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インサイダー取引規制が施行されてから、最初に正式裁判が行われたのがマクロス事件でした。
この事件では、マクロス社の部長が計上していた売上げの大半が架空であったことが判明し、今後の業務運営に支障を来たす旨の報告が取締役会でなされたところ、取締役の一人がその事実の公表前に自社株を売却した事件です。争点は(現行条文に置き換えると)、166条2項3号の決算変動があったといえるか、もしいえないとすると4号の包括条項を使えるか、です。
3号の決算変動があったといえるためには、条文上、会社が新たに予想値を算出する必要がありますが、判決(東京地判平成4年9月25日金判911号35頁)は、取締役会が算出主体である場合には、取締役会において予想値の修正公表が避けられない事態に立ち至っていることについての報告がなされてそれが承認されたことをもって、同号にいう数値の「算出」がなされたものと解するのが相当であるとしています。このように解さないと、取締役会で報告を聞いた者によるインサイダー取引を禁止できないからです。しかし、この基準でも、取締役会に報告原案をあげる代表取締役や担当者が、取締役会開催前に行う関係証券の取引を禁止することが出来ませんので、現行法には限界があることが分かります。判決は上のように述べた上で、本件では新たな予想値が算出されたとはいえないとしました。
そこで、次に判決は、架空売上げの発覚と予定していた売掛金の入金がなくなり、巨額の資金手当てを必要とする事態を招いた事実は、業績の予想値の変化として評価するだけでは足りない要素を残しており、1号2号にも該当しないから、これに4号を適用できるとしました。後の、日本織物加工事件最高裁決定を思わせる判示ですが、私はマクロス事件判決には賛成しています(拙著『証券市場の機能と不公正取引の規制』104頁以下)。それは、3号は、もともと1号・2号・4号と重畳的に適用されることを予定している条項であり、したがって、3号の該当可能性が問題になるときに4号を適用することは何ら問題がないからです。少し噛み砕いていうと、決算変動はさまざまな原因によって生じるのであり、その原因が1号または2号に当たるときは、それらと3号とを選択的に適用することができます。3号を置いた意味は、原因として1号・2号該当の事実がない場合にも3号を適用してインサイダー取引を禁止することにあります。3号は決算数値に一定の変動が生じたという結果をもって重要事実とするものですから、3号の結果を生じた原因になった事実に4号を適用することはなんら問題がなく(4号の文言にも反せず)、ただ、3号の結果を生じた原因となる事実が1号または2号に該当する場合に限って、これに4号を適用することができなくなる(4号の文言より)だけなのです。本件では、架空売上げの発覚という発生事実に類する事実であるが2号に列挙されていない事実に対して4号の包括条項を適用したものであり、なんら問題はありません。したがって、後の日本商事事件判決を批判する見解に対して、マクロス事件では3号該当事実に4号を適用したではないかと反論することは、的外れではないかと私は考えています。
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