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だんだんネタがなくなってきましたので、初心に戻って、本(証券市場の機能と不公正取引の規制)に収めた論文(取引による相場操縦の悪性について)の紹介をします。
現実取引による相場操縦(金商法159条2項1号、最近では「変動操作」ということが多いようです)は、大量の売買注文を市場に出すことによって株価を人為的に変動させることをいいます。現実取引による相場操縦が成立するには、典型的には、「有価証券売買の売買、市場デリバティブ取引又は店頭デリバティブ取引(有価証券売買等)のうちいずれかの取引を誘引する目的」(誘引目的)をもって、「取引所金融商品市場における上場金融商品等(金融商品取引所が上場する金融商品、金融指標又はオプション)の相場を変動させるべき一連の有価証券売買等」(変動取引)をすることが必要です。相次ぐ改正によって大分分かりにくくなっていますが、金融商品には有価証券が含まれます。
相場操縦の禁止規定はアメリカの連邦証券取引所法9条に倣って作られた条文であり、日本の学説はアメリカの9条の判例や学説を参考にして通説を作り上げました。通説は次のように論じます。大量の証券の買い注文を出せば当該証券の価格が上昇することは、当然の市場原理であるから、自己の取引により証券の価格が上昇し、ひいては売買取引を誘引するであろうことの認識だけで、「誘引目的」があるとすると証券取引を著しく阻害することになる。他方で、誘引目的を立証することは難しいから、状況証拠から誘引目的を推認することを許すべきである。つまり、通説は、違法行為と適法行為は誘引目的の有無によって分けられるとしながら、誘引目的の存否は状況証拠で足りるという、矛盾とまでは言えないまでも別方向に向く議論を同時にしていたことになります。
ところが、わが国で最初に相場操縦として摘発された協同飼料事件の高裁判決が、誘引目的とは「有価証券市場における当該有価証券の売買取引をするように第三者を誘い込む意図」であるとした上で、この目的は「有価証券市場における当該有価証券の売買取引をするように第三者を誘い込むことを意識しておれば足りる」としたのに対し、変動取引とは「単に、取引自体が相場を変動させる可能性をもっているその取引ということではなく、相場を支配する意図をもってする、相場が変動する可能性のある取引と解するのが相当である。」としたことから、学説においても、適法行為と違法行為を区別する基準は、誘引目的の有無ではなく変動取引の要件に該当するかどうかであるとする有力説が、主として刑法学者・検察官から主張されるようになりました。
協同飼料事件の平成6年最高裁決定は、誘引目的とは、「人為的操作を加えて相場を変動させるにもかかわらず、投資者にその相場が自然の需給関係により形成されるものであると誤認させて有価証券の売買取引に誘い込む目的」のことであり、変動取引とは、「相場を変動させる可能性のある売買取引等」のことであるとしました。これによって結論が変わる訳ではありませんが、最高裁は誘引目的の有無が適法行為と違法行為の区別の基準となるとする通説を採用したものと理解されています。
私がこの問題に興味をもったのは、平成6年度重要判例解説でこの決定が当たったからでした。その解説では、通説も有力説も結論に大きな相違はないと書いたのですが、そもそも本当に「誘引目的」が必要なのか。単に条文に書いてあるからというのではなく、政策論として誘引目的が必要なのかを考えてみようと思ったのでした。 (つづく)
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2010年06月17日
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