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先日、研究会でニイウスコー事件に関する東京高判平成23413金判137430頁の報告をしてきました。またまた有価証券報告書の虚偽記載に基づく民事責任の問題で、虚偽記載の公表と民事再生手続開始の申立てが同日になされたという点で、アーバンコーポレイション事件とも似ていますが、取得自体損害説を認めた珍しい判決なので検討に値すると思います。この判決は前にも一度取り上げましたが、私の事実関係の認識が間違っていたようなので、こちらを参考にしてください。また、この判決は上場会社の連結子会社の財務諸表に虚偽記載がされた結果、上場会社の連結財務諸表に虚偽記載がされた場合に、連結子会社およびその代表取締役が上場会社の株式を取得した投資者に対して不法行為責任を負うとしました。東京地判平成21・5・21判時2047号36頁では反対の結論がとられており、重要です。研究会ではこの点も取り上げましたが、ここでは省略します(ジュリストに本件の判例評釈を公表しますのでそちらを見てください)。したがって、事実も取り上げる判旨に関係する部分だけ紹介します。
 
〔事実の概要〕
(ニイウスコー)は平成156月に東証一部に株式を上場した会社であるが、同年71日に開始する第12期事業年度以来、連結損益計算書、連結貸借対照表、損益計算書、貸借対照表に重要な事項についての虚偽の記載をした有価証券報告書および半期報告書を東証に提出していました(正しくは、「財務局に」でしょうが判決はこういっています)。本件で問題となる期間における虚偽記載の規模は、平成17921日に提出した平成176月期の有価証券報告書では、連結営業利益が約61億円、連結経常利益が約59億円、連結当期純利益が約34億円、連結純資産額が約192億円と記載されていたが、真実は連結営業損失が約122億円、連結経常損失が約123億円、連結当期純損失が約127億円、連結純資産額は約54億円の赤字というものでした。
 
は平成20430日、上記の虚偽記載を公表するとともに東京地方裁判所にそれぞれ民事再生手続開始の申立てを行い、同年52日に再生手続開始の決定がされました。
 
 XはY株式の上場以来、これを購入してきた投資者であり、平成20430日時点におけるその保有株式数は4910株でした。同年114日、Yの再生手続において、Yの全株式はにより無償で取得されました。そこでXは、Yの虚偽記載により平成1796日以降の株式購入代金等相当額である156398000円の損害を被ったとして再生債権の届出をしたところ、東京地方裁判所はXの損害額を5866020円と査定しました。
 
異議審である東京地判平成22625金判134625頁は、Yに対する再生債権について、株式購入代金相当額が損害であるというXの主張を、Y株式の客観的価値がないことを前提とするものであり合理的でないとして斥けた上で、金融商品取引法21条の22項の推定規定を用いて、Xの損害額を5593200円と査定しました。Xが控訴。
 
〔判旨〕原判決変更。Yに対するXの再生債権を153788127円と査定しました。
「『記載が虚偽であることにより生じた損害』とは、有価証券報告書等の記載が虚偽であった場合のXの財産状態と、有価証券報告書等の記載が虚偽でなかった場合のXの財産状態との差であり、当該虚偽記載がなければXがY株式を購入することはなかったと認められる場合には、Y株式を購入したことにより生じた損害(原則として株式購入価額)がこれに当たる。」
 
そして判決は、本件において、平成176月期の有価証券報告書の虚偽記載がなく、真実の数値が公表されていれば、①Yは大幅な債務超過の状態にあることが明らかになっており、また、②Yが平成176月期の正しい連結財務諸表内容および純資産額を公表しておれば、平成166月期の有価証券報告書に記載されていた数値も、少なくとも連結純資産額は虚偽であったことも明らかになり、さらに平成156期の有価証券報告書に記載されていた連結純資産額も虚偽であったことが明らかになると考えられるから、その結果、Yが上場直後から虚偽記載を続けている企業であるということが明らかになり、さらに③その結果、Y3年間にわたり連続して大幅な損失を計上している会社であり、業績に恒常的な問題を抱える企業であることも明らかになるから、Yの株式を一般の個人投資家であるXが買い続けたとは考え難く、Xは、当該虚偽記載がなければ同日以降のY株式を購入しなかったと推認するのが相当であるとしました。
 
本判決が査定した153788127円は、Xが平成17921日から平成19828日までの間に購入したY株式の購入代金相当額です。
(つづき)
4 判旨の射程
本判決は、有価証券報告書等に虚偽の記載がされている上場株式を取引所市場において取得した投資者が、当該虚偽記載がなければこれを取得することはなかったとみるべき場合について判断を下したものであり、虚偽記載がなければ取得することはなかったとみることのできない場合について、取得・処分差額から虚偽記載に起因しない市場価額の下落分を控除するという判旨の射程は及びません。ただし、前述のように、ろうばい売りによる市場価額の下落は虚偽記載と相当因果関係のある損害であるとする部分は、虚偽記載がなければ取得することはなかったとはいえない、通常の虚偽記載の事例にも当て嵌まる可能性が高いと思われます。
 
本判決は、不法行為に基づいて有価証券の発行者とその取締役の責任が追及された事例ですが、虚偽記載と因果関係のある損害額の算定方法は、特則が置かれていないかぎり、根拠条文によって変わるものではありませんので、判旨の射程は金商法21条の2に基づく発行者の責任、同24条の4に基づく発行者の取締役の責任等にも及ぶと考えられます。ただし、金商法21条の22項は損害額の推定規定を定めていますので、推定損害額を上回る場合に限って、修正取得自体損害説による損害額が原告により主張・立証されることになるのでしょう。
 
本判決は、虚偽記載の内容が粉飾決算のように株式の価値の評価に影響を与える場合の取得自体損害説にまでは本判決の射程は及ばないと解する見解があります(未公表)。本判決によって不合理な結果が生ずる範囲を限定しようとする傾聴すべき見解であり、私自身、もう少し考えてみようと思っています。
 
5 残された問題
本判決は、どのような事例が「虚偽記載なければ取得なし」といえるかについて判断していません。この点について考えてみると、まず、本件と同様に当初より真実が開示されていたとしても上場廃止が避けられないケースや、真実が開示されていたらそもそも株式を上場することができなかったケースが考えられます。現在の取引所は、「上場会社がその事業年度の末日に債務超過の状態である場合において、1年以内に債務超過の状態でなくならなかったとき」を上場廃止事由としています(東証有価証券上場規程601(5))。そこで、上場会社が2年以上に亘り連続して債務超過であったのに、粉飾決算によりこれを隠蔽していた場合に、2年以上経過した後に当該会社の株式を取引所市場で取得した者については、当初より真実が開示されていたら、当該会社は上場廃止となるか上場廃止の手続がとられ、当該有価証券を取得することはなかったといえるのではないでしょうか。上場以来3期以上に亘り財務諸表に虚偽記載がされており、投資者が株式を取得する直近の有価証券報告書が債務超過を隠蔽していた事例において、東京高判平成23413金判137430頁(ニイウスコー事件判決)は、投資者が依拠した3期目の有価証券報告書に虚偽記載がされなければ、会社の真実の経営状態・資産状態と上場以来虚偽記載をしていることが明らかとなり、その株式を一般の個人投資家が買い続けたとは考え難いとして、投資者は当該虚偽記載がなければ本件株式を購入しなかったと推認するのが相当であると判断しました。この判決は、投資者が株式を購入した時点では当該株式が上場廃止の条件を満たしていない事例についてのものですが、発行者が上場以来虚偽記載を続けていたこと、原告が上場以来当該株式を買い続けていたこと等を考慮して、虚偽記載と購入判断との間の因果関係を認めたものといえます。この判決については別の研究会で報告する予定であり、そのときまでにもう少し考えてみようと思っています。
 
最高裁は、虚偽記載がなければ投資者が当該有価証券を取得しなかったとは認められない、通常の虚偽記載のケースについて、どのような方式で損害額を算定すべきかについて、まだ判断を下していません。周知のように下級審裁判例は、虚偽記載の公表後の市場価額の下落額を基礎とする考え方(市場下落説)と、取得価額と虚偽記載がなかったら生じていたであろう価格(想定価格)との差額を基礎とする考え方(取得時差額説)とに分かれています。もし、最高裁が市場下落説を採ると、上述のように、「虚偽記載なければ取得なし」といえるか否かで結論にほとんど差がなくなります。他方、最高裁が取得時差額説を採ると、「虚偽記載なければ取得なし」といえるかどうかが、投資者が得ることのできる賠償額に大きく影響することになりますが、ろうばい売りによる市場価額の下落は虚偽記載と相当因果関係があるという判旨からは、取得時差額のみが損害であるとの見解も採りにくいようにも思われます。
 
以上に書いたことは研究会の報告時点における私の考えであり、判例研究公表時までに考え直すところがあるかも知れません。判例研究は金融・商事判例に掲載させていただく予定です。
西武鉄道事件の最高裁判決の研究報告を本務校の研究会でしたところ、予想外に多くの人に参加してもらいました。感謝しています。
 
さて同事件で論ずべき中心的なテーマは前2回で書きましたので、今回は、それ以降に気づいたことを書き散らしてみたいと思います。
 
1.ろうばい売りの評価
判決は、いわゆるろうばい売りが集中することによる過剰な下落は、虚偽記載と無関係な要因に基づく市場価額の変動であるとはいえず、取得・処分差額(取得価額−(処分価額または事実審口頭弁論終結時の市場価額[上場廃止の場合は非上場株式としての評価額]))から控除することはできないとしました。二審判決は、虚偽記載の公表直前の価額と処分価額との差額を基礎として(すなわち市場下落説を採用しつつ)、虚偽記載および上場廃止が発表されると、ろうばい売りが集中して客観的株価より過大に下落する傾向が見られること等から、個々の株式の売却による損失の発生は本件虚偽記載および上場廃止から通常生じ得る結果であるとは認めがたいとしたのに対し、本判決はろうばい売りによる下落は虚偽記載と因果関係のある損害であるとしたのです。
 
判旨のいう「ろうばい売りによる下落」が何を意味するかは必ずしも明らかでありません。「ろうばい売りによる下落」は何らかの情報(それが不確かなものや投資者心理によるものであれ)が市場価格に反映する過程に着目した捉え方ですが、重要なのは、株価への反映過程ではなく、何を原因とする下落が取得・処分差額から控除できないかであるはずです。重大な虚偽記載が公表された場合に株価が下落する原因としては、真実の情報が開示されたことのほか、上場廃止の可能性が生じたことが考えられますが(そのほかに、理論的には、真実の情報を開示するという経営者の資質に対する信頼の低下や、発行者が投資者に対して損害賠償責任を負う可能性が生じたことも、株価下落の原因として指摘されています)、上場廃止の可能性が生じたために投資者が株式を売り急いだことによる下落が「ろうばい売りによる下落」に含まれることは、明らかでしょう。
 
本判決は、虚偽記載がなければ投資者が有価証券を取得しなかったと認められる事例について判示したものであり、虚偽記載がなければ投資者が有価証券を取得しなかったとは認められない事例について、ろうばい売りによる株価の下落が虚偽記載と相当因果関係のある損害であるとしたものではありません。もっとも、判決は一般的な言い回しを用いているので、最高裁は後者の場合にも相当因果関係を認める可能性が高いと思われます。
 
そのような結論に対しては、客観的な水準よりも過大に下落した株価を基準として損害賠償を認めることは残存株主から売却株主へ不当に価値を移転するものであるとの批判も考えられます。しかし、仮に市場価額が客観的な株式価値を反映していなくても、投資者は市場価額でしか株式を処分できないのですから、上場廃止までに株式を売却するという投資者の判断を非難できない以上、ろうばい売りによる下落は投資者の損害から減額されるべきでありません。そして、ろうばい売りが生じ株価が客観的な株式価値を反映していないような状況では、株式の売却時期を誤ったことを被害者側の過失とみて過失相殺をするという形で、投資者の判断を非難することもできないと思います。
 
2 市場下落説との相違
虚偽記載が公表されるまでの間に生じた市場価額の下落は、一般的には、虚偽記載と無関係の要因に基づくものが多いので、本判決多数意見の考え方(修正取得自体損害額と呼ぶ)は、投資者の取得価額と虚偽記載の公表直前の市場価額との差額を取得・処分差額から控除することとなり、虚偽記載の公表後の市場価額の下落を損害額との基礎とする「市場下落説」と同じ結論になる可能性が高いと考えられます。この点に関し本判決は、本件では、虚偽記載の公表前に発行者の親会社が発行者の名義株を売却するなどして本件虚偽記載が一部解消されており、その頃本件虚偽記載に起因して発行者株の市場価額が下落していた可能性があると指摘しています。名義株の売却による市場価額の下落は、虚偽記載の内容が一部市場価額に反映されたものとみることができるので、これは虚偽記載に起因する損害であり、したがって取得・処分差額からの控除を認めないというのです。
 
もっとも、市場下落説は、虚偽記載が公表されて現実に市場価額を下落させたことをもって損害と捉える考え方ですから、市場下落説によっても、虚偽記載の公表前に真実の情報を一部反映した市場価額が形成されていた場合には、真実の情報を反映したことによる市場価額の下落を損害額に加えることになると思われます。したがって、この点でも修正取得自体損害説と市場下落説に違いはないのではないでしょうか。
 
3 保有原告の損害
西武鉄道事件の裁判例では、最後まで株式を保有していた保有原告の損害賠償が認められたものはありませんでした。それに対し本判決の修正取得自体損害説によると、保有原告も、取得価額が口頭弁論終結時の評価額よりも高ければ、損害の賠償を受けられる可能性があります。この点も、市場下落説と(修正)取得自体損害説の理論上の相違点です。しかし、他方、修正取得自体損害説によると、取得後、虚偽記載が公表されるまでの市場価額の下落の大部分が取得・処分差額から控除されることになるため、現在の株式の評価額が虚偽記載公表直前の市場価額を上回っている場合には、保有原告は損害賠償を否定される可能性が高いと考えられます。つまり、保有原告はぬか喜びになるおそれが大きいのです。このように保有原告に実際の保護を与えられないことも修正取得自体損害説の問題点であると考えます。

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今回取り上げたいもう一つの論点は、中間試案第2部第3の1の株式売渡請求制度です(コピペをしているため読みにくくて済みません)。金融商品取引法とは直接関係がないですが、公開買付けで90%取得した後にキャッシュ・アウトを行う場合に利用可能な制度といえるでしょう。
 
中間試案第2部第3の1は、対象会社の議決権の10分の9以上を有する株主が、対象会社の株主総会の決議を要することなく、現金を対価とする少数株主の締出し(いわゆるキャッシュ・アウト)を行うための新たな制度を提案しています。この制度では、特別支配株主が全株主に対して株式の売渡しを請求することを認めるとともに、少数株主保護の方策として、裁判所に対する価格決定の申立て、価格が著しく不当である場合の差止請求権、売渡株式の取得の無効の訴えの制度を設けることとしています。
 
キャッシュ・アウトは、意思決定の迅速化、株主管理コストの削減等の点で企業経営にメリットがあります。議決権の10分の9を有する株主は、略式組織再編の手続により、対象会社の株主総会の決議を経ることなくキャッシュ・アウトを行うことができるので、そのような株主に、より簡便な方法によるキャッシュ・アウトを認めることには合理性があると思います。しかし、そのような趣旨からすると、中間試案の提案は、次に述べるように不必要に重たい制度になっているように思われるのです。
 
第1に、株式の売渡請求は特別支配株主と少数株主との間の取引であるにも拘わらず、売渡請求をするには対象会社の取締役会の承認が必要とされています。その理由として、補足説明は、キャッシュ・アウトの条件について一定の制約が必要であるからだとしています。たしかにキャッシュ・アウトの条件は公正なものでなければなりませんが、特別支配株主から提示された条件が公正であるかどうかを対象会社の取締役が判断できるという保証はありません。補足説明は、対象会社の取締役は売渡株主の利益に配慮する義務があるから、注意を尽くして対価の相当性を判断すべきであるとし、そのことを取締役会の承認を要する根拠としているようです。しかし、取締役が少数株主の利益に配慮する義務を負うのは会社の機関として行動する場合であって、特別支配株主・売渡株主間の取引の相当性について取締役に判断させるのは、取締役に新たな義務を課すことにほかならないのではないでしょうか。
 
実際的に考えても、取締役会の承認は有害か無益であると思います。まず、特別支配株主によって選任された取締役であれば、特別支配株主の提示する条件を承認しないはずがないから、取締役会の承認を要求することは無益です。つぎに、敵対的買収の過程で売渡請求権が行使され、取締役会と特別支配株主が対立関係にあるときは、特別支配株主としては株主総会を開催して取締役を交替させてから取締役会の承認を受けることになりますが、これは無駄に時間と手間をかけることになり有害ではないでしょうか。中間試案は、公正な条件が提示されるような手続規制を設けることによって、売渡株主の価格に対する不満が解消されると考えたのかも知れません。しかし、売渡請求制度では価格を争う手段を用意することが不可欠であり、売渡価格に不満のある株主は取締役会の承認があろうがなかろうが売買価格の申立てをするでしょうから、取締役会の承認手続はいたずらに手続を複雑にするだけでしょう。
 
第2に、売渡株主保護の方策として、売渡しの効力発生前は差止請求権が、効力発生後は無効の訴えが提案されています。しかし、売渡請求者が特別支配株主の要件を満たしていなかった場合や売渡請求の手続に違反した場合には、株式取得の効果は生じないと解されるからそれで足りると考えます。株主間の株式の売買が無効であった場合以上に取引の安全に配慮する必要はないはずです。また、差止事由として価格が著しく不当である場合が挙げられていますが、その場合は売渡請求は無効であるとはいえないものの、売渡株主は価格決定の申立てにより保護されるので、差止めを認める必要はありません。
 
補足説明は、無効の訴えの制度を設ける理由として、売渡請求は多数の株主の利害に影響を及ぼすので法的安定性を確保する必要があるとしています。たしかに、売渡請求は少数株主をすべてキャッシュ・アウトすることが目的ですから、特別支配株主にとっては全株式について一律に取得の効果が発生しないと不都合でしょう。しかし、訴訟を提起しなければ売渡の無効を主張できないというのは、売渡株主にとって不便すぎるのではないでしょうか。
 
①株式会社に新たな支配株主が現われたこと、または②株式会社の議決権の10分の9以上を有する支配株主がいることを要件として、少数株主に、自己の有する株式を当該支配株主に売却する機会を与える制度、いわゆるセル・アウトの創設については、提案が見送られました。その理由として補足説明は、①の新たな支配株主に対するセル・アウト制度について、企業結合の形成に際して生じる費用が増大し、企業価値を高める企業結合の形成がされにくくなるおそれがあるとの指摘があり、②の大多数保有株主に対するセル・アウト制度は、支配株主の異動が生じた場合に少数株主に退出の機会を与えるための制度として位置づけることは困難であることを挙げています。
 
たしかに、新たな支配株主に対するセル・アウト制度については、企業結合の費用を増加させるという側面がありますし、そもそも支配株主が出現したときに少数株主に退出の機会を与えるのが好ましいか否かという議論からしなければならず、そのような議論がなされていないために制度の創設を見送るという態度は理解できるところです。それに対して大多数保有株主に対するセル・アウトは、10%未満の少数株主は会社法上、略式組織再編の対象となるなど不利な地位に置かれることになり、大多数保有株主側も10%未満の少数株主を残存させることに合理的な理由がないことから、少数株主に無条件の株式買取請求権を認めるものなのです。このセル・アウトは、そもそも支配株主の異動が生じた場合に少数株主に退出の機会を与えるための制度ではないのですから、そのような位置づけができないことは、②のセル・アウトを採用しない理由にはなりません。部会の議事録を見ても、90%以上の支配株主に対する株式買取請求権を認めるべきであるとの発言が複数あったにも拘らず、中間試案において提案から落とされたことは奇異に感じられます。
 
キャッシュ・アウトは、企業経営上メリットがあるのに対し、セル・アウトは結合企業側、支配株主側にメリットがないから(もし、メリットがあるのであればキャッシュ・アウトをしている)、認めないという議論があるのかも知れません。しかし、セル・アウトは10未満の少数株主の利益を保護するための制度ですから、支配株主側にメリットがないことをもってその創設を否定することは本末転倒でしょう。セル・アウトの仕組みを考えると、キャッシュ・アウトとは反対に、少数株主が価格を提示して支配株主に対し買取請求をし、価格に不満のある支配株主は裁判所に価格決定の申立てをすることになるでしょう。セル・アウトを認めると、支配株主は個々の少数株主による買取請求に個別に対応しなければならず、煩瑣であると思われたのかも知れません。しかし、そのような場合、支配株主はキャッシュ・アウト権を行使すればよいのですから、問題はありません。結局、セル・アウトは、支配株主がキャッシュ・アウト権を行使しないために救済を否定される少数株主の利益を守る点に最も重要な機能があるといえるのではないでしょうか。
法務省民事局参事官室から、会社法改正中間試案と補足説明が公表されました。私の本務校では関係教員の連名でパブリック・コメントに応募する予定ですが、それとは別に、本務校のGCOEの企画で中間試案をめぐるシンポジウムをやり、私も企業統治・企業結合以外の部分について、中間試案の内容を紹介し、若干の検討をしました。その際、考えたことから金商法と関係がありそうなものを2つ取り上げたいと思います(内容は、シンポジウムの報告(の一部)とほぼ同じです)。
 
一つ目は金商法違反者の議決権行使の差止めです。中間試案第3の第1は、金融商品取引法上の公開買付規制のうち、株券等所有割合が3分の1を超える場合の強制公開買付規制、および3分の2以上となる場合の全部買付義務の違反があった場合に、対象会社の株主が株主総会における違反者の議決権行使を差し止めることができる制度の創設を提案しています。公開買付規制の違反を抑止するとともに、違反行為によって株主の利益が害されることを防止するための規定であると考えられます。
 
部会では、公開買付規制のうち情報開示規制、株主の平等取扱いや、大量保有報告制度、委任状勧誘制度の違反があった場合の議決権行使の差止めについても検討されましたが、これらは差止事由とされませんでした。中間試案に対しては、これらの規制の違反についても差止事由とすべきであるとの批判が考えられますが、この点は、差止事由から除外した理由の評価にかかっているといえるでしょう。
 
部会の資料や議事録によると、どの規制違反を差止事由とするかについては、当該違反によって株主のどのような利益が害され、その利益が議決権行使の差止めによって保護されるかという観点からの検討が行われています。それによると、強制公開買付規制については、その違反があると株式売却の機会を与えられなかった残存株主の利益が害され、当該利益を保護するには違反者による議決権行使を認めないことによって違反者の支配権の取得を防ぐことが有効であると考えられるから、差止事由とすることとされました。これに対して情報開示の違反は応募した株主の利益を害するところ、違反者による議決権行使を認めないとしても当該利益の保護に結びつかないことから差止事由としなかったのです。大量保有報告制度や委任状勧誘制度の違反についても同様の分析がされており、その論旨には一応の説得力があります。要するに、会社法的な保護法益を有する規制の違反のみを議決権行使の差止事由としたと理解できます。その観点からすると、委任状勧誘規制には議決権行使の行使を適正にするという会社法的な保護法益が認められるので、委任状勧誘規制の違反を差止事由とする余地があったと思います。
 
中間試案は議決権行使の差止請求に関し、注で検討事項を列挙していますが、そのうち一番の難問は注4の差し止められた議決権を株主総会の定足数に算入するかという問題です。この問題を検討する前提として、議決権行使の差止めの対象となる株式は規制に違反して取得した分のみなのか、違反者が所有する対象会社の株式すべてについてかという点が、中間試案では必ずしも明らかでないように思います。違反者による支配権の行使を許さないという規制の趣旨からは、違反者の有するすべての議決権の行使が差止めの対象となるという考えも成り立つでしょう。中間試案の文言は、違反者による議決権行使の差止めといっているので、全部と読めます。もしそうだとすると、差止めが認められると、違反者の有する3分の1超、あるいは3分の2以上の議決権の行使ができなくなることになるため、株主総会の運営に大きな影響を及ぼすことになるでしょう。
 
違反者の有する議決権を定足数に算入しないとすると、株主総会決議をすることは可能ですが、少数派の意向により株主総会決議が左右されることになります。違反者が株式を売却すればそのような状態を解消できますが、株式の売却には時間がかかることも考えられます。他方、違反者の有する議決権を定足数に算入するとすると、定足数を満たさないために株主総会決議が成立せず、会社運営に支障を来たすことになります。会社運営を妨害するために違反者がわざと違反状態を解消しないこともあるでしょう。難しい問題ですが、定足数に算入するとした上で、(課徴金納付権限のある)金融庁なり(差止めを認めた)裁判所なりが違反者に対し違反状態の解消を命じ、違反状態を早期に解消させるため、解消のための株式の売却について公開買付規制を適用しないといった措置を講ずる必要があるように思いました。
 
シンポジウムの楽屋で神作教授と雑談したときに、違反状態をどう解消するのかという話になり、神作さんは、「売って買い直しても議決権が復活しないというんです」(大意)。どこでそう聞いたのか、正確にどういう意味なのかその場では確かめませんでしたが、推測するに、たとえば20%の相対取得が強制公開買付規制の違反だったとして、20%を市場で売って、市場から買い直しても、その20%が相対で取得した分だと特定できないので議決権を行使できるようにならないという意味でしょうか。この考え方からすると、違反者は保有する全株式を売却した上で買い直さなければ議決権が復活しないようであり、大変なことになりますね。ドイツでは、義務的公開買付に違反した者は株式についての権利がないものとするという規定があるのですが、ドイツの義務的公開買付は所有権割合が30%を超えた段階で公開買付をする義務が生じるというもので、違反者は公開買付を行うことによって違反状態を解消できるのです。日本法では、3分の1を超える市場外取得は公開買付の方法によらなければならないとされているので、違反状態の解消が難しいという問題があるのです。私は議決権行使の差止め制度については、金商法違反の抑止という観点から、全般的には賛成なのですが、差止め制度を機能させるには、まず公開買付のルールを変えなければならないとしたら、道は遠いですね。

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