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公開買付けについては、すぐれた実務書が多数出版されていますが、商事法務1840号(2008年8月5日号)から断続的に連載された「公開買付けの実務」は、ときに立法論や、金融庁のパブコメ回答とは異なる解釈論を展開しており、興味深いものでした。その連載で取り上げられたいくつかの議論を紹介し、多少、自分の考えを述べてみたいと思います。 MBO等の場合には、公開買付者が買付価格の算定の過程で第三者から評価書・意見書等を取得し、それを参考とした場合には、当該評価書等の開示が義務付けられています(他社株買付府令13条1項8号)。ただし、第三者から評価書等を取得すること自体は義務付けられていません。 商事法務1846号39頁は、評価書等の開示の義務付けは立法論として疑問であるとします。その理由の第1は、買付者が評価書等を取得する目的は、通常、買付者の株主等に対して、買付価格が高すぎないことを説明することにあるのに対し、対象会社の株主等が必要としている情報は、買付価格が安すぎないことを示す資料であるからです。そして、対象会社の株主等にとっては、対象会社の取締役会が意見表明をする際に参考として第三者から取得した評価書等(法定開示の対象とされていない)のほうが有益な資料であろうとしています。 もっともな意見だと思いますが、MBO等の場合には、対象者の役員と対象者の一般株主との間で利益相反を生じやすいことから評価書等の開示が義務付けられているのですが、そのことは言い換えると、対象会社の役員と買付者との利益が一致しやすいということですので、買付者が参考にした評価書も対象会社役員が参考にした評価書と同様、投資判断にとって有益な資料といえるのではないでしょうか。高すぎない、安すぎないという違いも、下記のように幅をもって示されるのであれば、両方の機能を発揮させることができます。 立法論として疑問とする第2の理由は、評価書等では対象者の株価が上限および下限により画された一定の範囲で示されるのが通常であるため、この範囲が買付者の行動を不合理に制限するリスクがあるからです。買付価格が下限に近いと対象会社の株主から文句を言われ、上限に近いと買付者の株主から文句を言われるということでしょう。また、公開買付期間中に第三者による対抗買付けが開始された場合に、評価書の上限を超えて買付価格を上げにくいことが指摘されています。 これも、もっともな意見だと思いますが、やはり、MBO等の場合にのみ開示が義務付けられている趣旨を重視すべきであろうと考えます。MBOでは、株主に対して信任義務を負う者(役員・親会社等)が株主と取引することになるため、信任義務者は自分が判断に利用した情報をすべて相手方に開示する義務があるのではないかと、私は考えています。そして、親会社取締役の親会社株主に対する信任義務の範囲・内容も、親会社が子会社少数株主との関係で負う信任義務によって画されると解すべきでしょう。親会社(買付者)取締役のこのような考え方からすれば、第三者による評価書の開示を求めるだけでは足りないのかも知れません。第三者による評価書の上限は、買付者が「いくらまでなら出してもよい(出してもペイする。したがって信任義務に違反しない)」と考えている上限を示すものではないからです。このことを逆からみると、第三者による評価書の上限を超えて買付価格を引き上げても、それが直ちに買付者の取締役の信任義務違反になるわけではないと言えるでしょう。
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2010年02月10日
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