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ジュリストの論稿の第2のパートでは、目論見書の問題として、投資信託の目論見書と、ライツ・オファリングに係る改正を取り上げています。
投資信託の目論見書については、平成16年改正の背景、平成21年改正の内容を説明した後、次のような問題提起をしました。
投資信託の目論見書の問題は、開示コストが投資者に不利益を与えていないかという問題とみることもできる。目論見書の電子的交付が進めば、目論見書交付に伴うコストの問題は解決される。しかし、投資信託の目論見書は、記載事項が膨大かつ分かりにくいため、投資者の多くは目論見書を読まないとよく言われる。そうだとすれば、投資者は電子交付された目論見書も読まないであろう。つまり、投資信託の目論見書は、そもそも目論見書の交付は必要かという発行開示のあり方そのものに疑問を呈する問題だといえる。
私は、かつて、目論見書の機能として、(a)有価証券の価格付けと、(b)投資者にとっての適合性の確保を挙げ、(a)の機能は情報が市場に向けて公表されていれば発揮されるが、(b)の機能は情報が勧誘対象者に提供されなければ発揮できないと論じたことがある。そして、主として(a)の機能を担う有価証券届出書と同内容の目論見書によって(b)の機能を担わせることが証券取引法の基本的な立場であったといえるが、平成16年改正により交付目論見書や販売用資料の使用が認められ、この基本的な立場に揺らぎが生じている。他方、販売・勧誘時の説明義務や適合性の原則遵守の重要性が広く認識されるようになっている。そうだとすると、(b)の機能は、目論見書の使用を中核としつつも、販売用資料の提供、説明義務、適合性の原則によってこれを図ることとし、目論見書の交付を義務づけない(請求があった場合にのみ目論見書の交付する)制度とすることも考えられるのではないか。
ライツ・オファリングに係る平成23年の改正においても、目論見書の交付が争点となりました。そこで、改正の背景と改正法の内容を説明した後、次のように論じました。
ライツ・オファリングのおける目論見書の問題も、開示コストゆえに発行者が特定の資金調達手段を利用できないことをどう考えるか(資金調達の便宜と投資者保護のバランスをどう取るか)という問題にみえるが、より根本的な理論的検討の契機を含んでいる。
アメリカでは、ライツ・オファリングは新株予約権の無償割当段階では取得勧誘がなく、予約権の行使段階で株式の取得勧誘があると解されている。わが国では、新株予約権の無償割当段階で取得勧誘があり、権利行使の段階では取得勧誘がないと捉えたため、割当を受けた株主と流通市場で新株予約権を取得した投資者との間で扱いが変わってしまう。また、流通市場で新株予約権を取得した投資者も発行者の資金調達に応じることになるのに、株式を募集に応じて取得した者に該当しないため、有価証券届出書の虚偽記載についてコミットメントを行った証券会社の責任を追及することができないという問題がある。この問題は、どこまでを有価証券の募集過程と捉えて発行開示規制を適用するかという問題であり、新規発行証券と既発行証券とで取扱いを変える金融商品取引法の規制体系に再検討を迫るものであるといえよう。
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【文字フォントが読みにくいですがご勘弁を】
ジュリスト8月号で「金融商品取引法―施行5年の軌跡と展望」を特集することになり、私はいつものようにディスクロージャーについて依頼されました。「5年の軌跡と展望」というと、普通は平成18年金商法の改正内容とそれについての今後の展望について書くことになるのですが、ディスクロージャーはその後も頻繁に改正されています。そこで、平成18年以降の改正を横断的に取り上げることにしたため、内容はディスクロージャーあれこれになってしまいました。
ここではそのいくつかを紹介します。
まず取り上げたのは、ディスクロージャーの要否を決定する基準はなにかということです。
当然、第1は、「投資者がその情報を必要としているかどうか」でしょう。しかし、投資者の必要性だけでディスクロージャーの範囲を決することには、少なくとも2つの点で問題があると考えました。
第1に、ディスクロージャーは情報を収集・編成して開示する発行者に少なからぬコストをかけ、そのコストは最終的に投資者も負担することになるため、投資者を保護するためのディスクロージャーが投資者に不利益を与えることになりかねません。そこで、発行者に何についてどれだけ詳細な情報の開示を求めるかを決するには、発行者の負担を考慮することも必要になると考えられます。
第2に、発行者がディスクロージャーの負担を嫌って投資者に有価証券を提供しないようになると、投資者は当該有価証券に対する投資の機会を逸することになります。多様な投資対象を提供して国民の資産形成に資することができなければ、「国民経済の健全な発展」という金融商品取引法の目的を達成することができません。そこで、投資機会の提供や国民の資産形成という観点からも、発行者の開示コストを考慮することが必要になると考えました。
この第2の意味での発行者の開示コストの問題を扱ったのが、平成23年改正に係る英文開示と平成20年改正に係るプロ向け市場の開示であり、平成21年改正に係る売出し概念の見直しにおいて複雑な規制が導入されたことも、投資者の投資機会の確保を考慮したものであったと思います。
【英文開示の内容については省略】英文開示は平成17年の証券取引法改正で導入されたのですが、その利用は極めてわずかにとどまっており、投資者に外国会社への投資機会を提供できませんでした。その原因としては、外国会社は有価証券の募集・売出しの段階で日本語による有価証券届出書を作成しており、継続開示書類のみについて英文開示を認めても大きなコスト削減にならないことが指摘されていました。
【平成23年改正の内容も省略】改正のポイントは、発行開示書類および臨時報告書についても外国会社等に英文開示を認めることにしたことですが、なお、証券情報については日本語・日本基準によって記載しなければなりません。外国会社等の情報が外国の市場において英語により開示されており、外国の投資者の十分な評価の対象となっていることが、発行開示において英文開示を認める根拠ですから、外国の市場で十分な開示が行われていない証券情報について英文開示を認めないことは筋が通っています。しかし、この結果、外国会社届出書には英文と日本語、外国基準と日本基準が混在することになり、かえって作成にコストがかかりはしないか、その結果、改正後の英文開示も利用されないのではないかという心配もあります。
今後も英文開示が利用されないのであれば他の方策を講じなければならないでしょう。その一つの候補は、投資者層を限定することによって発行者の開示負担を軽減する「プロ向け市場の開示」です。
【プロ向け市場の開示の解説をしたあと】プロ向け市場も現在、低調ですが、その理由は、プロ向け市場のディスクロージャーの仕組み以外の部分に存するようです。私は、①特定投資家向けに特化したディスクロージャーの内容、②自主規制による開示を民刑事責任及び課徴金でバックアップする仕組みは、他分野でも応用可能なものと評価しています。ここで①と②は必然的に結びつくものでないと思っています。たとえば、①の例として、外国基準・外国語による開示が考えられるわけですがが、これらを伝統的な法定開示と位置づけ、特定投資家向け法定開示とすることも可能でしょう。②については、タイムリー・ディスクロージャーのような自主規制に民刑事の責任・課徴金制度を適用するという方向性も、伝統的に法定開示の対象とされてきた開示内容を自主規制に移行し、これに民刑事の責任・課徴金制度を適用するという方向性も考えられるところです。
【売出し概念の見直しの説明をしたあと】既発行証券の勧誘である「売出し」を新規発行証券の勧誘である「募集」と整合的な定義にするだけならば、このような規制の柔軟化は要らないはずですし、規制の柔軟化が望ましいのであれば募集についても柔軟化をすべきであるといえます。なぜ、売出しに係るディスクロージャーにのみ、柔軟化とそれに必然的に伴う複雑な規制が必要だったのでしょうか。
その答えは、新規発行証券と既発行証券の性質が2点において相違することに求められると考えました。第1に、新規発行証券の取引は募集に該当するか否かの別しかありませんが、既発行証券の取引は売出しと私売出しのほかに個別の売買取引があり、ディスクロージャーの必要な売出しとそうでない個別の売買取引とを区別する必要があるのです。第2に、新規発行証券では募集により利益を得る発行者が発行開示を行う関係にありますが、既発行証券では売出しや個別の売買取引を行う者は、発行者の協力を得られなければ取引をすることができないという違いがあります。そして、第1の性質から、売出しについては詳細な適用除外取引が必要となり、第2の性質から、金融商品取引業者等による情報提供の制度が必要になりました。そうしないと、外国で発行された有価証券の国内における売買取引が著しく制約され、投資者の投資機会が奪われることになるからです。
このように、売出しの定義は、発行開示を行わない発行者の有価証券に対する投資者の投資機会の確保という難しい問題を含んでいることが分かります。
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【公開買付説明書に係る責任】
重要な虚偽記載等のある公開買付説明書その他の表示を使用して株券等の売付け等をさせた者は、虚偽記載等を知らないで公開買付けに応じて株券等の売付け等をした者が受けた損害を賠償する責任を負うとされています(27条の19による17条の準用)。ただし、公開買付説明書等の使用者が、相当な注意を用いたにもかかわらず虚偽記載等を知ることができなかったことを証明したときは、責任を負いません(同条)。目論見書の使用者の責任(17条)に相当する規定です。
この規定は、①無過失の立証責任を被告に負わせている点、および②被告が実際に「相当な注意を用いた」ことが免責の要件とされており、公開買付説明書等の使用に際して相当な注意を用いなかった場合には、因果関係不存在の抗弁を被告が用いることができない点で、不法行為(民709条)に基づく損害賠償請求の特則となっています。その他の表示には口頭の表示も含まれるでしょう。
公開買付届出書を提出せずに売付け等の申込みの勧誘をした者、公開買付説明書を交付しないで株券等の買付け等をした者は、公開買付けに応じて株券等の売付け等をした者に対して、違反行為により生じた損害を賠償する責任を負います(27条の16による16条の準用)。公開買付届出書、公開買付説明書の情報によって投資者の提供判断が行われるよう確保するための規定といえます。
届出書を提出せずに勧誘をした者には、公開買付者のほか、勧誘行為に従事したすべての者が含まれるでしょうが、公開買付説明書を交付しないで買付け等をした者とは、金商法16条の場合と異なり、公開買付者または違法な買付けの主体に限られることになるでしょう。本条の損害賠償責任は無過失責任ですが、損害の額は売付者(株券等の所有者)が立証しなければなりません。
【取引規制に係る民事責任】
主として取引規制違反を抑止する目的で、公開買付けの取引規制違反に対する損害賠償責任を定める規定がいくつか置かれています。
第1に、別途買付けの禁止に違反した公開買付者等(公開買付者と特別関係者、27条の3第3項)は、公開買付けに応じて株券等の売付け等をした者に対して、
(別途買付けにおける買付価格−公開買付価格)×
売付者の応募株券等の数(按分比例方式により売付け等ができなかったものを除く)
により算定される賠償額を支払う義務を負います(27条の17)。別途買付けと同じ価格で公開買付けが行われたと仮定した場合に売付者が得ることのできた価額を売付者に与えるものです。この額は、別途買付けにより売付者が被った損害の額とは言い切れない部分を含んでいるので、本条は損害の填補というよりも、別途買付けによる利益を買付者から剥奪して違反を抑止することを主目的とするものであるといえるでしょう。
第2に、公開買付者は、応募された株券等について公開買付届出書に記載した買付条件により決済を行わなければならないところ(27条の13第4項)、これに違反して、一部の応募者から公開買付価格より有利な価格で買付け等を行ったときは、他の応募者に対して、
(有利な買付価格−公開買付価格)×
売付者の応募株券等の数(按分比例方式により売付け等ができなかったものを除く)
により算定される賠償額を支払う義務を負うとされています(27条の18第1項、2項1号)。買付価格の点で投資者の平等取扱いを確保するための民事責任規定ですね。
第3に、公開買付者は、応募株券等の数の合計が買付予定の株券等の数を超えるときは、按分比例により買付株券を決定しなければならないところ(27条の13第4項2号)、これに違反して、按分比例方式と異なる方式で買付けをしたときは、そのために買い付けられなかった応募者に対し、
〔公開買付価格−損害賠償請求時の市場価格(すでに処分しているときは処分価格)〕×(応募株券等の数のうち買い付けられなかった数)
により算定される賠償額を支払う義務を負います(27条の18第1項、2項2号)。買付株数の点で投資者の平等取扱いを確保するための民事責任規定であるといえるでしょう。
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久しぶりの更新になります。もう言い訳を考え付かないほど、更新の間隔が拡がってしまいました。開き直って、マイペースで更新することにします。
今回から、公開買付規制違反の民事責任規定について解説していきます。
公開買付けに関して金融商品取引法が定める民事責任規定は、①公開買付関係書類の虚偽記載に基づく損害賠償責任を定めるもの、②届出違反の公開買付け、公開買付説明書の虚偽記載および交付義務違反から生ずる損害賠償責任を定めるもの、および③公開買付けの取引規制違反から生ずる損害賠償責任を定めるものに大別されます。これらは平成2年の改正により設けられた規定でして、それまでは民事責任規定はありませんでした。もちろん、学説は法の不備を指摘し、不法行為責任が成立することを指摘していました。
①は発行開示書類の虚偽記載、②は無届募集、目論見書の虚偽記載および交付義務違反に対応するものですが、③は公開買付けの規制に特有のものであり、投資者の損害の填補よりも違反の抑止を目的とした規定であると理解することができます。
【公開買付関係書類の虚偽記載等】
公開買付開始公告、公開買付届出書、公開買付説明書、または対質問回答報告書に、重要な事項について虚偽の表示があるか、表示すべき重要な事実が欠けているか、誤解を生じさせないために必要な重要な事実の表示が欠けている(以下、虚偽記載等という)場合、公開買付者は、公開買付けに応じて株券等の売付け等をした者に対して、損害賠償責任を負うと定められています(27条の20による18条1項の準用)。ただし、売付者が売付け等の際に記載が虚偽であり、または欠けていることを知っていたときは、損害賠償責任は発生しません(同上)。募集・売出しの際の有価証券届出書に重要な虚偽記載等があった場合の発行者の責任(18条)に相当する責任です。本条は、虚偽の情報によって株券等の売付けを行った投資者を保護するために設けられたものであり、公開買付者の責任が無過失責任である点で不法行為の特則となっています。
本条を利用できるのは売付者のみです。公開買付関係書類に虚偽記載があったために、公開買付への応募をしなかった者、市場で対象株券等を売買した者は、本条に基づいて公開買付者の責任を追及することはできません。そして、他に特別規定も定められていないので、その者がもし虚偽記載によって損害を被ったのであれば、公開買付者やその関係者に対して不法行為責任を追及することになるでしょう。
公開買付届出書には対象会社の状況が記載されており、この部分は公開買付者が対象会社の法定開示書類を基礎に記載を行うとされています。たとえば対象会社の有価証券報告書に重要な虚偽記載があり、その結果、公開買付届出書に重要な虚偽記載がある場合には、本条によって、公開買付者は株券等の応募者に対して無過失の損害賠償責任を負うことになるのです。この結果は一見すると公開買付者に酷であるように思われますが、応募者に損害が発生しているときは、虚偽記載によってあるべき価格よりも低い公開買付価格で買付者が株券等を取得していると考えれば、公開買付者に無過失の損害賠償責任を負わせることは不当ではありません。
責任を負うのは公開買付者のほか、公開買付者と共同買付けの合意等をしている特別関係者(27条の2第7項1号)、公開買付者の取締役、会計参与、執行役、理事もしくは監事、またはこれらに準ずる者です(27条の20第3項)。公開買付者以外の者は、相当な注意を用いたにもかかわらず記載が虚偽でありまたは欠けていることを知ることができなかったことを証明したときは、責任を免れます(同条項)。これらは、有価証券届出書の虚偽記載にかかる発行者の関係者の責任(21条)に相当する規定です。
本条には、損害賠償額について特別規定が置かれている(27条の20第2項)。公開買付届出書または公開買付説明書に重要な虚偽記載等があった場合であって、公開買付者が、公開買付終了後に株券等の買付けをする契約があるにもかかわらず、公開買付届出書または公開買付説明書にその旨を記載することなく、公開買付終了後に一部の者(A)から株券等の買付け等をしたときは、売付者の損害賠償額は、(Aからの買付価格−公開買付価格)×売付者の応募株券等の数となります。按分比例方式により売付け等ができなかったものは応募株券から除かれます(27条の17第2項参照)。
この特別規定は、買付者とAとが契約で定めた買付価格を、虚偽記載等がなく真実が明らかになっていたら買付者が買付価格としたであろう価格(想定価格)とみて、実際の買付価格と想定価格との差額を賠償の対象とするものといえるでしょう。しかし、法18条が前提とする原状回復の考え方を公開買付けに及ぼすのであれば、上記特別規定が示す事情の存否にかかわらず、現在の株券等の市場価格(市場価格がないときは処分想定価格)と公開買付価格との差額を賠償させるべきではないでしょうか。
特別規定が適用されない場合には、売付者が虚偽記載等によって被った損害の範囲と額を立証しなければなりません。
【株券等を応募した者が被る損害】
公開買付関係書類に重要な虚偽記載があった場合に、公開買付けに応募した株主は虚偽記載と損害との因果関係をどのように立証することができるかを考えてみましょう。
第1に、対象会社の株価を引き下げるような虚偽記載がされていた場合には、応募株主は、虚偽記載がなければより高い公開買付価格が設定され、より高い価格で株券等を売付けることができたと主張することが考えられます。この場合には、真実が公表されれば対象会社の株価が上昇すると想定されますが、一般の相当因果関係理論からすると、応募株主としては、それでも公開買付者が公開買付けを実施したであろうこと、当該公開買付けにおける公開買付価格、当該公開買付けにおいて応募株主が公開買付者に売付けることができたであろう株式数を、主張・立証しなければならないことになるでしょう。
第2に、第1と同じ状況で、応募株主は、虚偽記載がなければ自身が公開買付けに応募することはなく、その結果、公開買付後に保有する対象株式の市場価格の上昇等によって高い価値を実現できたと主張することも考えられます。この場合に虚偽記載がなければ応募株主が高い株価を実現できたといえるためには、応募株主は、虚偽記載と自己の応募との間の因果関係、自己が応募しなかった場合の公開買付けの成否、公開買付後の残存株式の市場価格などを主張・立証しなければならないことになるでしょう。
第3に、買付けの目的や公開買付者の状況に虚偽記載があり、もし虚偽記載がなく真実が開示されていたら公開買付けは行われなかったか、行われたとしても成功しなかったとして、その後の市場価格の上昇によって保有する対象株式について高い価値を実現できたと主張することも考えられます。この場合には、応募株主は、虚偽記載と公開買付けの成否との間の因果関係、公開買付けが行われなかった場合(あるいは不成功に終わった場合)の対象株式の市場価格などを主張・立証しなければならないことになるでしょう。
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ある勉強会に呼ばれて、AIJ事件に適用される刑罰規定について話をしてきました。その準備の過程で考えたことを書いておきます。
AIJ事件で問題とされる違法行為と適用される罰条は次の通りです。
1.虚偽記載のある運用報告書の投資者への提出
金商法205条14号 6月以下の懲役、50万円以下の罰金、法人は50万円以下の罰金
2.虚偽記載のある事業報告書の金融庁長官への提出
金商法198条の6 1年以下の懲役、300万円以下の罰金、法人は2億円以下の罰金
3.虚偽記載のある運用報告書を提示して、新規の投資一任契約を締結した行為
金商法38条の2第1号、198条の3 3年以下の懲役、300万円以下の罰金、法人は3億円以下の罰金
4.詐欺罪 刑法246条、10年以下の懲役
1、2は監視委員会による行政処分の勧告で挙げられていた違反行為、3は強制調査の理由とされた違反行為です。4が成立するかどうかは議論がありそうですが、刑法の専門家ではないので、ここでは省略します。
新聞等で「契約の偽計」と言っていたことから私は漠然と、金商法158条を適用するのだと思っていました。158条違反であれば、10年以下の懲役、1000万円以下の罰金、法人は7億円以下の罰金と、38条の2とは大きな隔たりがあります。ところが、158条は有価証券の取引またはデリバティブ取引についてのみ適用されるので、投資一任契約の締結に関して偽計を用いた本件には適用できないということのようです。また、157条(罰条は158条と同じ)も、有価証券の取引またはデリバティブ取引に限って適用されるので、本件での適用は無理と考えられたようです。
本当にそうでしょうか。
アメリカの判例では、投資一任契約の締結が「証券」に当たるかどうかが争われています。ここでの問題は、投資一任契約の投資対象が証券かどうかではなく、「一任契約の締結」が「証券の売買」に当たるかという問題です。この「証券」は「投資契約」で、「投資契約」にはHowey基準が適用されますので、一任契約がHowey基準中、「共同事業性」の要件を満たすかどうかが問われているのです。証券性を肯定する考え方は、顧客と投資顧問との間で共同事業が行われているとし(垂直的共同事業性のアプローチ)、証券性を否定する考え方は、一任契約を締結する顧客同士の間で共同事業が行われていない(水平的共同事業性のアプローチ)ことを理由とします。
このHowey基準を明文化したのが、金商法2条2項5号・6号の集団投資スキーム持分なのです。そして、日本の集団投資スキーム持分は共同事業性を要件としていないので、投資一任契約から顧客に生ずる権利は、集団投資スキーム持分に該当するようにも思われるのです。だって、投資一任契約から顧客に生ずる権利は、拠出された金銭を充てて行う事業(投資)から生ずる収益の分配を受けることができる権利といえるからです。
もしこのような解釈が成り立つのであれば、投資一任契約の締結は有価証券の売買に当たるので、それに関して偽計が用いられれば、金商法158条を適用できることになります。
このような解釈を阻むものとしては、金商法38条の2第1号が金商法158条と別個の条文として定められており、罰条も異なることが挙げられます。しかし、この点は規定の沿革から説明できそうです。金商法38条の2第1号
に相当する規定は、投資顧問業法、投資信託・投資法人法にあり、その罰条は3年以下の懲役、300万円以下の罰金でした。平成18年の改正で、これらの規定を金商法に取り込んだ際に、158条との整合性を考慮せずに、そのまま移してきたというのが実情ではないでしょうか。そのまま移してきたことは立法論としては問題ですが、ここではそのことを非難しているのではありません。そのまま移してきたときに、金商法で集団投資スキーム持分が有価証券とされたことから不整合が生じうることを考慮せず、罰条を変えなかったのではないか。したがって、金商法38条の2第1号は、金融商品取引業者等について金商法158条の特別法になっているのではなく、一つの行為がいずれの構成要件にも該当するときは「観念的競合」になのではないか。このように考えると、金商法38条の2第1号が存在することは、金商法158条を適用する妨げにならないように思えるのです。
もとより上記は解釈は一つの可能性に過ぎず、158条の適用が現時点で難しいことは私も否定しません。ただ、私はアメリカで一任勘定が投資契約だから日本でもそう解すべきだというのではなく、日本の集団投資スキーム持分の定義規定の素直な解釈がその結論を導くと思うのです。
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