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Business Roundtable v. SEC (2)

新学期が始まり、授業の予習等でバタバタしていました。春休み(私にとっては夏休みよりも長い)呆けということもありました。Business Roundtable v. SECの続き(解説部分)です。
 
〔解説〕
SECはその規則で、株主の提案を会社の委任状資料および委任状行使書面に記載させることができるという「株主提案権」を定めていますが、いわゆる選挙提案は株主提案権の対象から除外されています。これは、選挙提案のように会社の支配にかかわる提案については、委任状勧誘規則にしたがって委任状合戦を行わせる趣旨です。しかし、会社の委任状勧誘は会社の費用で賄われるのに、株主は委任状勧誘の費用を負担しなければならず不利な立場に置かれること、諸外国では株主に会社の委任状勧誘装置を利用させる例が多いことから、株主の選挙提案を会社の委任状資料に記載させるべきだとする議論も根強いものがあります。
 
このような委任状アクセス(Proxy Access)の問題について、SECは、1942年以来、繰り返し提案を行ってきており、2010年に初めて規則の制定に漕ぎ着けました。本判決は、裁判所が、行政手続法の規定に照らしてSECによる規則14a-11の制定を取り消し、同規則を無効としたものです。SEC規則の制定に経済界が反対して訴訟を提起され、規則が無効とされる例は少なくありません。最近の例としては、Chamber of Commerce v. SEC, 412 F. 3d 133 (D.C. Cir. 2005) 〔投資信託のガバナンスルールを無効とした〕、Goldstein v. SEC, 451 F. 3d 873 (D.C. Cir. 2006) 〔ヘッジ・ファンドの登録規則を無効とした〕、American Equity Investment Life Insurance Company v. SEC, 613 F. 3d 166 (D.C. Cir. 2010) 〔証券の定義から除外される年金契約の定義規定を無効とした〕があります。
 
本判決が規則を無効とした理由は、判旨に掲げたように、費用便益分析が不十分であったことに求められています。費用や便益には数量化できないものもあるのであり、判旨は揚げ足取りの感もありますね。
 
本判決は、委任状アクセスについてSECに規則制定権がないことを無効の理由とするものではありません。Dodd-Frank法は、SECに株主の取締役候補者指名権を認める規則を制定する権限を与えたのでSECはこの権限を行使して、最終的には、規則14a-11に似たルールを制定するという予想があります(Choi & Pritchard, Securities Regulation, at 699 (3d ed., 2012))
 
他方で、SECスタッフは、世界的な金融危機や民主党政権の誕生等、政治状況がまたとない機会を提供していると考えて、委任状アクセス・ルールの制定を提案したという見方もあり(ill E. Fisch, The Destructive Ambiguity of Federal Proxy Access (U. Penn. Law School , Institute for Law and Economics, Research Paper 11-05), at 4546 (2011))、これによれば近い将来、SECがルールを制定することは不可能でしょう。
 
SECの費用便益分析が、規則を無効なものにするほど恣意的なものであったかどうかについては、論評の限りではありません。そこで、報告では、規則制定までの経緯、委任状アクセスについてのSECの考え方、規則制定に関する議論を紹介しましたが、この部分は省略します(雑誌に載せる原稿と同じではまずいので)。
 
株主に委任状アクセスを認める理由を、SECは、株主が州法上の権利を十分に行使できるようにすることに求めています。SECは、株主が出席して開催される株主総会でできることを出席しなくても可能にするのが委任状勧誘規制であると位置づけ、今回の改正は州法上の株主の権利を変更するものでないことを強調します。しかし、株主が取締役候補者を指名し投票することと、それを会社の委任状資料に記載させることは明らかに異なります。前者ができるからといって、論理的に後者もできなければならないとはいえません。つまり、SECの論法には論理の飛躍があるのです。
 
規則14a-11は州法上の権利行使を促進するどころか、破壊するとみる見解(Fisch教授)もある。(以下、Fisch教授の見解の紹介)その理由は、デラウェア州法は、株主が指名する取締役候補者を会社の委任状資料に記載するよう会社を義務付ける付属定款を認めるが、規則14a-11は、付属定款において同規則よりも厳しい株主要件を定めることを認めないからです。このようにSECの提案は、実質的には、連邦法上、株主の取締役候補者指名権(federal nominating power)を創設するものであったといえます。
 
(紹介つづき)
委任状アクセスを論じることはコーポレート・ガバナンス(株主と経営者の権限分配)を論じることであるのに、コーポレート・ガバナンスについての権限がないという攻撃を避けるために、SECはその議論を巧妙に避けています。委任状アクセスがコーポレート・ガバナンスの問題であるとすると、それは州法に委ねるのが適切です。その理由は、会社内の事項が伝統的に州法に割り当てられているからではなく、大部分が任意法規であり、競争に直面しており、漸進的な発展をする州法の方が、連邦法よりも、株主と経営者の権限分配を扱うのに適しているからです。(紹介おわり)
 
私自身、現在のデラウェア州法の内容がコーポレート・ガバナンスの法形成にとって最適の環境を提供しているかどうかについては判断を下しかねますが、株主提案権がコーポレート・ガバナンスの問題であり、株主と経営者の権限分配を調整するには連邦法よりも州法のシステムが適しているという点については、Fisch教授に賛成したいと思います。

Business Roundtable v. SEC (1)

3月に、神戸大学の商事法研究会で、Business Roundtable v. SEC 647 F. 3d 1144
(DC Cir. 2011) の報告をしてきました。日本にはない制度を使った、なかなか面白い判決なので、紹介したいと思います。
 
【事実の概要】
Business Roundtable (企業経営者の団体) と米国商工会議所がSEC規則14a-11の審査を申し立てた。申立人は、SECは取引所法3(f)項、投資会社法2(c)項で求められている、効率性、競争、および資本形成に対する規則の影響を十分考慮せず、行政手続法に違反して規則を制定したと主張した。
 
SEC2009年に規則を提案し(74 Fed. Reg. 29,024)、パブリック・コメントの後、提案を一部修正し、2010年にこれを32で採択した(75 Fed. Reg. 56,668)。その概要は次のとおりである。
 
委任状勧誘規則適用会社(登録投資会社を含む)は、委任状資料に、資格のある株主または株主グループの指名する取締役候補者名を記載しなければならない。
 
資格のある株主とは、規則の利用を通知した日まで3年以上、議決権の3%以上を保有している者であり、株主総会まで当該議決権を保有しなければならない。候補者提案株主は、SECおよび会社に通知をしなければならないが、通知には500語以内で理由を記載することができる。会社は、提案株主が提供した当該株主および候補者に関する情報を委任状説明書に記載し、候補者を委任状行使書面(proxy voting card)に記載しなければならない。
 
また、本条の適用については、次のような制限が付されている。
規則は、州法または会社の統治文書(governing documents)が株主の取締役候補者指名を禁止している場合には適用されない。株主が、会社の支配を変更する意図を持って会社の証券を保有している場合には、当該株主は規則を利用することができない。会社は、一人または取締役数の25%を超える数(いずれか多い数)の候補者を委任状資料に記載することを求められない。複数の株主が指名資格を有する場合は、最も高い議決権割合を有する株主のみが候補者を指名できる。
 
SECは、規則14a-11が取締役会および会社の業績と株主価値を改善するという潜在的な便益は、その潜在的な費用を上回ると判断した。SECは、各会社の取締役会または株主の過半数が規則14a-11の内容を付属定款(bylaws)に組み込むかどうかを判断すべきだとする提案を、州法の下での定款自治(private ordering)に排他的に委ねることは、株主の取締役指名権・選任権を促進するのに効果的でも効率的でもないとして斥けた。二人の委員(Troy A . ParedesKathleen L. Casey)は、理論的見地および実証的見地から委員会を非難して提案に反対した。
                                                                                        
【判旨】審査の申立てを認め、規則を無効とする。
(以下は、要約です。長いですが、いったい裁判所がどのような理屈をつけて規則を無効にするのか興味があったので、抄訳をしてみました)
 
行政手続法の下では、行政機関の行為は、それが恣意的、気紛れ、裁量の濫用、その他法の違反があるときに(arbitrary, capricious, an abuse of discretion, or otherwise not in accordance with law)、裁判所により無効とされる(5. U.S.C. §706(2)(A))。我々は申立人に同意し、SECは恣意的かつ気紛れに行動したと判断する。投資会社に当該規則を適用するというSECの決定もまた恣意的であった。
 
A. 経済的効果の考慮
1.費用便益の考慮
申立人は、株主提案に反対する会社が負担する費用をSECは考慮に入れていないと主張する。SECは、採択リリースにおいて、株主による取締役候補者指名に反対することに正当な理由なく会社の資金を用いることは取締役の信任義務違反になること、および提案株主の資格要件のために提案数が制限されるだろうから、会社のキャンペーン費用は限定されると述べていた。我々は、取締役は株主側候補者に反対しないだろうというSECの予想は根拠のない憶測だという申立人の主張に賛成する。また、SECは、会社のキャンペーン費用の推計を行っておらず、規則の経済的効果を査定する制定法上の義務を無視した。
 
SECは、反対派取締役が取締役会に席を得た場合に会社の業績が低下することを示す数多くの研究を過小評価し、説得力のない2つの研究に大幅に依拠した。実証研究の結果が分かれていることに照らすと、SECは、株主の指名する取締役が選任される可能性が増すことが、取締役会および会社のパフォーマンスと株主価値を改善するという結論を十分に支えることができなかったと我々は考える。
 
SECは、規則14a-11のコストを、州法上の株主の権利を加工したものに過ぎないとして低く見積もるが、限界費用に着目しないこのような理由付けは非論理的であり、経済分析として受け入れがたい。
 
2.特別の利害を有する株主
提案株主に持株要件が課されているものの、公務員年金基金や組合年金基金がこの規則を利用すると信ずる十分な理由がある。それにも拘らずSECは、これら特別の利害を有する株主が、株主利益最大化以外の目的のために本規則を用い、会社に費用を負担させるであろうとの識者の懸念に対応しなかった。この点でSECは恣意的に行動した。
 
3.選任合戦の頻度
SECは提案リリースにおいて、取引所法上の報告会社で208社、登録投資会社で61社、計269社が規則14a-11による選挙提案を株主から受けると予想し、採択リリースでは、提案資格を限定した結果、報告会社45社、登録投資会社6社の計51社に予想を引き下げた。採択リリースにおける予想数の引下げは、必ずしも、提案リリースにおける予想数や規則14a-8の下の提案予想数と矛盾するものではない。しかし、伝統的な委任状合戦がどの程度、規則14a-11による委任状合戦に置き換わるかを採択リリースが示していない点で、SECは規則が選挙合戦の総数に与える影響を恣意的に無視した。そのようなデータがなければ、SECは規則が十分な数の選挙合戦を促進し利益をもたらすか否かを知りえないはずである。
 
規則14a-11による指名の頻度についてのSEC内の議論は矛盾しており、したがって恣意的であった。SECは、規則の便益を議論する際には指名株主が委任状勧誘資料の印刷・郵送代を直接的に節約できることを強調し、SECが引用したコメントは上場会社の15%が本条の利用を予想していると報告していた。このように、便益を評価するときは本条の活発な利用を予想しながら、費用を評価するときは不活発な利用を仮定するのは矛盾している。
 
B.本条の投資会社への適用
通常、一つの投資助言会社が、コンプレックスと呼ばれるミューチュアル・ファンドのグループを経営する。ファンドの取締役会は、一般的には、ある取締役グループがコンプレックス内のファンドのすべての取締役会を構成する「ユニタリー・ボード(unitary board)」か、複数の取締役グループがコンプレックス内の異なるファンドの組を監視する「クラスター・ボード(cluster board)」のいずれかの形態をとる。いずれの場合も、取締役会は複数のファンドの事業について一つの会議で対処する。
 
申立人は、投資会社法の規制が株主の委任状アクセスの必要性を減じ、したがって委任状アクセスから得られる便益をも減じているのではないかという点、および本規則が、投資会社のガバナンス構造を破壊することによって投資会社に多大の費用を負担させるのではないかという点について、SECは十分に対応しなかったと主張する。我々は申立人に賛成する。SECは、投資会社法の規制による保護(regulatory protection)が十分に与えられていることを認めるが、なぜ本規則が事業会社の株主に与えると同程度の便益を投資会社の株主に与えるのかをほとんど説明していない。
 
SECは、また、規則14a-11によって株主が指名する取締役があるファンドの取締役会に席を占めると、ファンドごとに取締役会の会議を別々に開かなくてはならなくなり、ガバナンスを非効率的にするという点で、同規則がユニタリー・ボード構造やクラスター・ボード構造を破壊し、投資会社に大きな費用を課すという懸念に対処しなかった。
 
SECは、投資会社の株主の多くはリテール顧客であるから、3年間の保有要件を満たさないし、投資会社に株主総会の開催を強制しない州法もあるから、投資会社が負担する費用は少ないという。また、ユニタリー・ボードおよびクラスター・ボードに対する破壊的効果は、ファンド・コンプレックスの地位を維持するために秘密保持契約を用いることで緩和されるとする。しかし、前者については、SECは利用が少なければ便益も少ないという点を見過ごしているし、後者については、株主指名の取締役は他のファンドに対して信任義務を負わず、秘密保持契約を締結する義務も負わないから、秘密保持契約は解決策にならないという反論に対する答えになっていない。
前の記事から大分時間が経ってしまいました。この間、ライブドア事件の際高裁判決が下され、最高裁の見解が明らかになってきています。もっとも、今取り上げているニイウスコー事件判決は、取得自体損害の問題を扱っており、ライブドア事件と争点が異なるので、ライブドア判決に触れずに、この事件の評釈を片付けてしまいましょう。
 
 損害額の算定
本判決は、虚偽記載がなければ株式を購入することはなかったと認められる場合の損害は原則として株式購入価額であるとし、XのY株式の購入代金相当額を損害額と認めました。この点につき前掲西武鉄道事件最高裁判決の多数意見は、「虚偽記載なければ取得なし」と見るべき場合の損害額は、投資者が虚偽記載の公表後に取引所市場において処分したときは、取得価額と処分価額の差額を基準とし、経済情勢、市場動向、当該会社の業績等当該虚偽記載に起因しない市場価額(上場が廃止された場合にはその非上場株式としての評価額)の下落分を上記差額から控除して算定すべきであるとしています。したがって、本件は上告受理の申立てがされていますが、最高裁は同判決の趣旨に従って本決定を修正するものと予想されます。私は最高裁判決よりも本判決の結論の方が理論的に正しいと考えるが、前に論じましたので、ここでは繰り返しません。
 
最高裁判決に従う場合、虚偽記載に起因しないY株式の市場価額(上場廃止後はY株の非上場株式としての評価額)の下落分をXの取得・処分差額(=購入代金相当額)から控除することになります。西武鉄道事件の最高裁判決は、「ろうばい売りによる下落」は有価証券報告書等の虚偽記載が判明することによって通常生ずることが予想される事態であるから、虚偽記載と無関係な要因に基づく市場価額の変動であるということはできないとしました。判旨のいう「ろうばい売りによる下落」とは、少なくとも虚偽記載の判明によって上場廃止の可能性が生じたことに基づく市場価額の下落を含むものと思われます。
 
臨時報告書の虚偽記載の公表と同時に民事再生手続開始の申立てをしたアーバンコーポレイション事件では、金融商品取引法21条の22項による推定損害額から「虚偽記載によって生ずべき当該有価証券の値下り以外の事情によって生じた」損害の額としていくらを減額すべきかについて、裁判例は、8割の減額をするもの(①東京地判平成22112判タ1318214頁)、2割の減額をするもの(②東京地判平成2239金法1903102頁①事件)、7割の減額をするもの(③東京地判平成22326金法1903102頁②事件、④東京地判平成2327(判タ1353219頁))に分かれています。これらのうち①③④判決は、同事件における臨時報告書の虚偽記載の公表と民事再生手続開始の申立てを直接の関連のない別個の事情とみており、②判決は、両者を全く別個の事情であるとみることはできないとしています。さらに、②の控訴審である⑤東京高判平成231124判時210324頁は、発行者は臨時報告書の虚偽記載の時点で、資金調達の見込がなければ民事再生手続開始の申立てをしなければならない状況にあり、民事再生手続開始の申立ては発行者が虚偽記載等の公表に伴って必然的にとらなければならない対応であったのであるから、発行者の株式の下落が民事再生手続開始の申立てがされたことによって生じたものと認めることはできないとして、推定損害額からの減額を認めませんでした。
 
本件の原判決も推定損害額からの減額という文脈でこの問題を検討しており、民事再生手続開始の申立てやそれによる上場廃止の決定という事実が明らかになった後に株式の市場価値が下落することがあるとしても、これはこうした事実を原因とするものではなく、あくまで発行者が再生手続開始の申立てに至るまで経営、財務等の状態が悪化していた事実が、それまで明らかでなかったのが明らかになったことによるとして、推定損害額からの減額を認めませんでした。
 
アーバンコーポレイション事件は、臨時報告書提出の時点で真実を開示していたら民事再生手続開始の申立てが不可避であったかどうか微妙な判断を要する事件だったと思われますが、本件のように、民事再生手続開始の申立てが不可避の状況を虚偽記載によって隠蔽していたと認められる事例では、民事再生手続の申立てによる市場価額の下落は「虚偽記載に起因しない市場価額の下落」として控除することができないと私は考えます。そうすると、最高裁判決に従う場合、本件では、虚偽記載公表後、上場廃止までの間のY株式の市場価額の下落から控除すべき市場価額の下落分はなく、XのY株式取得から虚偽記載公表までのYの業績悪化による市場価額の下落分、およびY株式の上場廃止後の非上場株式としての評価額の下落分を、Xの購入代金相当額から控除することになりそうです。
連載の途中ですが、AIJ投資顧問事件について、金商法のどこが問題なのか、少し考えてみたいと思います。
 
AIJ事件は調査中で詳しい事実関係は分かっていませんが、報道などによると、投資顧問会社が年金資産の運用を一任され、運用方法として私募投資信託(私募投資法人かも知れません)を購入していたところ、運用損が出ていたにもかかわらず、顧客(各企業年金)に対して運用成績が良い旨の虚偽報告をしていたということのようです。そして、この私募投資信託を実際に運用していたのはAIJ投資顧問の関係者であり、運用先は株価指数先物取引などであったようです(実際には投資をせずに横領していたのかも知れず、そこは分かっていません)。
 
虚偽報告が法令違反であることは間違いありませんが、それは問題の本質ではありません。投資運用業者の監査を強制するとか、信託銀行の管理体制を強化するなどの対策が唱えられており、それぞれ説得力があると思いますが、私が一番気になったのは、なぜ私募投資信託を買ったのか、なぜ、それができたのかということです。
 
順を追って考えて見ましょう。年金の一任運用は投資運用業に当たりますから、運用業者は顧客資産を分別管理しなければなりませんが、AIJは信託銀行に運用資産を信託していましたから、形式的には、分別管理義務を果たしています。運用業者がこの資金を株価指数先物取引で運用したければ、信託銀行にその取引の指示を出せばよいところ、このケースでは私募投信を買わせていた訳です。投資信託証券は有価証券の一つであり、投資先ともいえますが、運用形態を転換するスキームという面も持っています。投資スキームとして見ると、投資信託を買うことはその運用者に運用を委託することを意味するのですが、AIJははたして私募投信の委託会社(または投資会社)に正式に運用権限を委託していたのでしょうか。たぶん違うでしょう。なぜなら、投資運用業者が運用権限を委託するときは、委託先は金融商品取引業者か外国において法令に準拠して投資運用業を行う者でなければなりませんが、本件の委託先がその要件を満たしていたのか疑問がありますし、委託について、委託先の商号・名称、委託の概要、委託に係る報酬の額または算定方法を、投資一任契約に定めておかなければならないところ、委託先の情報を顧客に開示していれば、顧客もおかしいと思うはずだからです(なぜ日本の株価指数先物取引で運用するのに海外ファンドの持分を買わなければならないのか)。
 
もちろん運用方法として私募投信を買うと運用権限の委託に当たるかどうかは解釈問題ですが、その私募投信の運用者がAIJの関係者であるとすれば、私募投資信託の購入は運用権限をAIJ本体から切り離すためのからくりに他ならず、そこには運用権限の委託があると考えるべきでしょう。運用権限の委託の解釈を固め、法を守らせていれば、このようなスキームの採用を防げた可能性が高いと感じました。
 
また、私募投信を隠れ蓑に使われると、信託銀行としては、私募投信証券の価値を確かめる術がありませんから、AIJによる運用報告を信じるほかないわけです。私募投信を使わなければ、株価指数先物取引から生じた利益や契約残高を信託銀行は把握できるはずです。一般論や立法論は別として、この事件で信託銀行を責めるのはちょっと酷な感じがしますね。
 
さらに、私募投信を使うということは、お金も移転することになります。本件では、お金が信託銀行から海外ファンドに移転したことに加えて、そのお金がAIJの関係者に戻ってきたことになります。ですから、本件のスキームは分別管理義務の脱法にも当たるように思えます。解釈で違反ということが難しければ、立法上の手当てが必要ではないでしょうか。
 
このように考えると、私募投信の購入によってお金と運用者を入れ替えることができてしまう点にAIJ事件の発生を許した一つの原因があるように、私には思えます。もちろん、海外の株式等で資産を運用するために海外ファンドを使うことの有用性(顧客にとっても利益になること)は理解できますから、AIJ事件を教訓としてあれもこれも変えるべきだとは言いませんが、海外ファンドが脱法に使われることに対しては厳しくチェックできる規制が必要だと思います。
〔評釈〕判旨に賛成。
 
1.本判決の意義
西武鉄道の有価証券報告書虚偽記載事件に係る最判平成23913金判137633頁は、有価証券報告書等に虚偽記載がされている上場株式を取引所市場において取得した投資者が、当該虚偽記載がなければこれを取得することはなかったと見るべき場合に、当該虚偽記載により当該投資者に生じた損害の額の算定方法を示しました。しかし、同判決は、どのような場合に「虚偽記載なければ取得なし」と見るべきかを明示しなかったので、同判決の適用範囲は必ずしも明らかでありません。本判決は、虚偽記載がなければ投資者が当該有価証券を取得しなかったと見るべき一事例を示したものとして重要です。
 
2.「虚偽記載なければ取得なし」と見るべき場合
有価証券報告書等に虚偽記載がなければ当該有価証券を取得しなかったと考える投資者は、有価証券の購入代金相当額を損害みて賠償を請求することがあります。このような取得自体損害説の主張に対しては、これを当該株式が取得時点で無価値であったことを前提とするとみて、当該株式が無価値であったとは認められないとして主張を排斥する裁判例が過去にありました(西武鉄道事件に関する東京地判平成20424判時200310頁他)。本件の原審も同様の見解に立脚しています。しかし、客観的な価値のある有価証券であっても投資者がこれを取得しないという判断をすることはいくらでもありうるのですから、取得自体損害説は虚偽記載のされた有価証券が無価値であるとの前提に立つものではありません。このことは、もし有価証券が無価値であったことを前提とする主張だとすると取得価格と想定価格との差額を損害とみる取得時差額説によっても取得価額の賠償が認められることとなり、そもそも取得自体を損害と構成する必要がないことや、説明義務違反や不当勧誘を理由とする損害賠償を認める裁判例が取得時に有価証券が無価値であることを前提としていないことからも明らかだと思います
 
なお、判旨が原則として購入代金相当額が損害であるとしているのは、本件では民事再生計画に基づいてY株式が無償取得されてしまったために、取得価額−処分価額=購入代金相当額であることを前提としていると読みました。判決が、購入代金相当額から処分価額を差し引くべきでないと考えているのだとしたら、判旨はもちろん不当です。購入しなければ処分もなかったわけで、処分によって現金が入ってくることもなかったわけですから、その分は返さなければなりません。
 
前掲西武鉄道事件最高裁判決は、真実を公表すれば上場廃止を避けられない事例について、投資者は虚偽記載がなければ、取引所市場の内外を問わず、当該株式を取得することはできず、あるいはその取得を避けたことは確実であって、これを取得するという結果自体が生じなかったとみるのが相当であるとしました。最高裁が、取得できないと考えられる場合のほか、取得を避けたことが確実と認められる場合を「虚偽記載なければ取得なし」とみるべき場合に含めたのは、上場廃止事由の公表から上場廃止までの間に時間がかかることから、平均的な投資者は上場廃止事由が明らかとなった株式を購入しないであろうという経験則に依拠する必要があったためでしょう。
 
本件は、西武鉄道事件のように当初より虚偽の記載をしなくても上場廃止となっていた可能性の高い事例ではありません。本件のXは平成176月期の有価証券報告書公表後の株式取得について損害賠償を請求しているところ、平成166月期および平成156月期の連結財務諸表にも虚偽記載はされていたものの、債務超過ではなかったようであり、当初より真実が公表されていたとしてもY株式が上場廃止になっていたであろうとは言い切れないからです。
 
本判決は、平成176月期の有価証券報告書の虚偽記載がなく、真実の数値が公表されていれば、判旨の①〜③〔前回の記事参照〕が明らかになるから、一般の個人投資家がY株式を買い続けたとは考え難いと述べています。このうち①と③は、Yが当初より有価証券報告書に虚偽記載をしなかったとしても、XがY株式を購入する時点で明らかになっている事実ですが、②のが上場直後から虚偽報告を続けている企業であるという事実は、Yが平成156月期および平成166月期に有価証券報告書に虚偽記載をし、平成176月期に真実を公表した場合にのみ明らかになる事実といえます。そこで、特定時期の有価証券報告書にのみ虚偽記載がなかったらという仮定をおいて因果関係を推し量るべきでない(判旨不当)という考えもあるでしょう。しかし、Yが上場直後から虚偽報告を続けていたのは事実ですから、平成15年・16年に虚偽記載をしたという仮定をおくことは不自然でありませんし、投資者が依拠する有価証券の市場価格は直近の有価証券報告書の情報を反映しますから、「当該直近の有価証券報告書に虚偽記載がなかったら」という仮定をおいて投資者がどのように行動たかを判断することは許されると考えます。そして、もしYが平成176月期に真実を公表していたら、それ以前のYによる有価証券報告書の虚偽記載は2期にとどまる訳ですが、上場直後から虚偽記載をしていたという事実はやはり重大なので、平成17921日提出の有価証券報告書に真実が公表されていたらXがそれ以降Y株式を取得することはなかったであろうとする本決定の判断は妥当であると考えます。
 
本件の考察から得られる示唆として、「虚偽記載なければ取得なし」と見るべき場合に「有価証券報告書の虚偽記載が長期間継続した後に当該有価証券を取得した場合」を加えることができると思われます。直近の有価証券報告書において真実が記載されれば、長期間虚偽記載を継続していたという事実が発覚し、投資者が取得するよりも前に当該有価証券は上場廃止とされたはずであるといえるからです。
 
なお、本件では、平成19927日にYの同年6月期の約40億円の債務超過が公表された後もXがY株式を追加取得していることから、Yは、平成17921日にYが債務超過を公表していたらXがY1株式を購入しなかったとはいえないと主張しました。これについて本判決は、平成19927日の債務超過の公表時には、併せて200億円の第三者割当増資が発表されており、Yが過去に有価証券報告書等に虚偽記載をしていたということは明らかになっていなかったのであるから、これをもって平成176月期の真実公表の後もXが株式を購入したであろうと推認することはできないと述べています。この判示も説得力があり、妥当であると思います。
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