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日経の社員がインサイダー取引で有罪判決を受けた事件がありました。この事件の社員は、公告を掲載している企業の情報を公告掲載契約に関して知った者なので、会社関係者に当たります。NHKの記者がインサイダー取引で課徴金納付命令を受けています。この事件の記者は、ニュースの情報について伝達を受けた者なので、情報受領者に当たります。
それでは、記者が取材によって情報を得た場合には会社関係者に当たるでしょうか。
会社関係者に該当するか、情報受領者に過ぎないかでは、その者から情報の伝達を受けた者による取引がインサイダー取引として処罰の対象になるか、情報の第2次受領者による取引として不可罰かという差を生じます。記者はふつう取材源との間で契約関係にないため、金商法166条1項4号の「契約の履行に関して知ったとき」に当たりません。したがって、日本では記者は会社関係者(インサイダー)ではないのです。EUでは、インサイダーのカテゴリーの一つに「職務により情報へのアクセスを有する者」があり、記者はこれに当たると解されます。
このように情報源と契約関係にないが、職務により情報のアクセスを有する者をインサイダーとして規制すべきか、情報受領者としてのみ規制すべきか(EU諸国のなかには、インサイダーに対する規制と情報受領者に対する規制を違えている国があります)は、情報へのアクセスを有する者による取引を一般投資家が不公正と感じるか否かに依存します。新聞記者や放送記者から尋ねられれば、一般人は他の者から尋ねられた場合よりも、抵抗なく情報を提供するでしょう。記者は会社の費用で(たとえば)ヘリコプターを飛ばしてもらって情報源に接近することもできます。このように考えると、やはり記者は、情報にアクセスしやすい有利な地位にあり、一般投資家は記者による取引を不公正と感じるように思われます。そうだとすると、日本でも、EUの規定を参考にして、インサイダーの範囲を拡げるべきでしょう。
アメリカでは記者は、ふつう情報受領者には当たらず、不正流用理論によってインサイダー(会社関係者)に該当することになります。まず、ある者が情報受領者になるのは、情報伝達者が信任義務に違反して情報を伝達した場合に限られます。情報源はふつう発行者に対して信任義務を負わないので、記者は情報受領者に当たらないのです。これに対して、記者は新聞社に対して、取材の結果を自己のために用いない義務を負っており、その義務に違反して取引を行った場合には不正流用理論に基づいて処罰されることになります。以上のことから、不正流用理論は、情報受領者の範囲が狭いことから生ずる不都合を補う面もあることが分かります。
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