論付ける。この結論は、公平な取締役の情報に基づいた判断を、とくにその判断が十分な情報に基づき、強圧性を免れた、利害関係のない株主による賛成を得ているときには、尊重するというデラウェア州法の中心的な伝統と整合的である。それだけではなく、このルールは、支配株主が少数投資家に対して、尊敬されている学者が投資家に最善の保護を与えると信じる取引構造を与えることになるから、このルールの採用は少数株主に利益をもたらす。その取引構造とは、株主が、最善の価格を求めて交渉し、もし、正当な理由から取引を勧められないと信じたときには取引を拒絶できるような権限を有する、独立した代理人の利益を受けることができ、かつ、株主が、その交渉代理人が彼らに勧めた取引を受け入れるかどうかを自ら決定する重要な権限を有するような構造のことをいう。特別委員会だけでは、価格を交渉することができ、したがって株主が直面する集合行為の問題に対処できる交渉代理人がいることを確保するのみであり、株主に自らを守る機会を与えることはできない。少数株主の過半数の賛成投票は、支配株主の支配する取締役会が提案した合併について投票する機会を株主に与えるが、株主に代わって合併価格を交渉し、交渉代理人が投票に際して少数株主に受諾を推奨するような好ましい価格かどうかを決定する独立交渉代理人をもつ機会を株主に与えるものではない。したがって、これらの保護措置は、不完全であり、互いに代替するものではなく、むしろ補完的であり、協同して効果を発揮するものである。
 それだけではなく、支配株主が、特別委員会が賛成しなければ先に進まないと約束することは、支配株主が、本質的により強圧的な装置である公開買付けによって、委員会をバイパスしないことを確保する。Lynch判決における重大な関心は、このバイパスの脅しであり、バイパスの脅しが、特別委員会の効果的な運営に疑問を投げかける。支配株主が、直接株主のところへ行くチャンスを放棄する場合にのみ、経営判断の原則の適用を受けられるからこそ、強圧性の可能性が最小化されるのである。実際、委員会の賛同がなければ先に進まないと支配株主が約束しなければならなかったことは注目を集めるので、報復的な行動は隠すことが難しいし、忠実義務の違反から株主を守るためにわれわれ裁判所が与えられた道具は、報復的な行動を取り締まるのに利用できるだろう。・・・株主が特別委員会によって交渉された合併に反対票を投じる機会を自由に与えられている状況で、彼らの過半数が合併を支持した場合には、経営判断原則以外の審査基準を用いることは、資本コスト全体に及ぼす影響の点からみて、一般に、投資家にとって利益になるよりも負担になることは間違いない。」
「経営判断の原則は次の場合にのみ発動される。すなわち、①支配株主が取引の進行を、特別委員会の賛成と少数株主の過半数の賛成に条件付け、②特別委員会が独立であり、③特別委員会が、自由に自身の助言者を雇うことができ、かつ拒絶権を付与されており、④特別委員会がその注意義務を履行し、⑤少数株主の投票が情報に基づいたものであり、⑥少数株主に対する強圧性がない場合である。」
 
2 事案への当てはめ
 本件の特別委員会が、資格のある法律アドバイザーおよび財務アドバイザーを雇う権限を有し、実際に雇用したこと、取引に対する拒絶権を有していたこと、MFWにとって利用可能な他の選択肢を評価することを含めて、情報を得るために広い範囲の財務情報を検討したこと、したがって特別委員会が、M&Fとの間でその提案について交渉する権限を有し、実際に交渉したことは、証拠上、明らかである。
 (特別委員会の3名の委員について個別に検討した上で)MFWの特別委員会は、法的にみて、独立した取締役のみによって構成されていた。
 原告は、特別委員会のメンバーが、提案を評価し、交渉し、最終的に1株25ドルの提案に賛成した点について、注意義務の違反を示すいかなる証拠も示していない。
 原告は、開示の違反や強圧行動を示していないので、少数株主の過半数の賛成投票が、情報に基づいて強圧性のない状態で行われたことを争っていない。
 以上より、本件の合併取引の審査には経営判断の原則が適用される。
 経営判断の原則が適用されるとき、理性的な者であれば、合併がMFWの少数株主にとって好ましい(favorable)と信じることができなかったといえる場合でなければ、被告に対する請求は棄却される。原告は、合併がより高い価格で行われるべきであったといえる理由について議論しているが、それを支える事実はほとんどなく、経営判断の原則の下で事実審における事実に関する争点を指摘できていない。

 
(解説は次回に)

元引受証券会社の責任

商事法務から、岩原・山下・神田先生編集の『会社・金融・法』(上・下)が届きました。
 
おそるおそる読んだ論文があります。後藤元さん(肩書を付けるのに本当に向いていないお名前ですよね)の「発行開示における財務情報の虚偽記載と元引受証券会社のゲートキーパー責任」です。
 
私はこの論文集に「有価証券届出書に対する元引受証券会社の審査義務」という論文を寄稿していましたので、完全にテーマがダブりました。私がテーマを連絡せず、なおかつ原稿の提出も遅れたためです。私は自分の論文にあまり自信がなく(独自のアイディア・切り口で切ったのではなく、判例・学説を紹介して分析を加えるという伝統的な手法をとっていたという意味で)、出版前にテーマの重複を知らされていたので、「ああ、比較されるだろうなあ。結論が違っていたら嫌だあ」と不安でした。
 
一読して、結論はそれほど変わらず、引用文献もあまり重なっていないのでほっとしました。よく読むと、私は入口の問題を扱い後藤さんはその先の問題を扱っている点で、テーマもある意味では重なっていないのです。後藤さんの論文を読んでいたら、私のは書きにくかったとはいえます。また、問題意識を持ったきっかけも、私はある訴訟、後藤さんは研究会と違っている点も面白かったですね(私の問題意識は、ここのディスクロージャーの記事にも書いています)。
 
どちらも、ぜひ一読ください。
前回の記事では、インサイダー取引規制の改正条文を順次取り上げていくと書きましたが、忙しくてその時間はないようです。
 
インサイダー取引規制の改正については、3つの雑誌から原稿を依頼されました。まず、金融法務事情からは、公開買付け等に係るインサイダー取引規制をテーマとして、16000字で。これは、インサイダー取引規制に関する特集に載る原稿で、25年改正の3分の1程度の内容ですので、分量としては16000字は長すぎです。でも、何とか論点を考えて、かなり自由に書きました。10月25日号に掲載予定。
 
つぎに、ジュリストからは、インサイダー取引に係る平成25年改正と平成24年改正の政府令事項の部分を、8000字で。こちらは、金商法・銀行法等の改正の特集に載る原稿で、インサイダー取引に係る改正全部ですから、8000字ではとても足りません。概括的な解説になってしまいましたが、少しだけ自分の考えも書きました。10月25日発売の11月号に掲載予定。
 
第3に、商事法務からは、インサイダー取引規制に係る平成24年・25年改正の座談会。テーマはジュリストのものと重なりますが、座談会なのでOKと言われました。これについては、司会者の進行案で予定された質問に対する答えの原稿を用意して、発言し、あとは流れに任せます。10月5・15日合併号に掲載予定。
 
このように締切の時期が重なっていたので苦しかったのですが、集中して改正法を見ることはできました。ブログで網羅的に論じることは避けますが、前回、インサイダー取引の教唆・幇助犯と情報伝達・取引推奨行為の関係を考えたときに、一つ抜けていた面白い論点に気づきましたので、書き留めておきたいと思います。
 
前回述べたように、インサイダー取引の教唆・幇助は課徴金の対象ではありません。今回の改正の一つの目的は、教唆や幇助が成立しない段階における情報伝達・取引推奨を処罰の対象とすることにありました。このような改正の趣旨を重視すると、教唆・幇助が成立する場合には、情報伝達・取引推奨の罪は成立しないかのようにも思われます。しかし、課徴金賦課の局面でみると、教唆・幇助が成立しても課徴金は課されないのに、なぜそれより悪性の低い情報伝達・取引推奨に課徴金が課されるのか?という疑問が生じます。
 
立法論としては、教唆・幇助も課徴金の対象とするべきだと考えますが、現行法の解釈でなんとかならないでしょうか。情報伝達罪の構成要件を見ると、取引を行わせて利益を得させる目的で情報を伝達すれば構成要件に該当し、取引について実行行為者との間で意思の疎通がある場合であっても構成要件該当性は否定されていません。そうだとすると、実行行為者との間で意思の疎通があり、教唆・幇助が成立する場合でも、情報伝達罪への該当性は否定されず、したがって課徴金を課すことができるのではないでしょうか。また、取引推奨については、実行行為者に情報を伝達した場合であっても、取引推奨罪の構成要件該当性は否定されません。したがって、実行行為者に情報を伝達し、教唆に該当する可能性がある場合でも、取引推奨罪は成立し、課徴金を課すことができるのではないでしょうか。
 
この解釈が間違いないという自信はありません。思わぬ見落としをしている可能性もあります。金融法務事情の特集では、刑法の先生が教唆・幇助との関係を論じられるようなので、読者の皆さんはそちらを参考にしてください。私のジュリストの原稿は全体をカバーしなければならず、上の問題に気づいてしまい、かつ刑法の先生の意見を聞く機会がなかったので、自分の解釈を書いてしまいました。
 
何かお気づきの点があれば、ご指摘をお願いします。校正に反映させます。
平成25年の金商法改正では、主としてインサイダー取引規制の改正が行われました。背景等の説明は省略して、ポイントは次の4つでしょうか。
1.情報伝達行為・取引推奨行為を処罰の対象としたこと
2.他人の計算でインサイダー取引を行った者に対する課徴金額を引き上げたこと
3.公開買付けの対象者の関係者を公開買付等関係者(インサイダー)としたこと
4.投資法人制度の改革に関連して、投資法人にインサイダー取引規制を導入したこと
 
順次、改正法の条文に即して見ていきたいと思います。現時点では、立案担当者の解説等がなく、以下は私が頭の整理のために書くものなので、論文での引用はご遠慮ください(私自身、雑誌等に原稿を書く予定です)。
 
1 情報伝達行為・取引推奨行為の禁止
情報伝達行為と取引推奨行為の禁止規定は、167条の2という新たな条文を新設して設けられました。同条1項は、会社関係者は、他人に対し、重要事実の公表前に特定有価証券の売買等をさせることにより利益を得させ、または損失を回避させる目的で、重要事実を伝達し、または当該売買等をすることを勧めてはならないと規定しています。同条2項は、公開買付者等関係者について同様の禁止規定を定めています。ここでは、「目的要件」が明文化されています。
 
「利得を得させ、または損失を回避させる目的」の立証は難しいとも言われています。しかし、条文上は、「特定有価証券の売買等をさせる目的」の立証も必要であるように読め、売買等をさせる目的が立証されれば、利得を得させる目的は推認されるのではないでしょうか。
 
情報伝達や取引推奨を受けた者が取引を行ったことを、情報伝達行為・取引推奨行為の処罰要件とする規定は、処罰事由を定める197条の2第14号・15号に置かれています。客観的処罰要件は、重要事実の伝達を受け、または取引推奨を受けた者が、重要事実の公表前に特定有価証券等の売買等をした場合に限るという旨の限定を付す形で定められました。情報の伝達や取引推奨を受けたことと情報受領者が取引を行ったこととの因果関係は要求されていません。客観的処罰要件としての規定は、このような形式で良いと思われます。
 
情報伝達者・取引推奨者(以下、情報受領者等という)に対する課徴金の額は、175条の2第1項3号で、違反行為により情報受領者等が得た利得相当額の2分の1と定められました。金融審のインサイダーWG報告では、これらの者の課徴金は、情報伝達や取引推奨を行うことにより一般的に行為者が得られる利得相当のものとすることが適当とのみ記載していました。これがいくらになるか注目されていたのですが、情報受領者等の利得の2分の1とされたわけです(仲介関連業務や募集等業務に関連して伝達や取引推奨が行われた場合は別計算。175条の2第1項1号・2号)。
 
ここにいう利得相当額とは、175条の2第3項で、情報受領者等が売り付けた価格とその後2週間以内の最安値との差額、買い付けた価格とその後2週間以内の最高値との差額といった計算により算出されます。これは情報受領者等に対する課徴金の計算方法と同じですが、実は、取引推奨を受けて売買等をすることは、行為者が重要事実を知っていないのでインサイダー取引には当たらないことに注意が必要です。
 
取引利得の2分の1というのは、情報伝達者・取引推奨者を実行行為者の教唆者・幇助者と同じに見ているとの推測を成り立たせます。しかし、共同正犯に当たる場合は別として、現行金商法は、教唆者・幇助者を課徴金の対象としていないのです。教唆者・幇助者は刑事罰の対象となるのに、なぜ課徴金の対象としなかったのかは、よく分かりません。教唆者・幇助者の利得は、実行行為者の利得に含まれているので、実行行為者から利得相当額を剥奪すれば、違反行為の抑止として十分であると考えられたのかも知れません。
 
情報伝達者・取引推奨者の行為は、情報受領者等の共犯ではなく、独立した犯罪類型ですので、情報受領者等との間に意思の疎通は必要でありません。この点からすると、なぜ情報受領者等の利得の2分の1が情報伝達者・取引推奨者に対する課徴金の額とされるのかを、違反者の利得を剥奪するという観点から説明することはかなり難しいように思います。むしろ、情報伝達行為・取引推奨行為はインサイダー取引の未然防止のために禁止されるのであるから、未然防止の実効性が発揮されるために必要な課徴金額はいくらかという観点から課徴金の額を決めたと説明する方が素直でしょう。
 
課徴金の額の大小については、次のことも気になります。
 
情報伝達者と情報受領者の場合を考えてみると、情報受領者はインサイダーとして利得を得ており、その額を基準とする課徴金を課されます。これに加えて、情報伝達者に課徴金を課すと、全体として、違反行為から得られた利得相当額の総額を大きく超える金額が課徴金として課されることになりそうです。
 
取引推奨者と取引者の場合を考えてみると、取引者は法令違反をしていないので課徴金を課されません。取引推奨者は、独立の違反行為を原因として課徴金を課されるので、利得が二重に剥奪されるといった上述の問題は生じません。ただ、取引推奨が広範囲に行われた場合―たとえば、会社関係者が○○株を買ったらよいという推奨をインターネットの掲示板に書き込んだような場合、掲示板に書き込んだ行為自体から売買等を行わせる目的が証明されるか、掲示板を見て(取引推奨を受けて)取引した者を特定できるのかといった問題はあるとしても(不特定多数の者が「他人」といえるかといった解釈問題もあるかも知れません)、推奨を受けて取引をした者が得た利得相当額が莫大な額に上る可能性があります。その課徴金額が取引推奨行為を抑止するためにふさわしいかどうかは、慎重に検討する必要があるように思われます。
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