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対象会社の意見表明は、投資者の投資判断に資するために求められるのですが、それは同時に取締役会決議に基づいてなされる取締役の行為であるため、取締役の会社に対する善管注意義務に違反しないものでなければなりません。敵対的買収に直面した取締役の行為の基準については、最近、さまざまな論稿が公表されていますが、ここでは意見表明という行為についてのみ考えてみます。
商事法務1859号37頁以下では次のような議論が展開されています(要約)。
取締役の会社に対する責任が過失責任であるのに対し、株主に対する責任が悪意・重過失の場合にのみ認められるものであることを考えれば、一般的には、まずは対象会社の利益になるか否かを基準とすべきであり、対象会社の利益に沿う範囲で、株主の利益を故意または重大な過失によって損なうことがないようにする義務を負っていると考えるのが適当である。よって、たとえば、対象会社にとっては企業価値を毀損する公開買付けであるが、買付価格はは高額であるという場合には、対象会社の取締役としての善管注意義務に基づき反対意見を表明すべきである。
たしかに、この見解は、「より高い買付価格での100%オッファーが後からなされた場合に、対象会社が前の意見を変更して後の公開買付けに賛成しなければならないか」という問いに対し、公開買付価格だけを見るのではなく、買収後の企業価値を比較して決すべきだという答えを与えてくれます。
しかし、会社法423条と429条の要件の違いから解釈を導くのは無理があるように思います。責任規定から優先順位をつけようとすると、会社法429条ではなく、不法行為で責任を問われる場合には要件は故意又は過失ですから、会社の利益と株主の利益のどちらを優先させるべきか困ったしまうでしょう。意見表明をする以上は株主の利益を害さないようにする注意義務が取締役にあり、その注意義務に違反した場合には不法行為が成立すると考えることは、十分に可能です。
この問題は、会社の利益を基準に賛否の表明をしてよいが、そこにいう会社の利益=総株主の利益と考えて答えを出すべきように思います。高い買付価格であっても2段階買収であるために、買付けられる可能性を考慮すると総合的に株主の利益にならないのであれば、会社=総株主の利益に反するので、公開買付けに反対すべきです。部分的買収であれば、買収が成功した場合に株主が得る対価(買付総額と公開買付後に残存株主(少数株主)が享受する企業価値を考慮する)と買収が失敗に終わった場合の企業価値とを比較して判断することができるでしょう。
全部買付の申込がなされている場合には、全部買付が成功したとき(全株主が応募しなくても第2段階の取引が公正な価格で迅速に行われる場合を含む)の企業価値は、総株主が得る対価で評価し、それと買付けが成功しなかった場合の企業価値とを比較して、後者が前者を上回ると判断するときには公開買付けに反対すれば良いのです。論者が「対象会社にとっては企業価値を毀損する公開買付けであるが、買付価格は高額であるという場合」が上のような全部買付の場合であるとすると、そこにいう企業価値には株主以外の者にとっての価値が含まれていると思われるのです。
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2010年03月18日
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