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アメリカの連邦証券規制には、市場での株式買集め行為や支配株式の相対取引に公開買付けの手続を強制する「強制公開買付け」は存在しないと言われますが、それは正確ではありません。連邦証券取引所法には、規制の対象となる公開買付けの定義規定がなく、市場取引や相対取引が規制の対象となるか否かは、「公開買付け」(tender offer)の定義をどう解するかによって左右されるからです。1980年代には、Market Sweepと呼ばれる慣行が行われ、Market Sweepが公開買付けに当たるかどうかが争われた時期がありました。私は、在外研究(1990−92年)から帰って少し経った頃に、学名古屋大学法政論集に「市場取引・相対取引・公開買付(1)」という論文を書き、Market Sweepに関する判例・学説・立法の動きを分析しました。(2)では引き続いて日本法の検討をする予定だったのですが、うまく書けず、断念してしまいました。しかし、外国法の紹介だけでも意義があると思い、拙著『証券市場の機能と不公正取引の規制』に収録しています。その論文の内容は、相対取引や市場取引による支配権取得に公開買付規制を及ぼすべきか否かを考える上で参考になると思いますので、以下に、紹介したいと思います。 マーケット・スウィープとは、公開買付けのアナウンスによって、対象会社の株式が少数の機関投資家の手に集中する現象を利用して、買付者が公開買付けを撤回して機関投資家から対象会社株式を取得したり、対象会社が買収防衛目的で機関投資家から自己株式を取得する行為を言います。取得行為自体は市場外の相対取引で行われることもあれば、市場を通じて行われることもあります。マーケット・スウィープが行われると、一般投資家は、公開買付けが撤回されてしまい公開買付価格で買い付けてもらえないという点で不利益を被るほか、公開買付けが撤回されない場合であっても、公開買付外で行われる高値での取引に参加できないので不利益を被ると言われています(マーケット・スウィープに参加できないことによる不利益)。また、公開買付期間にマーケット・スウィープが行われる可能性がある(高い)ことは、公開買付けが撤回される可能性がある(高い)ことを意味するため、一般株主にとって、公開買付けに応じるよりも市場で売却する方が有利になり、市場での売却圧力がかかるという点で不利益が生じます(売却圧力による不利益)。一般株主は、不十分な情報の下で市場での売却を余儀なくされるというのです。 これらの弊害が本当に生じているのかについては、次回から検討することにして、まず、マーケット・スウィープの語源について一言触れておきましょう。マーケット・スウィープは市場掃除という意味ですが、Street Sweepとも呼ばれます。Street SweepはWall Street掃除の意味でしょうが、同時に、アメリカで行われている市や郡による道路掃除(Street Sweep)を連想させる語です。アメリカの道路掃除では、ブルドーザーのような車両がやってきて、道の両側にたまったゴミを根こそぎ浚っていくのです。マーケット・スウィープでは、公開買付けの撤回後に、あちこちに散らばった大きな株式の塊り(ゴミ)を残さず浚っていくというイメージから、これにスウィープという語が当てられたのではないでしょうか。したがって、マーケット・スウィープを市場掃除と訳すとしても、語感は「溝浚い」に近いでしょう。もちろん、この溝の中にこそ求める物があるのですが。
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2010年01月24日
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