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インサイダー取引はなぜ禁止されるべきなのでしょうか。「インサイダー取引は一般投資家の市場に対する信頼を害するから」というのが一般的な答えです。
インサイダー取引規制の是非及び根拠については、いろいろな議論がありますが、私は案外、「市場に対する信頼の保護」というのは当たっているのではないかと思っています。
ここから2つの帰結が導かれます。第一に、一般投資家の市場に対する信頼を保護する必要がない「プロ市場」では、インサイダー取引規制は必要ないということです。かつての為替市場はその典型でした。今は一般投資家も外国為替証拠金取引に参加していますが、今でも、外国為替市場は一般投資家の参加を必要としていないと思われます。そうだとすると、市場に対する信頼を確保して一般投資家の参加を促すためにインサイダー取引を規制する必要はないといえるでしょう。
第二に、多くの投資家がインサイダー取引は不公正でないと思っている市場では、インサイダー取引を禁止する必要はなく、禁止するのは、かえって誤った政策になるということです。「インサイダー天国」と呼ばれていた1988年以前の日本の市場は、この状況だったのかも知れません。これは決して、「遅れている」とか、不道徳なことではありません。自分は未公開情報を獲得できるから儲けることができると考えて多くの投資家が市場取引に参加する市場では、インサイダー取引を禁止すると、かえって一般投資家は市場に対する信頼を失って市場から離れてしまいます。有価証券市場が為替市場と異なるのは、前者がその機能(資源配分の効率性)を確保するためには、プロだけでなく一般投資家の参加を必要としている点に求められます。したがって、一般投資家の参加を確保するためには、インサイダー取引を許容すべき場合もあるのです。
もちろん、多くの投資者が、自分は未公開情報を獲得できないので未公開情報を知って取引を行う者がいると自分が不利に取り扱われると感じている市場では、インサイダー取引を禁止する必要があります。それでは、市場がどの状況にあるかを知るにはどうしたらよいでしょうか。手っ取り早い方法は、インサイダー取引規制の導入によって、株価が下落したかどうかを調べることです。規制導入を一般投資家が歓迎すれば、参加率が高まり株式の流動性が増すために株価は上がり、一般投資家が落胆すれば株価は下がるはずです。しかし、1988年の規制導入段階についての実証研究は行われていないようです。
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