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雑誌社の依頼で西武鉄道事件判決(東京地判平成20年4月24日)の評釈を書いています。その判決は、有価証券報告書の虚偽記載に基づいて発行者やその関係者の投資家に対する損害賠償責任を認めたことで注目されていますが、ほかにもいろいろな重要論点を含んでいます。 そこで、この判決を読んで考えたことを、数回に分けて書いていこうと思いますが、ここに書くことは評釈の草稿のようなもので、未定稿ですからご注意ください。 鉄道会社(Y)の有価証券報告書に虚偽記載がなされたことについて、原告はY自身および取締役らの不法行為責任と旧証取法に基づく責任を追及しています。この両者の関係は、これまでも論じられてきましたが、判決で新たに提示された問題が2つあるように思います。 まず判決は、発行者およびその取締役は、有価証券報告書の重要な事項について虚偽の記載がないように配慮すべき注意義務があり、これを怠った場合に不法行為責任が成立しうるとしました。虚偽の記載をすれば不法行為上の違法性の要件を満たすとも思われますが、判決は「重要な事項についての」との限定を加えたわけです。これは、金商法(本件は旧証取法上の責任が追及されていますが、分かりやすさを重視して金商法で引用します)上の責任が「重要な事項」について虚偽記載があった場合に生じることを考慮したものと思われます。 しかし、理論的には軽微な虚偽記載からも不法行為責任は生じうるが、軽微な虚偽記載は有価証券の価格に影響を与えないため、軽微な虚偽記載から因果関係のある損害が投資者に生じないに過ぎないのではないでしょうか。 つぎに判決は、Y会社における名義株の存在を知らされていなかった取締役について、「相当な注意を用いたとしても虚偽記載を知ることはできなかった」から金商法上の責任を免責されると判断しました。しかし、金商法21条2項1号には「相当な注意を用いたにもかかわらず知ることができなかったこと」と規定しているのです。その趣旨は、相当な注意を用いなかった場合には免責を認めないことにあります。したがって、「用いたとしても知ることはできなかった」ことのみで免責を認める判決は、おかしいと思われます。 それでは、免責には相当な注意を実際に用いたことが必要であるとしても、相当な注意を用いても知ることができなかったときは、損害との間の因果関係が否定され責任が否定されることになるでしょうか。不法行為責任の場合はそうでしょう。しかし、金商法上の責任は注意義務の違反と損害との間に因果関係を要求しているのではなく、虚偽記載と損害との間にのみ因果関係を要求しているのです。したがって、相当な注意を用いたとしても損害の発生を防げなかったことを立証しても、因果関係がないことを立証したことにはならないと思われます。
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2008年06月18日
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