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平成21年改正による売出しの定義の変更については、ジュリストに原稿を書いたことがありますが、当時は改正内閣府令が公布されていなかったため、具体的な規制に姿は必ずしも明らかでありませんでした。そこで現段階で、もう一度整理してみようと思います。
「売出し」とはディスクロージャー規制の発動要件の一つであり、既に発行された有価証券の売付け勧誘等のことをいいます(2条4項)。ここにいう「売付け勧誘等」には、売付けの申込み、買付けの申込みの勧誘が含まれますが、取得勧誘類似行為(後述)は除かれます。平成21年改正によって、売出しの定義(正確には、第1項有価証券に係る売出しの定義)から「均一の条件で」が削除されました。そうした理由は、海外で発行した有価証券を1日おいて国内に持ち込み(one-day seasoningという)、勧誘相手49人ごとに売出価格を僅かに変えて勧誘を行うことで開示規制を免れるといった弊害を除去する必要があること、および、平成4年改正の後、市場における売買から売出しを除外するなどの手当てをしたので、「均一の条件」を削除しても、それほど不都合が生じなくなっていたからです。この改正は、以前から学説が主張していたものであり、めずらしく学説の主張が立法に取り入れられたものといえるでしょう。
ところが、「均一の条件」を削除しつつ、実際上の不都合が生じないようにするために、適用除外取引、私売出し、届出義務の免除などの規制を整える必要があったため、規制は大変複雑なものになりました。なぜ複雑になったかというと、私のみるところ2つ原因があります。第1は、従来の法定開示に代わる簡易な情報提供制度を作り、ディスクロージャーを柔軟化したことです。第2は、新たに発行される有価証券の取得勧誘である募集では、有価証券の発行は発行者しかできないため、形式的に募集に該当するケースが限られるのに対し、既に発行された有価証券の取得勧誘である売出しでは、既発行証券の売買は誰でも出来るので、形式的に売出しに該当するケースが多く、適用除外等を詳しく定める必要があるからです。ちなみに、アメリカでは募集と売出しの区別はなく、発行者から有価証券が発している場合は転売段階でも募集規制が適用されます。そこで、発行者に支配を及ぼす者(大株主)から転売のために有価証券を取得する者は引受人となり、規制の対象となります。ただし、大株主(売出人)自身は規制の対象にはなりません。
まず、1項有価証券(2条1項列挙の有価証券及び2条2項柱書の有価証券表示権利)の売出しの定義から見ていきましょう。1項有価証券については、①多数の者を相手方とする売付け勧誘等(多人数向け勧誘、2条4項1号)、及び②適格機関投資家私売出し、特定投資家私売出し、少人数私売出しのいずれにも該当しない場合(2条4項2号)が、売出しとされます。①のほかに②が必要なのは、募集の場合と同じく(2条3項参照)、多人数向け勧誘に当たらないが、少人数私売出しの要件に当て嵌まらない等の場合に、開示規制を適用する必要があると考えられたのでしょう。募集の場合、その典型例は「上場会社の第三者割当増資」でした。売出しの場合にこれに相当するのは、上場会社の株式をAがBに売却する取引でしょう。しかし、そのような取引は、2条4項柱書と施行令1条の7の3により、売出しの定義から除外されるようです(適用除外取引)。①に該当せず②に該当する例が実際にあるのかどうかは、よく分かりません。
1項有価証券に係る売出しの定義からは、取得勧誘類似行為が除外されます。これは、売出しとして規制するよりも募集として規制すべきと考えられるものを入れる受け皿であり、新たに、自己株式の処分が指定されました(定義府令9条1号、5号)。自己株式の処分は売出しではなく募集に当たるということは私が以前から解釈論として主張していたことなのですが、立法上の手当てによるものとは言え、この見解が法に取り入れられたことは学者冥利に尽きます。ただ、学説が改正法に取り入れられると学説の使命を終えてしまうので、一抹の寂しさもあります。なお、ジュリストの論稿では、取得勧誘類似行為は、発行後一定期間内に行われる売出しであり、その典型はone-day seasoningだと書きました。これは、金融審DWGの報告書や立案担当者の解説本を基に書いたものなのですが、「発行後一定期間内に行われる売出し」を「募集」と扱う改正は、結局、行われませんでした。その理由は、one-day seasoningが売出しとして開示規制に服することになったため、これを募集として開示規制に服させる必要がないということのようです。たしかに、報告書におけるプライマリー/セカンダリーの2分法は、法定開示が必要なものをプライマリー、不要なものをセカンダリーという概念で整理したものなので、プライマリーの開示のあり方が「募集型」でなければならないということではありません。しかし、募集の場合は手取金の使途の開示が求められ、売出しの場合はそれが求められないという相違からは、発行後一定期間内に行われる売出しは、投資者が手取金の使途の開示を必要としていることから、募集と扱う(取得勧誘類似行為とする)べきであったと言えるかも知れません。
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2010年09月18日
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